| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Vivid編
  第一話~『おはよう』~

 
前書き
読者の皆様お久しぶりです。作者のレストです。

えーと、今回からVivid編を開始したいと思います。

投稿の遅延の理由としましては少し書き溜をしていたのでそこそこ時間がかかってしまいました。
色々とダメダメな作者ですが、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m

では、本編どうぞ。 

 

客観的に彼を言い表すのであれば――――――――

――――――――彼は無色だ。

真水であり、白いキャンバスであり、曇のない鏡である。

それらは何もないからこそ美しく、そして染まりやすい。

真水は容易く濁り、キャンバスは色を重ねられ、鏡は絶えず何かを写していく。

彼は自ら染まり、誰かに染められ、そして周りに順応していく。

それは彼だけ変わっていくのではなく、彼も誰かを変えていく。

そして彼は鮮烈な色合いの日常を歩みだす。

次に彼は何色に染まるのであろうか?










 陽の光が部屋に心地よい暖気を生み出す。そして換気のために開けられているその部屋の窓からは、風と窓の外にある庭の土や植物の香りを送り込んでくる。
 その風により、窓のカーテンはゆらゆらと小さく揺れる。その部屋には動いているものがそのカーテンしか今はない為、そのカーテンがどこか生き物のように錯覚しそうになる。
 部屋は床や壁、天井に至るまでが全て白一色であった。厳密に言えば壁はかなり薄い水色なのだが差し込んでくる日光が生み出す影の具合によって、昼間は色の違いが分かりづらいものとなっている。
 そして申し訳程度に置かれている調度品は、どれも白を基調にしている為清潔感というよりは、人工的に造られた美しさがその部屋にはあった。
 そんな部屋の主である青年は今、その部屋の中央に据えられたベッドに身を預けていた。
 主といっても、ここはある施設の病室のような場所であり、彼もあることがきっかけで寝たきりとなり、この部屋で療養の為に安置されているだけなので主と呼べるのかは微妙なところであったが。
 白しかないような、いっそキャンパス然としたその部屋にも他の色は存在する。ベッドには隣り合うように引き出しのついたボックスが設置され、その上には花のいけられた花瓶と畳まれたハンカチに載せられるように二つの根付のようなものが存在した。それらの存在が、白以外の色を持っていることから、その部屋で一際存在感を放っていた。
 花瓶の花は瑞々しい力強さと花弁による色彩豊かな美しさがあり、乗せられているボックスにほとんど埃が見られないことから、定期的に手入れがされていることが窺える。

「お邪魔します」

 そんな部屋に声が響いた。
 スライド式の手動ドアを滑らせ、廊下から入ってきたのはその部屋に眠る人物よりも遥かに小柄な少女であった。その少女は腰にまで届きそうな金髪をツーサイドアップテールにし、セーターと首元にある赤いリボンが特徴的な制服を着込んでいる。そして、最も特徴的なのが、彼女の瞳の色であった。
 右目が翠色、左目が紅色。左右で異なる彩色である虹彩異色なのである。元々虹彩異色は犬や猫などに多く見られる症例であり、人間には珍しいものである。そして先天性のものと後天性のものがあり、前者は遺伝的なものがほとんどで後者は目の損傷による後遺症が主であったりする。
 そして部屋に入って来たこの少女、約三年以上前にこの部屋に眠る青年に助けられた彼女――――高町ヴィヴィオの瞳の色は先天性のものであり、ある特殊な事情故であった。
 彼女は部屋に入ってくるなり、背負っていた学生鞄を下ろし花瓶などが置かれているボックスにもたれさせる様に床に置く。

「よいしょ」

 部屋に備え付けの丸椅子を一つベッドの傍に置き、座ると彼女は慣れた手つきで青年の手を布団から出し、両手で包むように彼の手を握った。

「パパ、今日も来たよ」

 一言そう言うと、ヴィヴィオは今日あった事を話し始める。楽しかったこと、授業で難しかったこと、新しく知ったこと等など。それは毎日のなかで特筆すべきような点など何もない、当たり前の日常であった。だが、ヴィヴィオはそれを誇りに想うように伝えていく。それは未だ眠る彼が命をかけてヴィヴィオに与えた大事なものであるのだから。

「――――う~~ん、と…………えっと……」

 絶え間なくしゃべり続けたことでネタ切れになってきたのか、ヴィヴィオの言葉が途切れ途切れになり始める。

「うん。今日も一日、ヴィヴィオは楽しく過ごせました!」

 そう言って彼女は話を締めくくった。
 そこで一旦、彼女は青年の手を離すと花瓶の水を変えるため、それを持って廊下に出る。手際よくそれを終えると、日が傾いてきたことで少しだけ冷えてきた空気を遮断するために窓を閉める。そして最後に座っていた丸椅子を元の場所に片付けると、学生鞄を背負い直し再び青年の手を包んだ。

「また、明日……おやすみなさい」

 入室してから終始笑顔であった彼女の表情がここで初めて曇った。それは何かを耐えるような苦い顔。もう青年が起きないのではないかという不安と、何もできない自分の悔しさから来る寂しさだ。

(きっと…………きっと言ってくれるよね)

 内心で願うように語りかけるヴィヴィオは、瞼が熱くなるのを感じ咄嗟に目を瞑り、下を向く。溢れ出そうな雫を必死に押しとどめ、気丈にも笑顔を浮かべようと苦心する。
 そして何とかその熱が引いてきた時に、彼女は自分の手の感触に気付いた。
 感じたところに目を向けると、両手で包んでいた青年の手を力一杯握っている自分の手が見えた。

「あ、あわわ」

 堪えるために無意識に力を込めてしまっていたと察すると、彼女は慌てて手の力を緩める。

「……あれ?」

 すると力を緩めた時に彼女はもう一つのことに気付く。自身がもう強く握っていないこともそうだが、何故自身の手が圧迫感を“感じている”のか。
 すぐには把握出来なかった違和感。それを理解し、その違和感の原因に思い当たると、彼女は咄嗟に俯き気味なっていたその顔を上げる。

「――――」

 その光景に息を飲んだ。
 ベッドに横たわる青年。ヴィヴィオがパパと呼ぶ彼――――ライ・ランペルージの唇が少しだけ動いているのだ。
 それを皮切りに瞼が薄らと上がり始める。
 ゆっくりと、だが確実に開いていくその目は確かな光を宿し、それが生理反応ではなく確固たる意識下の行動であることが伺える。

「ぱ…………ぱ?……」

 口から掠れそうな声が零れる。喋ることはこんなにも難しいことであっただろうか、とヴィヴィオは呆然とし始める頭の中で自問する。
 そんなヴィヴィオの言葉が耳に届いたのか、ライは瞼と同じように首と視線をゆっくりと動かす。
 ほんの少し傾ける程度、首の向きを変える。そして部屋に射し込んでくる夕日の光が眩しいのか、それとも定まりにくい焦点を合わせ始めたのか、ライの眉間に少しだけしわが寄る。

「――――」

 そんなライに見つめられている当人は、文字通り息を呑む思いをしていた。
 それは不安からくる緊張。
 だが、当人も何故不安を抱いているのかは分からない。ライが目覚めたことに歓喜の感情が内心で渦巻いているのは確かである。
 ならば何故、自分はこんなにも何かを怖がっているのか。その疑問は耳に届いた言葉で氷解した。

「――――――おはよう…………ヴィヴィオ」

「――――あ」

 いつの間にか解いていた手を頭に乗せ、『約束』を口にするライ。
 寝たきりであった為に口の中はもちろん喉も乾燥し、その声は掠れていた。だがそんな声でも、発されたその言葉はするりと耳に入り、心と身体に温もりとなって広がる。

(怖かったのは…………忘れられることだ)

 自身の中でその恐れもなくなると、ヴィヴィオはポロポロとその両の瞳から雫をこぼし始める。

「あ、あぁ……お、はよ……ぱ…ぱぁ……」

 今自分はちゃんと言えただろうかと不安になりながらも、彼女は溢れ始めた感情を抑えることなく発露させる。
 嬉しくて、安堵して涙を流す。
 その涙にどれだけの感情が乗せられているのか。
 それを察することは待たせていたライには理解できない。だから、彼女の『パパ』としてライは今できることをする。

「ただいま」

 年単位で動かしていなかった為、筋肉が痛みを発し悲鳴を上げる。だがそれがどうしたと内心で突っぱね、緩慢な動作ではあるがライはヴィヴィオを抱き寄せてやる。と言っても精々頭を自身に近付けさせてやるぐらいしかできていないのだが、それを察したヴィヴィオはライに抱きつくように体を寄せた。

「よかった……よかったよぅ…………」

 溢れる気持ちに歯止めが効かない。だがそれは決して不快なものではない。
 それを今受け止めてくれるべき“父親”が確かに目を覚ましているのだから。

「…………」

 それを受け止めている当人は、あまり動かすことのできない自身の身体に不満を感じつつもヴィヴィオの髪を手櫛で優しく梳いていく。
 寝起きということもあり、霞がかかっているような思考の中でその感触がライに帰ってきたことを実感させる。
 少しずつ鮮明になり始める視界と思考。それらが外れていた歯車が噛み合うように意識の覚醒を促していく。
 そんな中、視界の端で二つの光が瞬いた。視線だけを動かしそちらを見ると、棚の上に置かれた二つの根付――――ライのデバイスである蒼月とパラディンが発光しているのが見える。
 無茶をしたせいか、腕の感覚が麻痺し始めたため、ライは一旦腕を止めると念話を行う為に思考の一部を自己の内面に埋没させる。

『――――二人共、機能と意識に問題は?』

『『全機能動作確認開始――――――終了。ハードとソフトに誤差発生、調整の必要有り。記憶領域の再現確認。記録領域に問題なし、取得データの確保完了』』

 念話の感覚がこれまでの活動領域であったCの世界での感覚に近いものがあり、腕や口を動かすよりもこちらの方が楽に感じている辺り相当毒されていることに今のライは気づくことができなかった。

『『マスター、おはようございます』』

 温度を感じさせない機械音声での報告が終わると、打って変わって人間味のある声が脳内に響く。それがどこか心地よく、自然と口元が緩むのを自覚した。
 ライの脳内では今、やるべきこと、したいことなど様々な事が浮かんでくる。それは何かの水源のように湧き出してくるのだが、それを頭の隅に追いやり今はただヴィヴィオのから感じる温もりと心地よい重さを感じることに集中した。




 
 

 
後書き

と言う訳で、導入部でした。

これから色々と話を広げていくわけですが、Sts編で投げっぱなしにしているキャラとかの回収をしなければならないので、Vivid編と言いながら本編入るのはもう少し先です。
あと、今のところ時系列については特に重要視していませんが、大体Vivid一巻の半年ほど前と思っていただければと思います。

では重ね重ねになりますが、これからもよろしくお願いします。

ご意見・ご感想をお待ちしております 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧