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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico29新暦66年:クラナガンの悪夢~Second coming~

†††Sideなのは†††

ルシル君が目を覚まして、本局からミッドチルダに降りて来て、さらにはリンドヴルムと交戦して、そのうえ神器持ち3人を撃破・逮捕した。機動一課の本部からその連絡を聴いた私は、そういう状況でもないのを理解してるけど「やった!」すごく喜んだ。というか、強すぎるよ、ルシル君。

「つっても状況は変わらずやべぇぞ。全員が神器持ちっつうドラゴンハート。しかもそいつら、あたし達がとっ捕まえた3小隊や神器を奪還しやがった」

「あ、うん・・・。あっ。あの、落ち着いて下さい! 急がず焦らず、前の人を押さないで!」

私とヴィータちゃんは今、ミッドチルダの首都クラナガンに新たに現れたリンドヴルム・ドラゴンハートの人たちが破壊した建物の瓦礫から逃げ惑う民間の人たちを避難させてる。同じチームだったルミナちゃんとベッキーちゃんは、崩れた瓦礫の撤去や埋もれた人たちの救助を手伝ってる。

「またビルが崩れた・・・!」

遠くの方で煙が空高くまで上がってるのが判って、遅れて振動と轟音がここまで届いた。ヴィータちゃんが「ドラゴンハートって連中、遠慮なく壊していきやがる・・・!」って怒りを顕わにした。他の小隊はここまで派手に暴れなかったのに。本当に酷いよ。それから民間の人たちの避難の手伝いを続けていると、「きゃあああ!」悲鳴が聞こえた。

「なのは! リンドヴルムだ!」

ヴィータちゃんが指差した方向に、こっちに向かって飛んで来る軍服姿のリンドヴルム4人の姿があった。あの人たちは「ドラゴンヘッド・・・!」で間違いない。私たち東部担当チームが捕まえた人たちだ。けど、ルミナちゃんが相手にしたヘッド1、杖持ちのヘッド6の姿は見えない。

「あ、あの子供たちは・・・!」

ショットガン型のデバイスを持った女の人が私たちに気付いた。だけど別の男の人が「放っておけ」って女の人の肩に手を置いて、先へ行こうと促した。でも女の人は「許せない・・・!」肩に置かれた手を振り払って、ショットガンの銃口を私とヴィータちゃんに向けた。すると民間の人たちが悲鳴を上げて四方八方に逃げ出し始める。

「あ、ダメです! そっちは危ないですから、戻ってくださ――」

「ここに居るよりは安全だわ!」

「局員ならしっかり民間人(おれたち)を護ってくれよ!」

「そもそもこうなる前にしっかりと犯罪者を取り締まれよ!」

「狙われてるのはあなた達でしょう! 近づかないでよ!」

私とヴィータちゃんに向けられる罵詈雑言。やっぱり辛いものがある。でも、だからと言ってここで引くわけにはいかない。私たちは管理局員だもん。ヴィータちゃんが「なのは! お前は防御担当だ! んで、あたしが攻撃担当!」そう言って、ドラゴンヘッド4人に向かって突っ込んで行こうとしたら、止めに入った男の人が「いい加減にしろ」女の人を平手打ち。

「え・・・?」「な・・・!」

私とヴィータちゃんが呆けていると、女の人はショットガンを降ろして渋々と隊列に戻った。そして「任務を続行する」って男の人が告げると、再びどこかへと向かって飛び去って行った。ヴィータちゃんが「待て、おい!」って追いかけようとしたけど、「待ちなさい」ある声によって遮られた。

「ナカジマ准陸尉」

「アルピーノ准陸尉」

首都防衛隊の分隊長、クイント・ナカジマ准陸尉と、同じく分隊長のメガーヌ・アルピーノ准陸尉だ。私たちにここの避難誘導を務めるように指示を出してくれたお2人。そして分隊員の人たちが6人。ナカジマ准陸尉は「追跡をする前に、まずは引き継ぎを。ね?」そう言って、民間の人たちに声を掛けて再整列させて、「みなさん、安心してください。どうぞ焦らず、慌てずに避難してください」アルピーノ准陸尉が歩を進ませる声掛けをする。

「ここの避難は私たちに任せて――」

「あなた達はリンドヴルムの追跡、および逮捕を」

「「お願い出来る?」」

「「・・・はいっ! お任せください!」」

私とヴィータちゃんはお2人に敬礼して、一気に空へと上がる。目指すはドラゴンヘッド。今度はどんな悪事を働くのか判らない。また手を汚させる前に捕まえないと。

「急ごう、ヴィータちゃん!」

「応よ!」

そうしてわたしとヴィータちゃんは、すでに姿が見えなくなっちゃってるドラゴンヘッドの行方を一課本部に問い合わせてから、その方角へと向かって飛んだ。

†††Sideなのは⇒フェイト†††

新たに出現したリンドヴルム、その第0小隊ドラゴンハートがミッドの首都クラナガンで派手に暴れた所為で街は大混乱。混乱に陥る民間人、破壊されて崩れる建物。しかも私たち臨時特殊作戦班が苦労して捕まえた3小隊と神器を奪還までする始末。

「フェイト。こっちは終わったわ。そっちは?」

「うん。問題なく逮捕完了」

最悪なのはそれだけじゃなくて、この混乱を利用して全く関係ない犯罪者まで動き出し始めた。避難誘導の手伝いをしていたけど、罪を犯した人たちの逮捕に参加することになった私とアルフとアリサとザフィーラ。たった今も混乱に乗じて強盗を行った犯罪グループを壊滅させた。

『お疲れ様。今そっちに応援部隊が向かっているから、少しの間でも休憩を取って』

一課本部からそんな通信が入った。けど、私たちだけ休憩するわけにはいかない。何せ、1ヵ月以上と意識不明だったルシルがミッドに降りて来ていて、メンバー全員が神器持ちだって言うドラゴンハートの3人と交戦、そして撃破したってとんでもない連絡を本部から貰ってる。病み上がり直後で神器持ちを3人も倒した。やっぱりルシルは恐ろしく強い。

「アルフ、アリサ、ザフィーラ。逃走しているリンドヴルムを追おうと思っているんだけど・・・」

神器持ち以外は単なる強い魔導師。逃亡するリンドヴルム兵を少しでも捕まえ直しないと。また別の神器やロストロギアを武装して、こんな街中で暴れるような行いをするような真似をさせないために。

「いいわよ。ていうか、あたしもそう言おうと思ってたし」

「あたしも異議なし」

「我もだ」

満場一致となったから、私たちは本部に『逃走したリンドヴルムを追います!』って一言断りを入れてから、近くに逃走中のリンドヴルムが居ないかと訊ねてみる。すると、3小隊がみんなここクラナガンに集まって来ているって答えてくれた。そしてクラナガンで暴れるドラゴンハートは、ジョンと、また別の男の子を追っているらしい。それが目的だから。だけど・・・

「単なる逃走じゃなくて、わざわざ局員が集まってるクラナガンに戻って来てる・・・?」

逃がしてもらえた3小隊はそのまま逃げずに、管理局員が何百人って居るクラナガンに来るなんて。こう言ったらなんだけど自滅、出頭行為だ。

「また捕まるリスクを冒してでもこっちに来る理由って何なのかしら?」

「判らない。でも・・・」

やることは変わらない。リンドヴルムを捕まえる。今はそれだけで十分。ということで、私たちは空へと上がって、リンドヴルムの第8小隊ドラゴンブラッドの居る空域へとすぐに飛んだ。
その間にも本部から通信が入り続ける。逃げたリンドヴルム3小隊は局員との交戦を避けて、ひたすら何かを探すような仕草をしているって。それに神器持ち全員が姿を消したって。今クラナガンに訪れてる3小隊は魔導師のみで構成されてる。それはある意味チャンスな状況だ。

『――あ! 待って!・・・すごい! イリスちゃんとセインテスト君がまた新たに神器持ち2人を撃破!』

ジョンを護衛するシグナムやすずかと合流したルシルや、フィレスとセレス、そしてジョンと同じリンドヴルムに追われていた男の子と合流したシャルが、さらにドラゴンハートの神器持ちを倒したって報せが。いよいよ以ってリンドヴルムの壊滅が出来そう、なんて思った。だけど・・・

『機動一課本部より各前線局員へ緊急連絡! クラナガン上空に新たな魔力反応! 注意されたし!』

私たちだけじゃなくて、今現在クラナガンにて任務を全うしてる局員全員に警告。空を飛んでいた私たちは、その魔力反応の正体が空に出現する様をこの目で見た。

「「「巨人・・・!!」」」

全高15mはあるかもっていう巨大な人型が空に現れた。エメラルドグリーンの全身甲冑と、縁に黄金の装飾に彩られた純白のマント。そして出現と同時にクラナガン上空が曇天に覆われて、さらには10を超える数の竜巻が発生。ううん、それどころか首都全体を覆うような超超超巨大な竜巻が発生してる。今、私たちは竜巻の中心に居る。

「ちょっ、待っ・・・きゃああああ!」

「アリサ!」

「あたしが掴まえるよ!」

周囲に発生してる竜巻の影響で上手く空を飛ぶことが出来なくなった。特に飛行魔法が危ういアリサが早速暴風に吹き飛ばされた。アルフが一番近かったこともあって、「あ、ありがと、アルフ」アリサを抱き止めた。

「アレが噂の巨人か・・・!」

ザフィーラがそう言った。ウスティオって言う世界で複数の部隊を撃墜した、ロストロギア扱いの巨人。ついさっきその巨人が出現したようだけど、すぐにいなくなったみたい。それはともかくとして、巨人が起こしていると思われる竜巻が周囲の建物を風圧で吹き飛ばされたり、ガラス窓を粉々に砕いたり、車を空に舞わせたり。・・・いま見ている光景が信じられない。

『本部から特戦班へ! セインテスト君からの緊急連絡を伝えます! 各員、リンドヴルムへの追撃を中断し、民間人の避難誘導、救出を最優先として行動し、決して巨人・・・えっと、アムティスには近付かないようにとのことです!』

ルシルが出した指示を本部から又聞き。私たちに出されたのは、民間人の安全を最優先してほしい、ってことだった。確かに今のクラナガンは大混乱に陥っていて、民間人も危険に晒されている。それを理解しているからこそ私たち特戦班は、リンドヴルムとの交戦を避けて、逃げ惑う民間人の安全を確保するために動きだす。

†††Sideフェイト⇒シャルロッテ†††

神器持ちのリンドヴルムどころか、大戦末期にヨツンヘイム連合が戦場に投入した半自律型の人型戦術兵器、Automatic operation Magic use Tactics attack Intelligent battle System――A.M.T.I.S.(読みはアムティスね)がクラナガンに出現した。
数ヵ月前に、ウスティオって世界で砲撃戦型のタイプ・アーティラリーの1機が発掘されたのは知ってる。でも今、クラナガンに出現したのはアーティラリーじゃない機体だった。いや、ついさっき出たようだけど、すぐに消えたっぽい。いったい何をしに来たんだか。で、次に出てきたのは、近接戦型のタイプ・セイバーだ。

「どっちにしろ最悪なんだけど・・・」

首都全体を覆うかのような大竜巻、その内側に私たちは居る。周囲には普通サイズの竜巻が数十個と発生していて、建物やら車やらを吹き飛ばし続ける。風嵐系の機体かぁ。まだ救いがあるね。炎熱や氷雪系だったらクラナガンは滅んでた。

「「騎士シャルロッテ・・・」」

フィレスとセレスが不安げに私の名前を呼んだ。2人はタイプ・アーティラリーと戦った経験があるし、その攻撃・防御力の高さは嫌と言うほど知ってると思う。けどね、タイプ・セイバーは近接戦の機体ということもあって、タイプ・アーティラリー以上の防御力を有してるんだよ。魔術じゃおそらくダメ。能力を解放した神器による直接攻撃じゃないと。

「・・・ルシルの言うように、フィレスとセレスはシグナム達と合流して、ジョンとその男の子を護り抜いて。連中の目的はその2人でもあるみたいだし・・・」

他にもあると思うけど、今はそれが主目的と考えた方が作戦も立てやすい。フィレス達は少し悩んだ後、「承知しました」ってこの空域から離れて行った。入れ替わるように「シャル!」ルシルが飛んで来た。

「ルシル!」

ルシルと合流。魔術師化した私とルシルの2人とアムティス1機。対アムティスの戦力としては足りないって言いたいけど、民間人の安全を優先するにはこうするしかない。

「アムティスをまずはどうにかしないとな」

「うん。第一種戦闘行動に入らないのは嬉しいけど、この竜巻をどうにかしないとクラナガンは大損害」

アムティスは第二種戦闘モード(早い話が戦場のど真ん中で待機)に移行すると、その機体が持つ基本機能が稼働する。風嵐系の機体の場合は、今のように竜巻の結界を発生する機能を持ってる。単純な気候操作だから魔術でも何でもないんだけど、こんな街中においてその効果が生む被害は尋常じゃない。

「何を以って第二種戦闘モードなのかは判らないが、何か目的があるのは確かだ。なら、それを放置するわけにはいかない」

「うん」

“キルシュブリューテ”・レプリカの柄を握り直す。そしてさっき回収した神器を、少しでもルシルの力になってくれれば良いと思って渡す。何せ神秘の塊であり、神秘を含んだ魔力を有する神器は、ルシルにトンデモない恩恵を齎すから。

「ああ、ありがとう。神器(コレら)の魔力をコード・イドゥンで吸収すれば、アムティスとそれなりに戦えるだろう」

謎の男の子が持ってた“ブリード・スミス”シリーズ、そしてついさっき、私が撃破したドラゴンハートのハート4が持ってた短剣型の神造兵装、“アングリスト”、ルシルが撃破したハート6の持ってた両刃剣型の魔造兵装、“イェクルスナウト”の3つ。
“氷纏装デュック・グラス”はフィレスに渡した。アレは元々ヨツンヘイムが所有してた神器だしね。ヨツン皇族の末裔のフィレスなら同調率はきっと限界突破。たぶん神器持ちくらいなら余裕で勝てると思う。

――女神の救済(コード・イドゥン)――

ルシルは早速、“イェクルスナウト”から神秘・魔力を吸収する。そうしたら目に見えてルシルの魔力がすごいことになった。すると、「アムティスに動きあり!」こちらに背を向けていたアムティスが振り向いた。兜のアイガードの奥に光る赤い単眼が私とルシルに向いた・・・気がした。

「第一種戦闘モードへの移行を確認!」

――戦滅神の破槍(コード・ヴィズル)――

ルシルが魔術としての上級雷撃系最強の砲撃ヴィズルを発射。第一種戦闘モードになったことで竜巻の結界は解除されて、数十個の竜巻も全て消滅した。雷撃砲は一直線にアムティスへと突き進んで行って・・・着弾。竜巻は晴れても黒雲は未だに晴れない空に蒼い放電爆発の花が咲いた。

――女神の陽光(コード・ソール)――

次に向かってくのは上級火炎砲撃3発。放電爆発が治まって、そこから無傷なアムティスの巨体が現れたかと思えば火炎砲の直撃を受けて蒼の爆炎が発生、アムティスの姿がまた見えなくなる。

「さぁ、断刀キルシュブリューテ。久しぶりに暴れようか!」

背に展開してる真紅の両翼ルビーン・フリューゲルを羽ばたかせて、アムティスの方へと突撃。今のルシルの魔術の直撃でもまず撃墜できない。案の定、アムティスは黒煙から飛び出して来て、私に向かって突っ込んで来た。あんな巨体なのに、移動速度は時速で約200km強。知ってはいても高速で突っ込んで来る威圧感をそれなりに感じてたりする。

『こ、こわ! すごくこわっ!』

私の生まれ変わりであるイリスからそんな念話が。初見だと純粋に恐怖ばかりが生まれる。私は『大丈夫。これ以上リンドヴルムの好きにはさせない!』そう返して、絶対切断能力を“キルシュブリューテ”・レプリカに付加。具現した鞘に収めた上で、足元にベルカ魔法陣の足場を展開して着地。

――砕嵐の鉄拳(ペガル・トルメンタ)――

振り被られた右腕。手首から先の拳を高速回転させて、暴風を発生させた。全てを粉砕する嵐を纏ったパンチ。風嵐系アムティスのタイプ・セイバーの基本的な攻撃手段。私は小さく深呼吸。息を吸って、止める。

――真技:飛刃・翔舞十閃――

“キルシュブリューテ”・レプリカを鞘から一気に抜き放つ。刀身から放たれるのは絶対切断の10の斬撃。アムティスの一撃と真っ向から激突。レプリカとは言え“キルシュブリューテ”は神器だ。しかも魔造兵装の第9位。その切れ味もさることながら能力の絶対切断も・・・

「あっ!」

「馬鹿、シャル、逃げろ!!」

「げふっ?」

襟首を引っ張られたことで首が閉まった。すごい速度で高度が上がった直後、足元を音速突破したアムティスの右腕が通過した。機動力がとんでもないルシルのおかげで、襲い来る衝撃波の影響も受けずに済んだ。

「けほ、けほ、ありがと、助かったよ」

「礼は後! 次が来るぞ!」

――砕嵐の鉄拳(ペガル・トルメンタ)――

アムティスは間髪入れずにアッパーを繰り出して来た。ルシルからの「忘れるなよ、シャル!」お叱りの言葉に、「ごめん!」謝って、私たちはそれぞれアッパーを躱す。

――雷神の天罰(コード・トール)――

遥か上空――成層圏に展開されるアースガルド魔法陣が4枚。そこからアムティスへ向けて蒼雷が雨のように降ってくる。落雷の速度はもちろんのことアムティスの巨体さがその命中率を高める。ガツンガツン当たって行く落雷。そして放電爆発に呑み込まれるアムティス。けどどれも決定打にならない。

(よし。さっきのミスはしっかりと返上しないとね)

さっき放った飛刃は、スキルとしての絶対切断斬撃。神器クラスのアムティスを相手にスキルなんかじゃ通用しない。確実に斬るなら、“断刀キルシュブリューテ”・レプリカの能力としての絶対切断を使わないといけないんだけど・・・

「ルシルー! どうしよー! 魔力が足んな~い!」

“キルシュブリューテ”・レプリカの全解放にはSSSランクの魔力が必要だけど、今の私にそこまでの魔力は無い。

――砕嵐の鉄拳(ペガル・トルメンタ)――

――飛刃・翔舞八閃――

とりあえずスキルの絶対切断でもアムティスの魔術くらいは斬り裂けるから、拳に発生させてる暴風を切断してただのパンチへと戻す。でもただのパンチでも直撃は即撃墜になりそうな程の威力だからキッチリと回避。

「知っている! だが、どうしようもないだろう!」

――女神の宝閃(コード・ゲルセミ)――

私が魔術を削り、ルシルがアムティスへ魔術を着弾させていくっていう作戦に自然となった。けど、どうしても決定打が与えられない。

「そうだけどさ! どうせなら破壊したいじゃん! アムティスなんて百害あって一利なし、だし!」

撤退させるだけじゃ本当に解決にはならないもん。どうやっても斃しておきたい。

(魔術師化してる間だけ魔力炉(システム)化してくれるイリスのリンカーコア。今なら魔術としての契約を結べる・・・!)」

真っ先に思いついたのは魔術としての主従契約術式メンタルリンク。ルシルとまた契約をすれば、“キルシュブリューテ”を全解放できる程の魔力をルシルから・・・って、出来えねぇ! ただでさえルシルは魔力枯渇による複製品――記憶消失の心配があるんだから、ルシルから魔力を貰うのは無理だ。

「だったら・・・ルシル、契約! 急いで、ダッシュ、ダッシュ、ダ~ッシュ!」

巨体の割に高速で打ってくるコンビネーションパンチを、余裕を持って躱しつつ飛刃を飛ばし、“キルシュブリューテ”・レプリカで両手の親指を斬って血を出させる。

「いやだから無理だって!」

「今は大人しく私の言うことを聴いて!」

私の剣幕に、ルシルも上級砲撃を連発しながら両手の親指を噛んで血を出させた。

――屈服させよ(コード)汝の恐怖(イロウエル)――

アムティスの四肢を鷲掴むように現れた白銀の巨腕2対4本。メンタルリンクの為の時間稼ぎだ。急いでルシルと合流して、足元にベルカ魔法陣の足場を展開して着地。そして両手の親指から流れる血が交わるようにルシルの両手と重ね合わせて、親指の血が混じり合うようにする。

「我、ルシリオン・セインテスト・アースガルド」

「我、イリス・ド・シャルロッテ・フライハイト!」

「「我ら、ここに誓いを築き、主従の断りを宣言す」」

そして「契約(メンタルリンク)」最後にキスをすることで(やっほーい♪ いぇ~い❤)儀式終了。私とルシルの魔力炉(システム)が繋がる感覚を得る。先の次元世界とは逆で、私がサーバントでルシルがマスター。すぐさま私はルシルへと神秘を有した魔力を流し込む。

「私の魔力をあなたにあげる。だから派手に暴れてやってよ、ルシル!」

「・・・ああ!」

――女神の救済(コード・イドゥン)――

神器(アングリスト)”から再び神秘を有する魔力を吸収するルシル。私はまともに戦闘が出来るだけの魔力を失ったことで戦線離脱。近くのビルの屋上へ降り立って、遥か頭上で対峙するルシルとアムティスを仰ぎ見る。

――軍神の戦禍(コード・チュール)――

――砕嵐の鉄拳(ペガル・トルメンタ)――

2対のイロウエルを力尽くで破壊して自由になったアムティス。暴風パンチを繰り出したアムティスへとルシルの複製神器による弾雨が降る。神器群がアムティスの装甲を傷つける金属音が空に響き渡った。アムティスのパンチを高速機動で躱したルシルが左腕を高々と掲げる。

――第二波装填(セカンドバレル・セット)――

――侵し難き嵐鎧(ボルティセ・アルマドゥラ)――

それを合図に、さらに神器群が再展開されて空に整列。アムティスは両腕で頭部を防御しつつ、全身を渦巻く暴風でキッチリとガードした。そこに再発射される神器群。ランクの低い神器は、アムティスの暴風の鎧の前に軌道を強制変更されて逸れて行くけど、それでも10本近くは本体に着弾。金属音と爆発音が轟く。

(堕天使戦争中と違って今は1対1。ルシルも全快ならそうそう負けることはないよね)

“アンスール”がアムティスに敗北した最大の原因は数だ。“界律”の制限によって弱体化した“アンスール”1人に対して、性能が大戦時より変わってないアムティス10機以上が一斉に襲いかかって来るんだから、そりゃあ堪ったものじゃない。私でも苦戦するどころか、下手したら死んでる。何せ絶対切断解放に必要な魔力を、“界律”によって発揮できないようにされてるんだから。

「勝って! 勝って、ルシル!!」

だけど今、ルシルは私の魔力、そして神器から吸収した魔力、そして神秘を得てる。アムティス1機くらいなら撃破できるような程にまで力を取り戻してる。だから、勝てる、って思った。けど・・・

「っ!?」

ルシルとアムティスのさらに上空が光ったと思えば、「召喚魔法陣・・・!?」が展開されていた。その巨大さ(直径で30mはありそう)だから、召喚魔法陣の下側から出て来たソレの正体がなんなのかすぐに判った。

『ルシル、上!!』

ルシルだって気付いてるだろうけど念話で忠告。その直後・・・

――天上の閃光(ラージョ・デ・シエロ)――

召喚魔法陣から出て来た白銀の巨腕。五指の先端に有るクリスタルから青白い砲撃5発がルシルへと向けて発射された。

――女神の護盾(コード・リン)――

展開されるのはサファイアブルーに輝く、女神が祈る絵が描かれてる円い盾。砲撃は盾に着弾して四方八方に拡散。さすがに奇襲だったからイドゥンで吸収するようなファインプレーは出来なかったか、ルシル。けど・・・

「もうちょっと考えてよ!」

――飛刃・翔舞八閃――

拡散した砲撃へと飛刃を放って、街中に着弾するより早く叩き斬る。すると『ありがとう、シャル!』ルシルから感謝された。嬉しいけど『礼は後、でしょ』って返す。今はアムティスの迎撃を最優先にしてほしい。何せ・・・

「タイプ・アーティラリー・・・! ウスティオで発見されたっていう・・・!」

白銀の巨体がクラナガンの空に追加される。ついさっき現れた直後にサクッと姿を消したアムティスだ。純白のインバネスコートっぽい翼がバサッと大きく開かれた。そして4対8枚の翼の表面が青白く光ったから、すぐさま絶対切断スキルを発動。

――語り継がれし神の審判(トルエノス・デ・ラ・トラディシオン)――

空が真っ白に染まり、雷が落ちた時のような轟音がクラナガンを襲った。タイプ・アーティラリーの基本兵装の1つ、広域殲滅砲撃が発射された証。威力はかなり高い。けど雷のように枝分かれする拡散砲撃ゆえに狙った相手に確実に当てることは望めない。あの砲撃は、敵地のど真ん中で放ってこそ意味がある。それに・・・

――女神の救済(コード・イドゥン)――

雷撃のように見えて純粋な魔力砲撃。ルシルにとっては格好の回復アイテム扱い。いくつかがルシルによって吸収されて、他は私の「飛刃・翔舞十八閃!」で寸断してあげれば完全無力化が出来て・・・って、「ルシル!」に迫るタイプ・セイバーの暴風パンチ。

――女神の護盾(コード・リン)――

ルシルはギリギリ障壁を展開して、暴風パンチを繰り出した左手を弾き返した。アムティス・セイバー(識別名が判んないしこう呼ぼう)はすかさず右手でルシルを鷲掴んで、さらに超高速回転させた。そして発生する暴風。あれじゃ手に握られたルシルがバラバラに粉砕されちゃうよ。

『ルシル!』

『大丈夫だ!が、すごい目が回る! おええええ!』

余裕そうで何よりだよ、ルシル。私は飛刃を放って、発生してる暴風を斬り裂いて無力化させる。と、アムティス・セイバーは右腕を大きく振りかぶって、ルシルを地上へ向けてブン投げた。ほぼマッハ越えの速度で急降下するルシル。あれじゃ体勢も直せない。そして数秒の後、ドォン!って、地面に墜落した音がここまで聞こえた。

――天上の閃光(ラージョ・デ・シエロ)――

アムティス・アーティラリーの10本の指先から砲撃が発射された。狙うはもちろんルシル。これで最後の「飛刃・翔舞一閃!」を放って、砲撃の数を減らす。結果は10発中4発を切断。残り6発はルシルの居る地上へと降り注いで、着弾音と爆発音、窓が割れるガラス音、ビルを揺らすほどの振動が発生。

(いくつか吸収できなかった・・・!?)

屋上から少し身を乗り出して地上を見たその直後、アムティス・セイバーが急降下して行って、ルシルが墜落し、砲撃が着弾した場所へ問答無用の着地。

「容赦なさ過ぎ! つうか、街中でここまで暴れるな!」

アムティス・セイバーの踏みつけで震度6とか7クラスの地震かってほどの揺れが発生。しかも「ビルが崩れる・・・!?」振動は治まることなく、バキバキって足元のコンクリートに盛大なヒビが入った.

「最悪。もう魔力斬撃も飛行魔法も使えないんだけど・・・!」

さっきの一撃で騎士服維持に必要な魔力以外を消費。さぁ、どうやって逃げようか。ルシルの事も心配だけど、こっちもなかなかのピンチっぷり。近くのビルも崩壊しそうな感じだし、目の前にはアムティス・セイバーが居るし。本気でまずいと思ってたら、アムティス・セイバーが吹っ飛んだ。

「わぉ。久しぶりに見る完全形態のフェンリルじゃない・・・!」

吹っ飛ばしたのは本来の姿(全高60m級)に戻ってたフェンリルだった。ルシル、“異界英雄(エインヘリヤル)”のフェンリルを召喚したわけね。アムティス・アーティラリーの砲撃までも吸収したおかげで可能になった召喚だ。

「これで勝利確定ね」

って、余裕ぶっこいてる状況じゃない。とうとうビルが崩れ始めた。とりあえず隣のビルへ飛び移ろう。そう決めて駆け出そうとしたとき、「おーい、シャル~。大丈夫か~」ルシルがここまで飛び上がって来てくれた。

「ルシル! えっと・・・大丈夫?」

「なんとかな。だけど死ぬほど疲れた。しばらくは戦いたくない」

「でしょうね」

病み上がり直後に神器持ちやアムティス2機と戦ったんだもんね。そりゃあ疲労も溜まるよ。とにかくルシルの無事は確認できた。さぁ、次はフェンリルとアムティス2機のバトルの行方だ。

「命令に従うだけの脳なし意思なし誇りなしの機械風情が我が主をいたぶるとは何たる恐れ知らずの愚行か! 容易く機能停止できるとは思わぬことだ!」

ブチギレしてるフェンリルに比べたらアムティスなんて小さい子供みたい。フェンリルの猫パンチならぬ狼パンチでアムティス・セイバーはボッコボコに殴られまくって、高々と空へと吹っ飛ばされた。続けてフェンリルの頭突きを喰らってさらに空高く舞う。

「あちゃあ。アザラシで遊ぶシャチみたい・・・」

フェンリルは空中でアムティス・セイバーを銜え込んでぶんぶん振り回した後、アムティス・アーティラリーへと放り投げる。で、2機のアムティスは派手な金属音を轟かせて激突。そんな2機へと向かってフェンリルがジャンプ。
大きく口を開けて、フラフラなアムティス2機の上半身をパクっと呑み込んで、一気に噛み千切った。さらに落下し始めた2機下半身すらも一呑み。咀嚼するたびに盛大な破壊音が轟き渡って、最後はペッと吐き出した。見るも無残。アムティス2機は一纏めのスクラップになってた。

――CEN(ケン)――

フェンリルの開かれた口から放たれるのはルーン魔術による火炎砲撃。それは宙を舞うスクラップと化したアムティス2機を呑み込んで・・・蒸発させた。それと一緒にフェンリルの姿が消える。召喚解除されたみたい。

「はぁ。なんとか顕現の制限時間に間に合ったな」

「お疲れ様、ルシル」

アムティスも撃破したことだし、あとはなのは達の無事を確認するだけ。私は「こちらイリス。特戦班の現状を教えてください」イリスの名前を使って、機動一課の本部へと通信を繋げた。

『リンドヴルムは撤退した模様で、特戦班のみなさんも無事です』

ルシルと一緒にホッと安堵の息を吐く。だけど『ですが・・・』オペレーターの声色が沈んだものになったから、なのは達の無事は確か。だけどそれ以外に何かが起きたんだってすぐに察することが出来た。

『ハート2と名乗るリンドヴルム兵が現れ、その人と交戦したフィレス二尉たちが軽傷を負い、ドラゴンハートに追跡されていた少年が奪還されてしまいました』

信じられなかった。ヨツンヘイムの魔術師として完成してるフィレス+“氷纏装デュック・グラス”、魔術師セレス、シグナム+“ドラウプニル”の3人を相手にして勝つようなリンドヴルムが居る・・・?

(シュヴァリエル以外にまだそんな実力者が居るなんて・・・。一体どんな神器を持ってるんだろう・・・)

とにかくリンドヴルムの襲撃は乗り切ることが出来たし、ジョンは護りぬけたみたい。今はそれだけを喜ぼう、と思う。

 
 

 
後書き
アーユポーワン。
第一次リンドヴルム激戦は無事に終了です。いやぁ、強い、うん、強いな、フェンリル。ウスティオで発掘されたアムティス・ベルゲルミル・・・、はい、さようなら。新たに出現したアムティス(一応名前はフルングニル)・・・、はい、さようなら。フェンリルの噛ませ犬としてサクッと消えてもらいました。
そして、せっかくリンドヴルム本部レンアオムより逃げだした神器の1つが連れ戻されてしまいました。最後に。名前だけしか出せなかったハート2がはやてら特戦班にとっての最大の敵になるでしょう。シュヴァリエルはルシルの最大の敵ですしね。
 
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