鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
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20.また出会う日まで
前書き
10月7日 天気はいいが、課題は山積
俺の名はリングアベル。ヘスティア・ファミリア所属の冒険者をしている。
さて、何から書くべきか……ともかく俺は、このDの日記帳に自分も何か書き込むことにした。後ろ半分の日記は何も書かれていないのだし、別に俺が書いても問題あるまい。
今日は様々な事実が判明し、気になることも増えたので、メモも兼ねてこの日に起きた出来事を記しておこうと思う。どこかシンパシーを感じる神ガネーシャ、麗しくも妖しい女神フレイヤ……そしてミネットを騙した「嘘つき妖精」の存在……果たしてこれらは、俺の記憶と関わりがあるのだろうか………というか、女神ヘスティアとベルが人の膝で寝ているので日記が書きにくくてしょうがないのが目下の悩みなのだが。
とにかく、話を始めよう。あれは俺がミネットを気絶させて自分も倒れた後の事。
目を覚ますと、俺の目の前には見覚えのある女神の涙ぐんだ姿があった。
「バカぁッ!!この……このバカ眷属!あほ!色魔!あんぽんたんの女たらし~~~~ッ!!」
「痛っ!?ちょ、痛い痛い!び、病人なんだからちょっとは手加減を……うごふぅッ!?ボ、ボディブロウは勘弁を!た、助けてくれベルっ!!」
「………僕は人の事言えないかもしれないけど、絶対自業自得だと思います!僕の分の心配もぶつけちゃってください、神様!!」
「う、裏切者ぉ~~~ッ!!アイテテテテ!?か、髪を引っ張るのはやめてくれ!ハゲる!ハゲるから!!」
そこは町はずれの古びた教会――ではなく、ガネーシャ・ファミリアの医務室。
そこでリングアベルは懸念通りヘスティアに泣かれた挙句八つ当たりの拳を盛大にぶつけられていた。傷がふさがっているとはいえ、これはなかなかツライものがある。ベルもいじけたようにそっぽを向き、助けてくれる気配は無かった。
犠牲なく乗り切った結果がこの孤立無援とは、世界とはげに業の深き場所よ!とリングアベルは妙に切ない気分になる。だが、これも生き残ったからこそ感じられる感覚だ。仕方なく女神の怒りが収まるまで身を委ねる他なかった。
結局、リングアベルの『極東式土下座の構え』から繰り出された誠心誠意の謝罪で場が治められる。
「すまなかった。まさかここまでの事態になるとは想像だにしていなかったんだ!」
「むぅぅぅぅ~~~………!……まぁ、リングアベルの言う事も嘘じゃない。ここはちゃんと生きて帰ってきてくれたことを喜ぶことにするさ。――お帰り、リングアベル」
「お帰りなさい、リングアベル先輩!」
今までずっと沈んでいたヘスティアの、花が咲くように可憐な笑顔。
それを見られただけで怪我の功名だとリングアベルは笑った。
「その笑顔を見られただけでも俺は満足だよ、女神ヘスティア!あとついでにベルも」
「僕はついでですか!?いや、ちょっとそうじゃないかなと思ってましたけど!!」
「俺が死闘を繰り広げている隙に女神とデートをしていたお前の扱いなどそれで十分だろ」
「いやいやいや!僕だってすごく大変だったんですからね!?」
一通り落ちついたふたりからリングアベルは一通りの事情を訊いた。
まず、リングアベルが絶体絶命の危機に立たされていた頃、町ではテイムモンスターの脱走騒動が起きていたらしい。ベルとヘスティアは見事の園騒動に巻き込まれ、シルバーバックという巨大なサルのモンスターと一騎打ちする羽目に陥ったらしい。
ここでベルはヘスティアから必殺武器「ヘスティア・ナイフ」を受け取り、「神様を守るんだぁぁぁーーーッ!!」と大逆転。
見事勝利を勝ち取って喜んでいたら、その横を血塗れのリングアベルが搬送されていき、勝利の余韻が強制キャンセルされたそうだ。
……気絶しながらも存在感を失わない男、リングアベル。別名空気読めない男とも言う。
一通りの事情を理解しながら、取り敢えず日記の記述を警戒していた判断は正解だった事を悟る。
もし剣も持たずに呑気に祭りにくりだしていたら……ぶるりと体が震えた。
「そうだ、俺と戦ったミネットは……?」
「ああ、彼女にはどうやら悪質な呪いがかかっていたらしくてね……君を襲ったのもそれが原因だろう。今は『偶然近くにいた』女神のフレイヤが解呪を試みているよ」
「呪い……やはり額の印はよくない物だったか……呪いの内容は?」
「さあ?でも、解呪するフレイヤは心底機嫌が悪そうだったから、相当碌でもないものなのは間違いないね。まったく誰だいあんな小さな女の子に物騒なものをかけたのはっ!」
どうやらヘスティアはまだ呪いをかけた主がリングアベルを殺そうとしていたことまでは知らないらしい。偶然巻き込まれただけだと勘違いしているようだ。それを言えば更に状況が混乱する気がしたリングアベルは、一先ずミネットや呪いの事が分かるまでは黙っていることにした。
もしこの暗殺めいた襲撃が失った記憶に関係するとしたら――最悪の場合、一人で片づけなければならない。二人を巻き込むわけにはいかない。
なお、共に戦っていたビスマルクもミネットが気絶したことですっかる大人しくなり、代わりにミネットの周囲に変な奴が近寄らないか睨みを利かせていたらしい。魔物との間にも友情は宿るものだね、とヘスティアは意外そうに語った。
「ちなみに!美しいのか、その女神フレイヤは?神をも魅了する美の女神だと聞いているぞ!?」
そしてこの食いつきの良さである。
実は一度その美の女神の視線に不快感を感じていたことは本人さえも気付いていない。色んな意味で道化すぎる男だが、そんな道化についつい乗ってしまう弟子も弟子。ベルは感想をきっちり報告した。
「僕、ちょっと見たんですけど……絶世の美女といって過言ではないと思います。正直ちょっとくらっとしましたけど、ヘスティア様曰く見惚れすぎると『魅惑』にかけられて骨抜きにされちゃうらしいですよ?」
「おお……!これは是非ともお近づきに――」
「リーンーグーアーベールー!?」
「………し、失礼。何でもないぞ、うん。女神ヘスティアの魅力的な美貌しか俺の目には映っていない」
「本当?」
「本当だ!」
「じゃあ二度とナンパしない?」
「……女性に声をかけるのは男の仕事だ」
「駄目じゃないかっ!!」
最近のヘスティアの気迫はリングアベルのマイペースを崩すレベルに到りつつあり、特に女性関係のだらしない部分にはかなり容赦がなくなってきている。その様子はどことなく、だらしない恋人の目移りに嫉妬する彼女のようだ。
頭の上にプンスカ湯気のようなものを噴出して「ボクは怒ってるぞ!」と言わんばかりの表情は傍から見れば微笑ましいくらいなのだが、リングアベルにかかるプレッシャーは本物である。女性は時々有無を言わさぬ迫力で男性を圧倒する。それこそ女性の強さと言うものだ。
「まったく!!君は本っっっ当に反省と言うものを知らないね!?また女の子のために命を張ってるし!!心臓が潰れそうなくらい心配したボクの気持ちの100分の1くらいは汲み取ったらどうなんだいっ!?」
「うおおおおおお!?悪かった!俺が悪かったからぁ!!」
今度は馬乗りになってリングアベルをガクガク揺さぶる。接触しているお尻と太ももの感触こそ幸せだが、脳が揺さぶられていてそれを感じるいとまも無し。ここが病室でリングアベルが病人だということをガン無視した暴挙だが、それもファミリアの愛あってこそ。言うならば愛の鞭である。
結局、そろそろ止めるべきだと判断したベルが止めに入るまでそれは続いた。
= =
騒動が収まった頃、ユウとジャンが部屋に入ってきた。
二人とも俺が救った命であり、逆に俺の命の恩人でもある。
二人とも元気そうなリングアベルの姿を認めると笑顔で歩み寄ってきた。
「失礼しまーす……あ、リングアベルさん目を覚ましたんですね!よかったぁ~………もう、無茶しすぎですよ!」
「へっ、まぁ俺は心配してなかったがな。お前みたいなのは生き汚いって相場が決まってやがる」
「あ、こらジャン!そうやって直ぐ憎まれ口叩くんだから~……」
「いや、構わんさユウ。一度は背中を預けた仲間なんだからこれも信頼の証と思う事にするよ。二人とも元気そうだな?」
「ファミリアの人達に嫌疑をかけられて軽く尋問されたんですけどね~……幸い俺達が悪者だって言う疑いは晴れました」
そういえば、二人はもうヘスティア・ファミリアとは話をしているのか?と疑問に思ったリングアベルはヘスティアの方をちらりと見た。
――ぞくり、と毛穴が逆立つ。
ヘスティアが、周辺を圧迫するほどの威圧感を纏った無表情でユウを睨むように見つめていた。
それも、単に警戒しているとか嫌っているという段階を越えて、罪人を睥睨するような冷めきった視線。
「か、神様………ど、どうしたんですか?」
おずおずと尋ねるベルを手で制したヘスティアが一歩前に出る。
そこには、一種の嫌悪さえ混じった異様なオーラが感じられた。
あの温厚で人畜無害なロリ神とは思えない、超越存在としての力の片鱗。
凛とした声が、ユウに向けられた。
「キミ、『グリード』の血縁だね。自らの強欲に従ってあれだけの事をしでかしておいて名門を名乗るのも滑稽だったが、一体どの面下げてオラリオに来たのかな……?」
「め、女神ヘスティア?彼らは今回の一件の被害者だぞ?何をそんなに怒って――」
「ちょっと黙っていてくれるかな、リングアベル。彼の一族というのはね……一種の『化物』なんだよ」
ぞっとするほど冷たい言葉だった。ベルも突然の主神の豹変に困惑するばかりだ。
グリード――ユウとジャン以外は知らないが、その名はゼネオルシア家の先代当主……ひいてはユウの父親に当たる人物の名だ。数年前に病でこの世を去ったが、少なくともユウにとっては厳格で頑固な父親程度にしか思っていなかった。その血縁であることを理由に、目の前の神は一人の人間と相対しているとは思えないほどの警戒を注いでいる。
ゼネオルシア家が常に正義だったとは言えないことくらい、ユウもジャンの態度から察していた。
大きくて歴史の長い家だ。過ちもあったろうし、当前敵だっているだろう。
正教有力5家と呼ばれる5つの名家の中でも、ゼネオルシア家はクリスタル正教初代教皇の血を脈々と受け継ぐ最有力の一族だ。そのゼネオルシア家の顔色を、周囲は異常なまでに伺っている節がある。疑問に思って調べたこともあったが、書斎に置かれた様々な本の記述には意図的に空白にされた歴史が数多くあり、結局詳しい事は分からず仕舞だった。
それだけゼネオルシア家が得体のしれない何かを抱え込んだ一族であるのは確かだ。
本来ならばグリードから現当主であるユウに受け継がれるべき伝承の類があった筈だが、晩年のグリードは既にゼネオルシア家の未来というより、ごく私的な目的のために奔走していたように思える。唯一腹違いの兄は何かを知っているようだったが、その兄もとある理由から失踪した。
そのような事情を含めて――ユウは、ゼネオルシアという家をあまりに知らな過ぎた。その家の次期党首であるにも拘らず。
「俺の家が、化物………?貴方は、俺の知らない何を知ってるんですか……!?」
「………本当に心当たりはないのかい、君は?どうやらグリードも自分の息子は猫かわいがりしたいらしい。自分のやったことを棚に上げて――」
「オイ、ヒモ神。てめぇ、それ以上ユウにちょっかい出すんならケンカとして受けて立つぜ」
ジャンが犬歯を剥き出しにして剣に手をかけた。実際に抜きはしないものの、噴出する怒気は神のオーラに負けるとも劣らない。咄嗟にベルも身構える。いくらなんでも目の前でヘスティアに手を出させる訳にはいかないからだ。
今までのベルなら腰が引けていただろうが、シルバーバックという強敵との戦いを乗り越えて一回り成長した彼は、精一杯の警戒をジャンにぶつける。
「どけよ、腰巾着。邪魔するならテメェにも『牙』をぶつけんぞ」
「どけません……僕は、へスティア・ファミリアの冒険者です……神様にみすみす手を出させはしない!」
部屋の空気が一気に剣呑なものに変貌する。
しばしの沈黙の後、先に矛先をひっこめたのはヘスティアの方だった。
ばつが悪そうに頭を下げ、自己嫌悪から顔を顰める。
「あー………本当に何も知らないみたいだね。ごめん、急に喧嘩腰になっちゃって。そっちのキミも済まなかった。はぁ……親の罪は子の罪にはならないよね」
「てめぇが何を勘違いしてるか知らねぇが、こいつは『ユウ・ジェグナン』だ。少なくともこの町ではな」
「覚えておくよ。ついでに君の名前も聞いていいかな?」
「………『ジャン・アンガルド』だ」
ヘスティアは当然、二人の名前が偽名であることには気付いている。だがその上で――ユウが『グリード』の血縁だということも分かった上で、これは自分の早とちりだったと認めざるを得なかった。事実、目の前の少年はどこまでも澄み切った瞳をしている。むしろ彼の透き通った目は、ベルのそれに近い。きっと母親に似たのだろう。
ユウも未だに事情はつかめていないが、ともかく誤解が解けたらしいことを察してかほっと一息ついた。ジャンもこれ以上追及しないのならと矛先を収める。もうヘスティアの顔はいつもの姿に戻っていた。
ユウの家族にはどうもやんごとなき事情があるらしいが、あの態度の豹変ぶりから見るとかなり根の深い問題らしい、とリングアベルは認識ししばらくこの件には触れない事を決めた。
………なお、ジャンの「ヒモ女」とは服装的なヒモの話だったのだが、ヘスティアが別の意味で捉えてかなり心にグサッときていたのは永遠に明かされない秘密である。
「……それで、二人とも見舞いに来てくれたのか?」
「あ、はい!それもあるんですけど……実はそろそろ僕たちイスタンタールに帰らなきゃいけなくて……お別れに来たんです」
「ま、そういうことだ。これでも学生なんでな。余り長居はできねぇのさ」
「む…………そ、そうか。二人ならいい冒険者になれると思ったんだがな……行ってしまうのか」
なんとなく勝手に仲間になった気であったために、相手が学生であったことをすっかり忘れていた。彼らの本業は学生であり、今回の件にも単純に巻き込まれただけでしかない。ならば別れが来るのも自明の理というもの。
「改めてベルたちにも紹介したかったんだが、そんなに時間が押してるのか?」
「それもあるんですが……どうも俺達がオラリオの揉め事に巻き込まれた話がこれ以上長引くと、イスタンタールとこの町の関係悪化の要因になりかねないらしいんです」
「俺としては格上相手と戦えてそれなりに満足だったんだが、上の方はそんな事情知らねぇからな……もしガテラティオにこの話が知れたら双方どんなイチャモンがつくか分かったもんじゃねぇ」
中立という立場でいると、よそからのちょっかいが鬱陶しくなる。特にオラリオは神主導の国家からも正教圏の国家からもその動きが注視されている大陸の火薬庫だ。諍いは少なければ少ないほどいい。
まして巻き込まれた学生が正教有力5家のうち2つの次期当主ともなれば、下手をすれば国際問題まっしぐらだ。無論、身分を隠してる二人はそんな細かい説明をする訳にもいかない。
故に、名残惜しいながらここでお別れだ。
「今回の事件のこと、色々あって死ぬかと思いましたけど……無事に切り抜けられて本当によかったです。それに一緒に戦って、変な話だけどワクワクしました!」
「それは俺もだぜ。あんたの剣術……ちょっと公国式が混じってるが我流だったな。魔物との実践も含めて良い経験になった。一応、助けられもしたしな」
てへへ、と後ろ頭を掻きながら言うユウ姿は……やっぱりどこかベルを彷彿とさせる。
ジャンも鼻を鳴らして腕を組みつつまんざらでもなさそうだ。
「リングアベルさん……次にオラリオに来たときは会いに行ってもいいですか?」
「勿論だとも。その時は話が主神と弟子のことをたっぷり説明してやる」
「楽しみにしてます!えへへ……」
リングアベルが手を差しだす。ユウとジャンはその手を握らず、重ねあわせた。
「三銃士式の握手です!」
「手ぇ握ってないのに握手って言えんのか?」
「男なら細かい事は気にするな!こういうのは雰囲気が大事だぞ!」
若干おいてけぼり気味で「なんか通じ合ってる……いいなぁ。ああいうのちょっと羨ましいや」のベルと、勝手に知らない世界を展開されて若干すねてるヘスティアの前で、3人は再開の誓いを立てた。
部屋を後にする2人を見送った直後、入れ違いに別の人物が入ってくる。
部屋を出た2人が思わず二度見知るほどインパクトのあるその姿にリングアベルが声を出す前に、その人物はいっそこっちが白けるくらい高いテンションで声を張り上げた。
「俺がガネーシャだ!!この尊顔を覚えておくがいい!!」
バァーーン!と凄いインパクトで出てきた筋骨隆々な象仮面マン。
なんと、この頼まれもしないのに突然自己紹介した男があのガネーシャ・ファミリア主神のガネーシャらしい。ベルはもう会ったことがあるらしく微妙な顔をしており、ヘスティアの方は若干白けた顔ながら普通に話しかける。
「お、ガネーシャだ。例のミネットちゃんの具合はよくなったのかい?」
「うむ、一度目を覚まして話が出来た。疲れているが猫まんまを食べればよくなるだろう。今はビスマルクのタテガミの中で安眠している」
腕を組んでうんうん力強く頷くガネーシャ。
しかし……オラリオの服にしては少々露出が多いその服は、ガネーシャの逞しい肉体美を存分にさらけ出している。言うならばそれはリングアベルとは違う男の色気。このノリといい、独特のセンスといい、なんとなく気が合いそうだとリングアベルは思った。
……人それを悪趣味とも言う。
「で………ヘスティアよ!リングアベル少年に、ミネットの事で話したいことがあるのだ。一度席を外してもらえんか?」
「ボク達がいると都合が悪いのかい?ガネーシャの事だから悪巧みしてると勘ぐってる訳じゃないけど……」
「ミネットと直接関わった彼にこそ聞かせるべき事と思ってな。時間は取らせんさ……ヘスティアとベル少年は奥の客室でフルーツでも摘まんで待つと良い。必要なら食事も馳走するぞ!肉、魚、野菜!果てはじゃが丸くんなんて変化球にも対応しよう。何故ならそう、俺がガネーシャだから!!」
瞬間、ぐうと鳴るベルのお腹と、ぐぎゅうううう!と鳴るヘスティアのお腹。目が覚めるまでリングアベルに付きっきりだった二人は……特にこの前の『神の宴』でガネーシャ・ファミリアが振る舞った美味な料理を思い出したヘスティアの変化は劇的だった。
「む、むむむ。リングアベル!ボクは同じ神の好意を無碍にする訳にはいかないんだ……許しておくれ!」
「神様、涎が漏れてます!……先輩、神様がこんななので先にご飯食べさせてもらいます……先輩も後から来れますよね、ガネーシャ様?」
「勿論だとも。ゆっくり味を楽しみながら待つといい!俺のファミリアは食事が美味いのも自慢の一つなのでな!」
思いっきりガネーシャに踊らされているのだが、それでも三大欲求に勝てなかった二人は素直に部屋を出た。ヘスティアなんかスキップしている。
食い物に吊られていいのか神様よ。貧のちょっぴり切ない気分になったリングアベルだったが、直ぐに気持ちを切り替える。
「――さて、それでは俺の話にしばし付き合ってもらおう、リングアベル少年」
「ええ、俺も貴方から話を聞きたかった。詳しく教えてもらえますか、神ガネーシャ」
リングアベルは望み、臨む。余りに謎が多かった今回の事件の真相へと。
後書き
や、ガネーシャ様の話を入れる筈がまさかゼネオルシア家の話であんなに潰れるとは……。
何故ヘスティアがユウの家系をそこまで危険視しているのかは、いずれ物語内で明かそうと思います。
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