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『珍』守府へ、ようこそ

作者:茅島裕
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○○四 寂しがり屋な痛い子

 
前書き
艦これの秋イベに忙しい、どうもうp主妹紅です。
最近忙しくて書くにも書けなかったのですが… 気分的に後回しにできる気分ではなくなったので書きました。

E2を甲なんかでやるんじゃなかった…(ちなみに今はE4攻略中)

また次いつ書けるだろうか… これが最近の悩みですね。


本編、どぞ 

 
一時間という結構長い時間をその場で何もせず待っているのもつまらない、秘書艦と駄弁っているのもまた然り。だがしかし今までの流れからして、初デートのカップル並みにぎこちない気不味い空気を吸っていた提督はその判断を捨て、次のステップに進むことにした。

「次は何をしたらいいのかな?」

観察板というのか、紙が貼られた板を両手で抱えていた電にそう聞くも、電は返事をしてその板を確認し始めた。

「次は… 『はじめての開発』なのです」

「開発? 何を?」

「えっと、その、武器?」

少しの間、頭を回転させた提督は思った。
見た目が女の子なだけで、つまりは戦う… 武器を持って。その戦う為の武器を開発するってことか。

「そうだ。ちょっとその板貸してもらってもいいかな?」

提督がそう言うと、電は少々困った顔をして、恐る恐る板を提督に差し出した。

「心配しないで、秘書の仕事を取ったりはしないから」

電が何故困った顔をしたのかを理解した提督がそう言いながら差し出された板を手に取った。隣で電が笑顔になっているなか、提督は板に貼り付いた紙を凝視する。

先ほどチェックを入れ忘れたはじめての建造にチェックを付け、次の開発にもチェックを入れる。
今後することになるだろう任務に次々チェックを入れるも、途中でチェックを入れることが出来なくなった。あれれ、と顎に手を当てる提督を見て、電が言った。

「任務チェックは一度に五つまでなのです」

「あ、そうなの。教えてくれてありがとう」

「これも電の仕事の一つなのです!」

そうかそうか、と電の頭を撫で回す提督。嬉しそうな恥ずかしそうな微妙な表情を見せた電は、板を回収して、身だしなみを整えた。

板を両手で抱えてバランスよく立つのが電の定ポーズらしい。

板に限っては、木で出来た板にただの紙で原始的だったが、そのチェックがまた妙にハイテクというシステム。

「ところで、その開発は何処でするの?」

小さい身体を大きく使って、目の前の工廠から隣の建物まで全てを指して電は言った。

「ここ全部工廠なのです。なので、全部の建物で開発出来るのです!」

「開発もやっぱり妖精さんに手伝って貰うのかな?」

「もちろんなのです。妖精さんは働き者ですから」

妖精さんは一体何者なのか、と考えながら、そうかそうかと相槌を入れる提督は続けて、

「まぁ、電も働き者のいい子だけどね」

こう言うと、電は、はわっ? と驚いた声を出したあと、目一杯目を閉じて首を振って否定した。
本当にいい子だな、と心の中で思い、提督は電を見て微笑んだ後、周りを見渡して見た。

先ほど建造を頼んだ建物… 工廠の隣に、二棟ほどある建物。恐らくこれらも工廠。
建造、開発とで分かれているのだろう。全部で三棟あるが、残りの一棟は何に使うのだろうか?
そこで提督は、あることを考えてしまった。恐らく提督は考えたくなかったことなのだろう、顔が引きつっている。

まさか…

「解体…?」

ぼそりと、小さな声でそう呟いてしまった。隣で、褒められて喜んでいた電がびくりと反応してゆっくりと提督を見た。
その提督を見る電の目は… 言うまでもないだろう。強張っていた。





□□□




「フフッ、怖いか?」

工廠のうち、一番右側にある建物の、建造にあたる建物の中、せっせこ働く数人の妖精さん達に囲まれている一人の少女がそう呟いた。

その少女は、妖精さんに渡された青と黒の丸い眼帯を左目に当てて不敵な笑みを見せた。

「フフ、ハハハ」

眼帯の少女は声を出し、再び不敵な笑みを見せた。そんな中、近くに居た何人もの妖精さんはつぶらな瞳で精一杯できる鬱陶しそうな目を見せていた。




■■■




時は三十分ほど過ぎ、開発を終え、今は特にすることがない提督と電は、一度司令室に戻って休息を取っていた。

出会って早々、解体、だなんて言葉を放ってしまった故、提督と電には少し…いやもしかしたらかなり大きな隙間が出来ていた。
何せあの後から一言も会話を交わしていない。

電が見せたあの目と表情に気づかなかった提督は、呑気に開発をしに行こうとだけ言って隣の棟でことを済ませ、他所を向いて悲しそうな表情を見せていた電に触れず、司令室に戻ったのだ。

電も電で、秘書艦故に、私情はできる限り押し殺し、何も言わずに提督に着いて行ったのだ。

「電、俺らは何と戦うんだ?」

椅子に座って天井を見ながらそう問いかけたが、電は黙っていた。今まで質問をしたら、真っ先に返事をして答えを返してきた秘書艦が何も返事をしないことに疑問を感じて、どうしたのだろうか、と電を見た。

司令室の出口の手前で下を向いている電は、板を力強く抱えて立っていた。

「電? どうした?」

いまだ電の特徴を掴んでいない、艦娘という女の子の特徴を掴んでいない提督は、心配をして電に近づいた。

よく見ると電は、身体を震わせており、息を荒くしている。

「い、電…?」

ポタリ、ポタリ、と音を発てて、木の床に水玉の染みを作っている電に最もな異変を感じた提督。
この子は今、泣いている。でも理由がわからない。

「何処か痛いのか!? 具合悪いのか!?」

次第に焦る提督。焦ると共に床の染みは増える。
そこに、小さな、消え入りそうな声が提督の耳を伝った。

痛い…です…
心が、痛い……なの、です…




そこで提督はやっと気づいた。自分が犯した罪に。

あの時呟いた言葉、解体、この言葉がこの子、艦娘にどれだけ恐ろしい言葉なのか。
言ってしまえば、人間がバラバラにされて殺されるのと同じこと。それを軽々しく、言葉に出したのだ。

どうしたらいいのだろう… 悪く言えば、厄介なことになってしまった。

提督は提督で誤ちの気づいて何も言えず、電は電でショックを受けたまま、涙を流しているだけ。

素直に謝るのが一番なのだろう。けれど、謝ったところでとんでもない誤ちを起こしたことには変わりない。なんと言ったらいいのかわからない。
とりあえず、と提督は、膝立ちをし、電と同じ目線に立ち、下を向いている電の顔を自分に向けた。
ぐしゃぐしゃになった電の顔を見て提督は、また一段と申し訳ない気持ちになりながら、電の目の周りについた雫を指で弾いてやった。

「もう、二度と… あんなこと言わない。だから泣かないで」




□□□



「フ、フフ、フフフ、怖いか。俺が怖いのか。怖すぎたのか…」

眼帯の少女は工廠の周りをグルグルと歩きながら一人喋っていた。ひたすら何かを待って、そわそわしている彼女の表情には不適な笑みと不安が混じり、複雑な表情をしていた。

「なんで来ないんだよぉ〜…」

遂に設定をも忘れ本音をさらけ出した彼女は、不適な笑みの欠片を崩して涙目に変えたのだった。

「早く来いよぉ〜……」



■■■




提督の胸の中でヒクヒクと嗚咽を漏らしている電、提督はそんな電の頭を撫でるばかりだった。

落ち着くまで、こうしてやろう。

初日から信頼を削って何がしたいんだ俺は… ともう一度後悔をし直す提督。

ここで、司令室の外から、電の嗚咽以外の音が聞こえた。足音。それも速い、走る足音だ。徐々にその足音は近くなっていき……

バンッ!

と、衝撃音を司令室に響かせ現れた人物。

「ふふ……ごわいがぁ…?」

今にも泣きそうな、堪えた声でそう言ってきた少女… 眼帯少女が提督の前に現れた。

「天龍さん……なのです…」

提督に抱き締められながら、もごもごとそう言った電。
ここで提督が反応した、天龍という単語に。

「軽巡…? 天龍型…?」

「なのです」

提督の表情が徐々に変わっていく。それも楽しそうな表情に。

「あの天龍がこんな娘になるのか!」

少女と言えど、電のような少女ではなく。もっとも、天龍に関しては、提督と背丈が然程変わらない。それに比べ、電は提督の半分程しか背丈がない。
提督も提督でそこまで背が高いわけでもない。

少女と言うよりかは、女子高生と言った方が近いだろう。

「何言ってるかわかんねぇよぉ…… 無視すんなよぉぉ…」

泣きそうな故に語尾が伸びる天龍。しかしそんな天龍の言動よりも見た目に興味を持った提督。
電は空気を読んだらしく、濡れた顔を腕で拭きながら提督から離れる。
と同時に提督は天龍に近づき、天龍の周りをぐるぐると回りながら、舐めるように見た。目線が気持ち悪かったのか、天龍は身構える。

「な、なんだよ…」

「いや… 軽巡になると成長するのかな、と…」

こいつは何を言っているんだ、とでも言いたげな表情で提督を睨みつける。もちろん、涙目で。
と、ここで正気を取り戻した提督が、天龍が涙目ということに気づいた。
電を泣かせて、この子まで泣かせるのか? と困惑している提督。そもそも何故、この子は泣いているのか、ふと、天龍の後ろに掛けてあった時計が目に入った。
そこで提督は何かに気づき、電に質問をした。

「初めての建造から何時間経ってる?」

「ざっと二時間半くらいなのです」

なるほど、そりゃ泣くよな… と自分の行動を振り返ってため息をついた。

「ごめんな、天龍… 寂しかったんだよな…」

「……い、いやちげぇし、寂しくなんてなかったし! 待たされてムカついてるだけだし!」

「じゃあなんで泣いてるのです?」

復活した電がニコニコしながら、天龍に向けて痛い言葉を放つ。すると天龍は、雑に目を拭って慌てる。

「待ってるときに目にゴミが入ったんだよ! だから、これは目薬だ!」

「電よ、艦娘は最初から目薬を常備するのか?」

「しないのです。しかも天龍さんに限ってはなおさら」

両手に拳を作り、プルプルと震えながら歯を食い縛りだした天龍が、

「もぉ… お前ら… 大っ嫌いだぁぁぁぁぁ!!」

と走って司令室を出て行った。

「あ〜あ、嫌われちゃったのです。それはそうと良かったですね、"あんなこと"言っても私は秘書なのでイヤでも嫌いになったりしませんし」

「それはフォローなのだろうか…」

「フォローのつもりなのです」

イタズラに笑みを浮かべて電はそう言った。
全く、回復の早いやつだ… だが、これからは気をつけなければいけないな。元の世界に帰るにしろ、ここに移住し続けるにしろ、この子達を傷つける訳にはいかない。
そう、提督は心の中で決めるのであった。


これから、どうなるのやら…
 
 

 
後書き
「ふと、気になったんだけどさ」

「なのです?」

天龍(あのこ)何処に行ったのかな」

人差し指を顎にあてて、頭を揺らして考える電。オーバーリアクションな迄に、手をポンと叩くと、考えがまとまったのか、

「恐らく自分の部屋なのです」

とニッコリ営業スマイルで答えた。

「やっぱり自分の部屋とかあるのか」

「一人で寂しく泣いてなきゃいいのですけれど」

「俺が悪いにしろドサクサに紛れて人の胸で鼻水拭く奴が言えたセリフじゃないな」

ふへ、と笑う電をジト目で見る。
秘書の仕事に戻るのです、と電は逃げた  
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