魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico30剣槍エヴェストルム・アルタ~Rebirth of the Sacred device~
†††Sideはやて†††
クラナガンの悪夢って陰で称されるようになった、リンドヴルムによるクラナガン襲撃事件から1週間と2日。わたしら臨時特殊作戦班は、あの日から今日まで出撃することなく普通な日常を過ごしてた。
わたしらは今、聖祥小学校の屋上でお昼ご飯中。メンバーはわたし、すずかちゃん、アリサちゃん、なのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、シャルちゃん、そんでルシル君や。みんな揃ての学校でお弁当なんて久しぶりや。
(ルシル君もようやく学校に通えるようになったしな)
事件直後、ルシル君は2日も気を失ってしもうて、目を覚ましてからも念のためとゆうことで検査入院を1週間。そんで今日は土日を挟んでの月曜日。登校直後の朝はルシル君の歓迎モードで大騒ぎ。次の休み時間も、そのまた次の休み時間もクラスメートに囲まれてお祝いされてた。
「――にしても、ゲイズ中将、マジでムカつくんだけど」
アリサちゃんが不機嫌丸出しで、自分のお弁当箱に入ってるから揚げを箸でブスリと刺して口に運んだ。アリサちゃん、刺し箸はマナーとしてはあんま良うないんよ。
「けど、仕方ないってこともあるかも・・・?」
「仕方ない? なのは、それはない、ないわ」
「あぅ・・・」
「局員・民間人合わせての軽重傷者1296名、死者168名。建物の被害は軽微・小破・中破・大破・崩壊が合わせて320棟。車なんて4桁の大被害。地上本部設立以来、最大級の被害だって言うし・・・。それを防げなかったのは事実だよ、アリサ。しかも逮捕できたドラゴンハートのメンバーは全員・・・自害しちゃったし・・・」
局員もそうやけど民間の人たちにも亡くなった人が出たことが問題やったようや。そのほとんどが崩壊した建物に押し潰されてしもうたり、竜巻に巻き込まれて上空から地面に叩きつけられたり。アムティス(それが巨人の通称らしくて、シャルロッテさんの時代の代物とのことや)が原因としてる。
それに首都航空隊に攻撃を仕掛けたドラゴンハート。ルシル君とシャルちゃんがその大半を捕まえたんやけど、機動一課本部への移送中、奥歯に仕込んだ毒薬で自殺してもうた。そうゆうわけでリンドヴルムの本拠地の所在や、首都を攻撃した理由などを聴取できひんかった。得るものはあんま無くて、失うものは余りにも大きかった。
「そうだけどさ~。首都防衛・航空隊や陸士隊は頑張った、けど機動一課は無様を晒した・・・。何よ、それ。あたし達が居たからこそ、リンドヴルムもアムティスも退けることが出来たんじゃない。それなのに一課だけディスるって。すごく納得いかないんだけど」
「ゲイズ中将って、地上部隊と地上の平和を第一として考えてるんだよね。だから実力のある魔導師を次元航行部隊――海に持っていかれることにかなりご立腹。だから本局や海を嫌う。ちなみにわたしたち聖王教会も目の敵にしてるんだよね~。局の真似事が許せないみたい。ほっとけっつうの」
アリサちゃんどころかシャルちゃんまでプンプン頬を膨らませて怒りだす。レジアス・ゲイズ中将。ミッドチルダは首都クラナガンに在る地上本部の総司令官。そのゲイズ中将は、先のクラナガンの悪夢での機動一課の働きについて結構な酷評やった。リンドヴルムの対処のための機動一課がもう少し迅速に動いていれば、被害は大きくならなかった、みたいな。
「被害云々言うんなら、結界魔法の1つや2つ、無許可で張らせろっての!」
「結界魔法1つ張るのにいちいち地上本部に許可取らないといけないし。そんな時間、待っていられないってね!」
「栄えある時空管理局の地上本部のお膝下だから、結界を張るなんてみっともない? そんなことを言ってるから、民間の人たちにも被害が出たんじゃん!」
「そうだよ、そうだよ! それなのにボロクソ言ってくれたよ。わたし、あの人のことすっごく嫌いになった」
アリシアちゃんまで参加して、アリサちゃん達3人は「ねー♪」って首を傾げた。もう止められそうにないほどに勢いづいてるなぁ。ここでルシル君が「魔術や神器、アムティス相手に魔法は意味ないぞ」ボソッと呟いたけど、3人の耳には届かへんかった。
「しかし実際、多くの方々が亡くなったのも確かだ。それについては受け止めるべきだろう」
ルシル君が空を仰ぎ見る。管理局の事情はどうであっても亡くなった人は確かに居るわけで。守りきれへんかったその罪はしっかりと受け止めよう。
「でも味方もちゃんと居てくれるから嬉しいよね」
すずかちゃんが一般生徒の目が無いのを確認して、モニターを2枚展開した。そこに映ってるんは管理世界共通の新聞みたいな物で、そこにはわたしら特戦班の顔写真付きの記事が載ってる。幼いながらも懸命に戦い、市民の避難誘導に努めた勇気ある少女たち、って見出しや。ちゃんと解ってくれてる人も居る。それだけで十分や。
「えっと、そう言えばクロノがこんなこと言ってたよ。ゲイズ中将は優秀な人物で地上の正義の守護者だって。武力の強化によってミッドの犯罪増加率を抑え込むことも出来ているそうだし、治安維持の実力はあるよって」
「だからってあそこまで目の敵にしなくても良いじゃん。こう言っちゃなんだけど、地上より海の方が事件のレベルが段違いなんだし」
「難しいところだよね、そこは。海の方が大変な事件が多いと思う。けど、地上を蔑ろにするのも変な話だし」
どちらを優先するか。そこを考え出すとキリがあらへん。大きいも小さいもあったらアカンからな、こいゆう話やと。ここでルシル君が「ま、どっちにしろ、ゲイズ中将に利用されたな」わたしが作った卵焼きを食べながらそう言うた。わたしらみんな「利用された?」小首を傾げて訊いてみる。
「噂だが・・・ゲイズ中将は、地上の犯罪率減少のための武力増強として、少々強引な手段を取ろうとしているらしい」
「そんな噂、ミッドの陸士部隊に所属してるあたしですら知んないんだけど。ごちそうさま~」
アリサちゃんがお弁当箱を片付けながらそう返すと、ルシル君はアリサちゃんに「仮にも内務調査部だからな。そう言う話には敏感なんだ。ごちそうさま、はやて。今日も美味しかった」そう返して、わたしには手を合わせて微笑んでくれた。
「はい。お粗末さまでした♪」
ルシル君に喜んでもらえるだけでわたしは今日も元気で、幸せでおられる。夜ご飯は何にしようかなぁ~。
「で? どんな噂なの?」
「魔導師の数が足りないなら、魔導師に頼らない力を作るしかない、みたいな、な」
その話を聴いたわたしらは「それの何が問題なの?」って疑問に思い至るわけで。ゲイズ中将のやろうと(今はまだ考えてる段階か)してる事は悪いようには思えへんから。そやけど次のルシル君の言葉で、わたしらは考え直すことになった。
「早い話が兵器に手を出そうというんだ。しかも次元航行艦の艦載武装とタメを張れるような。しかも違法な手段にも手を出すんじゃないか、とまで言われている。犯罪への抑止力へは確かになるだろうが、過ぎたる力は周囲や自身を破滅に追い込む」
「あ、あくまで・・・噂、なんだよね・・・?」
「ああ。とは言っても、内務調査部の先輩たちが口々に言っているから、ほぼ真実になってくるかも知れないな」
地上本部の総指令が罪を犯すかもしれへんって、とんでもないスキャンダル。アリシアちゃんが「あくまで噂でも、そんな話をわたし達に漏らしても良いの?」ルシル君に訊いた。すると「喋っても問題ないだろ。何せあくまで噂だしな」って誤魔化した。
「ま、今回の被害を本局所属の機動一課のミスであると糾弾することで、地上本部の行き過ぎた武力強化を本局や世論に認めさせようとしたいわけだ。そうなってくると、余計に噂は真実と化していくだろう。そして真実となった時、本局と地上本部とのパワーバランスが崩れ・・・。さて、どうなるものか」
「あぅ、あんまり怖がらせないでよ、ルシル君」
「あはは、ごめん、ごめん。噂が真実とならないよう、俺たち内務調査部が居るわけだ。ゲイズ中将の権力に屈してなるものか。さ、昼休みももう終わる。行こうか」
ルシル君の若干脅しの入った気がした話はこれで終わり。そんでわたしらはお弁当箱を片付けて教室に戻った。ちなみに午後もまたわたしら4年2組はルシル君の久しぶり登校のお祝いモードやった。
†††Sideはやて⇒アリサ†††
学校が終わってすぐ。あたし達は海鳴市郊外にある機動一課・臨時特殊作戦班――略して特戦班の本部へ帰宅。すると早速「おかえりー!」あたし達の中で2人しか居ない男子の内の1人、ジョンがあたし達のところ、正確にはすずかのところへやって来た。
「ただいま、ジョン君。良い子に出来てた?」
「もう。すずか、僕はすずか達と同い年くらいなんだよ。良い子に出来た?なんて子供扱いしないでほしいな」
そう言って反論するジョン。未だに自分が何者なのか、どうしてリンドヴルムに追われてたのか思い出せないジョンだけど、時間が経つにつれてそれなりに年相応な態度をとるようになってきた。けど、ちょっと生意気な方向になったかもしれないわね。
「おかえりなさい、みなさん」
「おかえりなさい、主はやて、皆も」
ジョンと話してると、2階からベッキーとシグナムが降りて来た。ただいま、って挨拶を返した後はそれぞれの部屋(3人1部屋ね)に行って鞄を置いたり着替えたり。下へ降りるために階段室に戻って来たら、「ただいまー!」ルミナの元気いっぱいな挨拶が下から聞こえてきた。
「たっだいまー!」「ただいまですぅ~♪」
「ただいま帰りましたー!」
遅れてヴィータとリイン、そしてシャマル先生の挨拶が。ルシル達の「おかえりなさい」を聞きながら降り切ると、リビングにはシャマル先生とヴィータとリイン、そしてエコバッグを両手に持ったアルフとザフィーラが居た。買い物に行ってたのね。シャマル先生とアルフが食材をしまってる中、「見て、イリス! コンプリート!!」ルミナが小さな箱の中身をイリスに見せてはしゃいでる。
「おお。集めてた食玩フィギュアをとうとうコンプリートしたんだ~」
「そうなの♪ シルバニ○ファミリーのフィギュア♪ こんなに可愛くて小さなフィギュア、ミッドに無いから。任務が終わってミッドに帰ることになったらもう手に入らないと思って」
「ダブりはどうするの? ルミナ」
「もちろん持って帰る。さて。次はどの食玩をコレクションしようかな~。あっ、毎号にパーツが1つ1つ入ってるやつでも買おうかな~」
「コンプ出来ないに1000円」
「あたしは1100円」
「賭けないでもらえる? アリシア、アルフ。でもやっぱり可愛い物を集めるに限るね~♪」
上機嫌なルミナはコンプリートしたフィギュアを飾りに、自分とベッキーとセレスの3人部屋へとスキップで向かった。
「そういやセレスはまだ本局から戻って来てねぇんだな。頼まれてた少女漫画の雑誌と単行本の最新刊買ってきたのに」
ヴィータがエコバッグから分厚い漫画雑誌と単行本を取り出して、リビングテーブルに置いた。セレスがドはまりしてる少女漫画の最新刊と掲載雑誌だわ。ルミナもそうだけどセレスも日本の漫画やアニメ、フィギュアに興味を持ち始めてる。シャルもアリシアも日本のアニメや漫画が好きだって言うし。
ちなみにセレスが本局に行ってる理由は、先のクラナガンの悪夢で、ハート2との戦闘で破壊されたデバイスの修理を見守るために本局に居る。より堅く、鋭く、強く、どんなリンドヴルムが来ても二度とへし折られないようにするために。
「あの、先に読ませていただいてもよろしいですか?」
「お、おう」
そして超がいくつ付いてもおかしくない真面目なベッキーですら少女漫画の虜。ヴィータから許可を貰ったベッキーは「では早速♪」雑誌を手にリビングのソファへ。ルシルがすかさずお茶の用意を始めた。どういうわけかルシルはベッキーに対しての敬意が一段と高い気がするのよね。ルミナとセレスにはそこそこなんだけど。
「ベッキー先輩。お茶です」
「あ、わざわざありがとうございます、ルシルさん」
3つのL字型ソファに囲まれたリビングテーブルから戻って来たルシルが「すずか。そろそろ出られるか?」って確認すると、「うん。私はいつでもいいよ」すずかも準備万端だって答える。2人の格好は局の制服。これから2人は本局へ行くからね。
「僕も一緒に行く! すずか、行くからね!」
「えっと、ルシル君。ジョン君も一緒で良いかな?」
「ダメだと言っても聴かないだろ、ジョンは」
「そういうこと♪ 判ってるじゃないか、ルシル!」
「ルミナ~! ジョンが本局へ行くんだって~! 付き添いをお願~い!」
シャルがもう1人のメンバーを名指し。ジョンは変わらずリンドヴルムに狙われる対象だから、ルミナかベッキーかセレスの誰か1人は付き添わないといけない決まり。だったら外出させなきゃ良いって話になるかもだけど、どこに居てもシュヴァリエルやフィレス二尉たちを負かしたハート2クラスのリンドヴルムが来たらアウトだし、何よりルシルの側に居た方が一番の安全だしね。ホント化け物クラスだわ、アイツ。
「判った! 制服に着替えるから少し待ってて!」
「ルミナさん! 私が行きましょうか!」
「いいよ、ベッキー! やる事ないから暇だし!」
ルミナのドタバタと廊下を走る音がしたかと思えば、「やふ~♪」階段の手すりに座ってすぅーっと滑り降りてきた。ルミナ、この家で一緒に過ごすようになってからと言うものちょっとずつ大雑把になったって言うか何と言うか。まぁ、真面目キャラはベッキーやルシルだけで十分だから、別に気にしてないけど。
「それじゃあ、行こうか。行ってきます」
庭先に設置したトランスポーターへ向かうルシル達に「いってらっしゃい」挨拶。庭先まで付いて行って、トランスポーターに入るルシル達に手を振る。そして、転送されたことでその姿が消える。
「すずかちゃんも、なんて言うか大変な仕事をお願いされちゃったよね」
「もし私にデバイスマイスターの資格があっても断ってたかも」
「絶対にミスなんて出来ないもんね~」
なのはとフェイトとアリシアがそんな話をしながら家に戻ってく。あたしも「プレッシャーがとんでもないわよね」会話に参加。はやても「わたしも責任重大過ぎて逃げたなるわ」って参加する。
「でも、すずかちゃんは引き受けたね。ルシル君の新デバイスの製作を」
そう。ルシルがすずかを連れて本局ーースカラボへ向かった理由は、ルシルの“エヴェストルム”を作り直すため。頼まれた時は散々無理だ何だって騒いでたけど、結局は引き受けてこの1週間はずっとスカラボに入り浸り。マリエルさんやドクター達にも協力してもらってるそうだし、かなりすごいデバイスを作るはずだわ。
「ルシルのデバイスは、対エグリゴリの時でも使うみたいだし」
「そう思うとやっぱ恐いな~。ルシル君の命が懸かってくるんやから」
命が懸かってくるのは他の局員もそうだけど、ルシルは特に死へ直結する相手との戦いだから。それでもすずかは、ルシルからの依頼を受けた。
「だけど頑張ってほしいよね、すずかちゃんに」
「デバイスマイスターって夢への一歩目だし。エヴェストルムの製作が、すずかにとって今後の為になる経験になってほしいものね」
頑張んなさいよ、すずか。見るだけじゃなくて実際にその手でハイクラスなデバイスを製作することはきっと良い経験になるわ。
†††Sideアリサ⇒すずか†††
早くも11月に入ってからの数日目の今日。私たち特戦班は本局のトレーニングルームを貸し切って、ルシル君の新しいデバイス、“エヴェストルム・アルタ”の運用テストを行うことになった。
「ルシル君・・・」
ルシル君の左中指にはめられた銀の指環を見る。マリーさん、ドクター、そしてウーノさん達シスターズの協力、ルシル君の膨大な知識の元、私をリーダーとした開発チームが1ヵ月と懸けて作りだした、ルシル君の新しいデバイスだ。
・―・―・回想です・―・―・
先日のリンドヴルム首都襲撃事件――クラナガンの悪夢の終結宣言直後に気を失ったルシル君。目を覚ましたのはその2日後で、シャマル先生の権限で強制入院。私たちは、そんなルシル君のお見舞いのために本局・医務局へやって来た。
「具合はどないや? ルシル君」
「これから1週間も検査入院だと。考えただけで気が滅入るよ」
「無茶をした罰よ、ルシル君。しっかりと休んでもらいますからね」
シャマル先生に叱られたことでしゅんと肩を落としたルシル君に、私たちは苦笑するばかり。それから、ルシル君が1ヵ月と学校を休んでた分のプリントやノート写しを渡しながら、学校や特戦班の本部――海鳴市郊外の家での出来事を話す。私たちの話を聴いて笑顔を浮かべるルシル君に私は、やっとルシル君が戻って来た、そう思えてた。
「やあやあ、ルシリオン君。病み上がり直後でのあの戦いぶり、実に見事だったよ。私や娘たちも大いに盛り上がった」
ルシル君の病室に来たのは、第零技術部・通称スカラボの部長「ドクター!」ジェイル・スカリエッティさんと、シスターズの長女で秘書のウーノ・スカリエッティさんだった。ウーノさんは「お見舞いのお花とフルーツの詰め合わせです」籠に入ったフルーツの詰め合わせをベッド近くの丸テーブルに置いて、「お花はこちらで活けてきますね」手持ちの花瓶を手に、病室を出て行った。
「ありがとう、ウーノさん。・・・それでドクター、単なるお見舞いではない、のでしょう?」
「・・・ふむ。純粋なお見舞いをしたかったのだがね。君の言うように別件もある。君に、コレをどうするかを訊ねに来たのだよ」
ドクターは携えてた小さなジェラルミンケースを開けて中身をルシル君に見えた。
「っ! ドクター。コレはまさか・・・」
「そうとも。君のデバイス、エヴェストルムのシリンダーさ」
ケースに収められていたのは、シュヴァリエルさんによって修復不可能にまで破壊されたルシル君のデバイス・“エヴェストルム”の2つのシリンダーだった。ルシル君が医務局へ搬送されたその翌日、クロノ君が回収してくれた物だ。
「エヴェストルムを構築するパーツの中で無傷だった物はこのシリンダー2つのみのようだ。それで私が君の元へ赴いた理由だが。このシリンダー、君の新しいデバイスにも使用するかどうかを訊きに来たのだよ」
「・・・無論、使います。ソレは、覇王クラウス・G・S・イングヴァルトから頂いた物であり、歴代セインテストが永年共にしてきたエヴェストルムの一部。ここでその歴史を終わらせるわけにはいかない」
ルシル君がシリンダー1つを手に取って愛おしそうに眺めた。
「ほう。かの有名な覇王イングヴァルトから・・・。君とはこれからも良い付き合いを永く続けたいからね。資材や製作費は私たちスカラボが持とう。リクエストがあれば何でも言ってくれたまえ。よほどの無理難題でなれば全て聞き入れよう」
ドクターが、“エヴェストルム”に代わるデバイスの製作を無料でするって、ルシル君に伝えた。ドクター達の技術者としての腕は次元世界最高レベル。私やなのはちゃん達のデバイスの強化をしてくれたのもドクターやシスターズ、そしてマリーさん達で、その凄さは身を以って体験してる。
「リクエスト・・・。それなら、すずか」
「え・・・?」
ルシル君とドクターの会話の中にいきなり私の名前が出てきたからちょっとビックリ。ルシル君から「すずか。デバイスマイスターとしてのスキルはどこまでかな?」そう訊かれた私は、とりあえずこれまで学んできた知識、得てきた技術を伝えた。
ストレージデバイスくらいのプログラミングなら出来るようにはなってきたけど、インテリジェントデバイスになるとまだまだ。アームドデバイスはストレージに近いこともあって少々。早い話が一から完成までの製作に関わるような事はしたことがないから、デバイスマイスターとしてはまだまだ半人前だということを伝えた。
「そうか。・・・ドクター、俺に1つ提案があるんだけど」
「聴こう。まぁ、すずか君に話を振った時点で察してはいるがね」
ルシル君とドクターが私を見た。なんだろう。すごく大変な事になっちゃうような予感がひしひしと。その不安は見事に的中。ルシル君は「すずか。君がエヴェストルムを作ってくれないか?」なんて言ってきた。
「え?・・・ええええーーーー!? む、無理、無理だよ! わ、私、デバイス製作なんて! しかもルシル君のエヴェストルムを!? ダメ、それはダメな気がする!」
私は断ろうと必死で試みる。ルシル君のデバイスを私が製作する。それはあまりにも無茶で、無謀で、無理難題。まともにデバイス製作をしたことないのに、いきなり友達のデバイスを製作するなんてとんでもないプレッシャーだよ。
しかも使用者はルシル君だというのが余計なプレッシャー。下手なデバイスなんか作って、シュヴァリエルさんのような強敵と戦ってるその時にシステム不全なんか起こしたら、今度こそルシル君が死んじゃうかもしれない。そう考えると、とても恐ろしい。
「大丈夫だろう。ドクター、すずかのサポートをお願い出来るか?」
「ああ、任せてくれたまえ。私はもちろん娘たち、それに加えマリエル技官にもサポートに入ってもらおう。このサポート体制なら問題はないだろう」
「そういうわけだ、すずか。頼まれてく――」
「そ、それでも無理! 私抜きの方が絶対いいよ、ルシル君!」
ドクター達とマリーさんだけで十分すぎるのに、私のような半人前が入るなんてイレギュラー過ぎるよ。私の存在はプラスどころかマイナス要因になる。しかも私がサポートじゃなくてドクター達がサポート。頭がおかしくなりそうな構図だよ。
「すずか。君の夢はなんだ」
「え・・・?」
「君の、夢は、なんだ?」
「私の夢は・・・」
デバイスマイスター。管理局員のデバイスを管理・製作できる技術者資格。私はデバイスマイスターになって、いつかは私の大切なパートナー・“スノーホワイト”や、なのはちゃん達のパートナーを看ることが出来たらいいな、って。
「デバイス・・・マイスター・・・」
「そうだったよな。なぁ、すずか。その夢への一歩は、まずは実際に製作に一から最後まで、しっかりと関わることだと俺は思う。見て聴いて学ぶ。それも大事だろうけど、実際に経験することの方がずっと為になるはずなんだ。なに。不安がることはないよ。ドクター達がしっかりとすずかを助けてくれるし、俺だってすずか達に丸投げするつもりはない。俺も、俺が有する知識で手伝う」
「だけど・・・でも・・・」
「お願いするよ、すずか。俺の相棒を、君の手で作ってほしい。信頼できる友達であるすずかだからこそ任せたい。友達が一生懸命頑張って作ってくれたデバイスとなれば、俺は今まで以上に頑張れる、以前より強くなれる、そう思うんだ」
ルシル君からの懇願に、私はとうとう「判った・・・。やってみる」受けてしまった。
・―・―・終わりです・―・―・
あれから私は、ルシル君の知識、マリーさんやドクター、それにシスターズの技術協力を元に“エヴェストルム”の製作に勤しんだ。最初はそれはもうてんてこ舞いだった。だけど、確かに見聞きするだけの学習より実際に手を動かして製作する経験の方が、私をより一段と成長させてくれたと思う。そして今日、無事に完成させることが出来た。
「大丈夫だよ、すずか。すずかが頑張ってくれたからな。それにマリエルさんやドクター達も一緒に製作してくれたんだ。心配なんて何1つとしてない。・・・さぁ、始めよう。エヴェストルム・アルタ、起動!」
一瞬の発光の後、ルシル君に左手にはシュヴァリエルさんによって破壊された“エヴェストルム”と似たような剣槍が握られてた。
「うん。無事に起動できたね、イェソドフォルム」
「あはは。流石にそれは杞憂過ぎだろう、すずか。不備なんて起きないよ、みんなで作ったエヴェストルム・アルタだからな」
「う、うん」
まず先代“エヴェストルム”と違うのは柄の長さ。先代は30cmほどだったけど、新“エヴェストルム”は3倍の90cm。ルシル君が体を軸にして先代“エヴェストルム”を振るう時は柄が短かったことで、体自体を回して振るわないといけなかった。でも、柄を長くしたことで体に触れさせながら振るうことが出来るようになったから、体を回すことなく腕だけで振れるようになった。
「あぁ、これは楽だな。振り回しやすい。標的が視界の外に行かないから隙も出なくなる」
自分の体を軸にしてまるで舞を舞うように“エヴェストルム・アルタ”を振り回すルシル君。それはまるで斬撃の竜巻。近付くモノ全てを斬り刻むような鋭さと速さを持ってる。
「その代わり屋内戦では気を付けて。柄が長くなった分、全体的にも長さが伸びたから」
先代の全長は2m30cmで、新しいのは2m90cm。60cmの違いは結構大きい。ルシル君は「まぁ基本的に屋内戦では振り回さないから、気にはならないよ」って、振り回してた“エヴェストルム・アルタ”を止めた。満足そうに微笑んでくれてるから、私も嬉しくなる。
「それじゃあルシル君。変形機構のテストに移ろうか」
「了解だ。ゲブラーフォルム」
“エヴェストルム・アルタ”の柄の半ばが分離して、以前のツヴィリンゲンシュベーアト・フォルムのように二剣一対形態に変形。ルシル君は小さい体ながらも片手で1mを超える剣を軽々振り回し続ける。そして「ゲブラーフォルムも問題ないな」って、二剣の柄頭を連結させて通常のイェソドフォルムに戻した。
「そして次が・・・」
「うん。エヴェストルム・アルタに追加した新機能。アリサちゃんのフレイムアイズ、フェイトちゃんのバルディッシュのフルドライブと同じ、魔力剣を生成するモード・イデアフォルム。通常カートリッジ2発で変形可能になるから」
ルシル君の魔法であり魔術の、魔力刃生成術式コード・アブディエルをデバイスの機能として組み込んでみた。ルシル君の魔法・魔術は、現存してる魔法とは全然違くてすごい複雑な術式だったから、私はすぐさまリタイア。ドクターとウーノさんとクアットロさん総出でなんとか再現できた。ドクター達ですら不眠不休で1週間と掛かったし。
「エヴェストルム・アルタ、カートリッジロード」
古代ベルカの王様、覇王イングヴァルトから頂いたっていう伝説級のシリンダーがカートリッジをロード。そして「イデアフォルム」ルシル君が一言。“エヴェストルム・アルタ”が変形する。剣身だった部分が半分に割れて、発生した両刃の魔力刃の樋の部分をカバーするような位置を取るような形だ。
「魔力刃は伸長自在で、結界・防御魔法の破壊効果は基本装備だね」
「それもフェイトとアリサのフルドライブフォームと同じだな」
ルシル君は2つの魔力刃を4mずつ伸ばして、全長8m90cmとなった“エヴェストルム・アルタ”をブンブン振り回しながら「あぁ、これはすごい。術式強化のゼルエルなどを使えば、もっとすごいんだろうな」って笑顔を浮かべた。
「次だね。エヴェストルム・アルタを神器化させるイドフォルム」
先代“エヴェストルム”にあった二槍一対のツヴィリンゲンランツェ・フォルムと、鞭形態パイツェフォルムへの変形機構は取り除いた。ルシル君曰く、もう使わないかもしれないから、とのこと。変形機構のリソースを新機能・イデアフォルムに回せることが出来て、製作側としては大助かりだったけど。
「ここから先は魔術師の本領だ」
ルシル君は騎士服のポケットから、弾頭が蒼銀のカートリッジを2発と取り出して、シリンダーに装填。そして「カートリッジロード」ロードした。ルシル君が“エヴェストルム・アルタ”の剣身に刻んだルーン文字と呼ばれる魔術効果が発揮される。
(やっぱりただの魔力と神秘を含んだ魔力とじゃ全然違うんだ・・・)
肌にビリビリと感じる圧迫感。ルシル君は「うん。神器化も問題ないな」って満足そうに頷いた。神器化機構についてはルシル君ひとりに任せていたけど、無事に完成できて良かった。
「ルシル君。最後にアレを試してみようか」
「ああ。例の特殊鉱石だな。しかし面白い鉱石もあるものだな。流した魔力を何倍にして返還してくれるなんて。今の俺に最適な機構だよ」
セレネちゃんやエオスちゃんのデバイス、それにアリシアちゃんのデバイス(まだ未完成なんだけど)に組み込まれた特殊鉱石。初めて触れた人の魔力を記憶する鉱石で、その人がその鉱石に魔力を流すと何倍にして返還してくれるっていう力を持ってる。
“エヴェストルム・アルタ”に搭載するため、検査入院を終えたその日にルシル君は例の遺跡に潜って、鉱石を採取してきた。しかも私たちがとても苦労した遺跡探索や鉱石採取を2時間少しで完遂。ルシル君の強さを改めて思い知った。
(フィヨルツェンさん居なかったなぁ。もっと下の階層に居たのかなぁ・・・?)
「えっと、直接鉱石に触れて魔力を流さないとダメなんだよな・・・」
柄の半ばに埋め込まれてる2つの鉱石に魔力を流すルシル君。するとルシル君の魔力が目に見えて上昇したのが判る。足元から吹き上がるサファイアブルーの魔力波。見学席に居るみんなから「おお!」感嘆の声が上がった。
「ふふ、ふはは、はははは・・・! 素晴らしい! 普通の魔導戦もそうだけど、対エグリゴリ戦としての武装としても最高の代物だよ、すずか! やっぱり君に任せて良かった! 鉱石のことを教えてくれたのは君だし。本当に感謝するよ!」
ルシル君がこれまで見せたこともないほどのハイテンションを見せてくれた。ひとしきり“エヴェストルム・アルタ”の機能や性能を確かめた後、「ベッキー先輩。お願いします」見学席に居るベッキーちゃんに一礼した。
「はい、判りました」
頷き返して見学席から降りて来たベッキーちゃんはすでに巫女服のバリアジャケット姿、神楽鈴型デバイス・“ドゥーフヴィーゾヴ”も起動済みで、ルシル君と対峙した。私は「ルシル君。無茶はダメだよ」そう注意してから、2人の魔術戦に巻き込まれないために見学席へ向かう。見学席に着くと、「すごいじゃない、すずか!」アリサちゃんを始めとしたみんなが「すごいよ!」私を褒め讃えてくれた。
「私ひとりじゃ何も出来なかったよ。マリーさんやドクター達がほとんど作ったみたいなものだし」
「謙遜しなくても良いと思うよ、すずかちゃん」
うぅ、今は何を言っても謙遜って思われちゃうみたいだから、「ありがとう、みんな」素直に受け取ろう。照れくさいけどやっぱり嬉しい。それにやって良かったって改めて思う。ルシル君にも感謝されたけど、私もルシル君に感謝したい。私に、デバイス製作の機会をくれたことを。
「始まるみたいですよ!」
リインちゃんのその言葉に私たちの会話は一度止まる。そして、ルシル君対ベッキーちゃん+五精霊の魔術使用による模擬戦が始まった。
・―・―・―・―・
リンドヴルムの本部である天空城レンアオム。その本城内に、“堕天使エグリゴリ”の三強の一角にしてロストロギア蒐集実行部隊・第0小隊ドラゴンハートのリーダー・ハート1である戦導の鉄風シュヴァリエル・ヘルヴォル・ヴァルキュリアの姿があった。
シュヴァリエルがいま居るのは蒐集したロストロギアなどを保管しておくための倉庫。彼の視線の先には鎖で拘束された複数の神器。中にはここレンアオムより逃亡した人化できる神器たちの姿も在った。
「ブリード・スミスが神器王の手に渡って早1ヵ月近く。しかし未だにここへは来ない。何かの作戦か・・・?」
シュヴァリエルが思案顔になる。人化できる神器の中で唯一ルシリオンの元へ辿り着いた“ブリード・スミス”は必ずここレンアオムの在る無人世界の場所を伝えると思っていた。だが、そう警戒していたのに気が付けば1ヵ月と経過。何か企んでいるのではないかと疑うのも無理はない。
「まぁ、いいさ。どのような企みで有ろうと真っ向から吹き飛ばすだけだ」
そう言って倉庫から出るシュヴァリエル。厳重にロックをかけ、朝焼けに染まる廊下を1人歩いていると、目の前から新生・第0小隊ドラゴンハートのメンバー4人が歩いてきた。そんな彼らに連行されるような形で歩く1人の少女。漆黒の髪に銀の瞳、黒のノースリーブワンピースと言った外見。
「シュヴァリエルさん。お目当てのターゲットを発見、確保に成功しました」
新たなハート3である女性がそう報告した。シュヴァリエルは「ご苦労さん。ソレは俺に任せて、お前らは休んでくれ」と労いの言葉をかけ、ドラゴンハートから少女を預かった。2人きりになったシュヴァリエルと少女。
「散々逃げ回っていたのに、結構あっさりと見つかって捕まったんだな」
「ふわぁ・・・。わざとですよ、捕まったのは。逃げ続けるのも楽ではないから」
シュヴァリエルを前に大きなあくびをして答える少女は余裕に満ちている。自分の身に危険が無いと理解しているようだ。自分を必死に捜し、傷を負わせるような真似をせずに確保という手段をとった。それが、自分の身の安全が確かなものだとする思考の材料だったのだろう。
「私を確保したその目的は、再びアールヴヘイムへ侵攻することなの?」
「アールヴヘイムだけじゃない。ラグナロク以降、滅亡することなく再建された各世界に眠る神器を回収する。それが俺のボス、リンドヴルムの願いだからな」
「・・・それで下位次元と高位次元を繋げられるほどの機能を有する転移門ケリオンローフェティタの錠である私ローフェティタと、門自身である私の半身、ケリオンを捜索している、と。まぁ、好きにして。どの道、私たちは再びアールヴヘイムに帰る必要がある。その目的の為、あなたやリンドヴルムとやらを利用させてもらうから」
アールヴヘイムに在る転移門ケリオンローフェティタの錠・ローフェティタと名乗った少女。大戦時、各世界に当たり前に在った転移門もまた神器に分類される物だ。転移門の歴史は永く、魔術を生み出した原初王オーディンが存命していた時代以前より存在している。意思を持ち、人化するだけの学習能力も当然有していた。
「だったら大人しく待っていてくれよ。お前の半身、門のケリオンは必ず連れてくるからさ」
「そう願うなら早く連れて来てよ。こんな辛気臭いところに長居したくないから」
シュヴァリエルが淑女をエスコートするかのようにローフェティタを案内する。向かうは彼女の為に用意されていた個室。転移門は神器としては番外位に位置付けられているが、存在年数で言えば1ケタ台でもおかしくない神器だ。シュヴァリエルですらも敬意を払わなければ、という考えに至らせた。
「私たちをアールヴヘイムに送り届けた後、無様にヨルムンガンドに食べられればいい」
ローフェティタは、自身の前を歩いて「とりあえず逃げ出した残りの神器も回収しないとな」と独り言を喋るシュヴァリエルの背中に向けて、彼に聞こえない程度のか細い声でそう呟いた。
後書き
スラマッ・パギ。スラマッ・ソレ。スラマッ・マラム。
今回は駆け足でルシルの新デバイス、エヴェストルム・アルタの製作話をお送りしました。・・・執筆しながら考えていましたけど、すずかの処女作なんですよね、エヴェストルム・アルタ。ルシル、この野郎!(馬鹿
ここから少し長くなります。
アルタですが、ヒンドゥー教における人間の四大目的の1つで、実利を得るための手段についての概念の事を言います。目的のためには手段を選ばない、という意味です。すずかになんてものを作らせるんだ、ルシル。
通常形態イェソドフォルムですが、基礎・基盤を表す第9のセフィラ・イェソドから取りました。意味はアストラル体(霊気)なんですが、基礎という言葉を第一に考えて使用しました。
二剣一対形態ゲブラーフォルム。峻厳(非常に厳しい事)・神の力を象徴する、第5セフィラ・ゲブラーのことです。正義を前にした破壊的性格を持つセフィラです。
フルドライブ:イデアフォルム。現象界を超えた、普遍・完全・普遍・永遠の真実在、物体としては捕らえることが出来ない存在(そなら魔力にしよう、そうしよう)を意味するイデアから取りました。
神器化イドフォルム。オーストリアの精神分析学者・精神科医のジークムント・フロイトが提唱した、人格構造に関する基本的概念・イドから取りました。詳しく説明すると超絶長くなるので、気になる方はwikiで「自我」を参照してくださいな。
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