八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第四十四話 型その十
「弱かった時代でもな」
「中継ぎ課とかいって」
「それぞれ個性のあるいい方々だった」
その中継ぎ課の人達はというのだ。
「技巧派揃いでな」
「あの時の中継ぎ陣確かによかったですね」
「ストッパーまでな」
「大抵中継ぎ投入まで試合に勝っていればそのままでしたね」
所謂逃げ切りで勝てたとだ、留美さんも言う。あの頃僕も留美さんも井上さんも生まれていないか生まれていてもまだ赤ちゃんだった頃だが。
「いけてましたね」
「そうだった」
「それでJFKの頃は」
ジェフ=ウィリアムス投手のJ、藤川投手のF、久保田投手のKだ。これでケネディ大統領の様に言われていたのだ。
「完璧でしたね」
「相手に六回までしか野球をさせなかった」
「七回にまでなれば」
「もうそれで試合は貰っていた」
そこまでの絶対の中継ぎ、抑えだった。
「そして今もだ」
「磐石ですね」
「そのことを見てもわかるが阪神はピッチャーだ」
「ピッチャーのチームですね」
「伝統的にな、阪神は抑えるチームだ」
その投手力で相手チームを抑えるというのだ。
「そうだ、しかしだ」
「打線は」
「伝統的にだ」
ここでも伝統という言葉が出た。
「弱い」
「打たないですよね」
「いつもあと一点が出ない」
「あと一点なのに」
「その一点が出ない」
井上さんは腕を組みつつ苦々しげに言う。
「昨年も優勝出来たがだ」
「そういえば何か」
「そうだな、一点差負けの試合が多いな」
「多かったですね」
「調べてみたら多かった」
実際にというのだ。
「日本一にはなれたがな」
「その一点差で負けることが多いことは」
「あまり解消されていないのではないか」
「そう思われるんですね」
「今もだ」
今行われている試合もというのだ。
「七回が終わって三対二だ」
「また一点ですね」
「とにかく二対一や三対二といった状況で負けることが多い」
「阪神の課題ですね」
「今日もこのまま負けるのか」
まさにその三対二のまま、というのだ。
「難儀なことだ。せめて」
「せめて?」
「バース様がいてくれれば」
井上さんの言葉は切実なものだった、それもかなり。
「そう思うが」
「あの人は凄かったですよね」
「打って欲しい時に打ってくれた」
「もっと言えばそうでない時も」
「何時でも打ってくれた」
「そうした方でしたね」
「私はあの方の頃は生まれていなかった」
当然僕もだ、一九八五年はもう遥か昔だ。
「しかしだ」
「それでもですよね」
「あの方がいてくれれば」
ランディ=バース、この偉大な阪神の選手がだ。
「その一点差負けも減っている筈だ」
「打ってくれる筈ですからね」
「ここぞという時にな」
「本当に凄い方でしたよね」
「だから伝説になっている」
何しろ二年連続三冠王だ、そして阪神を日本一にさせてくれた。これで凄くないなんて誰にも言えないことだ。
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