八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第四十四話 型その六
「井上さんですね」
「わかるか」
「はい、何となく」
井上さんにもこう返した。
「そうですよね」
「そうだ」
実際にとだ、井上さんも僕に答えた。
「君ならと思いだ」
「だからですか」
「君の目はいい」
「視力が」
「視力だけではない」
両目共一・五だがそれだけではないというのだ。
「動きの善悪も見てくれる」
「だからですか」
「是非と思ってだ」
「それでなんですか」
「お願いします」
留美さんはまた僕に言って来た。
「私の型見て下さい」
「うん、じゃあね」
「剣道はただ勝負に勝てばいいのではない」
井上さんはまた言った。
「型も大事なのだ」
「型も奇麗でないとですね」
「よくない」
だからだというのだ。
「留美君にもそれが求められる」
「若し型が悪いと」
「今回の昇段審査は失格となる」
つまり二段になれないというのだ。
「剣道は級段ではないがだ」
「それでもですね」
「やはり試験は受けるのならな」
「合格した方がいいですね」
「そういうことだ、だからだ」
「私も受けるのなら」
是非にとだ、留美さんもまた言った。
「合格したいです」
「それで奇麗な型を身に着けたいんだね」
「ですから見て下さい」
「わかったよ、それじゃあ」
「お互いに攻めと受けをする」
また井上さんが言ってくれた。
「見てくれ、今から」
「わかりました」
こうやり取りをしてだ、そしてだった。
僕は井上さんと留美さんの型を見た、まずは留美さんが攻めてだった。井上さんが受けて。今度は攻めと受けが逆になった。その太刀が。
それが終わってからだった、留美さんが僕に問うてきた。
「どうでした?」
「うん、丁寧にしていてね」
生真面目な性格の留美さんらしくだ。
「荒くはなかったよ、ただ」
「ただ、ですか」
「何か慎重に過ぎてね」
攻めの時も受けの時もこう感じた。
「動きが少し固いかな」
「固いですか」
「緊張してた?」
「はい、少し」
「それが出てたかな、井上さんの型は奇麗で」
この人の型も一緒に見ていたけれどだ。
「申し分ない感じだったけれど」
「私の型はですね」
「固かったよ」
僕は留美さんにまた話した。
「いいとは思うけれどね」
「そうだな、私も相手をしていて思った」
井上さんもとだ、留美さんに答えた。
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