バフォメット
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2部分:第二章
第二章
「借金の催促に。利子だけでもと」
「待つように言え」
やはり不機嫌な顔で指示を出す。
「今は無理だ」
「待つのなら利子がさらに増えると言っていますが」
「全く忌々しい」
その言葉を聞いて顔をさらに不機嫌なものにさせる。
「あれだけ儲けているのにまだ金が欲しいか」
「聖地の巡礼の保護や貿易だけではなく」
当時テンプル騎士団というこの組織は幅広く事業を展開していた。
「金融もやっていますから」
「騎士団なのにな」
あらためて不機嫌を口に出す王であった。
「何処まで汚く儲けるのか」
「しかもその態度が」
「余は何か」
まず家臣にそれを問うた。
「答えよ。余は何か」
「はっ、フランス王です」
「そうだ、フランス王だ」
そこを強調してみせる。
「その余に対してあそこまでの傲慢はとても」
「許せるものではありません」
「その通りだ。しかも」
ここで王の目がさらに光った。
「テンプル騎士団。その富はどう思うか」
「正直に申し上げて宜しいですか」
「うむ」
家臣にそれを許した。
「妬ましいものがあります。あれが我等のものならば」
「そうだな」
答えはここにあった。
「手に入れられればそれに越したことはない」
「その通りです」
家臣はまた答えた。
「それでは。王よ」
「そうだ」
笑みが変わった。酷薄かつ邪悪なものに。整った顔ながらそうしたよからぬものが実に似合う、この王はそうした顔を持つ王であった。
王は決めた。そのうえでまた家臣に告げた。
「これでフランスは救われる」
「では」
「ただしだ。余は貪欲ではない」
誰もそうは思っていないがあえて嘯いた。これは社交辞令のようなものだ。
「教皇様にもお話しておこう」
「教皇様にもですか」
「全ては神の為」
これは完全な嘘だ。
「そしてフランスの為」
これは半分真実だ。
「最後に余の為に」
これに関しては完全な真実だった。三つの言葉が今述べられたのだった。
「その三つだ」
「三つですか」
「その三つの為に為すべきことは決まった。異端を滅す」
「異端を」
「異端を滅ぼすのは神の使徒の務めだ」
俗にこう言われてきてはいた。しかしこれは全てと言っていい程大義名分でしかない。信仰を大義名分にしたのは十字軍がそうであった。またフランスでもアルビジョワ十字軍が異端である南フランスのカタリ派を攻撃し惨たらしく虐殺しその全てを奪っている。王はこれを言っているのだ。
「そうだな」
「その通りです。では」
「教皇様に使者を送れ」
「はっ」
王の言葉に対して一礼する。
「それではすぐに」
「頼むぞ」
こうして教皇のところに使者が送られた。この時代教皇は完全にフランス王の傀儡だった。これは他ならぬフィリップ四世がそうさせた。教皇を捕らえることによってだ。
当時の教皇はクレメンス五世、フランス王の家臣と言ってもいい。その彼のところに王からの使者が来たのであった。
「陛下がか」
「はい」
家臣に等しい存在になってしまっているのは今フランス王を陛下と呼んだところにはっきりと出ていた。彼もそれははっきりと自覚している。
「テンプル騎士団を討伐する許可を頂きたいとのことです」
「左様か」
「教皇様はどう思われますか」
「異端は許してはならない」
一言だった。
「そうだな」
「流石は教皇様」
ここまで完全にただの儀礼である。もう答えは出ているのだ。
「それでは。テンプル騎士団を我がフランス王国と共に」
「教皇庁としても彼等の異端については以前より調べておいた」
「以前よりですか」
「そうだ」
これもまた芝居だ。儀礼という名の芝居だ。
「悪魔を崇拝しているそうだ」
「何と」
異端が常に言われることだ。悪魔崇拝は。
「それについて調べる必要がある。さらにな」
「では。どうされますか」
「すぐに主立った者達を捕らえよ」
これもまたフランス王の意を汲んだ言葉だった。教皇は伊達に王の家臣とまで呼ばれているわけではないのだ。全てがわかってのことなのだ。
「よいな」
「はっ、それでは」
「すぐにかかる。いいな」
「わかりました。それでは」
こうして陰謀が本格化した。話はテンプル騎士団の者達が気付かないうちに闇の中で進められた。その結果。ある日騎士団の主立った者達が教皇も臨席するフランス王の宴に招かれたのだった。彼等は卓に並んで座っている。主の席には教皇と王が並んで座り共に見事な服を着ている。そこに王の家臣や枢機卿達が並んでおり向かい側に騎士団の者達が並んでいる。つまり王、教皇を挟んで互いに見合う形になっていた。
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