八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第四十四話 型その九
皆にだ、こう言って来た。
「皆、巨人負けたから元気出るよな」
「当たり前だろ、そんなの」
「人類の永遠の敵が負けたんだからな」
「あの無様な負け見て楽しくない筈ないだろ」
「巨人は負けてこそなんだよ」
「負ける姿を見せてくれてこそだろ」
「そうだろ、けれど元気が出てもな」
それでもというのだ。
「わかってるよな」
「ああ、調子に乗って怪我するな」
「そういうことだな」
「怪我には注意しろ」
「くれぐれもな」
「そうだよ、注意しろよ」
そこはとだ、部長は昨日達成された巨人の二十連敗に心が癒され励まされて元気になっている僕達に注意した。
「そこは」
「だよな、注意一瞬怪我一生」
「そこは注意しないとな」
「怪我したらこっちが損だからな」
「怪我は注意しないとな」
「そうだよ、だから不注意にはならないでくれよ」
部長の言葉はくれぐれも、といったものだった。
「さもないと本当に泣くのは自分自身だよ」
「よし、じゃあな」
「怪我にも注意して」
「そしてな」
「ちゃんとやってくか」
「今日もな」
「そうしてくれ、いいな」
部長は僕達に念押しをした、そして。
僕達もそれで気合を入れなおしてだ、そのうえでだった。
午後の練習も真面目にした、皆部長の言葉が効いてそうして誰も怪我することなく楽しく汗をかいた。それからだった。
僕達はそれぞれの帰る場所に帰った、当然僕の変える場所は八条荘だ。
その八条荘に帰るとだ、ロビーの大きなテレビを観てだった。井上さんが難しい顔で一緒にいる留美さんに尋ねた。
「どう思う、今日は」
「まずいですね」
井上さんと同じソファーに座っている留美さんは深刻な声で答えていた、見れば二人共もう私服に着替えている。
「この流れは」
「そうだな、一点差だが」
「その一点差がです」
「取れないチームだ」
井上さんの声は極めて苦かった。
「阪神はな」
「そうですよね」
「去年は日本一になった」
本来は喜ぶべきことも深刻に言っていた。
「今年も好調だが」
「それでもですね」
「今日の様な試合を落とすとだ」
「それがずるずるときますよね」
「阪神はそうしたチームだ」
阪神ファンならではの言葉だった。
「いつもここで勝つのではなくだ」
「負けますね」
「そうだ、いつもだ」
「あと一点がなんですよ」
「取れなくてな」
「負けますよね」
「阪神はシーズンにもよるがだ」
それでもというのだ。
「大抵投手陣はいい」
「防御率自体はいいんですよね」
「特に中継ぎ、抑えはな」
「不思議と困りませんね」
「毎年充実している」
こうテレビで阪神の試合を観つつ留美さんに話していた、見れば二人共ソファーに礼儀正しく座りながら観戦している。
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