魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico31-B乙女の恋路を邪魔する奴は首チョンパ❤
前書き
メタルギアソリッド1から5GZをプレイし直して思ったこと。MGSはやっぱり楽しいっす
†††Sideイリス†††
カリーヴルストを食べ終えたわたしとルシルは、聖王教会本部へと向けて歩き出す。ルシルと手を繋げようとして、それを妨害してくる買い物袋が目に入った。
「あ、買い物袋どうしようっか」
「だから買うの早くないか?と言ったろうに」
「だって~」
あぅ。ルシルに褒めてもらった服だもん。買いそびれるようなことになったら嫌だったもん。しょんぼり肩を落としてると、「ま、こうすればいいだけなんだけどな。我が手に携えしは確かなる幻想」ルシルがそう詠唱。すると買い物袋がサファイアブルーの光粒子に包まれて、まるで分解されたように粒子化してルシルの胸へと吸い込まれてった。
「俺の創世結界の蔵に移した。これも結構魔力を使うから多用は出来ない。と、いうわけで次の買い物は帰りにな」
「うんっ、ありがとう!」
ルシルの両手が空いた。早速わたしはルシルと手を繋いで歩く。と、「あらあら、イリスちゃんじゃないかい」いつも礼拝堂へ御祈りを捧げてくれるおばさんが声を掛けてくれた。
「おばさん! お久しぶりです♪」
「ああ! そちらの男の子は、あんたの彼氏かい?」
わたしに顔を近づけてニヤニヤって意地悪そうな笑みを浮かべるおばさん。わたしはルシルと繋いでる手を離して、彼から少し距離を取る。そして「わたしの片思い中なの。将来は旦那様にしたいけどね」っておばさんに伝える。
「そうかい。そりゃあ頑張って繋ぎ止めておかないとねぇ」
「そうなの。しかもかなり手強いライバルもいるの」
はやてが最大のライバル。他にも聖祥小のクラスメイトの木花咲耶、シュテルンベルクの弓騎士トリシュが居る。今のところハッキリとルシルを想い慕っているって判るのはわたし含めて4人。ま、ルシルが揺らいでいるのはわたしとはやてだけっていうのは察してるから、トリシュと咲耶は脅威じゃない。
「そのライバルを押さえての逢引かい? やるじゃないかい」
「それでもまだまだ危ういよ」
「なら、あそこ、フリーデン大広場に行ってみると良いさね。ちょうどザンクト=オルフェンは芸術強化月間だしね~。全区の広場で演劇やら歌劇やらが催されてるからね。フリーデン大広場にゃ移動遊園地が来てるよ」
「っ! ありがとう、おばさん、行ってみる!」
ザンクト=オルフェンは古き良き文化を大事にしていて、年に1回、全区を上げて芸術強化月間っていうのを開催する。広場1つを貸し切って、演劇、演奏、歌劇、絵画の展覧会、フラワーデコレーション、ファッションショー、自作映画の上映などなどが1ヵ月間と出展される。出展希望者は、フライハイト家+六家の評議会に申請さえすれば、誰でも出展できるようになるから、ザンクト=オルフェンの住民やミッドチルダ人だけでなく、他の世界の人も来たりする。
「しっかりハートを射止めるんだよ!」
「うんっ! ルシル、次の行き先が決定~!」
「あ、ああ。今度はどこへ?」
「遊・園・地♪」
デートスポットの定番中の定番、遊園地。行き先はフリーデン大広場。中央区アヴァロン最大の円形広場で、以前にも移動遊園地が出典されたことがある。その時はまだわたしは小さくて、遊びに行けなかったけど。毎年来てくれるなら嬉しいんだけど、大体数年に1回しか来てくれない。残念。
「遊園地なんて在ったのか?」
「移動遊園地だけどね」
ルシルに芸術強化月間の説明をすると、「へぇ。良い習慣だな」って感心してくれた。そして「他の広場にも行ってみたいな」って、行き先のリクエストをチラッと呟いたのが聞こえた。囁き声だったから、わたしに聞かせようとしたわけじゃない。けど、ここで大きな器を見せるのも将来の妻の務め。
「遊園地でひとしきり遊んだ後、他の広場にも行ってみようよ」
「いいのか?」
「もちろん♪ 好きな人の要望を聴くくらいの度量の広さは持ち合わせてるつもりよ❤」
ウィンクしてそう言うと、ルシルは「ぷふっ。言うじゃないか」って吹き出して、「でもま、お願いするよ」ってウィンクを返してくれた。これで決まり。遊園地で遊んだ後、ルシルの芸術鑑賞に付き合って、聖王教会本部でちょっとお茶をしてから海鳴市に帰ろう。そういうわけで、移動時間短縮のためにまたバスに乗って、フリーデン大広場へ。
「見えて来た!」
「結構本格的な移動遊園地なんだな」
バスの二階から見えたのは遊園地のアトラクションの数々。停留所に着いて「急ご、ルシル♪」手を引っ張ってバスを降り、フリーデン大広場から放射状に広がる12の大通りの1つ、ツィトローネ大通りを走る。そして・・・
「わぉ♪」「ほぅ」
かなり本格的な遊園地だった。地球ほどのアトラクションのバラエティは無いけど、行き交う親子連れとかカップルとか、みんな笑顔だ。軽快に鳴るBGM、それに笑い声。それらがわたしのテンションを否応にも上げさせた。
「まずは・・・あそこが今空いてるっぽいよ!」
ルシルの手を引っ張って、目に付いたアトラクション――空中ブランコへ向かってダッシュ。数組の行列の後ろに並ぶ。順番はすぐに回って来た。2人乗りのブランコにルシルと一緒に座って、係の人に落下防止のシートベルトをはめてもらって、いざテイクオフ。足が地面から離れて宙ブラリ。ゆっくりとブランコが動き出して、速度は最高速へ。
「ん~、風が気持ち良い~♪」
風で髪が乱れてあんまし人目に見られたくないような状態の中、「わぷっ」ルシルの顔をわたしの後ろ髪が覆った。わたしは「ごめん!」謝りながら後ろ髪を引き戻そうとしたら・・・
「まず纏めておいた方が良かったみたいだな」
乱れ狂うように靡くわたしの後ろ髪をルシルは手櫛で一纏め。そして1房の後ろ髪を使って大本の後ろ髪を縛ってくれた。
「あ・・・ありがと、ルシル」
「どういたしまして」
ルシルに髪を結われた。そんな新しい素敵な思い出が出来た。ルンルン気分の中で、青く晴れ渡る空の中をグルグル回る。なかなかに気持ち良い。そうして2分くらいの空中散歩を楽しんで、空中ブランコから降りる。わたしはすぐさま次の空いてるアトラクションを探す。
「次は・・・コーヒーカップ!」
のんびり歩くルシルを急かすためにまた手を引っ張って走る。ルシルは「そう急がなくても良くないか?」って言うけど、「少しでも速く、数多いアトラクションを乗るなら、これくらいがいいよ!」そう答えた。時間を掛ければ掛けるほど混雑するだろうしね。
コーヒーカップ乗り場へと辿り着いて、「足元にお気を付け下さい」係の人の案内で、ティーカップ型の乗り物に搭乗。7つのカップ全てにお客さんが乗ったことでブザーが鳴る。そして回り始めるカップ。
「ルシル、ルシル! ハンドル回していい?」
カップ中央にあるハンドル。コレを回すことでカップ自体を速く回せるようになるからね。わたしはルシルからの返答より先に「やっぱ回す~!」ギュイーンと回す。するとハンドルに連動してカップが高速で回転。
「やっふ~~~♪」
「シャル! おい! 聴け、この馬鹿!」
「え~、な~に~!?」
「速すぎだ! 他の客がドン引きしてる!」
高速で流れる周囲の景色。そんな中でもわたしの目は他のカップに乗ってるお客さんの表情を捉える。ドン引きって言うよりは「感心してるように見えるけど?」小さく拍手もしてるようだし、笑顔を向けてる子供も居る。ということは・・・
「(ひょっとして・・・)こわいの?」
ニヤニヤとルシルに訊いてみると、「俺が、なんだって?」この高速回転の遠心力の最中でも腕、足を組んだうえでわたしをジト目で見るルシル。わたしは「なんでもないです」小さく頭を下げながらもハンドルを回し続ける。空戦が出来る魔導師・騎士の三半規管ならこの程度の速さ、どうってこともないもんね。
「だから速いっつうに!」
「楽しまなきゃ損だっつうに!」
ルシルがガッとハンドルを鷲掴んで回転を妨害してきたけど、「何事にも全力ぅぅ!」わたしは負けじと回し続ける。その結果、「お降りの際も足元にお気を付けてください」コーヒーカップが止まるまでハンドルを回すか止めるかのちっちゃな争いは続いた。
「目、目が・・・ヤバい、すっごい回ってる、世界が回るぅ~~」
「だから回し過ぎって言ったろうが。ほら、掴まれ」
足元が覚束ない。まともに歩けないほどに目が回ってる。どうやらわたしにはルシルほどの三半規管の強さはなかったみたい。それと、カップの回転を阻止しようとした理由は、わたしのことを考えてのことだったみたい。それを踏まえての「ありがと~」お礼を言って、ルシルの差し出された手・・・を取ることなく腕に抱きついた。
「えへへ~♪」
「はぁ。・・・で、次はどうする?」
グルグル回る視界の中で絶叫が耳に届いたからそっちに目を向ける。決めた。私は次のアトラクション「スカイハイ!」を指差した。日本の遊園地で言うスペースショットのことだ。その近くには逆――急降下するアトラクション・スカイドロップ(ドロップタワーみたいなやつね)がある。自力で歩けるようになる目で待ってもらって、「よしっ、もう大丈夫!」ルシルと腕を組んだままスカイハイ乗り場へと向かう。
「こういう絶叫系って、飛行魔法が出来る人と出来ない人とじゃ違う感覚なんだろうね」
「そうかもな。急上昇も急下降も、魔法運用のおかげで重力なんて感じないからな。しかも自分の意思で行うものだ。カウントダウンがあるとは言え、上昇も下降もアトラクション次第だからな」
『5、4、3、2、スカ~イ・ハ~イ!!』
カウントダウンが始まって、「わふっ!」地上70m近くまで急上昇。他のお客さんからは歓声が上がって、わたしとルシルはなんて言うか、うん、やっぱ慣れっていうのがあるのかな。急上昇のGを感じたけど、あっという間過ぎて。あとはゆっくりと降下。はい、終わり~。
「うん。楽しいのは楽しいんだけど、1回限りじゃちょこっと物足りないかな」
「じゃあスカイドロップってやつはどうする? 今のと逆の急降下モノのアトラクションだが・・・」
「むぅ~。やめとく・・・、あっ。今度はアレにしよう!」
ルシルの手を引いて、キャラセル(日本ではメリーゴーランドって呼ばれるね)へと向かう。ちょうどお客さんの乗り換え直前で列に並ぶことが出来た。
「メリーゴーランドか。まぁ、君らしいと言えばらしいか」
ルシルがそんなことを言った。らしい。メリーゴーランドがわたしらしい。それはつまり女の子らしいって事になるわけで。ルシルぅ、こやつめぇ、わたしをちゃんと女の子として見てくれてるんじゃない。
「騎士って言えば騎馬。シャルに馬、だな」
「・・・・チッ」
「何故に舌打ち!?」
今どき、騎士に騎馬なんて考えを持ってる人ってそうそう居ない。あ、でもパラディンの中には騎兵騎士レイター・パラディンの階位もある。まぁ、乗るのは馬じゃないけど。
「俺、何かまずいこと言ったか?」
「・・・・ううん。わたしの早とちりが原因。変に怒ってごめん」
素直に謝ると、「そっか」ルシルは深く追求することなくわたしの頭を撫でてくれた。素直なのが一番なんだね。でも素直に告白しても一発芸扱いされるんだけど。それだけはどうにかしてほしいなぁ。そんなことを考えながらメリーゴーランドのステージに上がる。そして馬に跨ろうとした時・・・
「お姫様はこちらです」
ルシルが馬車の乗り口の前で一礼してた。わたしは少し吹き出した後「はい!」ルシルの側まで行って、差し出されたルシルの手を取って馬車に乗った。そしてルシルは馬車に繋がれるようにある馬に乗った。騎士とお姫様って感じで、「ふふ♪」すごく嬉しい。でもちょっぴり向かい合って話がしたかった、って思った。けどそれは大観覧車までとっておこう。
「お姫様、お手をどうぞ」
2分間のメリーゴーランドが終わって、乗った時と同じように差し出された手を取って馬車やステージを降りて、次のアトラクションをどれにしようかな、って辺りを見回してると・・・
「「あー! シャルとルシルだぁー!」」
ものっすごい聴き憶えの声が聞こえた。遅れて「イリス、ルシル様。お2人だけですか?」3人目の声が。そっちに目をやると、出来れば会いたくなかった3人が居た。うち2人は同じ顔。ミルクティブラウンの髪は、片方は腰まであるロング、片方は肩までのセミロング。瞳は共に桃色。もう1人は、髪色は銀で髪型はインテーク。ルシルとおんなじ。そして着てる服は揃ってザンクト・ヒルデ魔法学院の中等部の制服だ。
「セレネ、エオス、それにトリシュじゃないか!」
そう、わたし達に声を掛けてきたのは、セレス、エオスのスクライア姉妹と、恋のライバルの一角であるトリシュタン・フォン・シュテルンベルクだった。
(なんたること! ライバルのトリシュだけじゃなく、いろいろと騒がしいスクライア姉妹が一緒なんて・・・!)
ルシルとのデートがメチャクチャにされる。どうすればいい。こうなったら・・・戦るしかない、のかも。どう排除しようかと考えてる最中、「セレネ達は学校帰りか?」ルシルがフレンドリーに話しかけた。ああもう。喋り出したら余計にわたしとルシルの2人っきりの時間が無くなっちゃうじゃない。馬鹿。
「「そうだよ。学校帰りで、広場巡りしてるの」」
「古書売り場などを巡っていました。見てください、ルシル様。なかなかの掘り出し物を安く手に入れることが出来ました!」
「どれどれ。おお! 絶版になっている本のオンパレードじゃないか! 読み終わったら貸してくれないか?」
「もちろんですとも♪ あとで感想をお聞かせください!」
「ああ。感想などは個人の捉え方によって違うからな。新鮮な見方が出来るから楽しいんだよな」
「あ、そうなのですよ!」
ルシルとトリシュがあんなに楽しそうに喋ってる。ふつふつと湧き上がってくる嫉妬心、そして寂寥感。そんなわたしに「ねえねえ、私たちもこれから回るんだ。一緒して良い?」なんて悪魔の提案を、セレネとエオスがぶっ込んできた。
「そう言えば、俺が入院している時に何度か見舞いに来てくれたんだよな。その礼もしたいんだが・・・」
ルシルがチラッとわたしを横目で見た。そうだよ、今はわたしの誕生日プレゼント――デート中なんだよ。断って、断ってよ、断れ。
「セレネ、エオス、それにトリシュ。すまなーー」
だけどその願いも虚しく「決まり! 人生初の遊園地巡りへゴー♪」セレスとエオスが、ルシルの両手を取って歩きだした。
「・・・ごめんなさい、イリス。その、せっかくのデートでしたのに。セレネさんとエオスさんは必ず、私が引き離しますのでそれまで堪えてください」
トリシュが本当に申し訳ないって顔で謝ってくれた。トリシュはわたしの邪魔をするつもりはなかったみたい。それが判っただけでも「ううん。ありがと」良かった。そしてわたし達は、セレネとエオスの気の向くまま、ミラーハウスに入ることになった。屋内の通路が鏡で出来ているミラーハウス。1分おきにセレネ、エオス、ルシル、わたし、トリシュの順番で入ってく。
「あいたっ! あぅ~、鼻打った~」
ペタペタと鏡に触れてルートを探るんだけど、これがなかなかに難しい。床を見ても鏡に反射していてサッパリなのだ。トボトボ歩きながら「んもう~。ルシルはどこなの~?」ルシルの姿を捜す。そしてふと、鏡に映る自分の顔を見て「ひどい顔・・・」今にも泣きそうな顔してるよ、わたし。
「はぁ。トリシュ~、出来れば早くお願いね~」
わたしの後にミラーハウスに入ったトリシュに縋るしかないよ。溜息を何度も吐きながら進んでると「あっ、ルシル!」の姿を発見。ここがミラーハウスだっていうことを忘れて走ったその瞬間、「あ痛っ!?」顔面を鏡に強打。
「おうふ・・・!」
顔を両手で押さえてよろよろと後退する。2度も鼻を打ったことで鼻血が出てないかを鏡で見たその時、「なっ、はぁ!?」信じられない光景が目の前にあった。ルシルが、エオスと抱き合ってた。
「何しとんじゃぁぁぁぁーーーーっ!!」
走った。うん、わたしって学習能力の無いお馬鹿さん。目の前に在るからって言ってもここはミラーハウス。実際に目の前に居るわけじゃない。はーい、3度目の「みぎゃっ!?」鏡に激突。救いは、打ったのは鼻じゃなくて額だったこと。でもその衝撃は強くて、後ろに倒れ込んで尻もち。
「・・・う・・・ぅう・・・もう・・・やだ・・・」
泣けてきた。ていうか、涙が出た。さっきまではあんなに楽しかったのに、どうしてこうなっちゃうの。鏡に映るわたしの顔は、額も鼻も、目も赤くなってた。このまま蹲ってたいけど、他のお客さんも来るかもしれないから懸命に立ち上がって、鏡に手を付いて歩きだす。
「・・・あ、イリス! 追いついてしまいましたね」
背後から声を掛けられたから振り向く。そこにはトリシュが居て、「イリス!? どうなさったのですか!?」わたしの顔を見てギョッとした。そして「申し訳ありません。早々に立ち去るべきでした」今のわたしの様子を見て全てを察してくれたよう。
「ミラーハウスを出たらすぐにでも私たちは去りましょう。少し待ってください。理由を作ります。・・・とりあえず出口を目指しましょう」
わたしの手を引いて立たせてくれたトリシュに続いてわたしも歩きだし、そしてトリシュはどこかに通信を繋げ始めた。わたし達の目の前にモニター2枚が展開される。そこに映し出されたのは、わたしにとっても友達・・・
『はい。アンジェリエです』
『クラリスだよ~』
『どうかしました? トリシュ』
エメラルドグリーンの長髪はポニーテール、澄み切った青色をした瞳のアンジェリエ・グリート・アルファリオ。そしてスノーホワイトのショートヘア、アップルグリーンの瞳をしたクラリス・ド・グレーテル・ヴィルシュテッター。その2人もザンクト・ヒルデ魔法学院中等部の制服を着てる。
「アンジェ、クラリス。今、お暇ですか?」
『はい。全く以って暇です』
『だから今、カッツェ広場の絵画展に来てるんだよ』
「それはちょうど良いです! 今から合流しましょう。私とセレネさんとエオスさんはフリーデン大広場に居るのですが」
『移動遊園地が出展されている広場ですね。判りました。フリーデン大広場とビルネ大通りの接続地で待ち合わせ、でいいです?』
「ええ。それでお願いします。ではまた後ほど」
トリシュはわたしがモニターに映らないように気を付けながら通信をして、そして切った。
「イリス。ミラーハウスを出た後、人だかりの中に入りましょう。そこではぐれたフリをしてそのまま別れましょう。そして随時、思念通話でお互いの居場所を確認し合えば、バッティングしないでしょう」
「トリシュ・・・。どうしてそこまで・・・?」
「私とて、好きな方とのデートを邪魔されたくありませんから。ですから、あの、もし私もルシル様とデートをするようなことがあれば・・・」
「その時は誠心誠意、全力を以って邪魔者を排除します」
はい、トリシュの恋路に協力することが確定した瞬間でした。でもまぁ、「ありがとう」お礼はしよう。上手くいけばまた、ルシルと2人きりのデートに戻れるんだから。そしてわたしとトリシュはミラーハウスを脱出。出口付近にはルシル達3人が待っててくれた。んだけど・・・
「ヘイ、ルシル。訊きたいことがあるで~す」
「なんだ、その語尾は? というか、なんで怒ってる?」
「胸に手を置いて訊いてみればよろしいで~す。ちなみに自分の胸ね。エオスの胸に触れたらマジで首を飛ばすで~す」
「は?」「え?」
キョトンとするルシルとエオス。エオスは自分を指差して「私も関係してるの?」って、わたしとルシルを交互に見る。ここで、あれ?って思うわたし。よく考えれば、ルシルとエオスが抱きつく意図が判らない。だってエオスも、姉のセレネも、ユーノが好きなんだから。
「(ひょっとして、わたしの早とちり・・・?)あ、あのさ、ルシルとエオスって、ミラーハウスで抱き合ってた・・・よね・・・?」
「「・・・・・はぁ?」」
ヤバい、確実にわたしの早とちりだ。ルシルもそうだけどエオスの、なに言ってんの?って表情はとてつもなくマズイです、女の子が浮かべて良いようなものじゃないです、はい。どうやら鏡の屈折でそう見えただけのようで。ただ「ごめんなさい」謝るしかなかったので~す。
「イリスの誤解も解けたそうなので、次のアトラクションへ参りましょう」
トリシュの視線がわたしに向いたから頷き返すと、トリシュも小さく頷き返してくれた。さぁ作戦開始。みんなで次のアトラクションを探すため歩きだす。機会はすぐに訪れた。目の前の人だかり。トリシュとわたしが先頭に立って、人だかりに突っ込む。そして「ルシル、手!」ルシルに手を差し出す。
「あ、ああ・・・!」
ルシルと手を繋いで、トリシュ達とは別方向へと駆け抜ける。人だかりを抜けて周囲を確認。そこにトリシュ達の姿はなかった。ホッとしてると『私たちはこのままビルネ大通りへ向かいます』トリシュから思念通話が来た。
『本当にありがとう、トリシュ。お礼は必ずするから』
『はい♪ では次の行き先の連絡の時に』
思念通話を一旦切る。と、「トリシュ達とはぐれてしまったな」ってルシルが周囲を見回した。まさか、捜そう、なんて言わないよね。
「・・・あの3人には悪いが、このまま行こうか」
ルシルがそう言ってわたしの手を引っ張って歩きだしたから「え? いいの?」って訊き返す。
「今日は君の誕生日プレゼントとしてのデートだからな。さすがにトリシュ達みんな一緒とはいかないだろ。だから君と2人きりになるにはどうすればいいか考えていたが、偶然にも別れたからな。このまま2人で行こう」
「っ・・・、うんっ♪」
こんなに優しいルシル、初めてかも。毎日がこんな風なら良いのになぁ。ルシルの右手と繋がれてるわたしの左手に少し力を込める。離さないように。夢が覚めませんようにって祈りながら。
それからわたしは、トリシュにわたしとルシルの次の行き先、ローラーコースターを伝えた。トリシュはアンジェ達と無事に合流を果たして、反対側にある別のローラーコースターに行くとのこと。
「ルシル、アレに乗ろう! 今、ちょうど空いてるし!」
「ジェットコースターか。いいぞ」
待ってたのは2組4人。その後ろに並ぼうとした他のお客さんより早く列に並ぶ。そのおかげもあって1分とせずにコースターに乗ることが出来た。全長2600m、最高速度155km/h、最高部高度93m、最高落差89m、最大傾斜度63度のコースターに乗り込んで、発射されるのを待つ。ブザーが鳴る。ゆっくりと動き出して、3mほど進んだ直後で急加速。
「わっふぅ~~~♪」
他のお客さんの絶叫の中、わたしは笑い声を上げ続ける。チラッとルシルを見ると、楽しんでくれてるみたいで笑顔を浮かべてた。そして約3分のコースターを楽しんで、次はどのアトラクションにしようかって辺りを見回す。で、ちょっと早いけど「観覧車に乗ろう!」フリーデン大広場のど真ん中に建つ大観覧車を指差す。
「早くないか?」
「でも、他の広場の展覧会にも行かないといけないし、教会本部にも行きたいし。だから観覧車に乗ったら、ここを後にしよう」
わたしは芸術とかそういうのには知識も無ければ興味も無いけど、ルシルの行きたい所にも行ってあげないとね。だから遊園地での時間は大観覧車で終わり。ルシルは「ありがとうな」って微笑んでくれた。
「んっ♪ じゃあ並ぼっか」
大観覧車の列に並んで、順番が来るのをルシルとお喋りしながら待つ。そんで10分くらいが経過した後、ようやく順番が回って来た。遊園地でのデート、その最後に乗るものと言えば観覧車。出来れば夜景を見たかったけど、残念ながらまた日中。夜景の中での観覧車はまたの機会にとっておこう。
前のカップルや親子が次々と乗り込んで行く中、ピピピ、と通信が入ったことを報せるコール音が鳴った。モニターを展開することなくサウンドオンリーで繋げる。
『ルシル君、シャルさん!』
通信を入れてきたのは予想外にもほどがあるリインだった。その切羽詰まった声色に、緊急事態が起きたってすぐに察したわたしとルシルは「お先にどうぞ!」後ろに並んでたカップルに順番を譲って列から飛び出した。
『海鳴市で何かあったのか、リイン!』
『あの、実は、リイン達もザンクト=オルフェンに来ていてたんですけど・・・!』
わたし達、特戦班に尾行されてたわけか。ううん、今はそんなことどうでもいい。とにかく何があったのかを訊こうとしたら、ドォーン!とド派手な爆発音が遠くから聞こえてきた。そっちを見ると黒煙が上がってた。間違いない。あそこになのは達が居る。でも黒煙の上がってる場所からして、目視できるほどの距離までは尾行して来なかったみたいだけど・・・。
『あの、リンドヴルムの襲撃が・・・! きゃああああ!』
『『リイン!?』』
通信が切れた。今の爆発の所為でフリーデン大広場が悲鳴に溢れる。騒々しくなる人たちの中でわたしとルシルは騎士服へ変身。
「ルシルは先に行って! わたしは教会本部に連絡して、教会騎士団の出撃要請をしとく!」
ザンクト=オルフェンに管理局の陸士隊舎は無い。ここの自衛戦力は教会騎士団のみだ。だから騎士団の一員でもあるわたしが連絡をしないと。
「ああ、判った!」
――瞬神の飛翔――
空戦形態になったルシルが空へ上がり、真っ直ぐ黒煙の上がる方へと飛び去って行った。それを見送りながら教会騎士団へ連絡を入れる。避難誘導のための人員や救出班の編成の要請。対リンドヴルム戦力はわたし達だから、武力は必要ないことを伝える。
(ザンクト=オルフェンで管理局員が戦闘することはあまり良くないって言うのに・・・! ルシルとのデートを邪魔してくれたツケはしっかりと払ってもらうから!!)
ザンクト=オルフェンはベルカ人が自治する領地だ。だから管理局の干渉は受けないようにしてる。つまり特戦班の戦闘行動は本来なら許されない。けど、そうは言っていられないのも確か。評議会に怒られるかもしれない。でもこうなった以上は干渉を許してもらうしかない。
「「「イリス!!」」」「「シャル!」」
通信を終えてすぐ、トリシュ達がわたしの元へ集まった。みんな防護服を着用済み。そのうえで「なにか手伝えることは!?」そう訊かれたから、ここの大広場に居る人たちの避難誘導を任せることにした。
クラリスは教会騎士団員と局員の二足の草鞋で、トリシュとアンジェはザンクト=オルフェンを知り尽くした教会騎士団員、セレネとエオスはまぁ一般人だけど、居ないよりはたぶんマシ。だから任せられる。
「さっき騎士団出撃を要請したから、それまでは避難誘導は任せる!」
――真紅の両翼――
背中から一対の魔力翼を展開して空へと上がる。目指すは何度も起こる爆発と黒煙が上がる場所。こんな距離でも判る。今、ザンクト=オルフェンに居るリンドヴルムは・・・って言うよりは、神器のレベルがかなり高いって。
クラナガンの悪夢以降、ルシルは念のためって、なのは達みんなに“ドラウプニル“って神器を渡した。その神器効果は魔力に神秘を付加して、さらに魔力量を増加させるというもの。でも、それでも・・・不安は消えない。
「なのは達を傷つけたら・・・お前たちの首を撥ね飛ばしてやる・・・!」
起動した“キルシュブリューテ”の柄を強く握り締めて、わたしも黒煙の上がる場所へと飛んだ。
後書き
サワッディー。
はい、そういうわけで、シャルシルのデート回はこれにて終了です。次回は、戦闘パートに突入か、文字数によってははやて達はこの時に何をやっていたのか、をお送りします。
さて。9月2日の水曜日、メタルギアソリッド5・ザ・ファントムペインが発売されます。ひょっほー! そういうわけですので、次回の更新、最悪来週と再来週の2回の更新をお休みとさせていただきます。
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