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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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炎上

 
前書き
久しぶりに奴が登場します。それと今回の話はアンチ要素が強いので、読む際は注意して下さい。

急展開の回。 

 
俺達がヴェルザンディ遺跡の探索を始めてから、大体6時間経った。序盤はトラップ地獄や試練の門、中盤は罠を避けながらアンデッドを大量に滅していき、とうとう俺達は遺跡の最深部が近い雰囲気が漂う階層へとたどり着いた。だがこの階層は、一見するだけでこれまで通ってきた場所と明らかに異質である事がわかる。

魔導結晶で構築された空間……一面光り輝く世界でありながら、真実を知る者には寒気が走る場所。ニダヴェリールの力の源であり、死んでいった命の終着点。

「遺跡の奥がこんな所に繋がっていたとはな……興味深い」

「綺麗だけど……悲しい光景だ。まるで星の体内とでも言うべきかな?」

「う~む、今まで通ってきた所は人工的だったのに対し、ここから急に自然的になってるね。……いや、もしかしたらヴェルザンディ遺跡の建設理由はこの場所に関係しているのかも。何のために古代人がこの上に遺跡を作ったのか、この先に答えがあるのかもしれないや」

『行ってみないとわからないってことか。……シャロンは大丈夫? 最後まで行けそう?』

「うん……ありがと、マキナ。結晶の真実も結構ショックだったけど、ここまで来た以上、私はこの世界の事を全てを知りたい。……だから、それまで耐え抜いてみせるよ」

ほう……少しは言うようになったじゃないか。体力がそれなりにあるのは知っていたが、ここに潜ってから精神も意外とタフになってきたシャロンの言葉は頼もしく感じられる。ここまでの探索で疲れもそれなりに蓄積しているものの、俺達は再び歩を進める。
ここまで来ると元となる死体がほぼ大地に溶け込んでいるためか、アンデッドの姿は一つも無かった。中盤にいたグールやマミーは全て俺が倒しているが、あいつらに暗黒物質を注いだ大元がまだ残っているはず。結晶の反射光でチカチカ目が眩むが、何とか警戒しながら探索の範囲を広げていく。

「おわっと!? あ、危なかったぁ……」

「おいユーノ。こんな所で足を滑らして落ちたら、あっという間に結晶の養分になるぞ。気を付けろ」

「しかし兄様、ここを初見で突破はかなり厳しいと思うよ? だって道が見えないんだもの……」

ネロの言う通り、この“結晶域”は地上でアクーナに行く時に通った近道のように、見えない太陽床が所々存在していた。探索を始めてから6時間という事から、少々急がないと太陽が沈んで床が消えてしまう。だが俺達はまだこの見えない太陽床の位置を掴み慣れていない……急ぎたいのに急げないというのは、精神的に中々焦る。

その時、シャロンが俺達の一歩前に出る。

「ここは私の出番みたいだ。感覚的にだけど、私ならこの床の位置を見つけられる。昨日のように私の後をついて来て」

『うん、この床の位置の把握はシャロンに任せれば大丈夫だね』

先頭を行くシャロンの身軽な動きをトレースし、俺達も後に続く。所々突き出た結晶を足場にしたり、ぶら下がって方向転換に利用したりしながら、やがてこの空間内でも飛び抜けた大きさで、眩い光を放つ結晶の前へたどり着いた。恐らくここが最深部だろうが……見逃せない気配を感じた。

「この重苦しいダークマター……もしやイモータルが近くにいるのか?」

『イモータル!? イエガー社長と同じヴァンパイアが……!?』

「こんな所にいるなんて……僕達だけで対処出来るのかな……?」

「私はまだ直接相対した事は無いが……危険な存在なのはわかっている。遭遇したら何としても倒さなければ……!」

「………………」

ふと呟いた一言を聞いて各々が反応を示すのを背に、俺は暗黒剣を構えて先へ進む。シャロンだけ話に置いていかれてるが、説明していないから無理もない。

大結晶の一部にまるで誘う様に穿たれている穴、そこから結晶内部へ入り込んだ俺達は……自分の目を疑う存在を視認した。見た目は“光を放つ卵”……と言えば聞こえは良いが、その大きさは卵にしては想像を絶する程で、パッと見アースラの体積の半分ぐらいだ。戦艦程の大きさの卵なんて、まず生物学的にもあり得ない。これがもし孵化したら何が生まれるのか、一切見当が付かないな。

「正面にするだけで感じるこの威圧感、もしかしてヴェルザンディ遺跡はこれを隠すために作られたのかもしれない……!」

「この感じ……ナハトに匹敵する圧迫感だ、鼓動を聞くだけで冷や汗が流れる……!」

『なんか……怖い。傍にいるだけで寒気が走る……うわ、鳥肌立ってるよ……』

「こんなものが私達の住んでいた大地の下に眠っていたなんて……今まで考えもしなかった」

それぞれ卵に関して感想を漏らしているが、その隣で俺は興味深いモノに目を引かれていた。何らかの文字が刻まれた板状の結晶……このドイツ語に似た字面から恐らくベルカ語だ。

「あれ? サバタさん、そんな所で何をしているんですか?」

「ユーノか……いや、この結晶がちょっとな」

「これは……古代ベルカ語? 文字が刻まれてるって事は、明らかに人の手が入った結晶ですね。ベルカに関する歴史的資料はあまり残されていないのに、これほど保存状態が良い物が発見されるのはごく稀なんです! まさに大発見ですよ!」

「興奮するのは構わないが、それよりなんて書かれているのか解読してくれないか?」

「それにしてももしここに書かれているのが僕達の知る史実を覆す衝撃的な事だとしたら、ミッドの教科書の内容ががらりと変わるかもしれない! そう思うと僕の遺跡探索が世界に影響を及ぼすという事になるから、すなわち――――」

話を聞け、ユーノ。自分の世界に没頭するんじゃない……。

「じゃあ人の話を聞かない遺跡バカの代わりに私が解読するよ」

「ああ……頼む、シャロン」

「……『碑文を読み解きし者へ。いつか永い時を経てここにたどり着いた者が過ちを犯さぬよう、ここに卵の正体を伝える。これは“ファーヴニル”と呼ばれる不滅の獣が星の力の下、封印されているものだ。かつての戦乱の後、“彼女”に劣らぬ程鍛え上げた私の拳ですら丸一日戦い通し、戦いの最中で私は、本能に従い運命すら凍らせようとする奴の性質を見出した。あまりの危険さ故にこのまま野放しにしてはならないと察した私は、この世界の人の魂全てを鍵とし、星が奴の力を抑え込む封印に成功した。現地の民の協力の下、この上に遺跡を作らせる事で奴を忘却の彼方へ葬ろうとしたが、封印はこの星と生きる人の命が減るごとに弱まってしまう。後世の者達よ、世界の未来を失いたくないのであれば彼らの命を奪う事など以てのほか、決して封印が解かれるような事は起こすな。……覇王クラウス・G・S・イングヴァルト、ここに封印を成した者也』……以上」

シャロンの解読を聞き、俺はこの“ファーヴニル”を卵に封印した覇王という人物に少なからず敬意を抱いた。“ファーヴニル”は十中八九、絶対存在エターナルである。完全に目覚めているエターナルを封印するまで戦い抜いた覇王は、英雄に匹敵する功績を成し遂げたのだ。

マキナとシャロンは世界を破滅していたかもしれない不滅の化け物が封印されていると知り、冷や汗をかいて卵から一歩下がっていた。まぁ、それは仕方ないだろう。世界を破滅させたという意味では闇の書も似たようなものだから、当時の恐怖がフラッシュバックしたのかもしれない。
一方でユーノとネロは覇王について何かしら知っているのか、反応が俺達と違って大袈裟とも言えるぐらい驚いていた。

「は、覇王がここに来ていた!? しかもエターナルを封印しただなんて……あまりに衝撃的な発見だ……! 学会で発表したら、歴史学者達がひっくり返る程だよ……!」

「まさかこんな僻地で覇王の名を聞くとは思わなかった……! 文面の内容から察するに、これは聖王オリヴィエがゆりかごで戦乱を終わらせた後の時期だろう。何にしても遺跡を作るように指示したのが、実は覇王だったとは驚いたな……。それにあのトラップの大群も、これに近づけさせないための措置だと考えれば十分納得がいく」

俺は知らなかったのだが、覇王クラウス・G・S・イングヴァルトはベルカの偉人らしく、歴史書でも聖王と並ぶ程高い頻度で出て来る名前なんだとか。それほどの人物の軌跡が一部でも判明したとなれば、確かに次元世界にとっては世紀の大発見だろう。
とりあえず偉人の遺した言葉通りなら、こいつを目覚めさせたら絶対に碌な事にならん。結局の所、放置しておくのが一番だ。

ところで……この碑文の土台となっている魔導結晶の中に構築された、黄色い光を放つ一握りの大きさしかない結晶に俺はふと興味を引かれた。今まで見てきた物とは違い、大地の恩恵を受けて太陽の光がそのまま形に留まったような、凄まじい力が凝縮されているのを感じる。いわゆる“太陽結晶”とも言い表せるそれは、まるでここまでやって来た者への報酬のような雰囲気の下で鎮座されてあった。

手に取って確認してみると、太陽結晶から発せられる光はほのかな暖かさと生命の息吹を与えるような、優しい温もりがじんわりと伝わってきた。

「これは……ソル属性の結晶か。これほどのエナジーを内包していれば、もしかしたら……!」

「兄様、何やら嬉しそうですけど、それを一体どうなさるのですか?」

「これを上手く加工して組み込めば……太陽銃が作れるかもしれない」

「太陽銃って、サバタさんが持っていた暗黒銃みたいな?」

「むしろ暗黒銃は太陽銃を基に作られた物なんだが、まあそういう事になる。とにかく世紀末世界から来た俺にとって、これは文字通り宝物だ。太陽銃があればその場に俺がいなくとも、イモータルを相手にまともな戦いが出来るかもしれん……」

「確かに……次元世界でアンデッドを倒せるエナジーの力が使えるのは、なのはとフェイト、アリシアの3人だけですからね。しかもアリシア……あ~今はアリスって言うべきかな。とにかく彼女は代弁者だから単独だと自衛程度の力しか引き出せないし、なのはもダーク属性を使ったら身を削ることになるから、太陽銃が一つでもあれば切り札になりえます! そう考えるとこの結晶は希望の塊ですね!」

[ボク達マテリアルはお兄さんのおかげでルナ属性が使えるんだけどね~。皆ボクらの事を知らないからしょ~がないか]

「……とにかくこれを手に入れられただけでも来た甲斐がある。覇王の置き土産は実に価値があった」

そう言って達成感も程ほどに俺は太陽結晶を懐にしまい、改めて心臓の鼓動のように光る卵を見上げる。コイツから漂う気配は世紀末世界の絶対存在には劣るものの、ほぼ同質なので見ているだけで全身の神経が『目覚めさせるな』と訴えている。それはここにいる全員が同じで、触らぬ神に祟りなし、という言葉のままに警戒していた。

「さて、遺跡探索のラストで厄介事の種も見つかってしまったが、手を出さなければ何事も無い。ユーノ、管理局に今回の探索を報告するのなら、コイツには絶対に触れない事を徹底しておけ。もし欲をかいた愚か者が出たりしたら、次元世界全体に想像もつかない被害が出るに違いないからな」

「言われずともそうしますよ。例え命令されても、こんな物にちょっかいなんか出したくありません」

まぁ、流石の管理局もコイツの封印を解こうとはしないだろう。そう思った……

刹那!

「ッ!!」

殺気を感じた俺は咄嗟にゼロシフトでシャロンの背後に瞬時移動すると同時に暗黒剣を振るい、襲撃してきたチャクラムを弾き飛ばす。見覚えのあるチャクラムは軌道を変えて持ち主の下へ戻っていき、俺はようやく見つけたソイツに暗黒剣の切っ先を向ける。

「出会い頭で民間人に不意打ちとは……その性根は相変わらずだな、ラタトスク」

「おやおや……この程度でやられるような性質をあなたは持ち合わせていますか? 今のはほんの挨拶代わりに過ぎません」

「こいつが……ラタトスク! 兄様の運命を歪めたイモータルか!」

「こんな所にいるなんて、今度は何を企んでいるんだ!」

先程感じた気配……その根源であるラタトスクを前にして、ネロとユーノは咄嗟に警戒態勢に移る。いきなり狙われたシャロンは俺の影に隠れて身をすくめながら離れていき、マキナと警戒しながら結晶の影に隠れる。一応これだけ離れていれば交戦状態に陥ってもすぐ襲われる事は無いだろう。

「元より挨拶する間柄でもない。それよりようやく俺の前に現れてくれたな……世紀末世界より続く因縁、いい加減始末を付けたいと思っていた所だ!」

「気に入りませんが、わたくしも同じ事を考えていましたよ、サバタ。あの時の屈辱を晴らさずして勝手に衰弱死されては、わたくしも気が済みません」

「……あなたの事だ、嫌味満載な策を講じてからやってきたんだろうね。ならこちらはその策ごと潰すだけだ!」

「ウフフフ……ジュエルシードの事故でも思い出しましたか? そう焦らなくとも、わたくしの策は既に実っています」

「なんだと? 一体どういう事だ……!?」

「おあつらえ向きにあなたも居るとは丁度良いですね、闇の書の管制人格。11年前にあなたがここで大破壊を引き起こしてくれたおかげで、わたくしの協力者ロキはこの世界に封印された絶対存在の位置を大まかに把握する事に成功しました。そして封印の解除法もまた……」

ラタトスクの余裕を含んだ笑いを前に、ネロ達はまだ奴の意図がわからずにいた。だが俺とユーノはさっきの覇王の碑文を思い出し、背筋に氷をぶち込まれたかのように寒気が走った。

「『封印はこの星と生きる人の命が減るごとに弱まってしまう』……ま、まさか!?」

「お気づきになられましたか、ユーノ・スクライア? ええ、あなた方が危惧している通りの出来事が今、外で起きています。急げばまだ止められるかもしれませんよ?」

「チッ! ラタトスク、貴様との決着は後回しだ! マキナ、シャロン、暗黒転移で一気に外へ飛ぶ! ネロとユーノは自分の転移魔法を使え!! 外で一大事が起きている!!」

鬼気迫る様子で俺が指示を出した事で、ネロやマキナ達もただならぬ状況になっていると本能で理解する。ネロとユーノが転移魔法の詠唱を始め、俺はマキナとシャロンの所へ行き、暗黒転移を発動……する前に確かめておきたい事があった。

「ラタトスク、どうして邪魔してこない?」

「言ったでしょう、既に策は実っていると。即死級のトラップ群を潜り抜けて、この最深部までたどり着いた事だけは想定外でしたが、結局の所運命はわたくしの味方をしました。ここであなた達を止めるよりも、抗えない絶望を前にして心が折れた無様な姿をじっくり堪能させてもらってから、ひとりも残さずわたくしの人形コレクションに加えてやりますよ」

「ふん、いつもながら貴様の台詞は聞いてて腸が煮えくり返りそうだが、その余裕がいずれ貴様の命取りとなるさ」

「そう言っていられるのも今の内です。時が満ちた今、あなた達がこれから何をしようと、全ては手遅れ……何もかも無駄なんですよ」

「無駄かどうかはいずれわかる。次に相対するまで、せいぜい首を洗って待ってろ」

互いに悪態をついてから、俺はすぐにマキナとシャロンを抱えて暗黒転移。同時にネロとユーノも転移魔法を発動し、俺達は結晶域から姿を消した。その数秒後、結晶域全体が輝きだし、ファーヴニルの卵が鳴動を始める。

「ウフフ……もうすぐ“静寂の獣ファーヴニル”が目覚める……。この魔導結晶はニダヴェリールが世界を再生するために生成したものですが、同時にファーヴニルを封印するエネルギー源としても使われていた。だがそれは人間自身の手で奪われ、自ら破滅を招こうとしている。人間が封印を施したかと思えば、同じ人間が封印を破る……滑稽ですよねぇ! そしてわたくしもまた、ヴァナルガンドの時の失敗を糧に今度は確実な方法を取らせて頂きます。もう一つ……新たな力を得た今のわたくしには誰であろうと到底及びません。そう、一度はわたくしを浄化した太陽少年ジャンゴでさえも……! 今こそ……わたくしが破壊の王として降臨する時!! ククク……ハッハッハッハッ!!!」








ヴェルザンディ遺跡の入り口に転移してきた俺達は、ゆっくり相談している暇も無く、急ぎアクーナへ向けて駆け抜ける。立ち昇る悪い予感と不安、焦燥感を振り切るように俺はひたすら走った。だが……俺達の目的地であるアクーナの方向から轟々と火の手が上がっているのが、他に光が無い夜闇のせいでここからでも見えてしまい、隣でマキナとシャロンが酷く動揺していた。

そして背筋に悪寒が走りながらも、何とかアクーナへたどり着く。が、昨晩の切なさと静かさが調和した光景とは一変して、そこでは文字通りの悪夢が広がっていた。

「そ、そんな……! 私の街が……アクーナが……!!」

『燃えている……私達の故郷が……! ど、どうして……なんでこんな事に!?』

炎上せしアクーナ。自分達の故郷が灰になっていく光景を目の当たりにしたマキナとシャロンは、絶望のあまりその場で呆然と立ち竦んでしまう。何もかも焼き尽くす炎の風が吹き付ける中、俺達も二人に劣らぬ程の衝撃を受けており、特にネロは顔色を真っ青にして燃え盛る街中へ走って行った。そんな彼女にユーノが慌てて呼びかける。

「ま、待ってリインフォース! 一人で行くのは危険だよ!」

「待ってられるか! まだ生き残りがいるかもしれない、それにもうこれ以上アクーナの人を死なせちゃいけないんだ!! だから行かせてくれ!!」

「ネロの言う通りだ、事は一刻を争う。俺も行くぞ!」

「感謝する、兄様!!」

「あぁ、もう! サバタさんも行く時は突っ走るタイプだったのを忘れてたよ!」

『……サバタ様……わ、私も……行かないと!』

「マキ……ナ……、…………私も……行くから……だから置いていかないで……」

ユーノ達も後で追い付くだろうと思い、ネロと共に街の人が逃げるであろう場所へ向かう。ここに来る途中、避難所であるヴェルザンディ遺跡に誰も来なかった事から恐らく街の人は広場に集まっていると見当を付ける。道中、いくつもの建物が崩れ落ちていく光景を目にし、その度に悲しみと怒りが湧き上がる。だが広場では更に凄惨な光景が広がっていた。

「これは……何という事だ……!」

死体。

死体死体。

死体死体死体。

広場には真新しい死体がそこかしこに転がり、炎で血と肉が焼け焦げた嫌な臭いが周囲に蔓延して鼻につく。凄惨過ぎてショックを受け、ネロは動けずに固まってしまう。だが俺は冷静に、戦闘機人の体内の機械音も聞き取れた聴力に感覚を集中………………。

「……む?」

おかしい……音がいつもより遠く感じる。それにキーンと耳鳴りも……今更気づいたが、全身の感覚が少し鈍くなっている。これは……マズいな。

ガラッ!

「今、音がした!」

丁度ここから陰になってる路地、そこから聞こえた音に反応し、ネロが生き残りがいると信じて駆けだす。少し遅れて俺もそこに向かうと、確かに生き残りがいた。この光景を生み出した原因を知る、唯一の人間。それは……この街の村長だった。ただし右ひざと左脇腹を撃たれた血まみれの姿で壁に寄りかかり、今にも命の灯火が消えそうな程衰弱していた……。

「村長さんッ!!」

「お……あ、あなたは……リインフォースさん……。そしてマキナを救って下さった戦士殿……あの遺跡を……踏破なされたのですね……!」

「そんな事を言ってる場合ですか! 早く応急処置を……っ!?」

「よしなさい、私はもう……助かりません。それより……!」

「そ、村長っ!?」

『村長のおじいちゃん!!』

「おお、シャロン、マキナ……二人ともご無事で何よりです……」

「村長、一体ここで何があったんですか!? なぜこんな事に!?」

「逃げなさい……シャロン、マキナ。ここから、この世界から……! ニダヴェリールは……化け物の巣窟になりました……!」

「化け物だと!?」

尋ねると弱々しい状態で村長は要点だけをしっかり説明してくれた。彼曰く……日が完全に沈んだ時、突如襲撃が起こった。魔法……非殺傷設定を切った、人を殺す魔法が雨のように降り注ぎ、街が火に包まれた。

それをやったのは…………………管理局。

ニダヴェリールの魔導結晶……質の良い物をハイペースで採掘し過ぎた事で収穫量が減り、その価値と能力を取り戻すために、欲深い連中が暴走して糧となる死者を作ろうとした。遺跡で俺が気づいた真実を、実は管理局も把握していたらしい。俺の推測が一部混じっているが、つまりこういう事だ。

かつて彼らは結晶を生み出すために死者が必要なら、次元世界の死体を使えば良いと考え、11年前の大破壊の中心点……この世界で最も大きなクレーターに多くの死体を投棄した。この世界を自分達の資産とするために。そして思惑通りに結晶は生えた……が、あまり良い質のものは生成されなかった。ニダヴェリールはニダヴェリールで生まれた命からしか、純度の高い結晶を作れなかったのだ。

しかしこの世界の人間で生きているのはアクーナの民のみ、しかも生き残った数はごく僅か。それにちゃんと埋葬せず、クレーターに死体を投棄した事でも人道的に問題がある。世間に知られれば、事を行った連中の罷免は免れない。当然、管理局にいる腹黒い“裏”の連中はいつものようにとある手段を使った。

“臭い物に蓋をする”、それが管理局の処世術。文字通りの“蓋”として、彼らはクレーターの上にクリアカンを建てた。世界再建のシンボルとして、あたかも立派な信念の下で作られたものだと対外に告知して。その地下には無数の死体が埋まっているとも知らず……。そして今、アクーナの民を皆殺しにした真実も、外の世界には漏らさず闇に葬るつもりだ。ユーノの調査団をここに送ってすぐにこんな事が出来たのは、どうせ今まで奥に入って生きて戻れた者がいないヴェルザンディ遺跡に行けば、勝手に死ぬと連中が信じ込んだから。エレンとサルタナからよく注意を言い聞かされていたが、“裏”とはここまで性質が悪いものだったのか……。だが村長の話はまだ終わっていなかった。

「言葉で……説明するのは……難しい、ですが……彼らは、生きた人間の目を……していませんでした。あれはまるで亡者……それも性質の悪い……怨霊の類です。魔導師とは、皆……あのようなグロテクスな……姿に変わるものなのでしょうか……?」

「グロテクス? セットアップやバリアジャケットの事を言ってる訳じゃないよね……?」

途切れ途切れに息をついて村長が何とか語ってくれた内容に、ユーノはまだ思考が追い付いていないようだが、俺は薄ら寒い気分を抱いた。まさか……局員達は俺達が来た頃には既にアンデッド化していたのか? それなら俺達が来た時に妙に殺気立っていた理由も納得がいく……。ラタトスクの人形使いとしての力量は相当高い……自分が注いだ暗黒物質を上手く操作して、外見や表面上の精神を人間のままにしておく事ぐらい造作もないだろう。
という事は即ち、村長が見たのはアンデッド……いや待て、魔導師がアンデッド化したという事は、セルゲイの時のような変異体が生まれてしまったのか? だが変異体なら死体を残さず喰っている……そうか、暗黒物質の潜伏期間が長かったから、魔導師でも馴染んでしまったのか。それに局員達が完全にアンデッド化した以上、彼らは本能のままにクリアカンで生きている存在全てを襲っている。それに地下の無数の死体もアンデッド化して地上に出ているに違いない。

つまり……今のクリアカンは死者の都となった。命を持つ者を否定する……地獄の世界。

「ゲホッ! ゲホッ! どうやら……お迎……えが来た……ようです……」

「嫌だ……逝かないで村長! 村長!!」

『おじいちゃん! 私、やっと戻ってきたのに……こんなに早く別れたくないよ! ねぇ!!』

「ふふ……シャ……ロン……と……マキ……ナ……が看取……てくれ…………もう………満………ぞ……く……だ――――――」

彼の生命の気が……消えた。

「村長……さん……? うそ……だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ!! どうして……どうしてこの方が、この街の者達が死ななければならないんだ!! 11年前の事もまだちゃんと償えていないのに、どうして……!!」

「……そん……ちょう……! あ、あ……わぁぁぁあああああああっっ!!!」

『なんで……世界は二度も私から故郷を奪うの……世界ってどうしてこんなに残酷なの……わからない……もう何を信じたらいいのか、全然わからないよ!!』

ネロもシャロンもマキナも、村長の死に慟哭の叫びをあげる。俺とユーノは村長やこの街の人達に哀悼の意を示し、彼らの魂が安らかに眠れるように冥福を祈った。そして次元世界の治安を守る管理局の人間なのに、欲望に憑りつかれたせいでこんな悲劇を起こした真実を受け、俺は人間と管理局に対して激しく失望した。

正直な所、人間とはあまり理性的でない生き物だと知っている。時に理解出来ない行為にまで及ぶ危険性も内包していて、それでも俺は人間の可能性を信じていた。だが……この光景を見て、俺はそれが甘かったと思い知らされた。本来、個は弱くとも無力ではない。むしろ世界を壊すほどに危険な存在であると。これが……イモータルの、銀河意思ダークの主張していた“銀河を滅ぼす存在”か……! だが俺も、許可証を発行してもらう時に気付けなかった自分のミスを棚に上げるつもりは無かった。

畜生……俺とした事が、すぐ近くの暗黒物質すら見つけられないとは! 迂闊過ぎた自分に怒りを通り越して呆れすら抱く。言い訳をさせてもらえるなら、俺は別に感覚を鈍らせるような真似はしていない。という事は……なるほど、俺の身体に限界が訪れつつあるから、あらゆる感覚が遠くなってしまってるらしい。今の所五感で衰弱しているのは、聴覚、触覚、の二つ。更に暗黒物質の探知力も低下している……ラタトスクの動向には特に注意していたはずなのに、微かな暗黒物質の気配を見逃したせいで……クソッ!

[お兄さん……]

「[……おまえ達が責任を感じる必要は無い。全て承知の上で、俺がそうしたのだ。余計な罪悪感なぞ抱かれては、むしろ侮辱とみなすぞ……!]」

[うん、お兄さんならそう言うと王様もシュテるんもわかってるよ。わかってるけどさ……やっぱり納得がいかないよ。なんで……なんでお兄さんが全部背負っちゃうの!? 苦しい事も! 悲しい事も! 辛い事も、全部全部全部!! 少しだけでもいいから、ボク達にも背負わせてよ……! ねぇ、お兄さんの痛みを分けてよ……! 自分の命がもうすぐ尽きるからって、何でもかんでも受け入れちゃわないでよ!!]

「[受け入れる? 違う……これは戒めだ。俺が俺であるために、俺を律するために決めた、俺自身の法だ。そう簡単には変えられないさ]」

[じゃあさ……お兄さんにとって、自分って何? 自分自身の事をお兄さんはどう思ってるの?]

「[……俺が俺自身をどう思う、か。俺の命も残り僅かだから、今更考える気にもならなかったな、そんな事]」

[短い命だからって、そんな悲しい事言わないでよ……。自分の事、もっと大事にしても良いんだよ……お兄さん]

大事にと言われても、俺が俺自身をどう大事にすればいいのか、よくわからない。だから俺にわかる範囲で出来る事をやろうとしているだけなのだが……レヴィ曰く、それは俺自身を大事にしていない事になるらしい。ちょっと難題だな……。

「………行くぞ、おまえ達。ここに留まっても……何も出来ない。それにファーヴニルの封印は今にも解かれようとしている……ラタトスクのコントロール下に置かれようと置かれまいと、絶対存在の完全な覚醒はこの世界の崩壊を意味する。その前にこの世界から脱出するぞ」

「ぐす……っ……ここから出た所で、私達は……どこに行けばいいの。管理局がこれをやったのなら、事情を知っている人はきっと逃がさないように手配している……だから……もう終わりなんだよ、私達……もうおしまいなんだ……」

『サバタ様……私も、管理局……次元世界の人間はもう誰も信じられないよ。もうあなたしか信じれる人がいない……だけどこんな事が起きてしまった。私達には、どこにも居場所は無い……狩りに追いやられる獲物のごとく追い詰められて、駆逐される未来しか残っていない……』

「シャロン……マキナ……ごめん、僕が調査しようとしたせいで、こんな事に巻き込んでしまって……!」

「いや……ユーノが調査に来なくても、彼らは計画を進めていた。むしろ君に付いて来た事で、私達はアクーナの心を受け継ぐ事が出来た。だから……生き残ろう、皆で!」

「そうだ。まだ生きているなら、命が続いているのなら、おまえ達にはやるべき事が残っている。幸いにも、俺には信頼できる奴らがいる。外では今頃そいつらが動いているだろうし、こういった事に備えて俺は避難所(ヘイブン)を用意している。事が落ち着くまで、そこに身を隠すぞ」

そのためにもまず……この世界から出る。ラプラスを着艦させているクリアカンの空港の第7ハンガーへ向かう。タイムリミットは……ファーヴニルが目覚めるまで。
 
 

 
後書き
本編の説明は少しわかりにくいと思うので、簡単に解説します。

ニダヴェリール支部は魔導結晶による収益で懐を温めていた局員がおり、ラタトスクが密かに注入した暗黒物質によって欲望を暴走させてしまいます。その者から徐々に他の局員に暗黒物質を注入していき、いつしかニダヴェリール支部全体がラタトスクの支配下にあるアンデッドとなります。ラタトスクの思考誘導によって、アクーナの人間を葬れば良質な魔導結晶がまた生産され、自分達が更に儲ける計画を立てます。そして計画実行前にユーノ達調査団が訪問、要望通りに遺跡へ向かわせます。そして彼らが遺跡に入り、太陽が沈み切ったのを機に計画を開始、アクーナを襲撃します。しかしここでラタトスクが暗黒物質を遠隔操作で活性化させ、アンデッド化が進行。クリアカンに戻ったのと同時に、完全にアンデッド化し、クリアカンの人間を襲撃。その結果、クリアカンがバイオのラクーンシティみたくなりました。ちなみにアクーナの人間がアンデッド化しなかったのは、そうなる前に肉体が燃え尽きたからです。







ふと思いついた一発ネタ。

DIO「車を出せ」

アームストロング「上院議員をなめんじゃねぇ!!」

 
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