魔法科高校~黒衣の人間主神~
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九校戦編〈下〉
九校戦九日目(3)×織斑家集合と飛行魔法
生徒会二人が揃って何かを言われたとしても、華麗にスルーしていた俺と深雪に蒼太と沙紀だった。ここで競技フィールド脇の一高スタッフ席に、深夜と穂波さんとバカ弟子である九重八雲が来た事で他校からの生徒らが八雲の事を珍しいモノとして見ていた。
来てくれた事に驚いた俺らだったが、ここは俺ら一高以外は立ち入り禁止のはずなんだけど、九校戦を仕切るのが九校戦大会本部から蒼い翼へとなった。なので関係者は立ち入る事を許可したと穂波さんから聞いた俺らだった。
「深雪、頑張るのよ」
「はいお母さま、にしてもまさかここに来るとは思いませんでした」
「私は止めたのですが、奥様がどうしてもと言ったら真夜様から青木副社長に聞いたらOKだそうで」
「ま、ここに織斑家の者が来ちゃったのならしょうがないと思いますよ穂波さん。上には七草会長さんもいますけどね」
「それにしても深夜と穂波さんはいいとして、何でお前までここにいんだよバカ弟子。お陰で注目の的は深雪ら選手じゃなくて、お前に向いているわ」
「本来なら私はここにはいないし、来てもいないが助っ人として来ましたよ。対ドウター戦においては、少しでも戦力が増えた方が良いと思いますよ一真さん」
深夜と穂波さんまでならともかくとして、バカ弟子である九重八雲までがここに来ているので注目の的となってしまった。電撃+ハリセンで叩いてから素直に席に座らせた。忍術使いだから、試合を邪魔しなくても俺の弟子が勝手に動かれては困るので、デデンネをボールから出して八雲の頬付近にいた。もし動く度胸があるなら、デデンネのほっぺスリスリの攻撃を喰らっとけと警告を言っといた。
「久々に出て来たけど、デデンネは可愛いわね!」
「デネデネー♪」
「それにしてもこんな所で出してよかったのでしょうか一真さん?」
「いいのいいの。バカ弟子の萌えオタク開花した事で、ミラージ・バットで興奮したバカ弟子が何するか分からん。それとも深夜がコイツを監視するか?」
そう言ったら即刻断ったので、ここはデデンネが見ていた方がいいと判断したからだ。深雪は、しばらく深呼吸をしてから、始まりを待つミラージ・バットのフィールドに上機嫌に立っていた。九校戦開幕以来、家族がここで揃うのは久々なのかとても気合が入っていた。俺らはいつも一緒にはいられないが、今だけは俺は兄兼父として娘の晴れ舞台を楽しみにしていた事を深雪に伝えてから、今まで行って来た練習通りで思いっきりやって来いと言ったからである。
『全く一真さんはここで父親の言葉を言うのはいつ振りかしらね』
『それだけ楽しみにしていたとしか言い様がありませんね奥様』
『いつもであれば家に帰ると家族暮らしとなり、いくらでも家族の時間を持てましたが九校戦宿舎ではそうは行かないのですよ』
『まあ私と蒼太が見てきたと言ってもそれは仲間であり、実際に家族として一緒に見るのは今回が初かと』
念話で話し合っていた深夜達だったが、親バカなのは分かっているつもりだ。それに深雪は俺達以外の人間は、身体のラインが丸見えのコスチュームに纏わりつく煩悩剥き出しな視線が気にならない程に集中していた。
俺達家族や仲間達以外の視線全てをフィルタリングして、ゴミ箱に放り込んでいる様子だし、観客達全てをただの箱か野菜だと思えと言うのはあがり症の人間に対して効果の無いアドバイスであっても、今の深雪にはそれ以下にしか見えていない。
兄兼父は誰にでも好かれる体質を持っているが、何故か全校の男子にだけは余り好かない視線を感じるが女子だけはとてもじゃないが歓迎されている様に見える。勿論全ての男子ではないが、一部の友らや上級生には好かれていると思っている。
対して深雪は抜群の美少女と見せて、管弦の音を持つ舞手の佇まいは客席の青少年に動悸と息切れを引き起こし、試合が始まる前から担架が呼び出されそうな雰囲気を持っている。そして予定時刻よりも数秒早く試合開始のチャイムが鳴り響いた。
「深雪は軽やかに舞い上がっているわね。それにしても深雪が着る服装は一歩間違えば危ないわね」
「ああ。ミラージ・バットの選手は皆、コスチュームを二種類用意しているからな。強い日差しでも翳む事の無い鮮やかな色合いの昼用、照明に映る明るい色の夜用コスチュームがある。選手同士の衝突を避ける為に定着しているようだが、深雪が纏っている色は濃いマゼンタ色なので一歩間違えば下品な配色ミスとなるが・・・・」
「なるほど。深雪お嬢様が着ると高貴な雰囲気になる事ですか、紫外線除けを兼ねる濃いメイクもお嬢様の品位を損なう事が無いという事ですか」
「深雪君の華奢な身体付きとしては、まだまだ発展途上とも言えるが真っ直ぐに伸びた細く長い手足とは対照的に、優美な曲線を描く胸や腰は動物的な肉感が無い代わりに咲き誇る花樹のような色香を漂わせている。これはまさしく花のような美貌を持つ萌えだ!『デデンネ、ほっぺスリスリだ』・・・・一真さん、じょ、冗談なのに。痺れた」
「全くコイツと来たら、戦国†恋姫で萌えオタクに開花したからこうなる予想はしていた」
興奮していたバカ弟子にデデンネで痺れさせて、そのまま観戦していたが劣る勢いでターゲットへ向かうが一人だけふわっという形容が相応しく見えてしまうのか。観客達の目はまたしても深雪に釘付けとなりそうだったので、エレメンツの一つである雷で視線を向けていた者ら全員に放電をしたのだった。
試合中に放電された観戦客らは、何故に攻撃をされるかは分かっていなかったので、深夜と穂波さんが代わりに全観客席に向けて幻術を掛けたのだった。次、視線を相応しくない視線をするとどうなるか?という死神の声だった。
「深夜に穂波さんもありがとう。だが演技のみの美しさならば、深雪の勝ちではあるがこれは本戦の九校戦だ。そう甘くはなかろうに」
俺は深夜と穂波さんに礼を言ってから、また見ていたが流石の深雪でも押されていた。
「深雪さんがリードされるなんて・・・・」
第一ピリオド終了の合図と共に、詰めていた息を吐き出しながらまるで信じられない目で見ていた美月だった。それと先程の幻術を回避していたので、エリカやレオ達がいる場所や深雪の知り合いには幻術が掛からないようにしていた。
「トップに立った二高の選手・・・・BS魔法師とまでは行かなくとも『跳躍』の術式にかなり特化した魔法特性を持っているように見えるな・・・・」
「それだけじゃないわよ。跳び上がる軌道を計算して、巧みに深雪のコースをブロックしてる。『跳躍』のスペシャリストと言うより『ミラージ・バット』のスペシャリストと言うべきじゃない?」
美月が驚きを共有しながら、幹比古とエリカがそれぞれの自分の考えを口々に言うと。
「二高の選手は渡辺先輩と並んで優勝候補に挙げられていた選手だから・・・・」
「あれだけ目立てば、マークされるのも仕方が無い。三年生の意地もあるだろうし」
今日は一般観客席で応援しているほのかと雫が、異なる角度からそれぞれ思った事を言うと何故か周辺一帯に放電を放った者がいたのか。黒焦げになりながら観戦していた客達を不思議に思っていると、今度はレオが一言言った事で皆が納得したのだった。
「恐らく深雪による視線排除するために、一真がエレメンツの一つである雷か電気でも放ったんじゃねえの?それに一真や深雪が、このままでは終わらんと俺は思うぜ」
「それと共に幻術でも掛けたと思うな、あそこにいるのは深雪さんのお母さんと側近さんぽいよ」
「そ、それとあそこにいるのはあの九重八雲だよ!対人戦闘を長じた者には高名な『忍術使い』で、由緒正しい『忍び』とも言うけど忍術を昔ながらのノウハウで、現代に伝える古式魔法の伝承者!なのに一真の事をまるで師弟関係に見えるのは僕の気の所為だろうか?」
次のピリオドでは深雪が挽回しようとしていた時に、レオらがバカ弟子の方を見ていたのでさぞ驚いただろうな。古式魔法の伝承者で有名ではあるが、一応対ドウター戦の助っ人を連れて来ただけだ。第二ピリオドが終わった時はトップとなっていたが、ポイント差はほんの僅かとなっている。
深雪もまだまだ余力を残しているが、相手も第三ピリオドに備えてペース配分をしていたか調整していたかに見える。まだまだ勝敗は分からないが、使用魔法のバリエーションが限定された条件とはいえ高校レベルで深雪と対等に競い合える魔法師がいる事に俺は驚いていた。
「この国も狭いようで広く感じるのは俺の気の所為か?」
「そうですね。日本は狭いようで広いと感じるという事は、まだまだ魔法師としてはレベルの高い魔法師がいるという事ですよね」
俺は蒼太と話していると深雪が戻ってきたが、何やら真剣な顔持ちを持っていた事に気付いた俺ら織斑家だった。
「お兄様、アレを使ってもよろしいですか?」
言葉の強みだけで負けたくないと感じたのか、綺麗なだけの可愛い人形さんではなく強い意志を持った表情を見せたのは久々に見える。
「無論だ。ただしバーストモードはまだ使わないように・・・・・もしかしたら決勝で術式を各校に配るかもしれないからな」
「アレを使う事は本来ならまだまだ使わないはずだったのですが、流石は本戦ですから深雪様には負けたくない気持ちが強いですね」
「深雪、思いっきり飛んで来なさいな」
俺らは笑顔で頷くと、既に用意していたデバイスを渡してからフィールドへと戻って行った。それに気付いたのは、意外にもエリカらだった。
「あれっ?深雪のデバイスが変わってる」
「でも、左手にもデバイスを持っているみたいだけど・・・・」
先程までは携帯端末形態だったが、右腕にブレスレット形態のデバイスに左手に握る携帯端末形態の特化型を持っていた。それを知っているのは、ほのかだけだった。
「深雪はどうやらアレを使うみたいね」
「アレ?」
「一真さんが深雪の為だけに準備した秘策で、深雪にしか使いこなせない一真さんの最終兵器。とても驚くわよきっと、今ここにいる人達皆が一人残らずにね」
秘密兵器のはずが最終兵器と言ったので、それは一体何なのかは第三ピリオド開始のチャイムが鳴ったのだった。右腕に巻いたブレスレットはあくまで予備であり、本命は左手に握る携帯端末形態型の特化型デバイスである。オンとオフのスイッチしかない単純な事であるが、限定者にしか使えない隠しモードがあるのは先月発表された事で発表はあったが使える者は特定された人物のみ使えるモードだと発表した。
開始直後に深雪は押し込んでから、展開される極小の起動式であり止まる事なく途切れる事もない繰り返される起動処理。深雪の身体は空へと舞い上がったので、二高選手が行く手を遮ろうとするが左下から交差する軌道だと、相手の方が速かった。このままだと、深雪と衝突すると思わせてから自らの飛翔速度を加速した事で回避した。客席がどよめいたのは、そのまま選手より高い所で静止した事だった。
「どうやら観客らはまだ飛行魔法というのが分かって無さそうだな」
「ジャンプしている途中で更に加速する魔法力を称賛したのは、あくまで魔法の常識範囲内で示された力量に対してだと思います。空中で一旦立ち止まった事で、足場へ降りないで空のステージに作られたスケートリンクで滑走してますね」
「あれならバーストモード無しでも充分に力が発揮するわよね。歓声から絶句に変わったのか、十メートルの高度往復しなければならない他選手と水平に移動するだけで済む深雪ではもう競争どころではないものね」
五つ目のポイントを連取した所で、凍り付いた観客の声帯は徐々に融け始めたが正直遅いのでは?と俺らは思った。
「飛行魔法・・・・?」
誰かがそう呟くと選手でも呆然と上空を見上げていた。囁き声に等しい呟きは、離陸・着地のステップ音も消えていた事で静まり返った競技場に響いていた。スティックを振るう深雪の姿は、戦天使さながらに凛々しく優美であった。
「トーラス・シルバーの・・・・?」
「そんなバカな・・・・」
「先月発表されたばかりだぞ・・・・」
「だがあれは・・・・」
「紛れもなく、飛行魔法・・・・」
その場に居合わせた全員の目が、一人の例外もなく空を舞う少女へ向けられていた。湖の上空で繰り広げられた天女の舞。バランスを取る為に広げられた腕が、姿勢を変えるために振り出された足が、風と手を取り合って踊っているように見える。
空を飛ぶというのは、現代魔法の革新に不可能とすら言われていた奇跡の実演と美しい少女はこの上なく相応しい。年齢や性別に敵味方を超えて人々は陶然と空を舞う少女を見上げていたが、それを見ていた真由美と摩利らは今まで空を飛ぶ事は俺でしか出来ないだろうと思っていた。
「飛行魔法とは・・・・一真君の風術での飛行なら何度も見てきたけど」
「そうだな。だがあれはまさしく飛行魔法であり、現代魔法で使える事が実証された事だ。それにしてもこれを隠していたとは、相変わらず一真君には驚きだな」
現代魔法でも古式魔法やエレメンツでもないのに、感動という名の魔法に絡め取られていた。試合終了の合図が鳴った事で、深雪が地上へ戻ると魅了の呪文が解ける事はなかったようだ。ミラージ・バット予選、第一フィールド・第二試合は、見事深雪の大差という圧勝で決勝へと勝ち上がったのだった。
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