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僕のサーヴァントは魔力が「EX」です。

作者:小狗丸
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一回戦決着

「やったか……?」

 アヴェンジャーの宝具、がしゃどくろと骸骨達の総攻撃がランサーに当たったのを見て、僕は自分でもフラグっぽいなと思いながらも呟いた。

「「……………」」

 攻撃で魔力を使い果たし身体が泥に戻っていっているがしゃどくろと骸骨達。……そしてそのすぐ傍には膝をついた体勢でこちらを見ているランサー。

 やっぱりさっきの発言でフラグが立ったか。

 ランサーはかなりのダメージを受けているみたいだが、それでもまだ体には雷光を纏っていて戦闘可能のようだ。

「は、はは……。いきなり宝具を使ったのには驚いたが私のランサーは無敵だ! ランサー! 反撃「じゃあもう一回!」……だ?」

 傷つきながらも未だに健在なランサーを見てレーベンは高笑いを上げるが、それを遮るようなアヴェンジャーの言葉に表情を凍りつかせた。

「「ーーーーーーー」」

 アヴェンジャーからの魔力を受けて、泥になりつつあったがしゃどくろと骸骨達の体が時間が逆戻りしたかのように形を取り戻す。

「なっ!?」

「………!」

 形を取り戻したがしゃどくろと骸骨達を見てレーベンとランサーが驚いた表情となる。まあ、それはそうだろうな。

 普通、サーヴァントの宝具というものは、一度使用してしまえば次に使用するのに大量の魔力を集めてそれを物資化するのに時間がかかり、連続使用ができないものだ。レーベンとランサーが驚いた顔をしたのもこの辺りのルールを知っていたからだ。

 しかしアヴェンジャーの宝具「魔を産む黒き骸」は一度使用すればその後に抜け殻となった泥が残るので、その泥に再び魔力を送り込めば再び宝具として使用することが可能なのである。

 アヴェンジャーは自分のことを「宝具特化型のサーヴァント」と言い、ランサーとの戦いはごり押しで勝ってみせると言った。それらの発言の理由がこれだ。

 大量の魔力さえあれば連続使用が可能な使い勝ってのいい宝具。それと戦闘スキルを含めた序盤からの全力攻撃。これが僕達のランサーに勝利する為の唯一の作戦である。

「「ーーーーーーー!!」」

「……………!?」

 がしゃどくろと骸骨達の攻撃が再びランサーに集まり、アリーナがまたも激しく揺れる。……だが、二度目の宝具攻撃をくらってもまだランサーは現界を保っていた。

「あー、もう! しつこい!」

 姿はボロボロだがそれでも雷光を纏って力のある瞳をしているランサーを見てアヴェンジャーが苛立った声を上げる。……彼女の魔力ももう限界だし、これはいよいよ不味いか?

「……ふっ! ふざけるなよお前達! ランサーを! 私の天使をここまで汚して! もう許さない! お前達はここで終わりだ! ランサー、宝具を使え!」

 自分が信用しているランサーが重傷を受けたのを見て激昂したレーベンが自分のサーヴァントに叫ぶように命じる。ここで向こうも宝具を使うのかよ?

「………!」

 宝具の使用を命じられたランサーは纏っている雷光の輝きを強めると上空に飛び上がって宙に停止した。そしてその直後、彼女の周囲に数体の彼女と同じ姿の幻影が現れ、幻影の集団もまた体に雷光を纏っていく。……まさかあの幻影の集団と一緒に突撃をしてくる気か?

「ははははははははははははっ!? ざまぁみろ! 色々としてくれたようだが、最後に勝つのはこの私! 天に選ばれてランサー、レミエルを授かった私なのだよ!」

 宝具を発動しようとするレミエルを見てレーベンが狂ったように笑う。というかとうとう自分のサーヴァントの真名をばらしやがったな、コイツ。少し追い詰めすぎたか?

「それはどうかな?」

「……な、何?」

 僕の言葉にレーベンが狂笑を止める。

 確かにさっきから感じる魔力の量から考えて、ランサーの宝具が発動して直撃をくらったら僕は当然、アヴェンジャーも耐えきれないだろう。……発動したら、の話だけどね。

「一度目で倒せなかったら二度目で! 二度目でも倒せなかったら三度目で倒す!」

「………!?」

「ーーーーー!!」

 ランサーの宝具が発動する直前、彼女の体をがしゃどくろの黒い巨大な手が捕まえて地面に轟音と共に叩きつけた。

 これで三回目の宝具攻撃。もうアヴェンジャーの魔力もほとんど残っていないし、これで駄目なら本当に後がないぞ?

「………」

「う、嘘? まだ立てるっていうの?」

「いや、待てアヴェンジャー」

「え?」

「………」

 三度目のがしゃどくろの攻撃を受けてまだ立ち上がるランサーを見てアヴェンジャーが絶望した声を上げるが、槍兵の英霊が立ち上がったのはほんの数秒だけで、すぐに両膝をついた体勢となって動かなくなると体に纏っていた雷光も消えてしまった。

「どうやら今度こそ限界だったようだ。……僕達の勝ちだ」

「う、嘘だ! 私が、私の天使が負けるなんてあり得ない! 立つんだランサー! お前はまだ戦えるはず……え?」

 ガカッ!

 僕の言葉に激しく狼狽えた表情で叫ぶレーベンであったが、その言葉の途中で僕達とレーベン達の間に光の壁が出現した。……これは僕達とレーベン達が初めて戦った時のと同じ、SE.RA.PHが作り出したものなのか?

「うわあああああっ!?」

 光の壁の向こう側でレーベンが悲鳴を上げる。よく見ると彼の体は黒いノイズに蝕まれていた。

 ムーンセルは僕とアヴェンジャーを一回戦の勝者に、レーベンとランサーを敗者と決定したらしい。月の聖杯戦争では敗者には死を与えられる。……つまりそれが今のレーベンの状態ということだろう。

「あああっ!? 私が消える、消えてしまう! これか死? あの時私が殺してしまった友人はこんな気持ちで死んでいってしまったのか……!?」

 全身を蝕んでいく黒いノイズを見ながらレーベンが絶望した表情で言い、次の瞬間に空を見上げてここにはいない「誰か」に向けて悲痛な叫びを上げる。

「嫌だ! 私はまだ死にたくない! 私はもう一度貴女に会いたいんだ! その為に私は彼を、友人もこの手にかけたというのに! 助けて! 助けてくれ! それが無理ならばせめて、もう一度貴女の姿を見せてくれ! お願いだキアr……」

 空を見上げながら狂ったように叫ぶレーベンは、最後に誰かの名前を呼ぼうとして影も残さずに消滅していった。……これが聖杯戦争の敗者の末路か。

「レーベン……。どうやら逝ってしまったようですね……」

 マスターであるレーベンが消えてしまった後で、今まで一言話さなかったランサーが初めて口を開いた。

「一人の女性に引かれて、その女性の為に殉ずることを誓った貴方がどの様な道を歩んでいくのか興味があったのですが……残念です」

 ランサーもまた全身を黒いノイズに蝕まれていて、彼女は先に消えてしまったレーベンに向けてそう言うと、自分もまた消滅していった。

「「はぁ……」」

 光の壁の向こう側でレーベンとランサーが消滅していったのを見て、僕とアヴェンジャーは同時にため息をついてその場にへたりこんだ。この時僕の胸にあったのは、勝利の高揚感でも人を殺した罪悪感でもなく、何とか生き残れたという安堵感だけだった。

 序盤から手札をすべてさらけ出して、それでようやく相手を倒せた、全く余裕のないギリギリの勝利。

 それでも勝ちは勝ちだ。

 こうして僕とアヴェンジャーは月の聖杯戦争最初の戦い、一回戦を生き残った。 
 

 
後書き
 魔を産む黒き(がしゃどくろ)
「ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:3~30 最大捕捉:百人 使用条件:COST150MP
 敵に魔力ダメージ+呪い 戦闘スキル・宝具を五回以上使用していた場合、COSTが0MPに。」 
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