魔法少女リリカルなのは Searching Unknown
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第三話
前書き
彼らの話も入れなくてはなりませんね。
「クラナガンで行方不明者が急増?」
「そのようなんですよ」
局員食堂で昼食をとっていた直人の元を訪れたのは、無限書庫の司書見習いであるユーノ・スクライア。直人が入局してからはお互いに部署が違うこともあってあまり顔を合わせることもなかったが、今回はユーノが直人に会いに来たようだ。
「確かに言われてみれば、ここ一ヶ月で急増しとんな」
「最初は別の世界から持ち込まれた大規模な儀式の生贄にされたのではと捜査が進められていたんですよ」
「被害者は見たところ、低所得者の若い男女ばかりだし、割のいいバイトやとか勧められたらホイホイされるのも無理はないかもなぁ」
直人の前には厚切りのフレンチトーストとベーコンエッグ、ユーノはトマトソースパスタを持ってきた。食事時にする話には思えないが、タイミングが合わないのなら仕方ないのかもしれない。
「わかった。それとなく調べさせとくわ。そういうの専門の知り合いがおるし」
「あら、お互いの全てを見せ合った女を知り合いで片付けるの?」
「お前はどっから湧いて出た!」
そしていつの間にか近くに来ていた自称直人の愛人である女性が、誰がこの世界に広めたのか石焼きビビンバのようなものを手にして平然と直人の右側に座る。
「あら、人をボウフラみたいに言うのね」
「いつの間にか俺の近くで福本みたくザワザワすんのはやめて、どうぞ」
「フクモトが何かはわからないけど、こうした時のあなたが面白いんだからやめられないわね」
「こんの……」
直人は諦めてベーコンを口へと放り込む。その隣で石釜の中をかき混ぜながら女性はユーノに尋ねた。
「それで、行方不明者が今月に入って急増してるって話だったわね?」
「え、ええ、そうです。その件で無限書庫に数々の世界の血腥い魔法の歴史とかに関する依頼が来て、直人さんならそういうの詳しいかなぁって思ったんですけど」
「確かに地球ではそんな話はしたけど、正直ほとんど眉唾もんだったり何の意味もないもんとかばっかやしなぁ。調べてて面白いのは面白いんやけども」
実際、現在地球で伝えられていたり残っていたりする魔術には残酷なものも多いのは確かだが、そもそも地球自体がこの時空管理局のあるミッドチルダからすれば辺境の星に当たるのだから、そんなマイナーなところから引っ張ってきてどうすんのよというのが直人の見解。しかし隣にいる女性は異を唱えた。
「あなたたちだってあるじゃない?こんな珍しいものを知った時に自慢したくなる気持ちって。多分それと同じようなものじゃないかしら」
「あー、言いたいことはわかるけどこれはそんなレベルを超えてるどころかぶっちぎって遥か彼方に追いやってるような話やと思うんやが」
確かに、実際現れている数字からすれば、そういった子供じみたことを唱えるにはいささか度が過ぎていると思われる。しかし、それも本人の意識次第でどうにでもなるものだと女性は返した。
「いい例がいるじゃない、フレディ・アイン=クロイツっていう奴が」
「あれを引き合いに出すな。どこで誰が聴いてるかわからんやろ」
直人は既にフレディがどういう人間か知っているため平然とネタにできるし彼の周囲の人間もまた同じだ。しかし大半の局員からすれば、彼は英雄と讃えられるか畏怖の存在として恐れられているかのどちらかだ。噂をすればなんとやらとはよく言うもので、いつ本人がどこから近づいてきたものかわかったものではない。
「とりあえず、何かしらの組織が関わってたとしたら面倒や。一応調べれるだけ調べてくれんか」
「了解。まぁあまり期待はしないでね」
「とりあえず早く食べましょ……」
冷めてしまう前に、料理を腹へと放り込んでしまいたい三人であった。
夕暮れを迎える海鳴市に存在するJS楽器店。音楽を愛する者たちがああでもないこうでもないと悩む最中、この場所に相応しくない来客が事務室を訪れていた。
「とりあえずかけたまえ、簡単に終わる話ではないだろう?」
「そうだな、事と次第によっては、お前さんを殺さなきゃならないくらいには重要な話だ」
「また物騒な事を言うな、君らしいが」
「俺の何を知ってるっていうんだい?」
数日前にグレアムから情報を得たフレディが、ジェイルを訪ねて来た。ラフな私服で近所にたまたま知り合いがいたからという雰囲気を出しているが、その眼光は鋭い。
「私とて管理局員の端くれだよ?局内に有名なものがいれば耳にも入るさ。それも暗部の人間ともあれば、私の部署とも無関係とはいかない」
「それもそうだが、無駄話はここまでにしないか?」
「ふむ、そうだな。私もまだ店の業務がある。いつまでもバイトや彼女たちに任せっきりというわけにもいかん」
「ちゃんと店長してんだな、感心感心」
「で、何が聞きたいんだ?」
フレディの軽口を流しでジェイルが促すと、フレディがさらに威圧感を増してジェイルに迫る。
「お前さんだろ、あのロストロギアに手を出したの」
「……グレアム提督か。ああ、そうだ。どういうものか気になるだろう?」
「確かにお前さんの部署はそういうところだ。それにお前さん自身仕事が趣味みたいなところがあるのは承知の上。でも流石にあれに手を出すのはどうなんだ?え?」
フレディの口調は変わらないが、放つ雰囲気がどんどんと血腥くなる。なにか一言でも機嫌を損ねることを口走ればその場で屍ができかねないほどに。
「……何をそんなに怒っているのかわからないな。あれに手を出したことで何か君に不都合でもあるのか?」
「正確に言えば『あった』が正解だ。俺がこの世界に来たきっかけでもあるし、事と次第によっては俺の名に関わる事態なんだよ」
「そうか。まぁ確かに、『あれ』を強奪されたのは私の落ち度であることは間違いない。故にその件に関しては既に上層部に謝罪文と共に文書で報告している」
「だからあんなクソつまんねぇ任務が俺に降りてきたってわけか。全てお前さんの失態で。最高にハッピーな休暇中に」
「……そういうことだったのか。すまなかった」
ジェイルが素直にフレディに頭を下げた。それを見たフレディは満足そうな笑みを浮かべると殺気を消す。
「ま、お前さんのミスだってのがわかったしこれ以上は不問にしてやる。こういうのもウチの仕事の内だし、休暇潰されんのもいつものことだからな」
「感謝する」
「さて、本来ならこのまま街を散策と行きたいところなんだが、俺は生憎外回りの勤務中でね、そろそろ戻らねぇとまたバカ共が騒ぎ出しかねない」
「わざわざ仕事中に来てくれたのか?ますます申し訳ないな」
「構わん、どの道暇な身だからな。だがこんなところまで出向いたまんま手ぶらで帰ったらそれもそれで上からガタガタ言われかねない。まぁ今更別にどうでもいいんだが、『あれ』に関して何かわかったことは?」
「上層部に既に報告済みだ。一部を除いてな」
「……その一部ってのは、どこにもばらせないネタなのか?」
「そうだ。確証が得られていないのもそうだが、これがもし本当ならあまりに危険すぎる」
「どれくらい危険なんだ?」
危険という言葉が相当大好きなのか、嗜虐心をむき出しにした満面の笑顔を思わず漏らしてしまうフレディ。それを見たジェイルは少し表情を引きつらせながら、彼の耳元で囁いた。
「もし私の仮説が正しければ……『あれ』を竜二君が、いや、正確に言えばアスカ君が使えば、君という存在を一片残らず消滅させかねないほどだ」
ちなみにこの時間に働いていた矢吹は、何かをした覚えもないのに「死にそうなほど怖い空気が事務所から何度も漏れていた」と語っていたとか。
深夜のクラナガン。フレディが未だ戻らない中、行方不明者が出ないか捜索と不審者対策の警戒を強化していると思しき警察官が大量に街を巡回している。私服でこそあるが、懐に物々しい装備を隠しながら。そんな警察官と喋りながら、遊び歩いているのは直人と神出鬼没なあの女性であった。デートなのか、お互いにラフながらも小綺麗な格好をしている。
「ホンマに警官増えたなぁ、お仕事ご苦労様でしたってやっちゃで」
「仕方ないわね、公にはできないけど、暁の人間がクラナガンにも潜伏してるって話もある以上は」
直人はグレーのテーラードジャケットに白のワイシャツ、空色のチノパンにダークブラウンの革靴というコーディネートで、尻ポケットに腰まで伸びた同色の革紐がついている赤い長財布を指している。海鳴での所謂チャラいファッションはいつの間にかやめていたらしい。
「まぁおっても不思議ではないよなぁ。なんやかんや地下組織ではデカイわけで」
「そうなのよねぇ、忌々しいことだけど」
「お前からそんな言葉を聞くとは思わんかったで」
「あらそう?意外?」
女性は淡いピンクの長袖ブラウスに紺のミニスカート、ワインレッドのパンプス。肩からオレンジ色が眩しい細紐のバッグを提げている。谷間を強調するためか胸元が軽く開けられており、ちょうど狭間に浮かぶような位置に小さなネックレスが光る。
「さて、ここか?お前が前言うてた店って」
「そうよ、美味しいパスタが頂けるわ」
「へえ、価格相場は?」
「あら、払うつもりでいたの?」
「……なんやろうこの敗北感、一応そこそこ稼いでるんやけども」
「悪いけど、まだ私のほうが上ね」
世間の風はいつだって若者には強く吹き付けてくるものである。
「山口直人、確認。しかけますか?」
『店から出るまで待て、余計な騒ぎは無用だ』
「Yes,sir.」
しばらくして二人が店から出てくると、女性は直人の手を掴むと強く引っ張り駆け出した。
「走って!」
「どないし、うわっちょ?街中やぞおい!?」
直人のいた地点に火花が起きると、しばらくして小さい魔力爆破が起こった。着弾すると時限式で爆発するようセットされていたらしい。もちろん殺傷設定であるため、周囲に炎こそおきないが衝撃が襲う。
「とうとう尻尾出してきたわね。ジューダス、今の魔力パターンとった?」
『Of course.』
「おいお前いつの間に……」
「主のためにいつでも全力、それがあなたの相棒よ。誰がシステム組んだと思ってるの?」
「……せやったな」
『Master,caution!Please not stop!』
「了解!とりあえず広いところに誘い出してからやな!近くやとどこがある?」
『Please wait……』
しばらくしてジューダスが地図を空中に描く。現在地と目的地、そのルートまでご丁寧に載せて。
「サンキュ!そこまでマラソンやで!」
「ええ!」
ジューダスが指定したのは、クラナガンでも有数の広大な公園。既に通報済みか、サイレンが街中に響く。
「奴さんの姿はわからんのやね?」
「何分暗いものね……でも街中でのセットアップは直属の上司に許可を出さないといけないんじゃないかしら?」
「せやから警察呼んだんやろ。周囲の警戒を怠るなよ」
「当たり前でしょう」
そして彼女はバッグから何かの機器を取り出し操作すると地面に置いた。するとそこから簡易の魔法障壁が展開される。
「やっとこの子の出番ね」
「休憩とれそうなんかい?」
「油断はできないけどね」
しばらくすると警官隊が現れた。物々しい武装をしているところ既に情報は把握済みのようだ。現場主任と思しき壮年の男性が数名の警官を直人たちの元へと残すと、すぐさま公園内を捜索に入る。
「来るのが遅れて申し訳ありません。大丈夫でしたか?」
「幸い怪我はありません。荷物も全て無事です」
「よかった、後は我々にお任せ下さい」
「お願いします」
警官はしきりにインカムと情報を確認しあいつつ警戒態勢を外さない。付かず離れずの距離で足を止めないまま周囲に目を配る。
「しかし、流石にこうなったら奴も終わりじゃろ」
「ただ、こういうことをしてくるのは組織の末端よね。芋づる式に情報が上がればいいのだけど」
「せやなぁ……でもそれは望み薄やろなぁ」
「わかってるわよ。しかし、帰り間際に面倒事に巻き込まれたわね」
「ま、これに懲りずにまた遊んだらええやんか」
「また遊んでくれるの?夜も期待していい?」
「お互い連休取れへん体で何言うとんねん」
「ふふっ……」
しばらくして、無事犯人は逮捕された。二人はそのまま局員寮に帰り、翌日から始まる勤務に備えて床についた。
後書き
クラナガンの警察は優秀です。警察でもどうにもできないような輩の時には管理局の首都防衛隊などが動きます。
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