魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico33明かされる真実~State of Emergency~
前書き
小説を書きたい、クリアはしたがMGSⅤをまだまだやり込みたい、姪っ子と遊びたい、仕事に行きたくない。私はどうすればいいのか。教えてください、神さま。
リンドヴルム総隊長シュヴァリエル第二戦イメージBGM
CRISIS CORE -FFVII「Theme of CRISIS CORE『計画の真実』」
†††Sideフェイト†††
最悪すぎる状況が目の前にあった。みんなでベルカ料理に舌鼓を打ちながら楽しくお喋りしていたのに、私たちの目の前にあの人が現れた。私たちの誰よりも強いルシルを瀕死にまで追い込めるほどの戦闘能力を有したあの人が。
「あ・・・ぅ・・あ・・・シュ・・・シュヴァリエル・・・です・・・!」
リインがその名前を呼んだ。ロストロギア蒐集家リンドヴルムの誇る、蒐集実行部隊の全隊リーダー、シュヴァリエル。魔術と呼ばれる超古代の魔法体系と、神器っていう神様や悪魔、魔術師が特別な製法で造った武器を武装している。神器の脅威は身に染みてる。でもだからと言って・・・
「よぉ。お嬢さん達。遊びに来たぜ」
シュヴァリエルの好きにはさせない。ジョンに腕を伸ばすシュヴァリエルの顔面に向かって、「この・・・!」ベルカのスープ料理の一種だっていうアイントプフの器を投げつける。あっつあつのスープだから「う熱っ!?」あのシュヴァリエルでさえも怯んだ。
「すずか! ジョンを連れて逃げて!」
“バルディッシュ”を起動してバリアジャケットに変身した私は、「ルシル、信じるよ!」変身時に一緒に装備されるように設定していた神器の腕輪・“ドラウプニル”をチラッと見る。左手首にはめてある黄金に光り輝く腕輪。現代の、神秘の無い私たち魔導師の魔法を魔術に変換できるって聴いた。
――ハーケンスラッシュ――
魔力斬撃をシュヴァリエルの首へと向けて繰り出す。魔術に非殺傷設定なんて機能はない。けど、それで構わない。シュヴァリエルは・・・人間じゃないんだから。私の一撃がシュヴァリエルの首に直撃した。
「ドラウプニルか! 良い神器を渡されたもんだな、おい!」
ガキィンと響く衝突音。刃が通らなかった。ルシルから聴いていた通りちゃんとは効いてないみたいだけど、魔力刃が砕かれないのは確か。イケる。これなら一方的な戦闘にならない。ツンツン髪に乗ったスープの食材(ジャガイモやニンジン、レンズ豆とか)を振り落としながら私を睨みつけるシュヴァリエルは、「良い一撃だったが、それじゃあ俺の装甲は破れないぜ!」そう口端をつり上げて笑って、ジョンの手を引いて距離を取るすずかから私にターゲットを移した。
「おーら、もう1発受け取りやがれッ!」
――テートリヒ・シュラーク――
赤い騎士服に鉄槌を携えるヴィータが問答無用でシュヴァリエルの鼻っ面に強力な一撃を打ち込んだ。普通なら鼻の骨どころか頭蓋骨も粉砕するような一撃だけど、ガキィン!と甲高い音と一緒に「痛ってぇなぁ・・・!」シュヴァリエルを僅かに怯ませるほどの効果しかなかった。
「フェイトちゃん、ヴィータちゃん!」
――レストリクトロック――
なのはの声に合わせてその場から即離脱したと同時、なのはのバインドでシュヴァリエルが拘束された。なのはも、リインとユニゾンしたはやても、ベッキーも、すずかもみんな変身し終えていて、揃って左手首に“ドラウプニル”をはめている。
「リイン!」
『はいですっ!』
――封縛――
「スノーホワイト!」
――アイシクルスタチュー――
はやてとリインのバインド魔法、すずかの対象を氷柱に閉じ込める拘束魔法がシュヴァリエルを閉じ込めた。そこにまた「リョート、お願いします!」ベッキーが神楽鈴型のデバイス、“ドゥーフヴィーゾヴ”をシャラン♪と鳴らして、50cmくらいのクリオネみたいな姿をした氷の精霊を召喚。
――アーイスビェルク――
クリオネ型精霊のリョートが起こす吹雪によって、シュヴァリエルが閉じ込められている氷柱が氷山に閉じ込められた。これで一時の時間稼ぎくらいは出来るはず。今の内にお客さん達を避難させないと。
「って、うん・・・?」
突然の魔法戦で他のお客さんは大騒ぎになるかと思ったけど、思っていたより騒ぎは起こってなかった。全く騒がない人が多数派、当然のように騒ぐ人が少数派、その2つにハッキリと分かれていた。
「教会騎士団です! 避難誘導を行います! 落ち着いて下さい!」
広場の至るところからそんな掛け声が聞こえてきて、騎士甲冑に変身している複数の人たちが声を出しているのが見て判った。あと、お客さんの中にも避難誘導を手伝う人が居るみたい。
「避難誘導は我々教会騎士団と、オルフェン住民が行います! あと、結界魔法も使用して頂けると助かります!」
私たちに近かった女性騎士が私たちに振り向いた。騒ぐ、騒がない人の区別はどうやらザンクト=オルフェンの住民かそうじゃないか、みたい。それはともかく、女性騎士にそう言われた私たちは頷き返して、「すずかちゃん、結界よろしく!」すずかが結界を張ることにした。
「はいっ!」
――封時結界――
すずかが結界を張ると、周囲から人が居なくなった。さらに「ヴァダー!」ベッキーが“ドゥーフヴィーゾヴ”をシャラン♪と鳴らして、氷の精霊リョートと入れ替えるように1mほどのクジラの姿をした水の精霊ヴァダーを召喚した。
「結界を重ね掛けします! コーカンヴァダー!」
結界の表面全体を覆う水の膜。シャルロッテさんの話だと精霊っていう神秘は、神属ヒエラルキーの3番目に位置するんだって。ちなみに1番は神様、2番は天使、4番は妖精、とのこと。そしてエグリゴリは、3番と4番の間。名前はまだ聞いてないけど、エグリゴリの最強機は天使クラスの神秘だって話だ。と、そんな時、「っ!!?」ゾワッと悪寒が走った。それは私だけじゃないみたいで、なのは達もキョロキョロ周囲を見回している。
「これは・・・かなり厄介な何かが来る前兆ですね・・・!」
ベッキーと同じ意見だ。何かまずいのが来る。直感じゃなくて本能が警告してきた。みんな揃って警戒している中、ゴツ、ゴツ、ってブーツを鳴らす音がフェードインしてきた。なのはが「みんな、あっち!」そう指を差した方に、結界を張った直後には居なかった人影があった。
「あの人も・・・リンドヴルム・・・!?」
「おそらく・・・!」
「はやてはあたしの後ろに下がって!」
深紫色のローブを纏った、たぶん男の人。顔はフードに隠れて見えないし、俯き加減のうえ猫背だから余計に見えない。中でも目を引くのは、薄汚れてはいるけど綺麗な装飾が施された分厚い書物。たぶんアレが神器だ。神器特有の妙な感じがする。ローブ兵は体を左右に揺らすようにフラフラと歩いていて、その行く先には氷漬けにされたシュヴァリエルが居る。
「ルシル君たちに連絡を!」
「リイン! ルシル君とシャルちゃん、それにルミナ達に応援の連絡を!」
『はいですっ!』
「ルミナ達は私が連絡するよ!」
リインはシャル達に、そして私はルミナ達に通信を繋げて、シュヴァリエルが襲撃してきたことを知らせることに。
『はーい。ルミナです~。イリスとルシルが未だに見つからず~、暇しています~』
こっちはすごく大変な状況だからかルミナのそんなどうでもいい報告にちょっとイラッと来たのは秘密。とにかく『ルミナ! シュヴァリエルの襲撃を受けた! 場所は、カスターニエ広場!』簡潔に現状を知らせていたら・・・
――リションシャルへヴェット――
ローブ兵とシュヴァリエルの周囲6ヵ所から火柱が6連続立ち上って、2人の姿を覆い隠した。そして、私たちはその火柱が発生した際の爆風によって「きゃああああああ!」大きく吹き飛ばされてしまったけれど、なんとか空中で体勢を立て直して着地。
「(通信が切れた・・・。でも、ちゃんと場所は伝えたし、すぐに来てくれるはず!)なのは、すずか、はやて、ベッキー、大丈夫!?」
「なんとか!」
「私もジョン君も大丈夫!」
「あたしも問題ねぇ!」
「わたしもリインもや!」
『平気です!』
「私も問題ありません・・・が、かなりの大火力の神器のようです。直撃の代償は炭化でしょう」
「だけど、私とベッキーちゃんの精霊の結界を撃ち抜いたように見えたけど・・・、なんともない・・・?」
私は見ていなかったけど、ローブ兵の神器による火柱はすずかとベッキーの結界を撃ち抜いたらしい。それだけであの書物のレベルがこれまで相手にしてきた神器とは別格ということが判る。シュヴァリエルに続いてそんな相手が現れるなんて、運が悪いにも程がある。
「火柱が消える・・・!」
今度は同時に消失した6つの火柱。宙を舞う火の粉のカーテンの奥、そこには氷漬けやなのは達のバインドから解放されたシュヴァリエル、そしてローブ兵の姿があった。
「仕掛けます! ヴァダー!」
――ヴァダヴァロート――
ベッキーがそう指示を出すと「キュオーン」ヴァダーがそう一鳴き。すると膨大な量の水の渦が発生。よほど余裕なのかシュヴァリエルとローブ兵は回避も防御もしようとせず、そのまま渦に呑まれた。
その様子を確認したベッキーがすぐさま「すずかさん、お願いします!」指示を出すと、「了解! リフリジレイト・エア!」すずかが冷気の竜巻を発生させて、シュヴァリエルとローブ兵を呑み込んだ渦を瞬間冷凍。2人はまた氷漬けになった。
「このまま出来るだけ時間を稼ぎましょう。私の精霊、ドラウプニルを得た皆さんだけではシュヴァリエルともう1人のリンドヴルムを討つのはまず無理だと思います」
ベッキーに私たちは同意見だって頷き返した。シャルとルシル、ルミナ達もすぐに来てくれる。だからそれまでの時間を稼げればいい。みんなが揃えば、私たちはローブ兵を相手にして、ルシルはシュヴァリエルとの1対1の決闘。そして可能な限り私たちはルシル達と距離を取る。これが特戦班の基本的な戦略だ。
「お前たちだけで時間を稼ぐ、か。そいつは無理だな」
そんな声と一緒にシュヴァリエルとローブ兵を閉じ込めていた氷塊が勢いよく砕け散った。コキコキ首を鳴らすシュヴァリエルが「あ~、確かにすげぇな、神属の術は。だがな。同じ手は二度も食わねぇよ」そう言って、ローブ兵に顎で合図した。するとローブ兵は力なく上半身を仰け反らせた。
「「「「「「っ!!?」」」」」」
『ひゃう!? な、なな、なんですか、あの顔!?』
「人間、じゃない・・・!?」
仰け反った際に見えたフードの中に隠れていたローブ兵の素顔。人の肌をしていなかった。血の気のない薄紫色の肌で、眼球は真っ黒、虹彩だけが真っ赤。なんて言うかゾンビっていう表現が一番しっくりくる。
「まぁ、厳密に言えば人間じゃねぇな。だが・・・現代の人間以上のスペックを有しているんだぜ? コイツの持ってる神器、普通の人間じゃあ開くことも読むことも、使うことも出来ないもんだからな。そうだよな、相棒?」
シュヴァリエルの話に出て来た、「相棒?」が引っ掛かった。思わず口から出た私の声にシュヴァリエルが反応。
「俺がリーダーを務める第0小隊ドラゴンハート。そのサブリーダーがコイツ、ハート2だ」
ハート2っていうコードネームに「っ!」私たちは息を呑んだ。そして想像以上に現状が最悪なものなんだと理解した。ハート2。ベッキーの五精霊の次に強いフィレス二尉+神器、“ドラウプニル”を装備したシグナム、魔術師化していたセレス、その3人を戦闘不能にした・・・とんでもないリンドヴルム兵のコードネーム。
「ハート2。お嬢さん達の相手は任せた。俺は・・・ケリオンの確保に集中する」
シュヴァリエルがジョンの方を見た。しかも、ケリオン、って名前らしき単語も一緒に。すずかが「シュヴァリエルさん! ジョン君の本当の名前って・・・ケリオン君、っていうんですか?」って訊いた。
「ジョンだ? なんだ、ソレ自体から名称くらい聴いているだろ?」
「ソレ? 名称?・・・まるで物みたいに・・・!」
「あなた達がジョン君を追いかけ回すようなことをしたから、ジョン君は記憶を無くしちゃったんです!」
すずかが俯いて両拳を力強く握り締めて、なのはがそう怒鳴ると、シュヴァリエルは「記憶が無い? なるほどな。通りで・・・」何か考え込むような仕草をした。
「ど、どうなんですか! ジョン君の本当の名前は・・・ケリオン君なんですか!?」
「・・・そうだ。ソレの真名はケリオン。だが、それが今わかったところでなんだって言うんだ? 今日これからお別れなんだからな」
シュヴァリエルはそう言って、2m近い大剣をどこからともなく具現して携えた。
「っ! ジリェーゾ!」
ベッキーが“ドゥーフヴィーゾヴ”を激しく鳴らすと、ベッキーの側に全身が漆黒の装甲に覆われた3mほどの虎型精霊・ジリェーゾが召喚された。そして「行きませ!」シュヴァリエルへ突撃させた。
「リイン!」
――ハウリングスフィア――
「『ナイトメアハウル!!』」
ジリェーゾがシュヴァリエルへ到達するより早くユニゾンはやての多弾砲撃が着弾。爆煙より飛び出したシュヴァリエルに突撃するジリェーゾは、両前脚でシュヴァリエルを組み敷いた上で大きな口で頭部に噛みつこうとした。だけどそれより早く「重いだろうが!」シュヴァリエルがジリェーゾのお腹に蹴りを入れて引き剥がした。
「シュヴァリエル! あなたの相手は、ルシルさんが来てくださるまで私とはやてさん、ヴィータさんとリインさんが務めます!」
「精霊使い! 厄介な人間が現代に残っているもんだな! で、そっちのお嬢さんは奴の家族だったな!」
「ルシル君を死なせかけたその罪、その代償として1発くらいは殴らせてもらいたいもんや!」
『ですぅ!』
「つうか骨折くらいは覚悟しろよ、シュヴァリエル!」
「ハッ! 面白い! 来なっ!」
ベッキーの精霊とヴィータが前衛と中衛、はやてが後衛のスタイルだ。
「「フェイトちゃん!」」
なのはとすずかに呼ばれてハッとする。そうだ、ローブ兵――ハート2もまたシュヴァリエル並に危険な神器持ちで、しかも普通の人じゃないらしい。私は私でこっちに集中しないと。ちょっとしたミスが命取りになるかもしれない。
なのはは“レイジングハート”をフルドライブのエクセリオンにして、私はフルドライブのザンバーじゃなくて大鎌のハーケンへ、そしてバリアジャケットはソニックフォームに。速度を活かしてかく乱しつつ、なのはとの連携に賭ける。
「すずかちゃん! 私とフェイトちゃんにブーストお願い!」
「うんっ! ジョ――ううん、ケリオン君は下がっててね!」
「すずか、僕は・・・!」
ハート2が動きを見せる。すかさず私となのはでバインドを仕掛ける。あの書物が神器なら、捲らせない、見せない、読ませない、この制限を掛けてしまえばおそらく封殺できる。ハート2は動きが遅いから、簡単に両腕と頭部を空間に固定することが出来た。
「スノーホワイト、なのはちゃんにガンファイアフォースを、フェイトちゃんにはスラッシュフォースとシールディングフォースを! はやてちゃんとヴィータちゃんにもお願い!」
すずかの魔法効果を強化するブースト魔法を受けて、「アクセルシューター、シュート!」なのはは射撃魔法8発を発射。続けて「ハーケンセイバー!」私も魔力刃を飛ばす。まずはシューターが神器に着弾していって爆発を起こす。そして煙幕を切り裂くセイバーが、神器に着弾した。
「「「っ!」」」
セイバーと神器の表紙部分の接地点から派手な火花が散る。通用していない。けど、悪い事ばかりじゃない。着弾と同時にセイバーが粉砕されなかったのは、あの書物型神器と“ドラウプニル”の神秘に差が無いことを示している。みんなで攻めれば破壊することも出来るはず。
「バインドバレット!」
ハート2が身をよじると私となのはのバインドがミチミチ音を立てて千切れ始めたから、すずかが着弾時に対象を拘束するバインドと化す魔力弾を15発と一斉射出。ハート2は右腕を伸ばして前方に掲げた神器のページを開こうとした。
――ソニックムーブ――
私は一足飛びでハート2へと最接近。バインドバレットより早くハート2に辿り着いて「はぁぁぁ!」すかさず“バルディッシュ”を振るう。ペラペラと捲られ始めたページの間に魔力刃が入る。
(バルディッシュの刃が邪魔してページを捲ることが出来ない? 成功だ!)
私を邪魔者としてハート2が真っ赤に輝く目を向けてきた。感情の無い表情。生理的に受け付けないその肌の色、目、雰囲気。間近で見たからかゾワッと全身が総毛立った。と、そこにすずかの魔力弾が襲来。そして着弾して、ハート2の全身にバインドが掛けられた。それを確認して、「神器を回収します!」ハート2の持つ神器を奪い取ろうと試みてみた。そんな時・・・
『こちらルシリオン。現着した。結界内の状況を教えてくれ』
待ち望んでいたルシルからの念話が入った。なのはが『リンドヴルムは2人! シュヴァリエルさんとハート2!』そう答えた。すると明らかにルシルが『なっ・・・!』動揺したのが判った。でもすぐに『状況確認。シュヴァリエルは俺に任せてくれ!』って、力強い声が返ってきた。
『結界外の避難誘導は順調だ。それにシャルもすぐに来る。すずか。結界内に侵入する際、穴を開ける。すまないな』
『あ、ううん! 大丈夫! ドラウプニルのおかげか、今ならどんな攻撃を受けても結界を修復できそうだから!』
『そうか』
『こちらはやて! ヴィータとベッキー先輩と一緒にシュヴァリエルと交戦中! 出来るだけ早い応援をお願いするわ!』
はやて達の方へと目をやる。ベッキーの五大精霊の1体で金属を司っている、装甲を纏った虎型精霊ジリェーゾと、次元世界最強クラスなシュヴァリエルの真っ向からの近接戦が繰り広げられていた。3mって巨体のうえ全身が金属なジリェーゾは虎としての俊敏さを備えていて、シュヴァリエルの斬撃を紙一重で躱し続けながら鋼の爪や牙で攻撃。ヴィータも射撃と打撃の両方を駆使して翻弄、そこにはやての射砲撃が面白いように着弾していっている。
「はっはぁっ! 痛いじゃないか!!」
それでも確かなダメージを与えられていない模様。それにしても「全然取れないぃぃ~~~・・・!」ハート2から神器を奪い取れない。全力で引っ張っているけどビクともしない。神器を支えているのは指の力だけのはずなのに。一体どれだけ怪力なんだろう。
『っ! 了解だ! これより結界に突っ込む!』
『あっ! ルシルさん、すずかさんの結界内面には私の精霊の水膜があ――』
『っ!? ゴボゴボ、ガボガボガボ・・・!』
プツンと念話が切れたけど、すぐに「シュヴァリエルぅぅぅぅーーーーーーっっ!!」ルシルの怒声が直上から聞こえてきた。びしょ濡れっぽい空戦形態のルシルが高速でシュヴァリエルへと突撃。ルシルの手には、すずかやマリエルさん、スカラボのみんなと一緒に作り上げたデバイス、“エヴェストルム・アルタ”が握られている。
「ジリェーゾ! 全砲門開放!!」
ベッキーが“ドゥーフヴィーゾヴ”を鳴らすと、ジリェーゾの装甲のあらゆる箇所に有ったハッチが音を立てて開かれた。
「ラケートナエ・アルージエ・マークシムム・・・、シトゥールム!!」
両前脚、両前腿、首、背中、腰、計13個のハッチの中から数十発の砲弾型魔力弾が発射されて、それらが一斉にシュヴァリエルへ殺到。すると「おい、これは冗談じゃないぞ!」シュヴァリエルが迎撃の為に大剣を振るおうとした。
――闇よ誘え、汝の宵手――
そんなシュヴァリエルの体を拘束するのは平べったい影の手、その数20弱。シュヴァリエルは身を捩って逃れようとしたけど「っ! ふざけ――」成す術なく全弾が直撃、大爆発に呑まれた。
†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††
ベッキー先輩の誇る五精霊が一、金属を司る精霊ジリェーゾの各ハッチから射出された魔力ミサイルがシュヴァリエルに全弾直撃。精霊の攻撃の着弾だ、致命傷にはならないだろうが、僅かでもダメージを与えただろう。そう思ったんだが・・・
「痛てぇだろうがクソがぁぁぁぁぁーーーー!!」
シュヴァリエルはやはり健在。多少の衣類の乱れはあるものの全くと言っていいほどにダメージを負っていなかった。そして俺のカムエルを力尽くで引き千切り、「精霊使いぃぃぃーーー!」ベッキー先輩へ突撃しようとした。
「お前の相手は、俺だぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」
VS・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
其は竜に仇なす者らを斬り潰す破滅の嵐シュヴァリエル
・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・VS
ベッキー先輩とシュヴァリエルの合間に割って入り、そして真っ向から奴に向かって突撃する。左手に握る“エヴェストルム”を一度見、「カートリッジロード!」神秘を有する魔力を籠めた特性カートリッジを2発ロード。
「イデアフォルム・・・!」
フェイトの“バルディッシュ”のザンバー、アリサの“フレイムアイズ”のクレイモアと同じ、実体刃ではなく魔法としての魔力刃を生成するモード・イデアフォルムへと変形させる。さらに今のカートリッジで穂に刻まれていたルーンが発動して魔力刃に神秘が付加され、「イドフォルム・・・!」魔術としての魔力刃と化した。
「ベッキー先輩、それにはやて。2人はこのままハート2との交戦に入ってください! コイツの相手は・・・俺が引き受けます!」
「退けぇぇぇぇーーーーーッ!」
「何をそんなにキレているんだよ、・・・シュヴァリエルぅぅぅーーーーーッ!!」
――崩山裂砕――
――集い纏え、汝の閃光槍――
全てを粉砕するが如き竜巻を纏わせた大剣、“極剣メナス”による斬撃を繰り出すシュヴァリエル。そして俺は、柄の上下に有る2つ魔力刃を構築している魔力を閃光系に変化させての斬撃を繰り出す。
「(俺たちみんなで造りだしたエヴェストルム・アルタ。・・・信じるぞ!)」
ギリギリまで引き付けておいて、“エヴェストルム・アルタ”の新機能の1つ、魔力還元の鉱石に魔力を流し込む。所有者が鉱石に魔力を流し込むと、その魔力を何倍にして返還してくれるという能力を持っている。この鉱石は魔力ランクの低い者にとっては喉から手が出るほど手に入れたい代物だろうな。
「なに・・・っ!?」
「おおおおおおおおおお!!」
これまでの俺の限界値だった魔力、そして神秘がグッと跳ね上がったことでシュヴァリエルが目を見開く。そのまま俺とシュヴァリエルが振るった互いの刃が衝突する。以前の“エヴェストルム”なら瞬時に砕かれていただろうが、今回は奴の“メナス”の刃を受け止め、さらに捌くことが出来た。奴はそれで冷静さを取り戻し、4mほどまで一足飛びで後退した。
「なんだ、この魔力は・・・!?」
「ようやく俺を見たか、シュヴァリエル! さぁ、俺と遊ぼうか!」
「遊ぼうか、だと? 一体どんな手品を使ってそこまで回復したのか、俺のメナスの一撃を捌けるオモチャを手に入れることが出来たのか、色々と気になることはあるが・・・。良いぜ。遊ぼうぜぇぇぇぇぇーーーーッ!」
――崩山裂砕――
――力神の化身&集い纏え、汝の雷撃槍――
シュヴァリエルと斬り合いながらはやて達から距離を取る。すずかの結界は直径2km近い。端に寄れば・・・いや結界を抜け、外で創世結界を展開すれば好きなように暴れられる。
「そういやぁ、なぁ、神器王。なぜリンドヴルムの本拠地に襲撃を掛けなかったんだ? あれから1ヵ月以上が経過しているぞ」
「・・・なに?」
何を言われたのか本気で解らなかった。リンドヴルム本拠地への襲撃。したいさ。だが、どこに在るのかが未だに判っていないのが現状だ。だからどうしてそんな話題を振ってくるのかが理解できない。
「??・・・あぁ、そういうことか。・・・ふふ、ふは、ふはは、ふはははは! 本拠地から逃げ出した神器たちの願いも、努力も、全てが無駄になっていたわけだ! 傑作じゃないか! あはははは! こいつは笑える! こんなに良い気分になったのは久しぶりだ!」
「何が可笑しい!?」
――舞い振るは、汝の獄火――
――轟風暴波――
100本の炎槍を一斉射出。シュヴァリエルは風速200m強の暴風を槍群に叩きつけることで迎撃した。そして俺たちはまた剣戟を繰り広げる。
「先のクラナガンでの一件でお前たちが回収した神器から本拠地の場所が漏れると思っていたんだよ!」
「ぅぐ・・・!」
重い横薙ぎの一撃を受け止めることは出来たが、踏ん張り切れずに吹き飛ばされてしまう。宙を滑空する俺に向かって一足飛びで突撃して来たシュヴァリエルの刺突攻撃を、「っく・・・!」体を捻ることでギリギリ回避。
そのまますれ違いざまに「おらぁぁぁぁっ!」奴の首に目がけて“エヴェストルム”を振るう。しかし奴はその一撃を歯で噛むことで受け止めた。しかもバキンと、魔力刃を噛み砕いたのだ。目を疑ったよ。
「お返しだ、神器王!」
その言葉に俺はすぐさま上昇。そして奴の周囲に「コード・パシエル、ジャッジメント!」40の雷槍を展開して、全包囲攻撃を行った。放電爆発に呑み込まれるシュヴァリエル。奴の姿を視認するより早く神秘カートリッジを計4発ロード。
――女神の陽光――
放電を続ける爆煙の中から俺に向かって飛び上がって来たシュヴァリエルへ上級炎熱系砲撃を発射。直撃し、奴は地面に叩きつけられるように砲撃に押し潰され大爆発に呑まれた。だが、「神器王! お前は、デカイ失敗を犯した!」奴は顔を煤汚しながらも爆炎の中から悠々と歩き出て来て、その健在さを俺に見せつけた。
「居たんだよ。拠地から逃げ出した神器の中に。人化できる奴が!」
突っ込んで来たシュヴァリエルが振るう“メナス”の斬撃を躱しつつ、こちらも“エヴェストルム”を振るって斬撃を浴びせ続ける。奴の纏う衣服という名の魔力装甲を少しずつ削り続けていく。
「じんか?・・・っ、人化だと!? 馬鹿な! それほどの神器、俺が気付かないわけが・・・!」
「ブリード・スミス。お前ら管理局が確保したな。ソレだよ。人化できる神器は。だからら俺は、ソレから情報が漏れると思っていた。だがどうだ。お前の手に渡っていながら、お前はブリード・スミスから情報を得なかった。得ていれば、今のこの状況も起きなかったかもな」
“ブリード・スミス”は確かに俺の手に渡った。そして、その神秘の魔力を吸収した。そのおかげで全力フェンリルの召喚も出来たんだ。あの一件の後、そのまま機動一課に渡したんだが。人化する気配はなかった。いや、人化できるだけの魔力を吸収したのがまずかったのか?
(くそっ。しかしクラナガンの悪夢から1ヵ月。ブリード・スミスも人化できるだけの魔力は回復しているはず。ならフィレス二尉に連絡して、今すぐに様子を見に行ってもらえば・・・)
「今、局員にブリード・スミスとコンタクトを取らせよう、とか思っただろ」
シュヴァリエルが図星を突いてきた。とは言え、素直に認めたくない思いもあって「いいや。俺が直々に会いに行く」と答えた。すると奴はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、「残念。そんな日は来ない」と言い放った。
「それはつまり、俺をこの場で殺す、という宣告か?」
「いんや。機動一課って言ったか。今、そいつらのアジトに俺の部隊が急襲を掛けているんだよ。お前らの手に渡った神器を回収するために、な」
「っ! 貴っ様ぁぁぁぁぁーーーーーッ!」
――女神の宝閃――
“エヴェストルム”の先端をシュヴァリエルの顔面へと突きつけ、上級閃光系砲撃をゼロ距離発射。着弾時の魔力爆発でシュヴァリエルから遠ざけさせられる。
――剱乱舞刀――
「奪われた神器は俺の部下が取り返し、予てからの標的だったケリオンを俺が連れ戻す!」
30近い真空の刃の乱れ撃ちと共にそんな声が俺の耳に届いた。全ての刃を避け、「ケリオン・・・?」そんな疑問と共にお返しとして雷撃系砲撃最強のコード・ヴィズルを発射。奴は真っ向から迎撃するつもりか“メナス”を振り上げながら砲撃に突進。
――振動刃剣――
そして砲撃を縦に真っ二つに斬り裂きつつ、俺へと距離を詰めて来た。純粋魔力による攻撃はもう通用しないのかもしれない。ならば。ちょっと本気の一撃をお見舞いしてくれる。そして弱ったところで、イヴ義姉様とカノンの神器と魔術でシュヴァリエル、お前を救って見せる。
「我が手に携えしは――」
「まだ思い出さないのか、神器王! ケリオンという名に!」
詠唱を邪魔された。いや、無視して続ければ良かったんだが、ケリオン、という名がさっきから脳裏を過ぎってばかりで集中できない。そもそもケリオンって何のことを言っているんだ。
――予てからの標的だったケリオンを俺が連れ戻す――
シュヴァリエルの言いようからして何ではなく、誰、かもしれない。そこまで考えたところで、「ジョン・ドゥ、彼のことを言っているのか!?」思い至った。
(まだ思い出さないのか、か・・・)
シュヴァリエルや他の“堕天使エグリゴリ”の記憶デバイスは、堕天する前と後でキッチリ分かれている。つまり堕天する前の記録は奴らには残っていないらしい。その上での、思い出せないのか、となれば、第一次堕天使戦争の最中で俺とジョン・ドゥ――ケリオンは出会っていることになる。
(彼に懐かしさを抱いていたのは間違いじゃなかったんだ。では、ジョン・・・ケリオンは一体何者なんだ?)
人間じゃないのは確定的だろう。第一次堕天使戦争から数千年と経って生きていられる純粋な生命体など存在しない。そもそも当時の知り合いの顔や名前を忘れるほど俺はボケていない。
「おら! 注意力が散漫になってんぞ、神器王!」
「チッ!」
容赦ないシュヴァリエルの直接斬撃や中遠距離系の真空の刃乱れ撃ちによって思考が妨害され続ける。ストレスが最も溜まり易い最悪な環境へと陥らせてくれるものだな、こんちくしょう。“メナス”と打ち合う度に欠けていく魔力刃を修復するためにカートリッジをロードし続ける。
(ケリオン・・・ケリオン・・・ケリオン、くそっ、ここまで出かかっているのに思い出せない!)
――シエル。アレこそが××××――
ストレスがマッハで溜まる。頭を掻き毟りたいほどに苛立ちが募る。ケリオンの名前をどこで聴いたのか、彼とどこで会ったのか、思考を巡らせていると、どういうわけかカノンの声が再生された。カノンと何か関係があるのか。それをキーワードとして記憶を探って・・・ようやく、思い出した。
「ケリオン・・・ローフェティタ・・・?」
光煌世界アールヴヘイムに存在する超巨大な転移門の名称だ。思い至ってもすぐに否定する。あり得ない、あってはならない。
――おっきいなぁ~。ねえねえ、カノン。あの転移門の大きさって普通じゃないよね。もしかして、特別な転移門なの?――
――シエル。アレこそがケリオンローフェティタ。最古参の転移門なのです。その大きさは随一。数ある転移門は、同次元間のみの移動を可能としますが、ケリオンローフェティタは私たちが観測しえない次元にも移動が出来るのです。アールヴヘイムが誇る、至高の転移門です――
「正解だ、神器王。お前らがジョンと呼んでいるアレの正体は、アールヴヘイムの転移門ケリオンローフェティタ、その門部分が人化した姿だ。ちなみに、転移門の力を完全解放するための錠であるローフェティタは回収済みだ」
シュヴァリエルは何を言っているんだ。それではまるで「お前たちリンドヴルムは、アールヴヘイムに行った・・・?」ということになるじゃないか。あり得ない。先の次元世界で“界律の守護神テスタメント”となっていた時期、シャルと共に干渉能力を使ってビフレストを筆頭に様々な世界に転移を何度も試みたんだ。
「ああ、そうとも」
「嘘だ・・・」
だが、何をどうやっても出来なかった。あらゆる次元間すら容易く移動できる“テスタメント”の力ですら出来なかったのに。
「何を以って嘘だって言うんだ? 神器王。いきなりあれほどの数の神器が現れるわけがないだろ?」
解っている。シュヴァリエルの言葉を信じさえすれ俺の抱いていた疑問は解決される。だが本当に帰ることが出来るのか、アールヴヘイムに? 色々と考えたい事、答えを出したい事が多いが、今はただ・・・
「・・・はぁ・・・。深く考えるのは後だ。お前たちリンドヴルムはアールヴヘイムへ渡る術を手に入れ、そこでケリオンローフェティタと神器を掻っ攫ってきた。今はそれを念頭に置いたうえで・・・」
“エヴェストルム”を二剣一対形態のゲブラーフォームへと変形させて、さらにカートリッジを全弾ロード。空となったカートリッジを排莢し、新しいカートリッジ計12発を装填。
「お前を救い、消滅するまでにリンドヴルムの本拠地の聴き出し、そして彼ら神器を全てアールヴヘイムに返す!」
「やってみろっ! 万が一にも俺は斃せない。億が一に俺を斃せたとしても、俺の代わりになる戦力が居る」
「ハート2・・・」
はやて達とハート2の戦場がある方角へと目をやる。チラッとしか見えなかったが、それほど脅威には見えず、神器特有の神秘もさほど感じなかった。シグナムやセレス、フィレスを倒したということで警戒はしていたんだがな。正直、神器持ち状態だったフィレスが負けたのか理解できない弱々しさだ。
「希望が見えたろ? じゃあ次は、絶望に叩き落としてやるぜ。教えておいてやるよ、ハート2の正体を。アイツは・・・ホムンクルスだ」
「っ!!」
ホムンクルス。大戦中期に確立された人造人間生成法。人工的に高ランク魔術師や特殊スキル所有者を生み出す技術で、伝聞で残っている生成法は2つ。1つは、蒸留器に材料となる人間の精液やら何やらを入れて生み出すというもの。そしてもう1つは、生まれた赤ん坊に高位霊を入れるというもの。
「ま、正直言うと、プロジェクトF.A.T.Eとかいう人造生命技術っていうやつの方がすごいと思ったさ。記憶転写だっけか? だが、そのプロジェクトじゃ出来ないモノを生み出せるのがホムンクルス生成法だ」
嫌な予感がする。その予感が当たっているのかどうかを確認するため「どっちの方法でホムンクルスを作った?」と問う。
「一から造り出したモノに、とある格の高い霊を入れることで完成する、とびっきりの怪物さ」
2つの生成法を複合させて生み出したのか。そもそもどこで生成法を学んだんだ、“エグリゴリ”は。それに、ホムンクルスは誰に造らせたんだ。あぁ、これ以上疑問を増やさないでくれ、と頭を抱えそうになる。
「格の高い霊だと? 格の高いと言っても利用できるのは高位魔導師くらいだろうが」
「いいや。・・・・天使だよ」
あまりに突拍子もない大法螺に「は?」呆けてしまった。何を言うかと思えば、天使を入れたと言う。現代での表層世界(人間界のことな)から神秘が失われたと同時、神属からの干渉も少なった。それは先の次元世界で確認済みだ。つまりこちらからの干渉も出来なくなったというわけだ。そんな中で天使を召喚するなど不可能だ。
「そもそも、さっきチラッと見たが、天使特有の神秘など放っていなかったぞ。魔術師の神秘すらも放っていなかった」
「そりゃあな。スロースターターなんだよ、アイツは。さぁ、次の絶望だ。よく聴け。ハート2の持っている神器は、概念兵装:天使召喚の書・ヒドゥンカリグラフィ。この意味、解るよなぁ?」
「・・・、っ! クソがッ!」
最悪も最悪。ハート2が予想以上に危険存在だったことが解って全身から嫌な汗が溢れ出た。さっきのハート2が神秘を放っていなかった理由は、その身に天使を宿していなかったからだ。だが、“ヒドゥンカリグラフィ”で天使を召喚し、取り込めば・・・。くそっ。そのためのホムンクルスか。ただの人間、魔術師ですら不可能だが、初めから天使を宿すのに耐えられる器であるのなら・・・。
(ヒドゥンカリグラフィ。かつて、神属と契約を結んだ大預言者が記したという、天使召喚・使役を可能とする魔道書。コレもアールヴヘイムから盗んだ物か・・・!)
真実を聞いたその直後、「っ!?」はやて達とハート2の戦場の方角から強烈な神秘と白の閃光が発せられ、さらにはすずかの結界とベッキー先輩の精霊が張った水膜が粉砕された。
「おっと。散々俺に仕掛けておいて今さら背を向けんなよ、神器王!」
はやて達の元へ向かおうとしたが、シュヴァリエルに回り込まれた。一瞬とは言えシュヴァリエルの存在を忘れてしまうほどに切羽詰まっていた。奴は背を向けた俺に攻撃を仕掛けず、わざわざ俺の目の前に回り込んで妨害してきて、“メナス”を横薙ぎに振り払ってきた。両手に持つ“エヴェストルム”を掲げて盾として受け止める。
「おぉぉ・・・らッ!」
「ぐぅぅ・・・!」
重い一撃に俺は大きく薙ぎ払われた。が、宙で体勢を立て直してシュヴァリエルから6mほどの地点で着地・・・したばかりの俺へと向かって奴が突撃して来た。俺も遅れて突撃を敢行。
――振動刃剣――
――豊穣神の宝剣――
先に攻撃範囲に入ったのは俺だ。“メナス”は2mという大剣だからな。横薙ぎに振るわれる“メナス”をスライディングで躱しつつシュヴァリエルの背後へと回り込み、奴が振り返る前に立ち上ってコード・フレイの効果を発動。左右の“エヴェストルム”が最適な斬撃を振るう。
「うおおおおおおおおおおーーーーーーッ!!」
二剣の刃がシュヴァリエルの右上腕を挟み込んだ。“エヴェストルム”の魔力刃はシュヴァリエルの纏う衣類という魔力装甲を、そして肉体という装甲を、激しい火花を散らしながら斬り断とうとする。
「この・・・!」
シュヴァリエルの左腕が俺の頭を鷲掴む。ミシミシ、ビキビキ。俺の頭蓋骨を握り潰そうと握力を強める。意識が遠のいていく中でもカートリッジを連続ロード。いよいよ以ってまずい。そう思った時、バキン、と奴の右腕が寸断された。奴の右腕は、手にしている“メナス”の重みによって地面へ落下した。
「届いたぞッ! お前の神秘に、ようやく届いたぞッ! シュヴァリエルッ!」
「っ!!・・・・神器王ぉぉぉぉぉーーーーーッ!!」
「っく・・・!」
シュヴァリエルが俺の頭を鷲掴んだまま、俺をブンブンと振り回し、「あが・・・っ!」地面へと叩き付けた。背中から全身に駆け巡る衝撃に呼吸が一瞬だが止まった。奴はそんな俺の頭を踏みつぶそうとしてきたため、ゴロゴロと横に転がることで回避したが、地面を踏みつけた際に起こった衝撃波によって俺は宙に舞い飛ばされた。
(イケる、イケる、今ならシュヴァリエルを救うことが出来る!)
体勢を立て直すより早く急上昇。そしてカートリッジの排莢と装填を行い、「我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想!」ジュエルシードの恩恵無しでの“アンスール”メンバーの神器具現。幾つかの記憶を失うだろうが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「来たれ、神剣ホヴズ!」
風迅王イヴィリシリアが誇りし剣、“ホヴズ”を“神々の宝庫ブレイザブリク”より取り出した。その瞬間、強烈な頭痛と胸痛に襲われた。そしてすぐに何かを失った喪失感が胸を満たす。だが・・・
「このチャンスだけは必ず・・・実らすんだッ!」
地面に転がる“メナス”を左手で拾い終えようとしていたシュヴァリエルへ急降下。
「斬風・・・!」
“ホヴズ”の具現と一緒に、“英知の書庫アルヴィト”からイヴ義姉様の固有魔術を発動。“ホヴズ”の剣身に切断力を上げる風の層を付加する術式だ。あと僅かでシュヴァリエルに一撃を与えられる。そんな時に・・・
――影渡り――
「ご依頼通りに呼ばれて飛び出て僕、参上~~~♪ そして、神器王にパ~ンチ☆」
――闇の女王の鉄拳――
俺の影の中から闇黒系“エグリゴリ”、レーゼフェア・ブリュンヒルデ・ヴァルキュリアが飛び出して来て、防御も回避も出来ない至近距離での攻撃を撃ってきやがった。
「呼んでないんだよ・・・馬鹿娘・・・」
後書き
チョモリアプ・スーア。
シュヴァリエル再臨。ジョンやハート2の正体や、アールヴヘイムへ行ける事実を聴いたルシルは少し混乱中。そんな中でもシュヴァリエルにようやく一矢報いることが出来ました。が、ここでまたレーゼフェアの登場。状況は悪化の道を辿る一方です。
次回から、リンドヴルム編の決着へと向かいます。つまり・・・バトルパート開始なのです。
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