魔法科高校~黒衣の人間主神~
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九校戦編〈下〉
九校戦九日目(2)×デスサイズで刈られそうになった工作員と一科生・二科生の違いについて
「さてとそろそろ深雪の出番だから、準備でもしてきたらどうなんだ?」
「そうですね。それにデバイスチェックの時にどうなるかは、私も何となくどうなるかは分かります」
第一試合第一高校の成績は、残念ながら途中棄権となった。重苦しい雰囲気に包まれた一高テントにいたが、そろそろデバイスチェックするにで俺と深雪は一時的に分かれたのだった。一応護衛者蒼太もいるが、外で待っているとの事だし大会委員のテントへ行っていた。
深雪は選手控え室で待っているが、一応沙紀を置いてきた事で二試合連続で手を出してくるとは普通なら思わないだろう。機器のチェックは、蒼い翼の者もいるがチェックをするのは大会委員がやっているらしい。
「次の人」
呼ばれたので、深雪のデバイスを検査機器に置いた。検査機にセットし、コンソールを操作と同時に異常を感知した俺の心眼によって、すぐに空間から短剣を取り出してから先に手を出していた。
「この野郎!」
「ヒイィィィィィ!」
この委員をテーブルの向こう側から引きずり出してから、短剣を出して思いっきり顔スレスレに地面に刺したのだった。悲鳴が上がるが、俺の殺気全開だったので悲鳴が上がるのと怒号が広がるが俺には何も聞こえない。
「全く舐められた事をしてくれるが、テメエが第一高校関連の事故に関わった人間のようだな?」
「・・・・・」
「なるほど黙秘か・・・・そうしていたとしても俺が許すはずが無いだろうが!」
短剣を握っていた手を離してから、蒼太が検査機器から取り出したデバイスを渡して来た。怒号を挙げながら警備担当の者が来たが、俺の本気怒りだったのでそのまま静観していた。手加減なく放射した殺気にて、いつ委員の者を殺してもおかしくない。俺が叩き付けた係員は、苦痛しながら俺の放つ殺気に怯えていたのだった。
「やはり異物が紛れ込んでいるが、お前が電子金蚕をした魔法師だという証拠がこれにあるぞ」
「ではやはりコイツが全ての元凶なのでしょうか?」
「さあな?だが九校戦運営委員会には、屑共がまだまだいそうな気がする。おい、ちょっとは呻き声でも上げてみろや?」
一方的となり拳を振りながら、多少委員の者に殴るがそれを止める者はいない。それは俺の殺気を放っているので誰も動けないからだし、それに俺らを取り囲むのは全て蒼い翼の者であるからだ。他校生徒は殺気により動かないが、係員の顔がこれ以上無い程引き攣っている。恐怖と絶望の表情が見たかったので、俺らを単なる死神と会ったような顔をしていた。
「アァ・・・・テメエら何見てんだゴラアァ!」
「ヒイイイィィィィィ!」
「し、死神が・・・・ここに・・・・いる・・・・」
「誰が死神だ!おい誰だ、テメエか?それともテメエか?アァン、舐めていると今度はテメエらに殺気ぶつけようか?」
係員を押し潰しながら、周辺を見たら誰かが死神と言ったので周辺一帯にいる生徒らに睨みつけた。そして短剣を地面から抜くと、短剣からデスサイズとなってから先っちょをそれぞれの生徒に向けて言った。名指ししたデスサイズを向けると全員の首が横に振ったからか、目線を周辺から係員に向き直した。それも鎌を片手に持っていたので、本物の死神がここにいるみたいだったと蒼太が言っていた。
「へえ~お前が全ての事を関わっていないと言いたいのか、だったらここで死ぬという選択しかないな」
右手にあったデスサイズを短剣に戻してから、その剣先を男の首に向けた。それを見ていた者達は目を逸らす事が出来ずに、全員が思った事は同じ光景を想像していた。この少年の剣先は、この哀れな罪人の首を容易く首チョッパ出来ていたとか血溜まりの中に無慈悲な裁きを執り行うだろうと思っていたからだ。と同時に烈に合図を送ったのでちょうどよく来た烈だった。
「一体何事かね?」
その避け得ない事は、穏やかな老人の声によって回避された。威圧感も厳しさもない春風のような声や声の波動によって、その場で蹂躙していた殺意やら殺気を中和してくれた。
「その声は烈か?少し待て、今すぐコイツを殺さないと俺の気分が解せない」
「一真様、落ち着きなされ。その気持ちは分からなくもないが、今その男を殺せば他校やら一高から友が離れていってしまいますぞ」
「・・・・分かったが、コイツを取り押さえろよ。逃げないようにな?」
そう言ってから、殺気やら殺人をしようとしていた目を閉じてから短剣は空間にしまった。そしてしばらくしてから、目を開けるといつも通りになり立ち上がって蒼い翼の警備兵が取り押さえたのだった。
「一真様、新人戦では実に良かった試合であった。それより一体何事かね?一真様が殺気やらを出す程のかね?」
「烈が来てくれないと俺はコイツを殺していた。まあいいとして、コイツがウチの選手が使用するデバイスに不正工作を行われていたので犯人を取り押さえて尋問していた所だ。最もコイツがしたのは、電子金蚕を仕込んだ魔法師だったぞ」
「ふむ・・・・確かに異物が紛れているが、やはり一真様は凄いですな。見ただけでこれが電子金蚕だと分かるのは、並みの魔法師以上かと」
尋問をしていたと言ったが、俺の殺気や殺意に凍り付いた者は誰もがその言葉は嘘だと言いたい。が、俺が目を周辺に向けていたので何も言えずにいた。尋問だけで済んだ事ではないが、九島老師とタメ口で喋っている事がもっと驚愕した事だった。それも電子金蚕というキーワードを聞いた事で、どういう魔法なのかを疑問符出ていた。
「どうやら周辺にいる者らは、電子金蚕と言うのを知らないようだ。烈が現役だった頃、東シナ海諸島部戦域で広東軍の魔法師が使っていたもんだ。電子金蚕の説明は烈がやってくれ」
「私にとっては役得のようですな。電子金蚕は有線回線を通して電子機器に侵入し、高度技術兵器を無力化するSB魔法。プログラム自体を改竄するのではなく、出力される電気信号に干渉してこれを改竄する性質を持つ為、OSの種類やアンチウィルスプログラムの有無に関わらず、電子機器の動作を狂わせる遅延発動術式。我が軍は電子金蚕の正体が判るまで、随分と苦しめられたものだ」
SB魔法とは『精霊』を含む自律性の非物質存在(Spiritual Being)を媒体する魔法の総称であるが、それを使う者を例えるなら幹比古が使う精霊魔法とかだ。精霊、式鬼、使い魔、霊獣とかを含むが俺的には精霊術式や神仏を召喚するのがそれだと思っている。烈が説明した事で、地面から立ち上がれぬままの男へ冷ややかな視線を俺と烈が投げたが腰を抜かしていた。
「そんじゃ烈が説明してくれたからだが、オメエはどこで電子金蚕の術式を手に入れたんだ?」
俺と烈が楽しげな笑みをしていたが、その笑みは歴戦の魔法師が敵を見下ろす際に浮かべる笑いへと変わりつつ、俺は再び聞いた。悲鳴を上げて、四つん這いでその場を逃れようとする工作員は、俺らの部下である蒼い翼の警備兵が取り押さえられていた。そんで工作員を拘束してから、場所を変えて尋問をするらしい。
「さてと一真様もそろそろ競技場に戻った方が良いだろう、それにデバイスを予備のを使わなくとも使えるように出来るだろう」
「そうだな。それにもう改めてチェックする必要性がないからな、大会委員長も運営委員も全てクビとして扱った方がいいだろう。不正工作を散々泳がせた結果がこれだしな、かつての無い不祥事である事については後々言い訳を聞かせてもらおうか」
言いながら異物を取り除いた事で、青木と共に外に出た烈だった。そんで俺はいつもの雰囲気を出したが、既に他校からは怒らせるとヤバいと噂がすぐに広まった。それと烈とのタメ口とフレンドリーな態度を取っていても、怒らずに寧ろ烈も俺の事を様付けする程だったのが不思議に思っていた。
第一高校の本部天幕に戻っても、さっきまで持っていたデスサイズを片手で肩に担いでいたので俺に向ける視線がまるで死神そのものだと思っていた。微妙なのかは知らんが、感情を持っていても怒る時は怒るさ。
今俺に向けられている眼差しは、得体の知れぬ異質な存在に対する戸惑いと恐れもあった。それに関してデスサイズをしまったが、既に遅しだったのでここに戻ってくる時にしまえば良かったと後悔した。
「お兄様・・・・」
「すまない・・・・少々トラブルが発生した事で、俺の殺気やら殺意をばら撒いてしまったようだ」
「お兄様が取った行動は、間違った行動をしていません!」
「その感じだともう情報が回っているのか、蒼太も一緒にいたが余りにも殺意を飛ばしてから止められなかったらしい」
「あの怒気は久し振りでしたので・・・・」
「一真様が怒気をするのは、随分と久し振りよね。何やらデスサイズを見せたのか、本物の死神がいたと噂されているわよ」
まあ兄貴が妹のために怒るのは、とても当たり前の事でもあるがその前に父と娘の関係なので怒りをして当然だと思う。深雪は泣かずにしていたので、俺は優しく声を掛けた。
「今日はお前の晴れ舞台なのだから、身贔屓に聞こえたとしてもそれを思う輩はいないと思っている」
「私だけじゃないのですからねお兄様。ですが、そう怒ってくれた事で他校や一高の生徒らはこう思ったのではないのかと」
俺が怒ると周辺に血溜まりが発生するので、目線を周りに向けても息を潜めて物陰からこっそりと見ていた視線があった。
「あら一真君。大会本部から当校の生徒が暴れていると言われた時は、一体全体何事かと思ったのだけれど不正工作を見つけて尋問をしていたと聞いた時は驚いたわ。それに本物の死神が現れたと聞いたから、何だろうと思っていたのだけれど今までの不正工作をしていた輩を殺す様子だった、と既に他校から噂が飛び交っていたようね」
「本物の死神なら目の前にいますが、さっきまでデスサイズを担いでいましたからね。それにしても流石は生徒会長、生徒達の代弁者とも言いましょうか。ですがご安心を、怒り狂う程暴れてはいないので。何やらここの空気が可笑しいので、私は深雪と共に作業室に参ります」
怒り狂う程暴れていないと言った後に、作業室に行く前に浄化の風でここにいた生徒らは怒り狂う事が何もなかったかのよな状態となっていた。夜明け前からどんよりと曇った空は、二試合目の始まる九時半頃になってから晴れてきた。まあ雲はぼちぼちとあるが、星明りが邪魔だと思う者もちらほらいるようなので天空神ゼウスに夜空に少々雲があるように仕向けてくれた。
「今日はとてもいい天気だそうで、このままの天候もこのままになるらしいぞ」
「夕方になってもこのままという事は、何かしらお兄様がやったのですか?」
「今はそういう事にしときましょうか深雪様。今は近くに人がおりますので、天候関連については人がいない時にでも」
「その方がいいかと思いますな。一真様の怒りも浄化によって、綺麗サッパリ無くなったようですからな~」
「俺が怒ったのは実に久しぶりな感覚だったが、夜からの前払いが既にあるようだな」
予選を通過して夜の決勝に進む事を前提とした会話が聞こえてきたので、少し離れた椅子で聞いていたあずさは呑気だとは感じなかった。一般に一年生と二年生以上の実力差は、二年生と三年生の実力差よりも大きい。魔法の専門教育は、高校過程から本格化するものだからだ。仮に新人戦が無くとも、本戦に一年生がエントリーするケースは僅かだろう。普通なら、大会期間中にいきなり新人戦から本戦出場したとしても、上位進出どころか予選通過も難しい状況となってくる。
「(深雪さんと織斑君はまるで別物だと考えた方がいいかも~、いくら一年生でも本戦に出れる生徒はほとんどいないとしても深雪さんぐらいの力なら)」
あずさは気が弱い所を除けば、同年代の少年少女の中で間違いなくトップクラスにランクされる魔法師の雛鳥。気の弱い性質で第一高校の生徒会役員に選ばれている事自体が、彼女の能力を逆説的に証明している。そのあずさが見れば深雪は間違いなく本気で優勝を狙える実力があり、妹単独でもズバ抜けているが選手兼エンジニアの兄がサポートする事で、優勝候補筆頭であった摩利が万全であったとしても勝てる確率は低い。
心の中でそんな事を思っているが、彼女も第三試合を担当するエンジニアであるからか。ここにいるのは、デバイスの最終チェックを行う為であった。本戦モノリス・コードとミラージ・バットは九校戦男女それぞれの最終競技なので、どの学校もスタッフをフル稼働で貼り付いている。第一高校では、選手一人にエンジニア一人体制で両競技に臨んでいたのか、この競技では織斑兄妹はあずさにとってライバル。
『同じエンジニアとしては、俺と中条先輩がライバル視しているようだけど勝ち負け以前に競い合う気持ちすら無い状態となっているな』
『恐らく先程の出来事がまだ頭の中にあるからかと、あの時の一真様は一生徒が見るのは悍ましいぐらいの殺意を持っていました。それと擬態の聖剣での短刀からデスサイズである鎌を取り出してましたからね』
『私も最初聞いた時は、久々にお兄様の雷が落ちたなとは思いました。大会本部で係員に暴行を働いている、と一報を受けた時の中条先輩らは驚愕より恐怖してました』
『深雪様の仰る通りですが、理由無く暴力を振るうような男の子だと認識しているかと。付き合いは浅いですが、理由があれば暴力を振るう事に躊躇わないだろうと思っているかと』
魔法が軍事目的で開発されたので、今でも戦力・抑止力としての役割が魔法の用途の中で大きな比率を占めている事はあずさも当然知っている。暴力に躊躇わない心を持たない事で、あずさは少し恐ろしさを覚えていた。軍事力に警察力は行政システムに組み込まれた暴力であり、行使は決定者・命令者・実行者・監督者・多種多数の人間が責任を分かち合うだろうが、俺は決定・実行・責任を一人で負う事が出来るので何も問題はない。
相手の死=殺人という結果となったとしても、冷めた鋼のような心の在り方が恐ろしく感じたあずさだった。それから恐れから驚きへの変化は、俺の口から詳しく語られた経緯にあった。デバイスに不正工作を加えていた現場を見つけ出し、取り押さえた上に尋問をしていたという事情説明。小早川先輩を担当した平河という三年生技術スタッフの泣き出しそうに歪んだ表情が、俺やあずさの瞼に焼き付いているがそれはとても悔しそうにしていた。
『それにしても小早川先輩には囁きをして、平河先輩には何もしないとはどういう事なのでしょうかお兄様?』
『あーそれね、深雪にとってはあそこでフォローを入れるべきだと思った訳だが俺は事前にストーリー原案を見ているのでね。あそこで囁きを入れると、本来起こる事が起こらなくなるからだ』
『なるほど。平河という技術スタッフは細工された事が分からなかったそうですが、もしかして横浜での事と繋がりがあるのでは?』
『その所為で選手が事故を起こして、その選手に囁きを入れたが技術スタッフには何も言わなかった。結果としては、優秀な同級生一人が再起不能にならなくなりましたが平河妹が何らかの工作をする事で横浜と繋がると』
俺らは念話で話しているが、あずさがもし平河の立場だったらあの場で逃げ出してホテルの部屋で泣いていただろう。俺は二科生であり『劣等生』と言うのは、表であり裏では『優等生』以上の本物の魔法師以上に戦える事だ。俺の実技成績は、普通だったが二科生にしたのは俺が希望したからである。入学直後の実技試験で赤点を取る生徒は、毎年五人以下だが成績としては普通である。
それが成績だとすると現実ではテストという作られた状況下に置ける『実力』ではなく、魔法師が現実に直面する諸状況への対応力を見たのであれば、評価は逆となる。開発や分析・調整作業と戦闘においても、俺の力量は超が付く程の一級品とも見るだろうな。魔法という能力だけを切り取って評価するのではなく、魔法が活用されているシーンで評価するならばトップクラスの『優等生』とも言える。
「(私達の『成績』って・・・・『一科生』って何?『一科生』と『二科生』の区別に意味なんてあるの?)」
九校戦を間近に見ていて、あずさはそんな事を考えるようになっていた。迷いであり、今まで当たり前の事として疑問を懐いた事もなかった価値観が、俄かにあやふやで頼りになく思えてしまう不安感。あずさは自らを『ブルーム』と誇り、『ウィード』と見下す幼稚的な意識を持っていない。自分の魔法技能が優れたモノであり、それ故に自分は優秀な魔法科高校生であるという自負に縁が無いという訳ではないが、俺の心眼やら心の声が聞こえて来たのか念話会議に入れといた。
『中条先輩は今迷いに入っている様子だ。中条先輩の魔法技能に対する自信は、未だに濃霧のように閉ざされた魔法師として魔工師としての未来を切り拓く勇気を与えてくれるパートナー。それ自身が意識してなくとも、魔法師としての自信が彼女の背中を押してくれるのは事実だとしか言い様がない』
『魔法に限ってではありませんもんね。未来や将来に対して期待と同じ大きな不安を抱えている若者は、自分を支える経験や実績が不足している分だと自負や自信に依存している部分もあります。本来のお兄様は、魔法科高校の優等生ではありますがそれを隠すようにしてきましたものですから、魔法の成績が自負を生み出して自信が持てる事は分かります』
『一真様が二科生にしたのは、実際ウィードと見下している者への天誅をする為であり、本物の魔法師以上のスペックを持っています』
『一真様を見ている内に思ったのではないでしょうか?自負や自信が根拠の無いものに思えてきた事、試験成績について中条先輩が一年生だった当時の方が間違いなく上のはずだと。それを今の一真様と見比べているのではないでしょうか』
『成績はともかく実戦魔法師としても、魔工技師としても魔法研究者としても勝つ要素が全く無いのだろう。中条先輩が持つレアスキルに関しては、七草会長や渡辺先輩にも負けないと密かに思っている特殊魔法であっても、俺の前では意味が無いんだろうな』
念話会議をしている間でも、あずさはそれほど劣等感に悩まされずに済んでいる方なんだと。彼が相手なら敵わないのは当たり前で、彼を相手に劣等感を覚える方がおこがましい、と自分をそう納得させていたのだった。
それに皆は俺の実力については知っているし、実際九校戦新人戦にて名無しであると同時にモノリス・コードでの戦い振りを見たからか。俺と同じ一年生でも、特に二科生に劣る一科生の者達の成績とは何なのか?特に一年男子はそれを知っていても、嫉妬心や妬みを持つ者も多いが逆に女子は例え二科生という枠を外して堂々と俺と話し合っている。
「あーちゃん、あんまり思い詰めない方がいいわよ?」
背後から不意に声を掛けられて、跳び上がる程にして振り返ると真由美が苦笑いを浮かべていた。まあ真由美なら、俺の事を知っているし入学前から知っていたからであるかもしれん。
「一真君はね、と・く・べ・つ」
後輩だろうと特別視している者は多いが、その語句に反して暖かい風が吹いた。
「納得出来ない子は恐らく男子だけだと思うけど、高校生にもなったら納得出来なくても受け容れる、って事も覚えなきゃ、ね。二科生が魔法技能で一科生に劣っているのも事実なら、一真君が私達以上のレベルを持っているというか超えているというのも事実なのよ」
「えっ、でも・・・・」
俺らも聞いていたが、普通なら意外なセリフだったので絶句したに違いない。俺のレベルはあずさより数段高いとされていたらしいが、真由美のレベルでも卓越した水準でもあり、俺が劣っているというのはあずさは思えない事だった。
「これはお母さんから聞いた事なんだけどね、全てが負けているのよ。私と一真君とのレベルでは天と地の差だって、総合的な魔法技能なら私の方が上だと見る者も多いけど一真君との撃ち合いをするならば距離とか関係なく全敗するわ。CAD関係の技術も敵わないし、魔法に関しての知識の量もまるでデータバンクに直結しているのでは?と疑問に持つくらいよ」
軽く言葉を切ってから、真由美の母親が旧姓四葉を持つのであれば秘密主義の母親を持つ真由美でも言葉を探すようにして話していた。上級生の面目丸潰れのようにして、真由美は他人事のように付け加えた。
「誰にだって得意・不得意があるんだから、全部が全部相手より勝っている事なんて滅多に無い事なんでしょうけど。でも一真君のレベルは総合的に上、というのは織斑家に嫁いだ深夜様も知っている事だし。魔法実技も魔法工学面も知識も全てが上、そういう悲観的な事を考えるのが普通らしいけど。実技も試験も上なのに何故一真君は一科生じゃなくて二科生にしたかについては、この前も言ったけどね」
魔法実技の試験内容はちゃんとした意味のあるものだし、試験成績だけが人間の価値観ではないと言う事を前提に言っていた。自分より上だと思いこむと、全部勝ってないと耐えられなくなる事だが実際は一科生と二科生の違いというのは、実技授業の都合上と実技テストの成績で区切られている事を言う。
あずさは知らず知らず目を大きくして見開いていた。真由美の言葉に含まれる意外な事実に、頭の中が真っ白になってしまいそうなショックと一科生と二科生の区分けが本当の実技授業の為であると言うのは初耳だった。
『今の所は、全てが初耳に聞こえるけど俺らは全てを知っている事だ。制服が単に生徒数を増やす際に、刺繍の直しが間に合わなかった事をな』
『この事は余り知らされていませんもんね。裏話にもなりますが、知っている人間は一部でしかありませんが昔は一高も一学年百人だと言う事を』
『これについては、随分昔に語ったかもしれませんが当時の政府が焦って新年度から増員すればよかったのを、年度途中から追加募集を掛けたので教師の数も増やす事も出来ない。当時の魔法教育者の人材不足で、今以上に深刻な問題だったのを苦肉の策となった。途中編入の一年生は進級まで集中的に理論を教えて、実技は二年になってからだったという二科生制度』
『いざ二科生を入学させたら、学校の発注ミスでエンブレムが無い制服になってしまった。それが大きな勘違いを生んでしまい、二科生制度はあくまで進級までの暫定措置となった。誤解が大きく膨らんで、補欠扱いとしたのが今の二科生制度。制服を二種類になってしまって、長い間放置してしまったのが今の結果となります』
という事で話が終わったのだが、それを全て聞いていた俺らはブルームとウィードが生まれた原因を失くそうとして、二科生に入った俺である。まあそういう事で長い会議は終わったが、あずさと真由美がまさかこの会話を全て聞いていた事を知らないでペラペラと喋っていて、それを深雪には内緒だと言っても無駄に終わった。
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