『珍』守府へ、ようこそ
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○○三 はじめての建造
瞬きを繰り返し、ダンボールの中身を見る提督。なんの言葉も出ないらしい。ひたすらにそれを凝視し続けるだけだった。
「司令官? 何を見てるのですか?」
寝ていたはずの電が提督の後ろから覗き込むようにダンボールの中身を調べようとした。提督は何を思ったか、反射的に中身を隠すよう、ダンボールを蓋を閉じた。
「いや、なんも...」
電は頭にハテナを浮かべて顔を傾げている。
そんな電に苦笑いを向ける提督は、自分でも何故隠したのかわからなく、咄嗟の判断だった為、政党な理由も見つからなかった。
「何か悩み事でもあるのですか? 電でよければ力になるのです!」
「いや、大丈夫だ。心配するな」
ただの私情なのに無駄な心配をかけてしまい少々心が痛む提督は取り敢えずとし、もう見ぬよう、ダンボールを二つ重ねると持ち上げ、奥にあった襖へしまうことにした。焦っていたこともあり全く重みを感じていないらしいがかなり重いのだ、なんせ大量のぬいぐるみとダンボール一杯のガラスケースだ、重くないわけがないのだ。
ホコリらしきホコリは無いが、何と無くパンパンと軽快な音を発て、手を叩き、気を確かに後ろを振り向く。
後ろには今だ頭にハテナを浮かべ頭を傾げている電がこちらを見ていた。
本当に大丈夫なのですか? と提督へ表情で訴える。もちろん、提督は訴えに気づいている。申し訳ない気持ちでいっぱいだろう。
だが、いつまでもここで立って電の表情を伺っているだけじゃ何も解決しない。解決しないどころか何も始まらない。
ただの逃げでしかないが、そう思った提督は、
「さて秘書艦さん。俺は何をしたものか?」
イタズラに笑みを見せて提督がそう言うと、電は一度困った表情を見せたが、理解するとその表情を笑顔に変えた。
「なのです!」
「いや何が!?」
「はわっ、ごめんなさいなのです…」
自分がおっちょこちょいなのか、電がおっちょこちょいなのか… 二人とも落ち着きがないのか。改めて団結力のない初々しさを感じる提督だった。
「えっと…まずは……」
いつの間にやら手に持っていた書類板をペラペラとめくりながら電は続けた。
「『新しい艦娘を建造する』なのです!」
これは要するにチュートリアルみたいなもの、全てを行うのに必要な作業であり、土台でもある行動である。
しかし提督はそれ以前に、理解の出来ない言葉を見つけたらしい。
「ちょっと待って… "艦娘"ってなに?」
「電なのです!」
「うん、いや、君が電なのはわかってる。艦娘って?」
「電なのですっ!」
「いや、だから……あ、なるほどね」
電の言っていることを理解はできたものの、やはり会話の続かない提督と艦娘、電。
電と同様、駆逐艦や軽巡洋艦…つまりは軍艦。それらが擬人化し、女の子となった者が、艦娘。
それを二言で理解した提督もどれほどのものなのだろうか…
先ほどまで仲良く寝ていたとは言え、本当はまだ会って数時間。それもまた、艦娘だろうと、一人の女の子である。
ぎこちないにも程はあるが、これは仕方無いと思われる。
板を両手で抱えて指令はまだかと首を傾げは提督を見ての繰り返しの電を苦笑でどうにか持ちこたえようとする提督。
ここで、真っ白だった脳みそが色素を戻したのか、
「それで、その建造は何処でするの?」
待ってましたと言わんばかりに表情を明るく見せて返事する電。
「こっちなのです!」
「おっ、まっ! 引っ張らないで!」
流石艦娘、力が強いのか。自分よりも明らかに大きい男性を引っ張って引きずるとは…
電に引き摺られて司令室から消えて行く提督の姿がそこにあった。白い海軍服が汚れなければいいのだけれど。
■■■
連れて来られたそこは、あの綺麗な花壇を右に曲がり、三つある繋がった建物の真ん中の扉だった。
扉を前に提督は、地べたに胡座をかいて座り、摩擦で火傷でもしたのか膝を摩っている。そんな提督を見て電はあせあせと効果音の出てきそうな勢いでペコペコ頭を下げている。
扉のもっと上に、大きく『建造』と書かれた札が無造作に打ち付けられているその建物は、文字通り建造をする為の建物らしい。
その左右の建物にも同様、『開発』、『改修』、と…
「うぅ…ごめんなさいなのです…」
「いいよ、張り切ってたんだもんね。うんうん」
立ち上がり、ペコペコと下がる頭に手をのせてそう言う提督は、次のセリフを吐いた。
「艦娘もやっぱり、鉄とか使うの?」
「はいなのです!んっしょっ…」
何処からか取り出した、小さな液晶タブレット端末にも見えるそれを提督に見せ、電は言った。
「これに映ってるのが資材と量なのです」
「妙にハイテクなのね…」
液晶に映る文字と数字。
基本資材
燃料:180
弾薬:180
鋼材:180
ボーキサイト:180
特殊資材
開発資材:5
高速修復材:3
高速建造材:3
改修資材:0
「あ、寝てたので資材がちょっと増えてるのです」
にへぇと笑う電に、そうなのか、と戸惑う提督。
「中に入ったら、多分、妖精さんが走り回ってるのです。なので、話しかけて、建造を頼んで欲しいのです!」
妖精と言う単語にまたまた理解を損ねる提督はとりあえずと扉を開けた。
電が言っていた通り、電よりも小さい… 妖精さんが何やらダンボール箱を持って駆け回っていた。
妖精さんから一度目を離し、周りを見てみれば、外見とは異なる広さの間取り。天井も然程高くない。少し奥に進むと、エレベーターのような機械が置いてある。
隣には、タッチパネルの台。
「お、おーい。妖精さん?」
提督がそう言うと、妖精さん達は一斉に立ち止まり、ダンボール箱をその場に置いて、敬礼をした。
「わぁお… 建造ってどうやるの?」
一番近くにいた妖精さんに、しゃがんでそう聞くと、言葉すら話さないが、身体全体を使って、奥の機械を指した。
「偉いねぇ。頑張ってください、妖精さん達」
表情は変えない妖精さんだったが、ほんのり頬を赤く染めたのだった。
先ほどの乙女妖精さんに教えられた奥に向かうと、目の前に置かれた機械に驚きを隠せなくなった提督。
隣に置いてあるパネルに手をつけると、画面が表情され、資材の表示が出る。
「だからなんでこう妙にハイテクかね」
ゲームの中だからか、と自問自答を済ませて画面操作に取り掛かる。
燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトの数量、開発資材の数量を決め、建造と表記されたパネルをタッチする簡単なお仕事。
「オール三十…… ここはキリのいいオール百でいきましょうか」
建造パネルをタッチすると、隣のエレベーターのような大きな機械の上部分に時間が表示される。
01:00:00
一時間、と。
建造時間を見終えると、せっせこ駆け回る妖精さんを抜けて建造室から出る。
目の前で立っていた電に、
「お勤めご苦労様なのです!」
と、言われ、少しばかり照れる提督。
「あ、司令官さん! 任務の『はじめての建造』にチェックを入れてないのでクリアになってないなのです!」
チュートリアルの罠である。
「え、言ってよ… 先に…」
まぁ、いいや。と提督は思ったのだろう、嫌な顔は見せずに電を見て笑った。
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