魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico34別れ~John Doe~
前書き
今話を執筆していて、前話にてとんでもない大ポカと犯している事に気付きました。ごめん、ヴィータ。君の存在、すっかり忘れてた。大慌てで前話を修正して、ヴィータも戦闘に参加させました。とは言っても数百文字分だけですけど。
†††Sideなのは†††
ルシル君とシュヴァリエルさんが斬り結び合いながら私たちから高速で離れて行ったのを見送った私たちは、ハート2と改めて交戦に入る。ベッキーちゃんが「ジリェーゾ! 行きませ!」“ドゥーフヴィーゾヴ”を鳴らして、鋼の装甲を纏った大きな虎型精霊ジリェーゾをハート2に突進させたら・・・
「えっと・・・あっけない・・・?」
ハート2は僅かに避けようっていう意志を見せたけど、回避行動が遅すぎてあっという間に仰向けに押し倒されて、神器を持つ右腕はジリェーゾの左前脚に押さえつけられた。
「(精霊が相手だと、いくら普通の人間じゃないにしても勝てるわけがない)勝った・・・」
そう一息つく。フェイトちゃん達もそうみたいで、デバイスを持つ手から力を抜いたのが判った。でも完全に緩めることなく私たちはハート2の側へと駆け寄る。今度はフェイトちゃんだけじゃなくて私やすずかちゃん、はやてちゃんにヴィータちゃん達と一緒に、ジリェーゾの足の裏からチラッと出ているハート2の右手が携えている本に手を伸ばす。そして「せぇーっの!」引っ張る。だけど、5人の力を合わせているのにビクともしない。
「やっぱりダメみたいだね・・・」
「うん。魔導師状態で力を強くなってるのに・・・」
「どんだけ怪力なんや、ハート2って・・・」
「こんなひょろっとした奴の膂力じゃねぇだろ、これ・・・!」
「こうなったら壊そう。その為の・・・フルドライブだから」
フェイトちゃんは「バルディッシュ。ザンバーフォーム」ハーケンからフルドライブのザンバーへと変形させた。ルシル君とシャルロッテさん2人からも許可は出ているし、機動一課もそれに賛同してるから。
――回収が難しいと思った際は遠慮なく破壊すること。下手に拘るとしっぺ返しがあるかもしれないからね――
「すずか。ブーストお願い」
「うん!」
「フェイトがダメなら次はあたしな。あたしと鉄の伯爵グラーフアイゼンは破壊に特化してんだからよ」
「うん、その時はお願い」
改めてすずかちゃんの斬撃力強化のスラッシュフォースを掛けてもらったフェイトちゃんは「撃ち抜け、雷神!」カートリッジを数発ロード。そして“ドラウプニル”の効果で爆発的に上昇した魔力にも神秘が付加されて魔力刃から放電を開始。
「ベッキー、もう少しの間ハート2を押さえておいて」
「はい。それが一番の良手でしょう」
ハート2はかなりの怪力。精霊のようなすごいの力じゃないとたぶん押さえつけられないと思うから、このままハート2の拘束に当たってもらうことに。フェイトちゃん以外の私たちは巻き込まれないように距離を取る。そうしてフェイトちゃんはトンッと地面を蹴って3mほどまで飛び上がった。そして逆さまにした“バルディッシュ”の柄を両手で握りしめて剣先を神器の書に向けつつ、「ジェット・・・!」振り上げる。
「ザンバァァァァァーーーーーーッッ!」
剣身を急速に伸長させながら“バルディッシュ”は振り降ろされて。剣先が神器の書に直撃する。ガキィンと甲高い音が響いて、衝撃波が数mって離れてた私たちのところにまで届いた。剣先と神器の書の設置点からすごい数の雷が周囲に拡散。
「あああああああああああああッ!!」
フェイトちゃんの叫び声が耳に届く。“バルディッシュ”の魔力刃が壊れないということは神秘が拮抗している証のはずなのに破壊できないのはなんでなんだろう・・・。
『ごめん。カートリッジの効果が切れる。攻撃を止めるよ。これ以上魔法の効果を高めてしまうとハート2を殺めてしまいそう』
フェイトちゃんからの念話。人でないにしても生きている以上は殺害じゃなくて確保しないと。攻撃を中止したフェイトちゃんが私たちの側に降り立って、「ごめん。私の魔法じゃ無理だった」頭を下げて謝った。
「ううん。こればっかりはしょうがないよ、フェイトちゃん」
「神秘関係は私たちの範疇外だし。たぶん、神秘の差以外に何かあるのかもしれないよ・・・?」
「そうやな。あの本にはまた別の力があるのかもしれへん」
「よっしゃ。次はあたしの番だな。アイゼン、ラケーテンフォルム」
今度はヴィータちゃんが“グラーフアイゼン”を強襲型のラケーテンへと変形させて、すずかの「ストライクフォース!」打撃力強化のブーストを上乗せ。さらにカートリッジをロード。
「ラケーテン・・・」
“アイゼン”のブースターが点火。ヴィータは高速回転して遠心力を打撃に上乗せ。左腕にはめてる“ドラウプニル”が金色に輝く。
「ハンマァァァァァーーーーーーッッ!!」
神器の書に向かって振り下ろされた必壊の一撃。“アイゼン”のヘッド部分の突起物が神器の書に直撃して、すごい火花を周囲に散らす。ヴィータちゃんは「まだまだぁ! カートリッジロード!」ブースターの点火時間を延ばすためにまたカートリッジをロード。数分の拮抗は、「ちくしょう! ダメだ!」ヴィータちゃんの負けで終わった。
「ヴィータでもアカンかったか・・・」
「ギガントなら可能性はある気もするんだけど・・・」
『その時は神器どころかハート2もペッチャンコになるですよ、ヴィータちゃん』
「・・・そうゆうわけなので、ベッキー先輩・・・」
「ええ、はやて。私の精霊にて、あの書を破壊いたしましょう」
最後の手段、ベッキーちゃんの五精霊による破壊を取ることに。今もなおハート2を地面に押さえつけているジリェーゾの周りに私たちは立って、何時でもバインドを発動できるように待機しておく。そして「ジリェーゾを離れさせます! 皆さん、ご準備を!」ベッキーちゃんの合図に「いつでもどうぞ!」みんなでそう答えた。
「ジリェーゾ、離れて!」
スッと音も無くハート2の上から退いたジリェーゾ。それとほぼ同時に私たちは一斉にバインドを発動。計16個のバインドがハート2を雁字搦めにする。そして「ジリェーゾ、標的を破壊して!」ベッキーが神器の書の破壊指示を出すと、ジリェーゾはすぐさま神器の書に目掛けて鋭い鋼の爪が有る右の前脚を繰り出した。
(バインドが・・・!)
ものすごい勢いで引き千切られてくバインド。特に神器の書を持つ右腕を拘束しているバインドが一瞬にして引き千切られちゃった。そしてジリェーゾの一撃を躱そうと右腕を引いたんだけど、それよりも早くジリェーゾの爪が神器の書に直撃。
「「「「「「っ!!?」」」」」」『ひゃっ・・・!?』
その瞬間、呼吸が出来なくなるほどのすごい魔力爆発が起きて、その衝撃で私たち、ジリェーゾすらも空に舞った。みんなの姿を視認できないほどの強烈な真っ白な光、そんな中でさえも2つの紅い光点がその存在を主張してきた。それはハート2の目だった。全ての拘束から解放された、人の姿をした純粋な人でない存在。そして、とうとうその紅い目も見えなくなるほど視界が白に潰されちゃった。
†††Sideなのは⇒すずか†††
視界が真っ白になって何も見えない状況が続いちゃってる。これがかなり不安と恐怖を煽ってくる。ハート2っていう強大な敵が今、どこに居るか、何をしているか、全然判らないから。ううん、それよりも・・・
「ジョ――ケリオン君! ケリオン君! 私の声、届いてる!?」
リンドヴルムに狙われて、そして記憶を失くしちゃったジョン君・・・、ううん、ケリオン君の安否が判らないのが余計に私を不安にさせる。ケリオン君からの返事は無いし、『なのはちゃん、フェイちゃん、はやてちゃん、ヴィータちゃん、リイン、ベッキーちゃん!』念話を送ってもノイズが続くだけ。
(視覚が元に戻るのを待っていたらダメ・・・!)
そう思い至った私は「スノーホワイト。みんなやケリオン君の居場所、判る?」“スノーホワイト”に訊ねてみた。
≪・・・・ダメですわ。妙な力が働いていて、皆さんの位置は確認できませんわ≫
近くに居るはずのなのはちゃん達のことすらも判らない現状。不安や恐怖で押し潰されそうになっていた時、「っ!?」少し離れた距離に紅い光点が2つあるのに気付いた。そしてすぐにその正体を察する。ハート2の瞳だ。ハート2はキョロキョロ周辺を見回しているのか瞳があっちこっちに向く。でも、その光点も白い光に呑まれて、私の視界はまた白一色に戻った。
(これってどういう原理なんだろう・・・?)
この白一色の世界は魔力爆発が原因だっていうのは判るんだけど、いつまで続くのか、どうやったら収まるのか、その答えが判らない。魔法を使おうにも間違ってなのはちゃん達に当たったりでもしたら大変だし。と、そんなところに「ひゃん!?」お尻を誰かに触られた。慌てて前方に跳び退いて、後ろに振り返ってみるけど誰も居ない。
(ううん。見えないだけで、そこには居るんだ・・・!)
私がさっき立っていた場所にゆっくりと歩み戻ってスッと両手の平を前に掲げる。すると「あ・・・!」何か柔らかいものに触れた。こう・・・プニッというか、ムニュっというか。何に触ったのかは判らないけど、そこに誰か居るのは確認できた。
私が触れた誰かは一度後退したみたいで、私の手から逃れた。でもすぐに「っ!」私の手にさっきの誰かの手が触れて、ギュッと握り合う。そしてお互いに見えない中、顔があるだろうところにもう片方の手を伸ばす。そして・・・
「フェイトちゃん・・・!」
顔だけじゃなくて髪の方にまで手を伸ばしたことで判った。フェイトちゃんの特徴であるツインテールに触れたから。姿も見えないし声も聞こえない。けど、触角が残っているのは良かった。とりあえず手を離さないようにフェイトちゃんの手を握り締める。するとちょんちょんって小さく引っ張られた。
(他のみんなを捜しに行こう・・・かな?)
それに応えるために握る力を弱くした後、もう一度強くした。そして私はフェイトちゃんに引かれるままに歩いて、空いてる右手で周囲を探る。と、フェイトちゃんが握る力に緩急を付けてきて、歩みを止めた。それから少し待ってると、私の腕を誰かが優しく叩いてきて、私の右手を手探り気味だけど取った。
「この髪型・・・、なのはちゃん・・・!」
なのはちゃんの特徴的な髪型に触れたことで認識できた。あとは、はやてちゃんとヴィータちゃんとベッキーちゃんとケリオン君と合流するだけ。今なお白い世界が解けない中、3人で手を繋いで4人を捜す。けど、どれだけ歩いてもダメだった。きっと4人も私たちを捜しているから、すれ違っているのかもしれない。
――すずか――
「っ! ケリオン君・・・!?」
私を呼ぶケリオン君の声が聞こえた気がする。空耳かもしれない。何せ未だに手を繋いでるなのはちゃんとフェイトちゃんの姿は視認できないし、声も聞こえない。念話は通じない。デバイスの魔力探査も出来ない。だけど・・・
――すずか――
「ケリオン君!」
呼ばれてる。気のせいなんかじゃない。耳じゃない、頭じゃない、こう心に直接呼びかけてくれてるような、不思議な感じ。私はなのはちゃんやフェイトちゃんと繋いでる手をちょっと引っ張った。すると2人は立ち止まってくれた。
(ケリオン君。・・・ケリオン君・・・!)
連絡手段は未だに回復してない。それでも必死にケリオン君の気配を感知しようって目を瞑って集中。
――すずか――
具体的な居場所は判らないけど、本当に何となくだけど「こっち!」から声がしたって思った。そっちに振り向いたその瞬間、白の世界全体に大きな亀裂が入った。差し込んで来るのは太陽の光のカーテン。眩しさに目を細めていると、「すずかちゃん、フェイトちゃん!」そう私とフェイトちゃんを呼ぶなのはちゃんの声が耳に届いた。
「見える! 2人の姿が見えるよ!」
「わ、私も、なのはとすずかが見える!」
姿も見えて、声も聞こえるようになった。ようやくこの白い世界から解放される。視界が眩しい光に満ちて堪らず目を瞑る。その次に瞬間、「やっと起きたわね、あんた達!」耳に届いたのは、「アリサちゃん・・・?」の怒鳴り声だった。
ハッとして目を開けると、青空が真っ先に視界に入った。今の私は地面に仰向けで横になってる状態だった。さっきまで立っていたのにどうして。ううん、それよりも青空が見えるはずがない。結界展開中、外の空間とは隔絶されてるから結界内の色彩は現実とは異なる。慌てて上半身を起こして・・・現状を知った。
「アリサちゃん!?・・・はやてちゃん、ベッキーちゃん、ルミナちゃん、セレスちゃん・・・!」
視線の先、防護服をボロボロにして頭や腕から血を流す5人の姿があった。なのはちゃん達もその様子に絶句してるみたい。そして、その5人がデバイスを向けてる先には見知らぬ人が居た。見知らないと言っても一目見た瞬間、ソレが何なのか判る人もいると思う。現に私がそうだから。
「天使・・・?」
白い翼が4枚と背中から生えていて、その翼のおかげか僅かに宙に浮いていた。それに頭の上には虹色に輝く輪っかが1つ。その輪っかと翼で天使だって認識できる。実際は違うのかもしれないけど、一番しっくりくる表現が天使だった。
そして、あの天使の正体がハート2だっていうのが遅れて理解できた。ローブは脱ぎ捨てられていて、素顔も体(裸だけど、大事な部分とか無い)も露わになってた。鍛え抜かれた体は薄紫色の皮膚じゃなくて白亜色に変わっていて、皮膚っていうより石像みたいな感じ。そして右手には、虹色の光を放ってる開かれた神器の書があった。
「スノーホワイト! みんなに広域治癒魔法! アリサちゃん達、集まって!」
今はとにかくアリサちゃん達の回復だ。
「私とフェイトちゃんで時間を稼ぐよ!」
「うんっ!」
「スノーホワイト! 2人にありったけのブーストを!」
なのはちゃんとフェイトちゃんが攻勢に打って出た。そして私は、2人が全力全開で戦い易いように色々なブーストを一気に発動。斬撃や射砲撃の攻撃力、防御力、機動力などを強化されたなのはちゃんはアクセルシューターで弾幕を張って、フェイトちゃんはバリアジャケットをブレイズフォームへと換装させての直接斬撃ジェットザンバーで攻める。
「リョート! お2人を援護!」
なのはちゃんとフェイトちゃんの攻撃に合わせてクリオネ型の氷精霊リョートも冷気の息吹を吹き掛け続ける。
「ラウンドガーダー・エクステンド!」
ユーノ君直伝の治癒効果を有した結界魔法を発動。魔法陣内に居る対象のフィジカルや魔力、防護服の回復を行う。回復してる中、アリサちゃん達に「私たち、一体どうなっていたの?」って訊いてみた。
「あたしとルミナとセレスは、はやてやヴィータ、ベッキーの精霊がジョンやあんた達を庇いながらあの天使みたいな奴とガチンコで戦ってたところに乱入したわけだけど・・・。それ以前の事は2人に訊いた方が良いわ」
アリサちゃん達がはやてちゃんとベッキーちゃんを見る。特にダメージが酷いのはベッキーちゃん。吐いた血を拭った跡が口に付いてる。そう言えばヴィータちゃんとケリオン君の姿が見当たらない。それについても聞かなきゃ。
「ジリェーゾの爪が神器の書に当たった瞬間、真っ白な魔力爆発があったやんか・・・」
「うん。それは憶えてる。その後、私となのはちゃんとフェイトちゃんは真っ白に染まったままの世界に居て、そこではやてちゃんとヴィータちゃんとベッキーちゃんを捜してたんだけど・・・」
「いいえ。すずかさん達は実際のところその場で意識不明に陥ったのです。どれほど呼びかけても反応が無かったのですよ」
「意識が飛んでた・・・?(ということは、さっきまでのは全部夢の中の出来事になるの・・・?)」
それにしたってあの白の世界での出来事は鮮明に憶えてるし、なのはちゃんとフェイトちゃんの手を握った感覚だって今もしっかりと残ってる。
「ハート2はすずかちゃん達を無力化した後、えっと、ケリオン君を捕まえようとしたから、わたしとヴィータとベッキー先輩とで仕掛けたんやけど・・・。あんな天使みたいな姿になってしもうてな。そんですずかちゃんの結界や精霊の水膜も一瞬で砕かれたんよ」
「まぁ、そのおかげであたし達ははやて達と合流できたんだけどね。ジョ――じゃなくてケリオンやすずか達を守るために参戦したんだけど、これがまた強すぎんのよ」
「ですからジリェーゾとヴィータさんを護衛として付かせ、標的のケリオンさんを避難させました。ルシルさんとシュヴァリエルの戦闘区域の反対側ですから、ルシルさんが勝てば逃げ切れるはずです」
「(だからベッキーちゃん、血を・・・)ありがとう、ベッキーちゃん」
そしてここには居ないヴィータちゃんにも感謝を。
「いいえ。これは特戦班の一員としての私の意地ですから」
ベッキーちゃんは精霊を同時に召喚、使役は出来ないっていう話だった。巫女としてのレベルがまだ低いからって。仮に出来たとしても身体に何かペナルティが起きるって聴いてた。吐血はきっとそのペナルティによるものだ。
「そう言えばシャルちゃんは・・・?」
「ルシルんとこ行ってる。魔術師化してもらってからこっちに合流するって言ってたわ」
シャルちゃんの姿が見えないことに気付いたからそう訊くと、アリサちゃんが答えてくれて、はやてちゃんが少し不機嫌になっちゃった。シャルちゃんが魔術師化するには、ルシル君の神秘が必要で、そのためにはどうしてかキスが必要とのこと。キスする方法が手っ取り早いってシャルロッテさんが言ってた。
「「きゃあああああああ!!」」
なのはちゃんとフェイトちゃんの悲鳴によって話は中断。ハート2は2人の攻撃を六角形型のシールドで完璧に防御。しかもどんな奇襲にも的確に対応してた。そして、そのシールドを発射して2人を突き飛ばした。それだけじゃなくて、信じられないことに鷲掴んでたリョートの頭を握り潰した。
「リョート! これが神属ヒエラルキーの差・・・!」
ベッキーちゃんが苦しそうに心臓の辺りを掴んだ。精霊に死は無いっていう話だけど、強制的に召喚を解かれると召喚者にも数パーセントのダメージが返ってくるみたい。
「すずか、治癒魔法はもういいわ! 魔術師化したシャルが来るまでアイツを足止めするわよ!」
「あ、うん! えっと、はやてちゃんとルミナちゃんとセレスちゃんは――・・・」
「もう回復完了や!」
『ですっ!』
「私もいつでもオーケー!」
「同じく!」
「すずかはブーストや回復のために魔力温存でお願い!」
「あ、うん、判った!」
結界を解除した瞬間に私がみんなに全ブーストを掛けると、みんなが一斉に攻勢に移った。
――ディアブロ・クエルノ――
「いっけぇぇぇーーーッ!」
「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け。石化の槍、ミストルティン!」
セレスちゃんは螺旋状の氷の杭型射撃ディアブロ・クエルノを50発近く一斉発射。はやてちゃんは詠唱の後、石化の槍ミストルティンを。
(凍結と石化のダブル拘束攻撃・・・!)
だけど、そのどれもがハート2には効いてなかった。正確には届いてなかった。その全てを小さなシールドで防ぎきってたから。防衛能力が桁違い。
「フェイト!」
「うんっ!」
「ヴォルカニック・スカッシャー!」「ジェットザンバー!」
「「サザンクロス!!」」
アリサちゃんとフェイトちゃんの連携魔法サザンクロス。フルドライブモードの魔力刃による十字刺突攻撃だ。ハート2は向かって来る魔力刃に合わせてシールド2枚を展開。間髪入れずにはやてちゃんの「ブラッディダガー!」と、なのはちゃんの「アクセルシューター!」計30発近い射撃魔法がハート2を包囲。それすらも小さなシールドで完全防御。
「拳打強化・・・、うらぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ルミナちゃんがみんなの射砲撃の集中砲火の中に交じってハート2へ突っ込んで行った。大小さまざまなシールドが集中砲火を防いで、ルミナちゃんにもシールドを展開、そして押し返ために射出。
「シュトゥースヴェレ!!」
ルミナちゃんが射出されてきたシールドを殴った。確か今の魔法は、あらゆる防御魔法を貫通する衝撃波を相手に打ち込むっていう・・・。ルミナちゃんは「うげ!」シールドに押し返されてしまったけど、ハート2も「っ!?」大きく前のめりになった。私やみんなは「効いた・・・!?」光明が見えたって思った。
――シヌイ――
ハート2の姿が変わるのを見た。白亜色で美術品のような体が、私が知ってる薄紫色の肌、人としての体(男の人の大事な部分からすぐに目を背ける)に戻った。パラパラと書物のページが勢いよく捲れて、あるページで止まった。
――イェリダー・マルアフ・ピュリキエル――
その直後、空から光の柱が砲撃みたいに勢いよく振って来てハート2を呑み込んだ。アリサちゃん達が「また天使化する!」って身構えた。ビリビリと肌に感じる強烈な神秘の波動。膝が震える。そして・・・
――シェニシャルへヴェット――
足元から突き上げるかのような大きな揺れが起きてフラついたところで、「っ!?」光の柱を中心に大きな亀裂が四方八方に伸びた。すぐ側を過ぎた亀裂の中を見る。深い。底が見えないほどに。と、「明かり・・・?」亀裂の底に明るい何かが生まれた。
「っ!! みんな、亀裂から離れて!!」
そう警告しながら私は亀裂から急いで離れた。その直後、全ての亀裂から3m近い炎の壁が噴き上がった。その熱波と衝撃波によって私は吹き飛ばされて、地面をゴロゴロ転がる。転がり途中に両手を地面に突いて跳ね起きる。周囲にみんなの姿は無くて、「分散させられた・・・!?」一番起きてほしくない状況に追い込まれたことに気付いた。
†††Sideすずか⇒ヴィータ†††
トンデモねぇ奴が現れてくれやがったもんだ。あたしは装甲に覆われた大型の虎型精霊ジリェーゾと一緒に、リンドヴルムの狙いであるジョン、いんや、本名はケリオンだったな。とにかくケリオンを連れて逃走中。避難誘導がここまで届いてるのか、人の姿は無ぇ。その分、逃げやすいから助かるけどな。
(本来ならはやての側に居るべき騎士だっつうのにな)
だけどしょうがない気もすんだよな。ベルカ式には遠距離系魔法はほとんどない。ハート2のような怪力で防衛力が高い相手に近接戦はかなり危険な行為だ。だからあたしが、こうしてハート2やシュヴァリエルとの戦場から遠ざかることになっちまってるわけだ。
「僕・・・僕は・・・」
ジリェーゾの背中に乗せられてるケリオンはさっきから虚ろなんだよな。そんなにすずかの側を離れんのが嫌なんかよ。まぁ、とにかく「良かったじゃねぇか。本当の名前が判ってよ」そう言ってやる。ようやく記憶を取り戻せそうなんだしな。
「いやだ・・・、僕は、ジョン・ドゥのままでいい・・・!」
「あ?」
「ケリオンなんて名前知らない! 僕はジョンだ、ジョン・ドゥだ!」
「おいおい、落ち着けって! ケリオン!」
「僕はケリオンじゃない、ジョンだ!」
「ああ、判った、判ったから落ち着けジョン、落ちるっつうの!」
なんとかケリオンを宥めさせることに成功。今のケリオンにとって記憶を失う前の時間は邪魔なもので、大切なのはすずかに恋してる今、なんだな。だけどそうは言ってられねぇ。お前の正体が判んねぇことにはリンドヴルムが何をやろうとしてんのかがサッパリだ。神器やアムティスなんてトンデモねぇもんまで持ち出すんだから、碌なもんじゃねぇ。
「(とにかく今は・・・)いいか。はやて達はお前を助けるために残った。あたしらはその意志を無駄にしねぇにも逃げ切らなきゃいけねぇわけだ。解るな?」
「・・・うん」
ケリオンはジリェーゾの首にしがみ付き直した。そうだ、今はひたすら逃げるしかねぇ。だから人気のない路地裏を進み続けた。
――影渡り――
だが、「ハーイ、ストップ~。ここから先は通行止めだよ~」目の前にある建物の影から1人の女が音も無く現れた。
「猫目に猫口、影を移動する・・・、エグリゴリの、レーゼフェアか・・・!」
「正解~♪ そこの少年を回収するようにシュヴァリエルからのご依頼なのだ。だからさ・・・渡してもらおうか」
大きな瞳が細められた。ふざけた様子じゃ考えられねぇほどの殺意をあたしに叩き付けてきやがった。最悪すぎんだろ、この状況。シュヴァリエルにハート2って化け物の次はレーゼフェアかよ。
「ジリェーゾ、逃げろ!」
ケリオンを渡すわけにはいかねぇ。だからそう言ったんだけど、ジリェーゾは体を大きく振るってケリオンをあたしに向かって投げ飛ばしやがった。あたしは「うおい!?」慌ててケリオンをキャッチ。
何すんだ、って文句を言う前に、ジリェーゾはレーゼフェアへ向かって突進。レーゼフェアを「なに、ケンカ売る気? 買うのだ~」目にも留まらないほどの速ぇ拳打を繰り出した。ジリェーゾは跳躍して躱した後、建物の壁を蹴ってレーゼフェアを頭上から強襲、地面へ押し潰した。
「(自分が相手をするからあたしに逃げろ、ってか)・・・任せるぞ! しっかり掴まっとけ、ケリオン!」
「あ、うん!」
ケリオンを背負ってあたしは空へ上がった。もう飛行許可とか関係ねぇ。後はどこに向かうか、そう考えた瞬間、「うおっ!?」目の前を何かが高速で上へと通り過ぎてった。上空を見ると「ジリェーゾ・・・!?」四肢や尻尾を引き千切られて鉄の塊と化してたジリェーゾが空を舞ってた。そんでジリェーゾは召喚を解かれたみてぇで消滅した。
「おいおい、精霊ってエグリゴリより強い神秘を持ってるんじゃなかったのかよ、ルシル・・・!」
下を見る。そこには「ありゃバンヘルドと同じ羽・・・!」レーゼフェアの背中からクジャクの尾羽のような羽が放射状に20枚って展開してた。
――影渡り――
そして奴は建物の影に呑まれるように姿を消して・・・
「このエラトマ・エギエネスを発動してる時、エグリゴリの神秘は格段に上昇するんだよ。しかも、この状態での神秘は放出されないで体内に固定される。つまり神秘が跳ね上がったことには気付かない、気付けない。だから、お前の神秘に届いたぞ、なんて喜んでもその上があると知って絶望するのだ~。僕たちだって成長する、・・・くふふのふ~☆」
(聴いてねぇぞ、ルシル・・・!)
近くの建物に建つ煙突の影から出て来たレーゼフェア。あたしに向かって手を伸ばしてくるアイツに反撃をしようにもケリオンを背負ってるから“アイゼン”を振れねぇし、逃げようにもケリオン分の重さで遅くなってる以上は無理だ。
「悪ぃ、ケリオン。逃げ切れねぇ・・・!」
「すずか・・・!」
――影渡り――
レーゼフェアの手があたしの右肩を鷲掴んで、「いらっしゃ~い」アイツが出て来た影に引っ張り込まれた。視界が真っ黒に染まったけどすぐに元に戻った。そこで見たのは「はやて!」やなのは達が地面に倒れ伏してる惨状だった。そんではやて達をぼろ雑巾みてぇにしやがったはずのハート2の姿はどこにも無い。
「すずか! すずか!」
ケリオンがあたしの腕から逃れて倒れ伏してるすずかの元へ駆け寄ろうとしたが、「おっと」レーゼフェアがケリオンの腕を取って制止させて、「そこの赤毛の子もフリーズ。動くと、大昔の銀髪ちゃんと同じように消し飛ばすよ」って、あたしにも脅しを掛けてきたんだが・・・
「大昔の銀髪ちゃんってなんのことだよ・・・!」
「バンヘルドと君らが戦っていたの観てたんだよ、僕。で、神器王と銀髪ちゃんがバンヘルドを殺した後、僕が――」
そこまで聴いたところで理解した。コイツが、ベルカ時代ん時にシュリエルを殺した“エグリゴリ”なんだって。今すぐにでもブッ倒してやりてぇけど、はやて達が人質にとられてる以上は動けねぇ。
「すずか! すずか!」
「・・・ぅ、・・・あぅ・・・ケリ・・オン・・・く・・・」
「僕、僕は、ジョンで良い! ジョンが良い! すずかとこれからも一緒に居たいんだ! ケリオンなんて知らない! 僕はジョンだ! 今の時間が大好きなんだ! だから・・・!」
「ケリ・・・ジョン君・・・、ジョン君!」
すずかが立ち上った。もう立つこともしんどいって感じなのに。すずかだけじゃない。はやてやなのは達も「ジョン君を・・・返せ」って立ち上ってく。あたしは「レーゼフェアァァァァーーーーッ!」アイツの脅しを撥ね退けて、「アイゼン、ギガントフォルム!」変形させての・・・
「ギガントハンマァァァァーーーーーーッ!」
振り向きざま、遠心力を上乗せしたギガントフォルムの“アイゼン”により一撃をレーゼフェアに打ち込んでやった。ドガン!と派手な轟音と衝撃があたしに返って来た。
「うおおおおおらああああああああああッ!」
少し間拮抗したけど、負けじと振り抜いてやった。弾き飛ばされたレーゼフェアは「やるじゃんか!」って嬉しそうに笑った。と、そんなアイツへとはやて達の射砲撃に集中砲火が襲って、起きたトンデモねぇ魔力爆発にアイツは呑まれた。
「すずかぁぁぁーーー!」
ケリオンがすずかに向かって駆け寄って、すずかも迎え入れるように両腕を広げたその瞬間、「馬鹿だなぁ。あんな程度で僕をどうにか出来るとでも思った?」レーゼフェアがケリオンの影からにゅっと現れて、「ぅあ・・・!」羽交い絞めにした。
「はーい。今までお世話になったみんなにお別れの挨拶をね~」
「ぅぐ・・・い、いや、・・・だ・・・!」
「「レーゼフェアさん!」」「レーゼフェア!」
「なのは、すずか、アリサ。悪いね。これが、僕の役目なんだよ」
――影渡り――
影に中に入り込んでくレーゼフェアと、「すずかぁぁぁーーー!」ケリオン。攻撃を仕掛けようにも非殺傷設定なんてもんがねぇ魔術になってる今のあたしらの魔法がケリオンに当たったら確実に死ぬ。
「いや・・・だぁぁぁぁぁーーーーーッ!」
「お? 来た、来た♪ いいよ、そのまま自分を解放しなよ!」
――此処に開門せり――
ケリオンから発せられる真っ白な光に「っく・・・!」目を細めた上で空いてる手でひさしを作る。光の中で薄らと見えるのはケリオンから離れてるレーゼフェアと、「黄金の・・・扉・・・?」みてぇなもんが見える。
「見せてあげなよ、君の正体をさ! 果て無き闇あるところに限り無き光あり。二天の狭間で生まれるは永劫の影。我は影の王、闇の支配者、光の仇敵。世は何時しか闇に堕ち影に覆われ光は露と消ゆ」
――闇色に染めたる影国――
光が闇に呑まれたことでハッキリと見えることになった。あたしらの前にはレーゼフェアと、黄金の両開きの門・・・だけ。ケリオンの姿はどこにも無い。
「コレが、君らがジョンって呼ぶ正体なのだ。神器の一種である転移門、そのうちの1つ、ケリオンローフェティタ。判った? 人間じゃないんだよ、ジョンは。神器って物が人に変身できる術を手に入れただけの・・・偽物の命、体、人格、・・・人形なんだよ」
言葉を失った。人に変身できる神器なんてあんのかよ、おい。そう思ったのはあたしだけじゃなくて、「うそ! レーゼフェアさんがジョン君を隠してるんです!」すずかを筆頭に、「影を使ってるんですよね!」なのはや、「返しなさいよ!」アリサが噛み付いた。他のあたしらもレーゼフェアを睨みつける。
「わっかんないかなぁ~。ほら、元に戻るよ」
黄金の門が揺らいでいって、それと同時にケリオンが陽炎のように揺らめきながら現れた。そんで、完全に実体化したケリオンがトサッと地面に倒れて、「ぅ・・・あ・・・」体をすぐに起こした。
「ジョン君!」
「・・・思い・・・出した・・・。僕が、なんなのか・・・」
ケリオンがポロポロ涙を流し始めた。そこにレーゼフェアがケリオンに顔を近付けて、ケリオンに何か耳打ちした。するとケリオンは「判った」って立ち上ると、「すずか、みんな」涙ぐんだ瞳をあたしらに向けた。
「ごめん。・・・今までありがとう。僕、すごく楽しかった」
「ジョン君!」
「はい、決まり。それじゃあね~♪」
――影渡り――
レーゼフェアはケリオンを連れて影の中に消えていって、遅れて闇の世界が解除された。そして、「ジョン君・・・、ジョン君・・・!」すずかの泣き声だけが残った。
後書き
チャオ・アウム。
今話でジョンが記憶を取り戻し、なのは達にその正体すらもバレてしまいました。次話は、この時シャルシルとシュヴァリエルはどうしていたのか、などをお送りする予定です。
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