| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Epico32大嵐の前の軽風

 
前書き
大嵐の前の軽風/意:全てを吹き飛ばす暴風の前、その兆しである風が起こる、というたとえ。 

 
†††Sideはやて†††

ルシル君とシャルちゃんが2人きりでデートすることになってもうた。それがかなりの精神的ダメージやったけど、その直後でのルシル君からのデートのお誘いでそのダメージも即回復。そやから今日のデートは、じっくりと特戦班の本部――海鳴郊外の別荘で、2人の帰りを待とうって思うてた。シャルちゃんとは対等なライバルでおりたいしな。デートの邪魔はせんようにしようって。そやけど・・・

・―・―・回想や・―・―・

「はぁ」

朝早くルシル君とシャルちゃんが出かけた。シャルちゃんは朝の6時、ルシル君は30遅れて。一緒に目的地に行くんやなくて、現地集合するためやって。その方がデートっぽいって。むぅ、なんや悔しいわ。
ソファの背もたれにもたれ掛って溜息を吐いてると、「はやてちゃん。元気ないです」リインが心配そうにわたしの顔を覗き込んできた。わたしは「なんでもあらへんよ」って、小さなリインを掴まえて胸に抱く。

「さーてと。ねえねえ、こっそり後を付けてみようよ!」

それからわたしとリイン、シャマル、すずかちゃん、なのはちゃんと一緒にテレビで猫ちゃん特集を観てると、アリシアちゃんがそう言うてニシシって笑った。それを聞いたフェイトちゃんが「ダメだよ、アリシア」って窘める。

「でもさ。気になるでしょ? デートだよ、デート。ドラマやアニメや漫画でくらいしか聞かない、あのデート!」

「あー、確かに気になるかも」

「私も、一体どのようなものかを見てみたい・・・気もします」

「デート、デート・・・見たい」

恋に恋する乙女を地で行くルミナ、ベッキー先輩、セレスちゃんがそれに賛成。さらに「ここに籠ってんのもつまんないしね~」アリサちゃんまでそんなことを言い始めた。それに反対するんは「邪魔しちゃダメだよ」すずかちゃん、「シャルちゃん、本気で怒るよ?」なのはちゃん、そんで「うん。さすがにアカンと思うわ」わたしや。

「別に邪魔するわけじゃないよ。遠くから眺めるだけ。飽きたらバッティングしないよう遊べばいいんだし」

「そう言えばザンクト=オルフェンは今月、芸術強化月間だっけ。ちょうど良い機会だから私たちも遊びに行こうか。イリスとルシルのデートの見学ついで、ということで」

ルミナがそう言うたから、「芸術強化月間?」のことを知らへんわたしらは小首を傾げた。すると同じザンクト=オルフェン育ちのセレスちゃんからその説明を受けると、出歯亀反対派やったわたしらも「行ってみたいな・・・」って、そんな気持ちになってしもうたわけで・・・。ベルカの文化を知る良い機会やもん。そう思うてもしょうがないやんか。

「はい。決まり。各自、出撃(おでかけ)準備!」

手をパンパン叩きながらルミナがそう言うと、「おおー!」出歯亀賛成派のアリシアちゃん達が拳を振り上げた。そんで話に乗せられた反対派のわたしらは「ごめん、シャルちゃん、ルシル君」肩を落として謝るしかなかった。でもまぁ、2人のデートがちょっぴり気になってたこともあったことも事実で、ルシル君たちへの謝罪半分ルミナへの感謝半分やったのは秘密や。

・―・―・終わりやね・―・―・

ルミナに乗せられるまま、わたしら特戦班はザンクト=オルフェンへとやって来た。やって来たのはメンバーの内、わたし、リイン、ヴィータ、すずかちゃん、なのはちゃん、フェイトちゃん、アリサちゃん、アリシアちゃん、ルミナとベッキー先輩とセレスちゃん、そんでジョン君や。シグナムとシャマルとザフィーラ、そんでアルフは、別荘の食糧の買い出しなどでお留守番や。

「カリーヴルストかぁ~。良いセンスね、イリス」

カリーヴルストってゆうカレー粉が降りかけられたソーセージを食べるルシル君とシャルちゃんの様子を、望遠モニターを使って離れたところで観る。美味しそうやなぁって思うてると、きゅるる~、ってお腹が鳴る音が近くから聞こえた。

「お腹空いたですぅ~」

頬を赤くしてお腹を押さえるリインにわたしらは微笑み合って、近くのファストフード店へと向かう。そこはハンバーガーの店やった。店主のお姉さんがわたしらを見ると表情を輝かせたんが判った。わたしらみんなの注文をしてくれてるルミナとセレスちゃんと、店主のお姉さんの会話を聞く限りやと、どうやら2人はこの店の常連らしい。

「はーい。みんな、持ってって~」

「私とルミナのお勧め! ステーキバーガー!」

わたしら人数分のハンバーガーとポテト、そんでイチゴのシェイクセットの乗ったトレイをルミナとセレスちゃんから受け取った。割り勘かと思えば、「え? あぁ、私とセレスのおごりだから」ルミナがウィンクしてくれた。

「ザンクト=オルフェンの味をみんなに知ってもらうためにね。お姉さんからの奢りなのだよ♪」

セレスちゃんがえっへんって胸を張った。そうゆうわけでここはお言葉に甘えて「ご馳走になります!」みんなで2人にお礼。それから席に戻って、みんなで「いただきます!」してパクッと食べる。そんな中、わたしはリインのお出かけバッグの中からリイン専用の食器を取り出す。そんで、リインのハンバーガーを少し分解して「はい、リイン」のお口サイズに切って食器に乗せる。

「ありがとうですぅ、はやてちゃん! いただきますです♪」

小さなフォークでパン、ステーキ、レタス、トマトの順で食べるリイン。わたしもステーキバーガーを頬張る。うん、美味しい。みんなで微笑ましく食べてると、「ぶふっ!」ルミナとベッキー先輩とセレスちゃんが突然シェイクを吹き出した。ゲホゲホ咽る3人の背中を擦るすずかちゃんとなのはちゃんとフェイトちゃん。

「何だって言うのよ急に。ルミナやセレスならともかく、ベッキーまで吹き出すなんて異常事態よ」

「「それどういう意味?」」

「お見苦しいところをお見せしました」

アリサちゃんの言いようにジト目になるルミナとセレスちゃん、ハンカチで口を押さえるベッキー先輩は頬を染めてた。吹いた3人の共通点はモニターを観てたことや。わたしは一体なにを観て吹いたんやろ?って思て、モニターを観るために席を立って、「一体何を見たん・・・?」恐る恐るルシル君とシャルちゃんの様子を見ようとした。

「映ってへん?・・・ちょっ、ルシル君とシャルちゃんをロストしてるんやけど・・・」

少し目を離した隙にルシル君とシャルちゃんはどこかへと去ってしもうてた。そやけど、これで良かったんかもしれへん。実際に見るまでは気になってしょうがなかったけど、ルシル君とシャルちゃんが2人きりで、談笑しながら同じ料理を食べてるのを見てたら胸がこう・・・キュッと苦しなったし。やっぱこうゆうのはアカンって、お天道様からの警告かもしれへんな。

†††Sideはやて⇒なのは†††

シャルちゃんとルシル君を見失った私たちは今、ルミナちゃんから、ザンクト=オルフェン全区で行われてる展覧会にどんなものが出展されてるのかを聞いてた。私たちは純粋に楽しみたいために、アリサちゃん達はシャルちゃんやルシル君ならどこの広場に行くかを予想するために。私としては、2人のデートを邪魔することなく芸術強化月間を楽しみたいんだけどなぁ~。

(ここに来た理由も、2人のデートを覗き見するためじゃなくて、私たちなりに楽しむためなんだけどな・・・)

でもアリサちゃんとアリシアちゃんをリーダーにした、テート見学し隊はあくまでデート風景を見たいようで、「ルシルは本の虫だし、古書展じゃない?」とか、「シャルは遊園地を選びそう」とか、「古代ベルカ料理展かも」とか、マップが表示されたモニターを眺めてシャルちゃん達の行先を予想してる。

『ねえ、なのは、すずか、はやて、ヴィータ、リイン』

あーだ、こーだとアリサちゃん達が話してる中、フェイトちゃんが念話を送ってきた。名前を呼ばれたのは覗き見反対派のメンバーだけ。あとジョン君もこちら側に居るんだけど、魔導師じゃないから念話は使えない。私が『どうしたの?』って返すと、『私たちだけでも別行動、しない?』フェイトちゃんがそう提案した。

『そう、だよね。反対派の私たちって元々、純粋に展覧会を楽しみたいからザンクト=オルフェンに来たわけだし』

『私は賛成。シャルちゃんだって覗き見されながら、デートなんてしたくないだろうし』

『あたしもそうだな。デート観てるよりベルカ料理展に行ってみてぇな』

『あっ、それはわたしも気になってたなぁ』

『リインは、はやてちゃんに付いてくですよ』

『私も、北区の技術展に行ってみたいかも』

フェイトちゃんの提案にはみんなが賛成。そういうわけで「ちょっと提案が・・・」モニターのマップを一斉に指差してるアリサちゃん達に声を掛ける。

「もうちょっと待ってて、なのは。すぐにシャル達の居所を探し当てるから」

「んもう! ルミナ達はシャルとルシルのこと解ってない! シャルは絶対にルシルの行きたい場所へ行くはずだもん!」

「いやいや。アリシア。ルシルは稀に見る紳士だからね。イリスの行きたい所へ行くと思う」

「私もルミナさんに賛同です。ルシルさんはシャルさんの行動を尊重するでしょう」

「う~ん、イリスはイリスで、自分の誕生日プレゼント(デート)だからと言って何でも自分の思い通りに進ませる事はしない気もする・・・」

そう真剣な顔で話し合うデート見学し隊。それはともかく「私たちは別行動することにしたから」フェイトちゃんが代表して告げた。

「え? なんで?」

「何で?って・・・アリシア。それにアリサ達も。やっぱりダメだよ、こういうの。それに、私たちは展覧会を楽しむために来たんだし。ルミナも言ってたじゃない。デート見学はついでだって。見失った以上は本来の目的を果たそうよ。シャルとルシルの事はそっとしておいて、私たちは私たちで楽しもう?」

フェイトちゃんに賛同することを示すために私たちは「うん、うん」頷いて見せる。見学し隊の空気が少し変わった。とは言っても「そうですね。少々浮かれていました。反省です」ベッキーちゃんだけなんだけど・・・。

「そっか。残念だけど、わたし達とは別行動だね」

「あたし達はどうしても見届けてやりたいのよ。シャルの生き様を」

アリサちゃんは一体なにを言ってるんだろね。チラッとルミナちゃんとセレスちゃんを見ると、2人は「うーん。やっぱり古書展かなぁ」アリサちゃんやアリシアちゃん同様、あくまでシャルちゃんとルシル君のデートを覗き見したいみたい。

「えっと、じゃあ、ここで一旦解散して、また通信で合流しよう・・・か?」

すずかちゃんがそう言って手をポンと叩くと、アリサちゃんは「しょうがないわね」って肩を竦めて、アリシアちゃんも「こっちの方が絶対に面白いのに」って嘆息して、私たちの提案を承諾してくれた。
そういうわけで、シャルちゃんとルシル君のデートをあくまで見たいアリサちゃん、アリシアちゃん、ルミナちゃん、セレスちゃんとはここで一旦お別れ。お互い手を振り合って別れる。見学し隊は西区の古書展に行くことにしたみたい。

「それじゃあ、私たちはどこへ行こうか?」

「とりあえずは北区から南に降りてくようにしようか」

「そうやね。北区にはすずかちゃんのお目当ての出展物もあるみたいやし」

「んで、次にベルカ料理展だな」

私たち楽しみ隊は、北区→中央区(いま居るのがここだね)→南区と回るように予定を組んだ。西区と東区はまた別の日に来よう。というわけで、さっそくバス(イギリスとかにある2階建てバス)に乗って、北区カムランへ向かう。

「北区でやってる技術展の出展者って、ミミルさんだよね」

すずかちゃんが出展者記録を見てそう言った。ベッキーちゃんに「お知り合いなのですか?」って訊かれたことで、この中で一番関わりが深いはやてちゃんが説明する。ミミルさん。ミミル・テオフラストゥス・アグリッパさん。はやてちゃんやアインスさんと一緒に、リインフォースⅡ――リインを生み出したすごい科学者さん。シャルちゃんのお家で会って以来まったく顔を合わせてないなぁ。

「なるほど。古代ベルカの技術に精通した方なのですね」

話を聴いたベッキーちゃんは納得したようで、「一度お会いしてみたですね~」そう微笑んだ。

「一応親しい間柄やと思うけど、リインが生まれてからは直接逢ってへんなぁ・・・。何度か連絡取ってるだけやわ」

「そういやそうだっけ。つうか、はやてとアインス、そんでリイン以外のあたし達って、ミミルの使い魔に会ったことねぇんだよな」

「リインも会ったことないですよ? 通信にも出ませんですし」

そう言ったヴィータちゃんとリインに「ミミルさんにも使い魔いるんだ」私はそう返した。正直な話、ミミルさんと話したのって出会ったあの日の1回きりだし。だから、はやてちゃんたち八神家以外の私たちのこと憶えてくれてるのかな、って心配になる。

「うん。ウサギを素体にした使い魔でな。こう、頭にウサ耳があるんよ」

はやてちゃんはウサギの耳を表すように両手を頭に乗せてぴょこぴょこ揺らした。ウサギの使い魔さんか~。私、狼素体の使い魔のアルフとザフィーラ(使い魔扱いしたら怒られそうだけど)、そして猫素体のアリアさんとロッテさんのリーゼ姉妹しか知らないから、ちょっと新鮮。

「到着ですぅ~!」

そうして20分ちょっとのバスの旅を終えて、私たちは北区カムランの地に降り立った。ちょっと肌寒い感じかな。

「ここからはわたしが案内するな~♪ 目的地は技術展の出展場所、ブリーゼ広場♪ こっちやよ~♪」

はやてちゃんがバスガイドのお姉さんみたく私たちの目的地であるブリーゼ広場の方へ指を差した。ザンクト=オルフェン全区での芸術強化月間って言うちょっとしたお祭りもあって、街路には結構な人だかりが出来てる。

「おぉ、見えてきたな」

その人たちの合間を縫うように街路を進むこと10分ちょっと。目的地のブリーゼ広場に辿り着いた。なんて言うか、真っ先に視界に入ったのは大砲だった。砲身が2門あって、下の砲身の方が上の砲身よりちょっと短いかな。近くに展開されてるモニターには人だかりが出来てる。アレにこの大砲の説明が書いてあるんだと思う。

「懐かしいな、コレ」

その大砲の説明を読むために移動しようとした時、ヴィータちゃんがそう呟いたのが聞こえた。リインが「知ってるです? ヴィータちゃん」って訊ねる。私たちみんながヴィータちゃんを見詰めて、「まあな」って遠い目をするヴィータちゃんが話し出すのを待った。

「・・・・」

けどヴィータちゃんは無言。あれ?って思ってると、ヴィータちゃんがスタスタ歩き出したから「あれー!?」話してくれるのかと思ってた私たちは声を上げた。ヴィータちゃんはそんな私たちのリアクションに「んあ?」小首を傾げるだけだった。

「あのですね、ヴィータちゃん。この大砲のことを知ってるんですよね」

「ああ、まあな。実際にやり合ったことがあんよ。つうか、このミナレットっつう大砲のデカさはこんなもんじゃなぇよ」

このミナレットって大砲は、オーディンさんを主としていた頃の物なんだね。ヴィータちゃんの穏やかな表情から見て、嫌な思い出の中じゃなくて良い思い出の中での出来事だ、っていうのが判った。ヴィータちゃんと一緒に私たちはミナレットの説明モニターを観る。

(目の前のミナレットは縮小サイズのミニチュアなんだね)

本来の大きさは砲身だけで100m越えの巨大さになる、古代ベルカに栄えた大国イリュリアが使用した二段式砲台。魔力砲と、その魔力砲を拡散させるための反射鏡砲弾を発射できる。魔力砲を拡散させて周囲への被害を大きくする。

「ヒデェもんだったよ、コイツのもたらした被害ってのは。拡散した砲撃は無差別に村や町を焼き払った」

その当時のことを思い返してるのかヴィータちゃんの表情に怒りの色が浮かんだ。けどすぐに「ま、オーディンがサクッと破壊してくれたけどな」ってニッコリ笑った。次に見たエテメンアンキって言う、成層圏から地上へ向けて砲撃を放つ、悪魔みたいな兵器も「コイツもオーディンが破壊したんだぜ♪」自分の事のように誇らしげに話してくれたヴィータちゃんが微笑ましかった。

「ホンマ、ヴィータはオーディンさんの事が好きなんやな♪ 今の家主としてちょう嫉妬するくらいやわ~」

「す、好きと言っても家族として、主として好きだったんだよ、はやて! あ、あたしが、オーディンに恋してたなんて、そんな馬鹿なこと・・・!」

「えっと、そのつもりで言うたんやけど・・・」

「ヴィータちゃん、オーディンさんに恋してたです?」

リインがそう訊くとヴィータちゃんは顔を真っ赤にして口をわなわなと振るわせて「んなことねぇし!」腕を組んでそっぽを向いた。なんて言うか可愛い。みんなでヴィータちゃんを微笑ましく眺めてると、「ハヤテとリインだ」2人の名前を呼ぶ声が聞こえた。

(あ、ウサ耳・・・)

振り返った先、そこに居たのはウサ耳を生やした私たちと同年代くらいの2人の女の子。はやてちゃんが「フラメル、ルルス! 久しぶりやな~♪」そんな2人の名前を呼んだ。

「お久しぶりです」

「おっす~」

1人は礼儀正しくお辞儀して、もう1人は右手を上げて振った。顔や背格好がそっくりな事から双子だと思うけど、性格は違うみたい。そう言えば私たちって双子の知り合いが何気に多いかも。不思議な縁だなぁ~。

「すずかちゃん達と顔合わせは初めてやんな。紹介するわ。礼儀正しい子がフラメルや」

「我がマスター・ミミルが使い魔、研究補佐担当、妹のフラメルです。以後お見知りおきを」

真っ白なウサ耳と髪は右側でのサイドテール、目は真紅。正に白兎。服装はチャイナドレスで色はやっぱり白。胸元にはウサギの顔の形をした穴が開いてて素肌が見えてるし、スカートのスリットも腰の近くまであるから、強風が吹いたら下着が丸見えになっちゃいそう。というか、ひょっとして穿いてない?

「そんで、こっちがルルスや」

「ちわっす。アグリッパ家の家事担当、姉のルルスだよ」

真っ黒なウサ耳と髪は左側でのサイドテール、目は瑠璃色。ルルスちゃんは黒兎だね。服装は黒色のセーラー服みたいなので、スカートの下にはスパッツを着用してる。だから派手に動いても下着が見えることはないみたい。

「2人とも今日はどうしたん? お買い物の途中か?」

「いいえ。ここの広場で行われている古代ベルカ技術展の案内をさせてもらっています」

「そうなんだぁ~。ミミルが本来やるべきなんだけど、一度研究を始めたら納得するまで止めないからさ~」

「あー、なるほど」

はやてちゃんが苦笑する。どうやら心当たりがあるみたい。そして「案内役ならさ、親睦を深める意味を込めてあたし達を案内してくれよ」フラメルちゃん、ルルスちゃんと一緒に回ろうって話になった。

「あ、それ良いアイディアだよ、ヴィータちゃん」

「うん、そうだね。こうして会えたんだし、もうちょっと話をしようよ」

「私も賛成」

「すずかがそれで良いなら僕もそれで良い」

「私も賛成です。説明には載っていない裏話も聞けそうですし」

「決まりみたいやね。そうゆうわけやから、案内をお願いしてもええやろか?」

ヴィータちゃんの提案にはみんなが賛成。また新しい友達が出来るとあって私のテンションはぐんぐん上がってく。けど、それに反してフラメルちゃん表情は優れない。と、「そうしたいのは山々なんだけどさ」ルルスちゃんが肩を竦めた。

「いくらミニチュアとは言え、兵器関連の出展物にはどういった物なのかの説明がありますから。出展に好ましくないとされる可能性もあります。そういう理由で聖王教会や、管理局の査察官も見学客様に雑じっておられます。私たちはそんな彼らの案内役ですので・・・」

「ゆっくりと話していられないのさ~」

フラメルちゃんとルルスちゃんがチラッと離れた方を見る。そこには見知った顔の知り合いが居た。すると向こうも私たちに気付いて「やあ!」手を振って、こちらに歩いて来た。

「ヴェロッサさん!」

ヴェロッサ・アコースさん。以前、シャルちゃんのお家に遊び行った際に、カリム・グラシアさんと一緒に紹介された。ヴェロッサさんと「こんにちはー♪」と挨拶を交わし終えると、「おや? 新入りかな?」ジョン君を見てニッコリ。

「はじめまして。時空管理局本局・内務調査部査察課所属、ヴェロッサ・アコースです」

握手をジョン君に求めるヴェロッサさん。ジョン君は最初にすずかちゃんを見ると、「大丈夫だよ。ヴェロッサさんは」ってすずかちゃんは微笑み返し。すると少し体を引いてたジョン君は小さく頷いて、「ジョン・ドゥ」自己紹介を返しながら握手に応じた。

「ジョン・ドゥ・・・。あぁ、君が例の・・・」

普段のジョン君とは違って人見知りな感じ。そう。今のジョン君は以前の、出会って間もない頃のジョン君だ。ヴェロッサさんはそんなジョン君に「あー、ひょっとして警戒されてるかな?」って苦笑した。

「普段はちと生意気なガキなんだぜ、ヴェロッサ」

「へぇ。いきなり知らない僕という存在が、人見知りのような真似をさせてるわけか。それは悪いことをしてるかな。それじゃあ僕は仕事に戻るよ。でも、その前に・・・」

ヴェロッサさんが辺りをキョロキョロ見回して、「イリスは一緒じゃないのかい?」そう訊いてきた。今の私ならその言葉の意味が解る。ヴェロッサさんはシャルちゃんに逢いたい。何故か。それは好きだから。シャルちゃんやはやてちゃん、そしてルシル君の関係を見てたら、これまで鈍かった私も解るようになってきた。

(さて、どう言って誤魔化そう)

シャルちゃんとルシル君がデートをしてるなんて知ったら、ヴェロッサさんどうなっちゃうか不安だし。私はすずかちゃん達とアイコンタクト。デートのことは言わない、そう決めようとした。だけど・・・

「あ、シャルさんならルシル君とデート中ですよ♪」

「「「「あ」」」」

「あら、まぁ・・・」

私とすずかちゃんとフェイトちゃんとはやてちゃんは絶句。ベッキーちゃんは右手を頬に添えて困惑。続けて「ついさっきまで盗み見してた。良い雰囲気だった」ジョン君がそう言うと、「な、なな・・なな・・!」ヴェロッサさんはよっぽどショックだったのかフラついて、「お似合い、かぁ~・・・」はやてちゃんも大きな溜息を付いた。一瞬にして心の重傷者が2人も生まれちゃった。

「デート!? 今、デートと言ったかい!? イリスが、ルシリオン君とデ、デー・・・なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「はやてちゃん、怖いですぅ~(涙)」

「す、すずか! ぼ、僕が護ってあげるからね・・・(怯)」

頭を抱えて悶絶するヴェロッサさんの様子にリインとジョン君が怯え始めた。うん、ちょっと怖いよね、私もそうだし。

――無限の猟犬(ウンエントリヒ・ヤークト)――

ヴェロッサさんの周囲に魔力で出来た犬のようなモノが6頭くらい出現した。シャルちゃんから聴いてたヴェロッサさんのレアスキルだ。ていうか、「ヴェロッサさん!?」そんなワンちゃんズを出して一体何をしようと言うんですか。

「イリスとデート・・・イリスとデート・・・」

「アカン! 聞こえてへん!」

ヴェロッサさんのうめき声に釣られるようにワンちゃんズも低いうなり声を上げ始めた。頭の中でWARNINGのアラートが鳴り響く。はやてちゃんが「騎士カリムに連絡や!」って通信を繋げようとした時・・・

「何をやってますか、この子は!」

音も無く急に姿を現して、ヴェロッサさんを背負い投げした1人の女の人。背中から地面に打ちつけられちゃったヴェロッサさんは、ぐへぇ、って抜けた苦悶の声を漏らした。そのあまりにも速くて鮮やかな背負い投げに、「すごい、見えなかった・・・」フェイトちゃんが驚きを見せる。私も全く見えなかった。

「げほっ、けほっ、シャッハ!? どうしてここに!?」

「あなたが管理局側の査察としてここへ来ると知り、教会側の査察としてここを任されるはずだったパーシヴァル卿と交代させていただきました」

「んな!? 今朝までここの見回りはパーシヴァル君だって、本人から聴いていたのに! 謀ったね!」

「私が口止めさせていただきました。パーシヴァル卿もあなたのサボり癖には参っていましたから喜んで引き受けてくださいましたし。さっ。早くお仕事に戻って下さい」

「・・・くっ。今日のところはちゃんと仕事してあげるよ」

「毎日やりなさい!」

シャッハさんという女の人に叱られたヴェロッサさんはワンちゃんズを消した後、この場から走り去ってった。そして「では、私たちもこれで失礼します」フラメルちゃんと、「まったね~」ルルスちゃんも、ヴェロッサさんを追って去って行った。

「まったく。優秀なクセにサボり癖があって困ったものです。コホン。お騒がして申し訳ありませんでした、はやてさん、騎士ヴィータ、リインさん。そしてお初にお目に掛かります。聖王教会のシスター、シャッハ・ヌエラと申します。どうぞシスターシャッハとお呼びください」

自己紹介を受ける。シャッハさん。聖王教会のシスターさんで、騎士カリムの補佐・護衛役、そしてヴェロッサさんの教育係、とのこと。しかも陸戦AAAランクで、あのシグナムさんと真っ向から戦って引き分けに持ち込んでるらしい。そんなすごいシスターシャッハに私たちも自己紹介。

「時間があればもっとお話ししたいのですが、残念ながら勤務中ですので、これにて失礼させていただきますね。それでは皆さん、古代ベルカ技術展を引き続きお楽しみください」

シスターシャッハは一礼して去って行った。なんて言うか、短い間に一気に交友関係が広がっちゃった。うん、嬉しいことだから良いんだけど。

†††Sideなのは⇒すずか†††

古代ベルカ技術展を40分くらい掛けて見て回った私たち楽しみ隊。古代ベルカには地球の技術では考えられないような超兵器や、今の地球でも使われているような兵器(次元世界だと質量兵器って呼ばれる)もたくさんあった。特に気になったのはミナレット。エテメンアンキ。聖王のゆりかご。戦船。細菌兵器。腐敗兵器。猛毒の弾丸や霧。移動砲台(地球で言う列車砲)などなど。

「戦争はやっぱりダメだってことだね」

「あんなもん、二度と起こさせちゃいけねぇよ」

「ヴィータ」「ヴィータちゃん」

人道を外れた兵器が普通に使われた時代、旧暦。ヴィータちゃんの言う通りもうそんな時代を訪れさせないようにしなきゃ。その為の管理局、その為の魔法なんだから。

「そろそろお腹が空いてきたね」

なのはちゃんが小さく笑う。時間を見ればお昼は過ぎてる。だから「次の目的、ベルカ料理展にそろそろ行こっか」に向かおうと提案してみる。みんな「賛成~♪」ということになったから、早速カスターニエ広場へ向かうことになった。

「そう言えば、アリサ達は今頃なにしてるんだろ」

「きっとルシル君らを見つけられへんくって、もうやめてるんとちゃうかな?」

「覗き見より普通に楽しんだ方が面白いと思いますし、おそらくそうでしょう」

「連絡入れてみるです?」

「放って置きゃあいいんじゃね? それよか早くなんか食べようぜ」

通信を繋げようとしてたけどやっぱりやめた。なんかそういう雰囲気だし、それにアリサちゃん達だっていつまでも覗き見なんてするほど頭が残念じゃないと思うし。ベッキーちゃんの言うように今頃は覗き見に飽きて遊んでると思う。だから今はお昼ご飯のことを考えよう。
そういうわけで、到着するのはカスターニエ広場。直径500mほどの円形の広場で、縁に沿ってスタンドが何十軒と並んでて、広場中央に設けられた簡易な組み立て式のテーブル席に百何員クラスの人が座って食事してる。

「そんじゃ各自。被らないように品物を買って・・・、ここ、ここのテーブルに集合っつうことで!」

ヴィータちゃんはシャルちゃんがよく使う方法を取った。被らないようにそれぞれが買って持ち寄れば色々な味を楽しめる、というもの。このシャルちゃんが創案した、屋台制覇作戦はなかなかに利を得ることの出来るもので、一商品をみんなで分け合うから食べる量は少ないけど、その分ほかの料理を多く食べることが出来る。そう言うわけで、テーブル席を確保しておくベッキーちゃんとリインを残したうえで一度解散。

「それじゃあ、ジョン君。一緒に行こうか」

「うんっ! 荷物運びは僕に任せて、すずか!」

「うん、ありがとう、ジョン君」

最近のジョン君は頼もしくなってきたな。それが嬉しくもあるし、弟感覚だった感情もなんて言うか、私の中で少しずつ別の何かに変わって来てる気がして妙な感じもする。私のことを慕ってくれて、大事にしてくれて。うん、それが嬉しい。

「まずは・・・カリーヴルストから・・・」

シャルちゃんとルシル君が食べていたものと同じ料理から購入。半分に切られたソーセージ8個とポテト数十本近くが載せられたお皿(使い捨ての紙製だね)をジョン君に持ってもらって、次の料理を買いに向かう。

「ちょっとだけつまみ食い~」

ジョン君がカリーヴルストのお皿からフライドポテトを1本取って食べたから、「ダメだよ、ジョン君」注意すると、「すずか、あーん」私の口にポテトを1本差し出して来た。断ろうにもジョン君の笑顔には逆らえず、「あーん」に応じた。
男の子にこんなことしてもらうのって初めてだよね。なのはちゃん達のような同性同士でなら何度でもやったことがあるけど。男の子に初めてしてもらった。そう思うとトクンと心臓が高鳴った。

「ルシルがシャルにしてたんだ。シャルはすごく喜んでるように見えた。だから僕もやってみたんだ♪」

これははやてちゃんやヴェロッサさんに聞かれなくてよかった話かも。そう思ってると「すずかは嬉しかった?」って訊かれた。私は少し考えた末に「うん。嬉しかったよ、ちょっとドキドキした」って答えた瞬間、口を閉じた時に唇がジョン君の指に触れた、それを思い返したら急に顔が熱くなった。

「すずか!? 顔が真っ赤! 熱!? 熱でも出たの!?」

「ぅえっ!? あ、い、ううん、なんでも! 何でもないから!」

「うそだ。だってこんなに・・・」

「っ!!」

ジョン君が空いてる左手で私のおでこに触れて熱を測ってきた。私自身でもおかしいって思えるほどのドキドキ。確かに最近、ジョン君は男の子だな、って思うようになったけど、こんな急にドキドキするものなのかな。

「やっぱり熱があるんじゃない?」

「だ、大丈夫! 熱は熱でも病気の熱じゃないから!」

あたふたと後退しようとして「あっ」小石か何かに躓いちゃったのか仰向けに転びそうになった。耐えようにもそれが許されない程にパニックを起こしてたから全ての行動が制限されていて、踏ん張りきれなかった。でも・・・

「すずか!」

ギリギリのところでジョン君が私の腕を取って、「わわっ!?」抱き寄せるように起こしてくれた。片手にカリーヴルストのお皿を持ってるとは思えないほどの力強さ。私の頭はジョン君の胸に抱きかかえられるような状態になって、一気に顔が熱くなった。頭の中が真っ白になる。

「大丈夫? すずか。仰向けに倒れると結構危ないんだよ。護身術としてルシルに格闘技を習って知ったんだけどさ。・・・すずか?・・・おーい」

ジョン君からの呼びかけに答えられないほどに真っ白。だけどなんとか「大丈夫だよ、あ、ありがとう」お礼だけは言えた。ジョン君は「ん!」とても嬉しそうに、誇らしそうに微笑んだ。

(うぅ、こんなにドキドキするなんて・・・)

こんな感情は初めて。だけど、その正体は知ってる。これまでずっと見てきたから。でも、自分がそんな感情を抱くなんて思いもしなかった。そんなドキドキしっ放しのまま、白いソーセージ――ヴァイスヴルストや仔牛のカツレツ――シュニッツェル、挽肉や野菜・スパイスを長方形に固めて蒸した物をパンに挟んだ――レバーケースゼンメルなどを購入。そして集合場所に戻った。

「おかえりなさい、すずかさん、ジョンさん」

「ど、どうしたですか、すずかさん!? お顔が真っ赤です!」

ベッキーちゃんとリインが迎えてくれた。そしてやっぱりツッコみを入れられちゃった。私は「ううん。なんでもないよ」って、そう返すことしか出来なかった。だって恥ずかしいから。ベッキーちゃんは、私とジョン君の間で何かあったって察したようで優しい微笑みを返してくれて、リインは「そうですか」深く訊くことなく、私とジョン君がテーブルに置いた料理に目を輝かせた。

「「お待たせー!」」

「お待たせや~」

「あたしとはやてが最後か」

なのはちゃん達も戻って来た。テーブルに置かれる数々のベルカ料理。とても良い香りがして食欲がそそられちゃう。そうしてみんなで1つの料理を分け合うようにして食べ始める。楽しくお喋りしながら食べるんだけど、テーブルを挟んでの向かいに座るジョン君と目が合うとさっきのことを思い出して顔が熱くなる、を繰り返すことになっちゃった。

「すずか。僕、なにかした?」

「え・・・?」

ジョン君の表情に陰りが出来た。違う、そう伝えたいために首を横に振った。そして「違うよ、ジョン君」微笑みかける。私が照れている所為でジョン君を悲しませてる。

「ジョン君の所為じゃないよ。私自身の問題。だからそんな悲しそうな顔をしないで」

「そっか! うん、すずかがそう言うんだからそうなんだよね!」

満面の笑顔を浮かべてくれたジョン君は「それじゃあ・・・はい、あーん!」みんなが見てる前でまたポテトを差し出して来た。また顔が熱くなるのが判る。なのはちゃんとフェイトちゃん、リインにベッキーちゃんが頬を染めてジッと見てくるよ。もう頭から湯気が出そうなほどに恥ずかしい。

「すずか・・・?」

「(あぅぅ~~)あ、あー・・・」

目を瞑って顔を近づけようとした時、「美味そうだな」私たちの誰でもない男の人の声が聞こえて、なのはちゃん達が「っ!!?」息を呑んだのが判った。何か異常事態が起きた。直感的に理解できた。ゆっくり目を開けて視線を横にずらして、声の主の顔を見ると「っ!」私も同じように息を呑んだ。見知った顔がそこにあったから。

「あ・・・ぅ・・あ・・・シュ・・・シュヴァリエル・・・です・・・!」

涙を流して怯えてるリインがその人の名前を呼んだ。

「よぉ。お嬢さん達。遊びに来たぜ」

シュヴァリエルさんは口端を吊り上げて不気味な笑みを浮かべた後、ジョン君に向かって手を伸ばした。


 
 

 
後書き
ミンガラ・ネレーキンパ。
結構容易くすずかがオチました。ここに至るまでの描写が全く足りていないですが、予定がかなり押していますので、もうさっさと終わらせようと思っています。今ルシル達は4年生ですけど、エピソードⅢは6年生までやるつもりなので。中学編はせずにそのままエピソードⅣのSTRIKERS編に入る予定です。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧