僕のサーヴァントは魔力が「EX」です。
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ランサーの正体
「ああ、やっぱりあった」
アリーナでレーベン、そしてランサーと戦った次の日。僕は図書室の近くの壁に背を預けた体勢で携帯端末を見ていた。
携帯端末に映し出されているのは少し前に図書室でコピーをさせてもらった情報である。
「図書室」と言えばそれほど大した情報がないと思われるが、ここは月にある地球の全ての情報を記録したという情報記録体「ムーンセル」が作り出した電脳空間SE.RA.PH。そこの図書室で調べられない情報はないのだ。
そして僕が図書室でコピーした情報は、ここ数年の犯罪情報。そしてその情報の中に「レーベン・クラウド」という一人の犯罪者の名前があった。
レーベンは元々西欧財閥に所属している霊子ハッカーであったのだが、一年前に彼は西欧財閥が捕らえた重犯罪者を逃がし、その後自身も逃亡。しかも重犯罪者を逃がす時には同僚であった霊子ハッカーを殺害しているらしい。
……そう言えばこの事件って同時結構話題になっていてニュースもよく流れていたな。初めてレーベンの名前を聞いたときに聞き覚えがあったのはこれのせいか。
そして恐らく昨日レーベンが口走っていた「正しさ」はこの事件に関係しているのだろう。彼は自分の犯した罪を心のどこかで悔やんでいたが、この聖杯戦争に参加して「ランサー」という特別な力を得たことで「自分は選ばれた存在で、自分のしたことは間違っていなかった」と思うようになったのではないのだろうか?
もし、あのランサーの正体が僕の予想通りだとしたら、そう考えても不思議ではない。
「……。……………」
「……! ………!」
僕が携帯端末を見ながら考えているとすぐ近くから怒鳴り声が混じった話し声が聞こえてきた。
うるさいな。誰だよっと思いながら声がした方を見るとそこには、北斗に凛とあとついでにワカメのような髪をした男の姿があった。
ワカメのような髪の男はすぐに立ち去っていったが、随分と慌てていたようだな? 一体どうしたんだ?
「北斗。何があったのか?」
「あっ、時行。実は……」
北斗が言うにはあのワカメのような髪の男は「間桐慎二」といって彼の一回戦の対戦相手らしく、さっきまで凛と話しているときに自分のサーヴァントの情報を漏らして、それを北斗に聞かれてしまったらしい。
「……何を考えているんだ? その慎二って奴は?」
僕は北斗の話を聞いて思わず呆れてしまった。
サーヴァントの情報なんて最も秘匿すべき情報じゃないか? それをペラペラと喋るなんて何考えているの?
というか聞いていなかったとはいえ、その話をしていた時に僕も近くにいたんだけど?
「本当ね。緊張感がないマスターが多いみたいで嫌になるわ」
凛が僕と北斗を見ながら同意をしてくる。多分、彼女の中では慎二だけじゃなく、僕達も「緊張感がないマスター」に含まれているのだろう。
「それで平和君? 私と間桐君の話にも気づかずにボーッとしていたけど貴方は大丈夫なの? 対戦相手の情報くらい調べているんでしょうね?」
「ああ、それは大丈夫だ。ほら」
僕は凛に答えると携帯端末を操作して図書室で犯罪情報と一緒にコピーした情報を本の形にして取り出してみせた。僕の考えが正しかったらこの本にレーベンのランサーの正体が書かれているはずだ。
☆
「多分、ランサーの正体は『レミエル』だろうな」
マイルームに戻った後、図書室でコピーした情報を見た僕は自分なりに考えた答えをアヴェンジャーに告げた。
「レミエル?」
アヴェンジャーが首を傾げる。ああ、やっぱり日本の英霊はあまり聞かないか。
「そう、レミエル。……正真正銘の『天使』だ」
僕が図書室からコピーした情報は旧約聖書の「第一エノク書」。そこに書かれている天使の一柱こそがランサーの正体だと僕は思う。
レミエル。
ラミエル、ラムエル、ラメエルとも言ってその名前の意味は「神の雷霆」。
幻視を司る存在でその力を使って神のメッセージを伝えるという役目を持つ。
第一エノク書では七大天使の一角と数えられているが同時に、神を裏切って人間と交わることを決めた二百の堕天使であり「背教者のリーダー」と呼ばれる一面も持つ。
「なるほど~。確かにそんな存在だったらあの派手な戦い方も納得だし、あの光の槍を構えての突撃なんて正に雷って感じだったよね」
僕の説明にアヴェンジャーも納得したように頷いてくれた。うん、多分ランサーの正体はこれで決まりだろう。
「……だけどランサーの正体が分かったところで、また新しい問題が出てきたんだけど」
「……うん。それは私も同じ」
僕とアヴェンジャーは顔を見合わせると同時に口を開いた。
「「この敵、どうやって倒そう?」」
本当にどうやって倒したらいいのかな? 一回戦の相手が天使だなんて聞いてないぞ? 情報源の第一エノク書をどれだけ調べても分かるのはレミエルの強さだけで弱点らしいものはないし、これってはっきり言って無理ゲーじゃないか?
「ん~……。こうなったらもう取れる戦いは一つしかないかな?」
「何だ? 何か作戦でもあるのか?」
アヴェンジャーは僕が聞くと肩をすくめて答えた。
「作戦でも何でもないよ。……ただごり押しをするだけ」
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