八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第四十三話 朝のランニングその九
「ずっと座っていて」
「いや、ない」
「それはないんですか」
「そしてだ」
「そしてですか」
「よく肩を叩かれると思うな」
「あれは痛くないですか?」
実はこのことも聞こうと思った、けれどだった。
僕が尋ねるその前にだった、井上さんは言って来た。
「叩かれますよね、座禅していたら」
「いや、叩かれることがあってもだ」
「それでもですか」
「あれは心に喝を入れるだけでだ」
「その為に肩を叩くからですか」
「痛くはしない」
そうしたことはだ、一切しないというのだ。
「座禅は痺れたり痛くなったりするものではない」
「そうなんですね」
「そうだ、そうした苦しいものではない」
「何かそうした修行だと思っていましたけれど」
座禅をする禅宗は厳しいと聞いている、それで僕は今までそう思っていた。けれどそれは違うというのだ。
「違うんですね」
「そうだ、かえって気持ちがよくなる」
「座禅は」
「そうしたものだ」
僕にこうも話してくれた。
「だから試しでもだ」
「してみるといいんですね」
「そういうことだ」
「わかりました、じゃあ考えさせてもらいます」
「それではな、それでだが」
「はい、今度は」
「今朝は済まない」
今度は謝罪だった、井上さんは立ち上がり僕と正対してからそのうえで帽子も取って深々と頭を下げてきた。
「夜に皆にも謝るが」
「大掃除のことですか」
「そうだ、急にあんなことを言ってな」
それでというのだ。
「申し訳ない」
「別にいいです、実際にお掃除はいいことですから」
僕はこう井上さんに答えた。
「謝られる必要はないです」
「そう言ってくれるか」
「はい、それに」
「それに?」
「あまり頻繁に謝られることは」
「よくないか」
「そう言われました」
僕は井上さんにこのことも話した。
「親父に。謝ることも必要ですけれど」
「それでもか」
「あまり頻繁に謝ることはよくないと」
「それは何故だ」
「はい、謝ることは軽いことじゃない」
親父は僕によく言っていた、だから他人にも無闇にそんなこと言うなと。
「ですから」
「成程、よいご父君だな」
「まあいい親父かっていいますと」
そう聞かれるだった、僕としては。
「まあそれはその」
「頷くことは難しいのだな」
「何しろそうした親父ですから」
だからだとだ、僕は井上さんに答えた。
「酒好きの女好き遊び好きで」
「確かによくないな」
「井上さんだと絶対に駄目ですよね」
「勿論だ、そんないい加減なことは駄目だ」
井上さんがこう答えるこおてゃわかっていた、何しろ生真面目な人だからだ。その井上さんがうちの親父を好きになるとは思えなかった。
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