リリカルなのは~優しき狂王~
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2ndA‘s編
最終話~無慈悲なエンドロール~
前書き
と言う訳でサブタイ通り、第二部最終話です。
では本編どうぞ。
アースラ・一室
少し広めな一室。
普段は物置として利用されているのか、その部屋には椅子や机などの備品や何かのレクリエーションで使用したと思われる布や端材などが置かれていた。
普段であればまず用のない部屋には四人の人間が入室していた。幸い保管状態が良かったのか埃などは目立つ程はなく、その四人は綺麗そうな椅子を引っ張り出して、それぞれ椅子に腰掛けていた。
「――――それでは話してもらえますか?」
四人がそれぞれ落ち着いたタイミングを見計らい、四人の中から代表するように声を上げたのはリンディ・ハラオウンであった。彼女の視線は残りの三人の内の一人、この場にいる唯一の男性であるライに向けられていた。
だが、彼に視線を向けているのは彼女一人ではない。残りの二人であるシャマル、リインフォースの両名もライに視線を向けていた。
「まず、前提として――――今の僕は純粋な人間ではない」
呼吸を整え、一息で言い切ったライの言葉に動揺を見せたのはリンディのみであった。残りの二人は心当たりがあるのか、目を細めたりするだけで大きな反応を見せることはしなかった。
「僕の体は魔力と自身を構成するための術式で編まれた魔導生命……言うなれば守護騎士プログラムであるシャマルさんたちに近い存在だ」
彼の言葉を聞き、リンディは反射的にリインフォースとシャマルの方に視線を向ける。
残りの二人は特に反応を見せるようなことをしていなかった。元々、二人はライから自身がどういう存在であるのかを聞いていた。リインフォースは夢の中での二度目の邂逅時に。そしてシャマルは先の戦闘で治療を施した際、ライの身体に違和感を持った彼女が問いただした時に。
「だが、そのこと自体に今は意味がない。重要なのは僕を――――ライ・ランペルージと言う存在をこの世界に維持させることができる時間が残り少ししかないということだ」
その言葉を証明するようにライの腕は先ほどよりも長い時間透けるようになっており、その存在感というものがどこか希薄になってきていた。
流石にこの事実には驚いたのか、三人は息を飲んでいた。もっともリンディはライの身体が透けている場面を既に見ていたため、残りの二人ほど動揺を見せたりはしなかったが。
「待ってくれ!それはどうにもならないものなのか?!」
動揺をそのままに、どこか訴えるように叫びをあげたのはリインフォースであった。彼女からすれば犠牲は自分だけで済むと思っていた矢先の事実であった為、その動揺も人一倍であった。
「どうにかなる、ならないの問題じゃない。元々この世界に来る前から僕は自身の世界に戻るための手段としてこの方法を取るようにしていた」
「この世界?」
次元世界というモノを知っている人間からしたら特に気にしないような言葉であったが、直接ライから聞いている人間からすればどこか違和感のある言い回し。それを追求しようと口を開く前にライは早口で説明を始めた。
「彼女には言いましたが――――」
チラリとライはリインフォースを一瞥してからライは本題を切り出す。
「僕はこの次元世界とは異なる次元世界をある特殊な方法で渡航してきた異分子だ。帰るべき場所もちゃんと存在する」
「それは次元世界内にある別の世界ではないの?」
当然のような疑問を口にするのはリンディであった。
「違うな」
力強い断言に流石に怯むリンディであったが、その視線は疑問をライに投げかけていた。
「僕のいた世界の人物とこちらの世界の人物で同じ存在の人間がいた。名前や容姿、性格だけでなく、人間関係も。だが、異なる点もきちんと存在する。確信を持てる要素はそれだけで十分だ」
有無を言わせず、一旦話を切るライ。自身の感覚とCの世界との繋がりから時間が差し迫っている事を察し、そのことが今のライを焦らせていた。
「リインフォース」
「……なんだ?」
名前を呼ばれたことと、どこかライが焦っていることを察した彼女はこれ以上追求することはせずに返事をする。
「確認したいことがある。今、夜天の書に主以外が干渉することは可能か?」
かつて、夜天の書がまだ闇の書であったとき、闇の書は外部からのアクセスがあった場合、主を取り込み次の主の元に現れる無限転生システムが組み込まれていた。ライが気にしていたのはその機能であり、それが最後の気がかりであった。
「できる。でなければ……」
口を噤むリインフォース。彼女が何を言いかけたのかを分かっているライはその言葉を引き継いだ。
「消滅することができない、か?」
「?!」
彼女の反応は顕著であった。それは彼女にとってライに知られたくはない真実である。それを無遠慮に踏みにじることに自分は最低で残酷だ、とライは自身を内心で蔑んだ。
「何故――」
「正直に答えて欲しい」
呆然と聞き返そうとする彼女の言葉を遮り、ライは尋ねる。胃のあたりが重いと感じながらも淀みなくその言葉を紡いでいく。
「この世界ではなく、僕の世界でなら君と言う存在を生き延びさせることができる。それを君は望むか?」
沈黙が落ちた。
それはその言葉が理解できないのではない。理解ができるが腑に落ちない点があるからこその沈黙。その為、頭が混乱し何を尋ねればいいのかさえ、ライ以外の三人は分からなかったのだ。
「どういう――」
声が震えているのを自覚しつつもリインフォースは問い質す。
「僕は――――夜天の書の原型のデータを持っている」
沈黙が再び落ちた。今度は先ほどと違い、ライの言葉を本当に理解出来なかったと言う風だ。ライは一度息を吐き出すと説明を始めた。
「僕が元来の肉体ではなく、魔導生命としての身体を用意した際に参考にしたデータがあった。それが夜天の書の守護騎士プログラムだ」
ライはゆりかごとCの世界との関係を知った際、ゆりかごの内部に保存されていたベルカについて多種多様なデータが存在している事を確認している。そしてそれがあったからこそ今この平行世界に存在することができているのだ。
そう、最後の救いそのものをライは最初から持っていたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってください。仮に貴方がそのデータを持っていて、どうしてこの世界では生きていけないのですか?」
先ほどのライの言動を思い出し、動揺をなんとか抑えながらもシャマルは質問を発する。
その質問に対するライの返答はある意味でシンプルであった。
「もし、この世界で夜天の書を修復してしまえば八神はやては次元世界単位で狙われる」
「「……は?」」
「彼女には……後ろ盾がない」
ライの考えはこうであった。
今回の事件で、八神はやては書類上では事件の被害者であり、解決に導いた功労者の一人となる。だが、世間の目はそうはならない。
彼女は良くも悪くも夜天の書の主なのだ。それこそ被害者遺族などの恨みは彼女に集中することにもなる。更に管理局員となったとしても、ヴォルケンリッターが人を襲った以上犯罪者のレッテルは貼られてしまう。例えそれが真実とはかけ離れていても。
そして只でさえ多くの人間から目を付けられた上、夜天の書の完全修復までしてしまえば、護るもののいない彼女にとっては致命的になってしまう。
夜天の書は失われた古代ベルカの遺産の一つと言ってもいい。そしてその知名度は高く、秘める力の大きさも次元世界では有名だ。もし、そんなモノを完全に修復してしまえば、古代ベルカの情報を求める者、または修復できたのは八神はやてが特殊な力を持っていると考える者など、理由をあげ出すとキリがない程の人々に狙われることになる。
「そんな……でも私たちがそんなものは持っていないと公表すれば――――」
「金の採れた鉱山の所有者が『この鉱山にはもう金は無い』と言ったところで誰も信用しない」
シャマルの悲痛な叫びをライは無情な例えで切り伏せる。
「待ちなさい。彼女たちは管理局できちんと保護を――――」
「次元世界はそれこそ果てしない。この広すぎる世界の中でたった一人の少女を守るためにどれだけの敵を作っても、何に変えても、最後まで守りきると誓えるのか?」
「それは――――」
ライの言葉に答えられる者はこの場にはいなかった。
リンディは権力的にもかなり高いものを持っているが、管理局という組織内ではあくまで一個人的なものでしかない。それに彼女を快く思っていない権力者ももちろん存在するため、彼女にとってはそれに付け入る隙を見せた時点で彼女の権力そのものがハリボテとなってしまう可能性もあるのだ。
それほどまでに闇の書の悪名は大きくなってしまっていた。
「……私が主と離れればその心配もなくなるのだな?」
リインフォースは気丈にもしっかりとした声で訪ねてくる。その言葉にライは頷きで返した。
「ならばこれ以上の結果はない。それなのにお前は私を生かす方法があると言ったのだ。それは私にとっては幸運以外の何ものでもない」
「……っ」
彼女の言葉に若干俯き唇を噛み締めるライ。そんな彼を訝しんだのか、三人は視線を彼に向けた。
それが何秒続いたのかはわからなかったが、覚悟を決めたような表情でライは頭を持ち上げた。そして残酷な現実を口にする。
「違う……………間違っている。リインフォース、今の君を救う事をもう僕にはできない」
「…………………………………え?」
喉の奥がヒリヒリと痛い。こんな中でも、まだ喋らなければならないことに嫌気がさす。
だが、ライはその口を閉じることをしない――――できない。
「僕が元の世界に持ち込めるのはあくまでデータだけだ。だから夜天の書の記憶領域に存在する管制融合騎であるリインフォースのデータを持ち帰り、向こうで再生すれば君と同じ存在を現界させることはできる。でもそれは君であって君じゃない。あくまで君と同じ記憶を持つ別人だ」
それはある意味で残酷な方法であり現実だ。
データからの再生はできる。だが、今ここに存在するリインフォースという“人間”は連れて行くことができない。それはもう消えることを受け入れろというダメ押しなのだから。
「そん、な」
リインフォースが震える声で呟く。それと同時に乾いた音がその部屋に響いた。
「よく……よくそんなことを言えますね!よりにも寄って貴方が!リインフォースに生きる希望を与えた貴方が!!」
音の発生源はライの頬。そして声の主はシャマルだ。
彼女は右腕を振り抜き肩で息をする。それはライが怪我人であることを全く考慮していない平手打ちを彼女がした結果であった。
そしてそれは、追い詰められていたライの中の理性の箍を外すひと押しになる。
「…………じゃあ……じゃあ教えてくれ!!これ以上僕はどうすればいい!!命を差し出して彼女が救えるのであればいくらでも差し出すさ!でもそういうことじゃない、そうじゃないだろう!!そんなので解決できるほど世界は優しくない、誰でもそんなことは分かってる、でも消えてほしくないって思った!生きたいと望んだ彼女の願いを受け取った!なのに…………」
それは慟哭であり、どうしようもない懇願であった。
途中で席を立ち、シャマルに掴みかかるような体勢になる。そこに暴力的な力強さはなく、あるのは打ちのめされ、弱々しく縋り付くような必死さだけだ。最後はもう絞り出すようなか細い声であった。
興奮したせいで傷が開いたため、包帯の白い面積が減り赤い面積が増える。頭部の包帯からもそれは見受けられ、灰銀の髪も少しずつ朱色に染まっていく。
腹の底に溜まっていた気持ちを言い切ったことにより、力が抜けたようにライはその場でへたり込む。
それを見ていた三人は言葉がなかった。
ここまで身を削り、そしてどこまでも自己というものをひた隠しにしてきたライが、泣き叫ぶように訴えてきたその姿に。
――何故、もっと早く来てくれなかったのか?――
――何故、もっと早くから夜天の書のデータを開示しなかったのか?――
――何故、八神はやてを救ってくれないのか?――
――何故、もっと違う方法を提供できないのか?――
言い始めれば際限なく湧き出してくる想い。それは今を最善と言い切れない人間の訴えであり、どこまでも身勝手な願いだ。
そしてそれを口に出すことができる程、非情になれる人間はこの場にはいなかった。
沈黙が続く。
既に語るべきことはないのだ。あとはもう決断をするか、決められずタイムリミットを迎えるかしかない。
ライの存在というモノが更に稀薄になり始めた頃、リインフォースが動きを見せる。
彼女はライと向かい合うように膝を折ると、彼の方に両腕を伸ばした。
(…………暖かい)
先ほど叫んだ時から、思考がほぼフラットになっていたライは包帯越しにぬくもりを感じる。それは怪我の存在を訴えてくるような熱とも、温めようとする暖でもなく、伝えようとする温もりであった。
「ありがとう」
その温もりを感じると同時に言葉が耳に入ってくる。
(あぁ…………やめてくれ…………)
鈍る思考の中、ライが視界の焦点を合わせると白銀の髪と黒い服、そして自信と触れている肌が見える。そこで初めてライはリインフォースに頭を抱えるようにして抱かれていることを認識する。
「私や皆の存在を背負おうとしてくれて」
彼女に先ほどの悲壮感はもうない。代わりに彼女の表情に浮かべられているのは強い意思。それは覚悟の現れだ。
「私に可能性を示してくれて」
そしてそれを表すように彼女は慈愛の笑みを浮かべ、慈しむように血に濡れた髪を優しく梳いていく。
「感謝なんて…………しないで、くれ」
「受け取ってくれなくてもいい。でも聞いてくれ。私は貴方と会えてよかった」
「っ」
ああ、もうだめだと思った時には、歯を食いしばりながら涙を流していた。
悲しかった。彼女がこの世界では生きられないことが。
悔しかった。自身の無力さが。
それでも――――――――嬉しかった。
こんな犠牲を強いるような救いしかもたらす事ができなかった自分に、それでもありがとうと言ってくれたことに。そんな自分がどこまでも惨めであった。
『癒し手』
『…………行くの?』
ライが自身の気持ちを必死に押さえ込もうとしている中、リインフォースはシャマルに念話を繋いでいた。
『ああ…………このままでは私の存在が彼の傷になる』
『それは…………』
それは貴女がついていくことでも同じではないか?という言葉を途中からシャマルは飲み込んだ。しかしその考えはリインフォースも持っていた。
『だからこそ、だ。このままでは、彼はどこまでも傷を背負いながら進んでしまう。主には支えてくれるお前たちがいる。だが、彼は一人になってしまう』
元の世界に戻り、今回の件をライは喋らないとリインフォースはどこか確信していた。もしそうなれば、彼に残るのは永遠の後悔と自身への罪科だけだ。
『主を頼む』
『私たちの存在にかけて』
短いが確かなやり取り、そしてリインフォースは決定的な一言を口にした。
「ライ・ランペルージ、未来の私をよろしく頼む」
その言葉はどこまでも澄んだ響きを持っていた。
それはまるで未来を祝福するエールの様であった。
Cの世界
濁流のように意識が流れていく。
そこにいるだけで全てを流されてしまい、自身という個の存在が曖昧になって言ってしまいそうになる。
だが、そんな中で確かに存在する“ライ”という意識が、その場所で自身の存在を正確に認識する。
「…………」
時間という概念が希薄なこの場所に戻ってくることで、先程まで存在していた世界での活動が遠くの昔のように感じると同時に、ごく最近の出来事のようにも感じる矛盾した感覚に陥る。
それをもう異常に感じない辺り、自分が相当毒されているとライは思った。
『『……』』
既にライの意識に寄り添うように、二つの意識が存在していた。その意識は、元が機械ゆえにか、それとも一種の気遣いなのか沈黙を続けていた。
「……明日を望んでいるのに…………救えた命が確かにあったのに…………」
独白のようなその思考はそこで止まる。
続く言葉はなんだったのか?
それは口にしてはいけない言葉かもしれない。それこそ、皇歴の世界で多くの血と命を犠牲にして明日を望んだライだからこそ望んではいけない言葉であったのかもしれない。
そしてそれを理解しているからこそライは思考を閉じたのだ。
『『マスター』』
「……?」
『『顔を上げなさい!』』
溶け合うように聞こえてくる二つの声。それに集中しようとした瞬間、罵声によって顔面を叩かれたような感触を覚えた。
『『背負ったのであればそれを誇りなさい!救えなかったのであればそれを糧にしなさい!』』
いつの間にやらビジュアル化していた自身の前には、同じくいつものデバイスの待機形態となっている蒼月とパラディンが点滅を繰り返していた。
『『貴方は全能でもなければ、ましてや神様でもありません。一人の人間です。できることが他人より少し多いだけの人間です』』
「……」
『『そんなマスターの為に私たちがあり、私たちを使うマスターがいるのでしょう』』
どこか諭すような言い方に、声の主がAIであることを忘れてしまいそうになる。それはCの世界の集合無意識に長時間接触したことによって起きたAIの人間的思考についての成長であるのだが、今のライはそれに気付くことはなかった。
『『マスター、貴方はこれからどうするのですか?』』
「……っ」
先ほどの叱るようなセリフとは打って変わって、確認するようにも、挑発のようにも聞こえるセリフを平坦な機械音声でに尋ねられる。
尋ねられた本人は一旦奥歯を噛み締めると、両手の平で自身の頬を打った。
「…………僕にできることを――――――――今の僕にしかできないことを」
『『イエス マイ ロード』』
いつもの機械音声、しかし確かにその声からは喜色を感じる事ができた。
後書き
てな感じでした。
中途半端な切り方かもしれませんが、この第二部はあくまでSTSとVividのつなぎ的な話なのでこんな感じにしました。……ていうかそういうことにして頂ければ嬉しいです。(-.-;)
今回の投稿に置いて、展開について批判が来ないかと割とガクブルです。でもキチンと読者様からの意見は正面から受けますので忌憚のない感想を頂ければと思います。
前回のあとがきに書いた他作品のキャラについてなのですが、投稿して割と早い段階で意見がもらえたことに歓喜しました。本当にありがとうございます。
そして、前回のあとがきでその事について言葉足らずだったのでお詫びと訂正をしたいと思います。
あくまで他作品キャラは容姿や戦い方などを真似るだけで、その作品の設定などを入れる気はまったくありません。それを踏まえた上で意見を頂ければと思います。
これについては「シラケる」、「やんな」、「そんなことするなら読むのやめる」など、辛口コメントもバッチコイです。
では次回からVivid編に入ります。ちょくちょく閑話みたいなのも入れたいと考えていますので、それについてのご意見お待ちしております。
ここまで読んでいただいて、本当に感謝です。次回からも頑張らせていただきますm(_ _)m
皆さんのご意見・ご感想をお待ちしております。
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