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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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Vivid編
  第二話~リハビリとこれからと~

 
前書き
第二話です。
まだ始まったばかりで話が纏まっていない感がすごいかもしれません(^_^;)

ではどうぞ 

 


聖王協会本部・中庭


 外観が神殿を連想させる建物。しかし、それは決して古めかしいものではなく、美しさとよく整備された清潔感から来る犯し難い神聖さを生み出している。それが聖王協会という次元世界内でも大きな影響力を持つ組織の本部であった。
 組織の本部と言われるその建物は大きく、内部に様々な施設がある。協会であることから礼拝堂のようなものや、医療施設、そして組織を運営していく上での事務作業の場も当然存在している。
 そしてその施設の中でも特に施設が充実しているのは医療施設であった。だが、逆に人の出入りが最も少ないのも医療施設である。
 名目上、協会は誰に対しても門を開く程に懐の深い組織であることになっているが、医療施設に居るのは複雑な事情を抱えた者が割合的に多くなっている。しかも聖王協会は宗教的な的な色も強く一般人はそう言ったゴタゴタに巻き込まれるのを嫌い、進んでこの施設を利用しようとするものはほとんどいなかった。

「はぁ……はぁ……」

 そんな複雑な事情を抱えた内の一人がその本部の中庭で荒い呼吸を繰り返していた。

「ランペルージ卿、今日はそこまでに」

 荒い呼吸を繰り返しているライは吹き出すようにして止まらない汗で、髪が頬に張り付き、服は池にでも落ちたのではないかというほどにびしょ濡れになっていた。
 それを見兼ねた、聖王協会のシスターであるシャッハ・ヌエラが思わずと言った風に声をかける。

「っぅ……シャッハさん…………その……呼び方は……はぁ…………ちょっと……」

 未だ膝に手を付き、頭を垂らしているライに彼女の方に顔を向ける余裕もなく、上がった呼吸を整えながら声を漏らすのが精一杯であった。
 言いたいことを言い切り、気が抜けたのかライはその場で尻餅をついた。中庭の芝生が服越しに身体に当たりチクチクするが、今は体内に籠った熱の方に神経が集中し、その事についてほとんど気になることはなかった。
 荒くなった呼吸を収めるため、自然と顎が上がる。すると吹き抜けとなっている中庭から空を流れる雲が視界に映り込む。まだ呼吸や心臓の音はうるさいが、ゆったりと動く雲を眺めることでそれに呼応するように、少しずつ落ち着きを見せ始めていた。

(…………もう二週間、か)

 落ち着き始めると同時にライは元の肉体で目覚めてから今に至るまでの事を思い出していた。
 ライが目を覚ましたその日、彼は何はともあれ身体の精密検査を行うことから始まった。
 もう夕方ということもあり、未成年であるヴィヴィオを渋々ながらも自発的に帰宅させると、約三年半眠り続けていた身体を徹底的に調べあげられることになる。
 特に劇的な変化もなく、特別な切っ掛けもない。ただそれが当然のように目を覚ましたライは、それだけで彼の事情を把握している医者たちを大いに驚かせた。患者ではなく医者の方が動揺する中、担当医はライが三年半眠り続けていたことを簡単に説明し、今この場所がどういったところであるのかを手短に説明する。

「……三年半」

 説明を聞いたライはポツリと呟く。その言葉を聞いていた担当医と控えていた看護師はライがショックを受けたと考え、錯乱した場合の為にあらかじめ用意していた鎮静剤の位置を視線だけで確認した。

(向こうの世界では三年半どころか…………………)

 そんな医者の視線に気付くこともなく、ライは内心でCの世界とそれに通じていた世界で体感した時間を累計しようとして――――――――やめる。

(ちょっと、キリがないな)

 実を言うと、ライが訪れた世界は時間軸が過去の並行世界だけではない。それこそ多種多様すぎる世界を幾つか巡っていたのだ。しかも、それはライが自発的に赴くのではなく、彼を必要とした世界が彼を引きずり込むようにしていった世界もある。
 あげ始めれば彼が思った通りキリのない程の世界を巡ったライは、この世界でたった三年半しか経っていないことに違和感を覚えていた。その事にショックを受けたといえばそうなのだが、医者や看護師が懸念したようなものとはそれはまたベクトルの違うものであった。
 その日は一旦お開きとなり、気持ちを落ち着かせるという意味でその日ライは大人しく睡眠を取った。
 翌日。約三年半という長期間の昏睡状態を感じさせない程度には、身体的な問題がなかった為、長時間の検査に耐えることとなった。
 問題は身体的なものではなく精神的なものだ。
 日が昇ると同時に検査は始まり、ほぼ一日をかけてそれは行われた。検査が終わるとその気疲れから三年半お世話になったベッドで一眠りとしようとするが、それに待ったをかける人物たちが現れ始める。
 そう人物“たち”が現れ“始めた”のだ。
 昨日のヴィヴィオが訪れた時間と同じ頃に、彼女たちは訪れる。
 患者に与えられるにしてはやけに寝心地の良いベッドでウトウトし始めていたライは、突然開かれた部屋の扉の音に跳ね起きた。

「ライ……くん?」

「ライ?」

(……あぁ、そう言えばヴィヴィオに僕が起きたのを伝えること、特に言及しなかったっけ?)

 そこに立っていたのはなのはとフェイトの二人。呆然とした様子の二人はライをジッと見つめる。その服装は管理局の制服であり、『ああ、今日平日なんだ』とライに場違いな思考をさせる。
 呆然としているライを見つめていた二人は、唐突に涙を流し始める。しかも全く表情が変わっていない為、ライはいきなりのことに目を見張るようにして驚く。
 そして、二人の涙が顔から離れ、その雫が床を叩くと同時になのはとフェイトはライに飛びつくように抱きついた。
 そこからはもうてんやわんやである。良かったと、喜んだと思えばいきなり説教を始めたり、逆に説教をしていたと思えば慈愛顔で再びライに抱きついたり。
 更にライの目が覚めたと連絡を受けた元機動六課のメンバーが、どんどんライの病室に押し寄せてくるのだ。急激に増加の一途をたどる人口密度にライは辟易としていたが、再び皆と会えたことに胸の中は歓喜の気持ちで満ちていた。
 しかし、物事には限度がある。具体的に言えば、医者や看護師がちょっと放送できないレベルの憤怒の表情を見せ、『管理局?高官?エリート?何それ、食えんの?ていうか、病院で医者より偉い奴がいると思っているの?』と言わんばかりにガチ説教をするくらいには騒がしくなり、事態の収集が着く頃には既に日を跨ぎそうな時間帯であった。
 その日はそのまま解散し、未だにキレ気味の医者からJS事件直後と今の時点での身体の差異として筋力の低下などの説明を受け、そしてリハビリや自身の身の振り方を整えるまではこの入院生活を続けられる旨の言葉をライは頂戴したのであった。
 そして、元機動六課のメンバーやライの顔見知りの人たちにそれぞれ個別に連絡を入れ、自分が目を覚ましたことやその為にリハビリを行うことなどを伝え、お見舞いは自重するように念押しした。
 その為、今中庭で汗だくになっているのは、そのリハビリを行っていたのが原因で、決して医者から嫌がらせレベルのリハビリ内容を押し付けられたわけではない。

「しかし、貴方は我々にとって敬うべき人間ですので」

 ライの傍にいるシャッハは、ライの呼称についての注文にそう答えた。

「…………」

 JS事件でライと聖王としての姿のヴィヴィオは戦った。その際の戦闘映像は、あの事件で展開されていた戦闘域全体に流されていた。途中でライが中継していたクアットロとそれをコントロールしていたコンソールごと吹き飛ばした為、最後まで流されなかったとは言え、結果として聖王であったヴィヴィオが助かっていることから自然とライが彼女を打倒したことは確定情報として広まっていった。
 その為、避難していた民間人はともかく、管理局の関係者や聖王協会の騎士たち、そして各組織の上層部でライはある意味で有名人になってしまっていたのである。
 そして聖王協会において、ライは聖王を救出した騎士として認知されており、シャッハの口にしたとおり少なくない人々に敬われている。本人にとって不本意この上ないのはこの際深く考えない方が幸せだろう。

「はぁ……」

 肉体的な疲れではなく、精神的な疲れから自然とため息が出てきた。
 身体に篭っていた熱が引きはじめ、運動後の充実感より汗の気持ち悪さの方が気になり始めた頃、ライは立ち上がり、最後の仕上げをするためにシャッハの方に顔を向けた。

「じゃあ、シャッハさん。頼みます」

「ご無理はなさらないよう」

 彼女がそう告げると、二人はお互いのデバイスを掲げた。



聖王協会本部・一室

 この二週間、ライは日が昇っている間はリハビリを行い、それ以外の時間は魔法関係の専門書や管理世界共通の社会基盤などの書籍など、とにかく魔法社会についての勉強を行っていた。
 それ自体は機動六課でお世話になっていた頃から行っていたが、その頃と比べ今はより深い部分、例えば大まかではあるが社会基盤ができるまでの歴史なども学んでいる。その為、たった二週間でライの部屋には多くの書籍が幾つかの塔になって積み重ねられていた。
 リハビリを終え、汗を流し、身体に負担をかけない程度の食事を済ませると、もう習慣になり始めている読書という名の知識の詰め込みが始まる。
 メガネをかけ、眠っている間に伸びていた髪を三つ編みに結わえ、前髪はヘアピンで止めるとライの病室には定期的に本のページを捲る音が響くだけであった。
 ほぼ一定のリズムで手を動かし、目は文字を追う。傍から見ればこれ以上ないほどに普通の読書風景がそこにはあった。

(――――――リスト項目の六割を消化。現時点での選出は三十八名。その内、協力の可能性があるのは十一名、か。分かってはいたけれどかなり厳しい数字だな――――――)

 傍から見れば普通なのだが、ライの脳内は違う。Cの世界での経験から、ちょっと異常な精度になったマルチタスクを使用し、別個の作業を行う。もちろん、読書によって仕入れた情報も疎かにはしない。それはそれで反復させ記憶するという脳の構造を疑うようなことを涼しい表情で続けるライはいっそ異様であった。

(――――――既存で引き入れることのできる可能性があるのは書庫、陸、あとは警備会社各種。ならあとは根回しが必要になるからJS事件の時の――――――)

 脳内で局員や一般人には聞かせられないような内容に差し掛かり始めた頃、ライの部屋にノックの音が響いた。

「……ん?」

 よほど集中していたためか、ノックの音に反応するのに幾分か間があったがライは特に疑問も持たずに「どうぞ」と来室の許可を声に出した。

「失礼します、ランペルージ卿」

 入ってきたのは、黒いシスター服を着込み腰にも届きそうな金色の髪を持つ女性であった。彼女は一礼してから入室すると、その彼女に続くようにしてもう一人、目覚めてからは見慣れた女性であるシャッハも入室してくる。

「お加減は如何ですか?」

「もうすっかり……とは言い難いですが、少なくとも目覚めた頃よりは良くなっています。それに個室と生活の保証をして頂いているのですから、間違いなく調子は良いですよ、騎士カリム」

 部屋に入ってきた女性、カリムからの言葉に少し固めの言葉と接待用の笑顔をつけて返す。少し失礼だったかと思わなくもないが、最低限の礼儀は通すべきと考えてライはそんな行動と言動を取っていた。

「それは良かったです。ところで例の件は考えていただけましたか?」

 そう切り返してきた彼女に対して、苦い顔をしないようにするのにライは心底苦労した。

「こちらとしても貴方に対して高待遇で向かい入れるだけの準備はあるのですよ?」

「……以前申し上げた通り、自分としてはそのような過分な評価を頂けることは大変嬉しいのですが、これからのことについては自分にも考えがあります」

 ライはあくまで丁寧な言葉を選びながら、彼女の申し入れである『聖王協会に所属すること』を拒否していた。
 ライが目覚めてから、定期的にカリムは聖王協会への勧誘の話を持ちかけていた。
 先のJS事件に置いて聖王協会の信仰対象である聖王を、そのクローンであるとは言え正面から打ち破ったライを手元に置いておきたいという組織の意向は当然のものであった。
 もちろん、そう考えたのは管理局も同じである。だが、JS事件以降管理局に戦力が集中しすぎる事に危機感を感じた他機関がその事に対する直訴文などを多数送りつけており、大手を振って彼を引き入れるのは難しくなっていた。
 そして、聖王協会を含む幾つかの機関はそれを教訓にし、ある程度ではあるが自身の戦力増強の為に尽力をしているのである。

「そう、ですか。では気が変わるようでしたらいつでも申し付けてください」

「はい」

 定型文のようなやり取りを終え、数秒の沈黙が過ぎるとカリムは深々とため息をつく。それを見ているライは苦笑い、シャッハはカリムとは別の意味でため息をついた。

「毎回、同じような話をしてすみません」

「気にしないで、と言っても無駄だと思うけど、無理はしないで」

 疲れきった声で謝罪してくるカリムにライは幾分か砕けた口調でそう答えるしかなかった。
 ここ最近、カリムが勧誘に来るのは習慣になっていたが、それは何も本人の意思ではない。もちろん、本当に入ってくれるに越したことはないのだが、一度断られている以上無理を強いてまでライを協会に入れようとする気はカリムにはなかった。
 しかし、それでもライを入れようとする上の意向は変わらず、カリムはその役目を自分から志願し、緩衝役としてライの説得を形だけではあるが続けているのだ。
 その事をライも承知で彼女に対して申し訳なさで一杯であったのだが、下手に譲歩してしまうとライも自身のすべきことができないと考え、カリムに損な役目を続けてもらっていた。

「取り敢えず、座って。話は他にあると思うのだけど?」

 そう促し、カリムは備え付けの椅子に腰掛け、シャッハはカリムの傍に控え、ライはメガネを外し、読んでいた本を静かに閉じる。メガネを外す際、シャッハが少し名残惜しそうな目をしていたがそれに気付いた人はいなかった。
 一度目を瞑り、深呼吸をしたカリムは先ほどよりも幾分か軽快に口を動かし始めた。

「それで、本当に体調の方は大丈夫なのですか?」

「……あれ?」

 その質問にライは疑問の声を漏らし、シャッハの方に視線を向ける。
 昼間、ライのリハビリに付き合う形で同行しているシャッハであるが、何もそれは完全な善意というわけではない。監視と個人に対する借りを作るための一種のポーズも含まれている。それをなんとなくは察しているライはシャッハから事の詳細を聞いていると思っていたのだ。
 ライの視線の意味に気付いたカリムとシャッハの二人は苦笑いを漏らしていた。

「一応、リハビリの概要は知っていますし、シャッハからの報告も聞いているのですがやはり本人からのお話が一番信頼できるので」

 その言葉を聞くとライは納得すると同時に自身の考え方を恥じた。
 他人を与えられた情報だけで推し量るような考え方しかしないのは、理解し合う上で誤解を招きやすい一番の要因であるのだから。

(しっかりしないと、な)

 一度、内心で念を押すと、ライは口を開く。

「これといって問題はないけれど、でも以前の――――JS事件当時の時ほど動けるとは言えない、かな」

 右手を握ったり開いたりを繰り返し、リハビリ中の感覚を思い出しながらそう口にする。
 ライはそう口にするが、Cの世界で過ごしたことで魔法を使用する精度自体はかなりの進歩を見せている。それだけでなく、もともと感覚的に使用していた部分が多かったライであったが、最近の知識としての補填も行い感覚的に不透明であった部分も明確な操作をするようになり、ある程度魔力の燃費も上がっている。
 問題は身体強化にしろ、加速魔法にしろ、それを耐えうるだけの筋肉や骨の強度が落ちていることで、この問題は普段の食生活や運動で地道に回復して行くしかない。そしてその辺りの魔法の微調整は魔法操作の精度向上からアジャストさせやすくなっているので、現時点での問題らしい問題は特に存在しなかった。
 ライの返答に安堵を表すような笑みを零したカリムは、ふと目に入ったある物に興味を引かれた。その視線に気付いたのかライも彼女の視線の先に目を向けると、そこには折りたたみ式のボードが置かれていた。

「それは――――」

「あぁ、お見舞い品の中にあったチェス用のボードだ」

 ライの昏睡中、本人が眠っていることもありお見舞いの品は花や折り鶴といった使うことがなくても邪魔にならない物がほとんどであった。その為、ライが目を覚ましてからはある程度使用頻度の高いものを持っていこうとした人が置いていった物の一つがそのチェスボードであった。

「体を休める時によく息抜きで」

 そう言ってからライは気付く。カリムが少し期待しているような目でボードを見ている事を。彼女のそんな表情を初めて見たライは彼女の隣に座っているシャッハの方に目を向ける。その彼の視線にまた彼女は苦笑いを返すだけであった。

「…………よければ一局打つ?」

「是非」

 即答だった。
 後日知ることだが、生まれた時から聖王協会に所属していた彼女の生活にはほとんど娯楽というものがなく、また許されてもいなかった。しかし、幾つかのボードゲームを幼い頃に大人からのプレゼントで受け取った彼女は、それを唯一の娯楽としてのめり込んだらしい。チェスもその内の一つということだ。
 その後、二時間ほどかけて二局程打ち、その結果はライの一勝一分け。ライ曰く「はやてやティアナよりも手強い」らしい。






 
 

 
後書き

という感じの二話でした。
結構文章を重ねているのですが中々話が進まないのは序盤だからと思いたい今日このごろです。

では今回はこのへんで。

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