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炎の中の笑み

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第七章

「この教会はです」
「はい、ここはですね」
「何の変哲もない」
 こう本郷にも答える。
「普通の教会です」
「そう思われていましたね」
「昨日までは」
「それでは捜査からは」
「外れていました」
 ごく普通のだ、街の景観の様なものだったというのだ。
「想像もしていませんでした」
「そうだったんですね」
「はい、あと本郷さんは」
「ああ、今敬語ってことですね」
「最初にお会いした時は砕けた喋り方でしたが」
「ちょっとまあ」
「砕けた話をして私が怒ると思いましたか」 
 高篠は笑ってこう返した。
「そこで」
「そうした人ならもう連絡せずに」
 それで、というのだ。
「俺達だけで捜査するつもりでした」
「そうでしたか」
「それで結果だけをお伝えするつもりでした」
 そうした考えであったのだ、その時の彼は。
「それでも真面目に対してくれたので」
「怒らずに」
「非礼はすいません」
「構いません、本郷さんもお気になさらずに」
「そうですか」
「私も怒っていないので」
 本郷の最初の非礼とも受け取られる態度にというのだ。
「事件の解決をです」
「念頭にですね」
「考えていますので」
 それで、というのだ。
「ですから」
「公ですか」
「それを考えていますので」
 それ故にというのである。
「相手の方の口調は特に」
「ですか」
「これ以上はです」
 その目を鋭くさせてだ、高篠はこうも言った。
「犠牲者を出さない」
「それが肝心ですね」
「ですから」
「俺の喋り方はですか」
「いいです」
 彼にとっては、というのだ。
「そうです」
「わかりました、じゃあ」
「今から」 
 こう話してだ、高篠はその本郷そして役と共にだった。
 三人で教会の玄関を潜ってだ、礼拝堂に入った。するとだ。
 その礼拝堂には一人のシスターがいた、二十代後半と思われる整った顔立ちのシスターで黒く清潔な尼僧の服を着ている。
 シスターは三人を見てだ、こう言った。
「まさか」
「そのまさかです」
 鋭い目でだ、高篠が答えた。
「シスター=マクダラこと北崎美恵子」
 シスターの名前さえ言ったのだった。
「署までご同行願います」
「嫌だと言えば」
「無理にでも」
 鋭い声での返事だった。
「そうさせて頂きます」
「そうですか」
「ですから」
「生憎ですが」
 ここでだ、不意にだった。
 シスターは身構えた、そうして言うのだった。 
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