八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第四十四話 型その五
千歳さんは笑顔でだ、井上さんに言った。
「有り難うございます、それじゃあ」
「うむ、演劇部に戻ってだな」
「この木刀で殺陣をしてもらいます、皆に」
「先生の言うことをよく聞いてな」
「怪我をしない為にですね」
「部活は心身の鍛錬や楽しむ為のものだ」
井上さんは千歳さんにご自身の部活への考えも話した。
「それで怪我をしては何にもならない」
「だからですね」
「まずは怪我をしないことだ」
第一にというのだ。
「ではいいな」
「わかりました」
千歳さんは確かな声でだった、そしてだった。
その木刀を持って演劇部に戻る、その時に僕にも声をかけた。
「義和さん、それじゃあ」
「うん、それじゃあね」
「私劇場の方に戻りますから」
「またね」
「はい、八条荘で」
こう話してだ、そしてだった。
千歳さんは道場を後にした、道場に残ったのは僕と井上さんだけになった。その時はそう見えたけれどすぐにだった。
留美さんも出て来た、留美さんも上下共に白の剣道着と袴姿だった。その姿で僕の前に出て来てだった。
「先輩、ようこそ」
「うん、お話はね」
「井上先輩からお聞きですね」
「うん、それで道場に来たけれど」
それでもとだ、僕はここで留美さんに尋ねた。
「呼ばれた理由はわからないんだ」
「型だ」
井上さんが僕にここで話してくれた。
「剣道の型を見て欲しい」
「型っていうと」
「知っているか」
「はい、木刀を持ってやる」
「そうだ、実は留美君がだ」
「そうなんです、今度二段の昇段審査を受けようと思っていまして」
ここでだ、留美さんが話してくれた。
「昇段審査には型も観られるんですが」
「それでなんだ」
「先輩に型を教えてもらおうと思いまして」
「それでその型をだ」
井上さんがまた僕に話してくれた。
「君に見て欲しくてな」
「僕を呼んでくれたんですね」
「頼めるか」
「はい、午後まで暇ですし」
少なくともこの午前中はだ、暇なのでいっそのこそ昼寝でもして適当に時間を潰そうかとさえ思っていた程だ。
「僕の方は」
「それならな、見てもらう」
「わかりました、ただ」
「ただ、何だ」
「僕剣道は全くの素人で」
このことをだ、僕は井上さんに正直に話した。
「わからないですけれどいいですか?」
「奇麗かどうかを見てくれればいい」
「そのことをですか」
「そうだ、見てもらえればいい」
それでというのだ。
「奇麗かどうかな」
「それだけですか」
「私も型は覚えていまして」
留美さんは僕にこのことを話してくれた。
「後はです」
「その型が奇麗かどうか」
「そのことを見て欲しくて」
「私と話してだ」
「そうした流れになりました」
「ひょっとして僕に見て欲しいって言ったのは」
留美さんは控えめな人なのでそう言うとはあまり考えられなかった、それで井上さんの方を見て言った。
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