人面痩
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6部分:第六章
第六章
「大丈夫だって。いや」
陽子を安心っせようというところでふと顔を上げた。
「それだと」
「何かあるの?」
「陽子ちゃん今スカートだよね」
「ええ」
見れば膝までの白い涼しげなスカートである。いつものミニスカートではないがスカートなのは変わらなかった。
「それだと。まずいかなあ」
「まずいの?」
「だってさ、脚見せるんだよね」
「あっ」
言われてようやく気付いた。
「住職さんを刺激するからね。それに陽子ちゃんだってまずいだろ」
「え、ええ」
流石に下着まで平気で見せる趣味はない。確かに自分の身体を見せたいという願いは常にあるがそれはあくまで胸や脚、よくて背中までであり下着までおおっぴらに見せる気はないのである。そうした極端な、変態的なまでの露出症というわけではなかったのである。
「ちょっと。他で買うか」
「ズボンを」
「半ズボンでいいよね」
「そうね、そうじゃないとまずいわね」
それはよくわかった。腿の内側を見せるのだからこれは当然だった。
「確か実家に」
「敦君のズボンじゃブカブカよ」
「それはそうだけど」
他にある場所を思いつかないのだ。店が開くにはまだ早かった。
「けれどさ」
「困ったわね」
「俺のトランクスなんかどう?」
「それでも同じでしょ。それに結局下着じゃない」
「そうだよな」
言われて引っ込めるしかなかった。確かにこれも同じだった。それどころかもっとまずかった。陽子にとっても冗談ではない話であった。
「とりあえず実家に戻ろう」
「戻るの?」
「妹がいるから。あいつにでも借りて」
「妹さん持ってるかしら」
「何着か持ってたよ」
「けれどサイズが」
「そんなの細かいことは気にしない。いいから早く」
「もし合わなかったら」
「その心配は後、とりあえずは」
「ちょ、ちょっと待ってよ敦君」
二人はまた実家に戻った。陽子は敦に連れられる形であったが。それでも連れて行かれた。とりあえず多少のすったもんだの末に陽子は何とか着替えることができた。黄色い半ズボンであった。
「きついなあ」
陽子は敦の実家を出る時こう呟いた。
「借り物だから妹さんには悪いけれど」
「あいつ陽子ちゃんみたいにプロポーションよくないからね」
「そうじゃないわよ、何か悪いわよ」
彼の妹に気兼ねしているのである。その口を波線にして苦い顔をしている。
「妹さんに」
「けれど仕方ないじゃない」
「スパッツでも持って来ればよかったわ」
「今更言ってもね。仕方ないよ」
「それはまあそうだけれど」
「まあ行こうよ、今は」
「ええ」
ここまで話が進んでは仕方なかった。こくりと頷く。そしてお寺に戻った。敦が案内をするとお寺の中から痩せた飄々とした感じの老僧がやって来た。
「おう、坊主か」
「住職さん、お久し振り」
敦がその老僧に挨拶をする。どうやら彼がその人面痩を何とかしてくれる人らしい。敦の挨拶からそれはわかった。
陽子も彼に続いて挨拶をする。すると住職さんは彼女に顔を向けてきた。
「ほう」
「どうかしたのかい?」
「坊主もやっとそんな歳になったのじゃな」
その細い目をさらに細めてこう言った。
「嫁さんをわしに紹介しに来たのじゃな。よいぞよいぞ」
「いや、嫁さんとは少し違うけど」
敦の方でそれを訂正した。
「今付き合ってるんだ」
「おおそうか、彼女か」
「そんなところ」
「よいぞよいぞ」
住職さんはそれを聞いて破顔大笑した。その好々爺の顔が大きく笑う。それを見て陽子はこの住職さんによい印象を受けたのであった。
「で、どうしたのじゃ?」
「ここでは話しにくいから」
敦は少し周りを気にして言った。
「お寺の中で。いいかい?」
「何か訳ありのようじゃな」
「お願いするよ。それでいいかな」
「わかった。では茶でも飲みながらな」
「うん」
三人はそのまま境内に入った。そしてそこで話をはじめた。話通りお茶を飲みながらの話し合いとなった。
「それでじゃ」
「うん」
住職さんはくつろいだ様子であったが二人は違っていた。戸惑っている様子がありありとわかるものであった。
「何用じゃ、一体」
「実はさ」
敦はそれを受けて話をはじめた。陽子の方をチラリと見てから言った。
「彼女のことなんだけれど」
「はじめまして」
陽子はここで住職さんに挨拶をした。ぺこりと頭を下げる。
「敦君の彼女で高岡陽子といいます」
「陽子さんじゃな」
「はい、実は私のことで」
「その顔から察しますとじゃ」
住職さんは陽子の表情から並々ならぬものを感じていた。
「貴女は。何かお悩みですな」
「はい、実は」
「彼女の脚にね」
敦も話した。
「人面痩が出来ているんだ」
「人面痩とな」
「御存知なんですか?」
「無論。何度も見たことがある」
住職さんは陽子の言葉に大きく頷いて答えた。
「では見せてくれぬか」
「いいんですね?」
「怖がることはないぞ。さあ」
「それじゃあ」
座っていた脚を崩して住職さんに見せる。形のよい脚が露わになっていた。それは付け根まで見えている。それを住職さんに見せていた。
「よい形の脚じゃな」
その脚を見た住職さんの最初の感想である。
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