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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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襲撃

 
前書き
7月は会社説明会のラッシュで執筆の時間が取れず、遅くなってしまいました。

色々な意味で走る回 

 
アクーナを包む炎から逃れた俺達は、出来るだけ短い時間でクリアカンまでのルートを考える。来る時に使った見えない太陽床を通るルートは、現在時刻が夜という事もあって通れない。かといって通常ルートは遠回りで時間がかかり過ぎるため、ファーヴニルが目覚めるまでに逃げられない可能性が高い。よってどうしようかと悩んだのだが、精神的に憔悴していながらもシャロンが抜け道を教えてくれた。アクーナからクリアカンに行く時にだけ使える、来た時と同じように結晶の上を通るが、太陽床を使わなくて済むルート。それがあるのは、彼女とマキナが昔遊び場としていた高台……子供達が色んな光景をスケッチした思い出の場所だった。

「ここだけは奇跡的に無事だったんだな……」

「だけど風景は一変してしまった。見えたはずのものが……アクーナも含めて、全て無くなってしまった。何も無い、虚しい光景……。ごめん、マキナ……あの時の風景は、全部消えちゃった……何もかも失っちゃった……」

『……うん。でも、シャロンは何も悪くないよ……だって原因は別だって知ってるから……』

「…………すまない。私の責任だ……」

「リインフォース……君にも事情があったんだって事は二人も理解してる。だけど今は当時の事を思い出させるような発言は避けた方が良い。さっきの事もあるし、変に刺激を与えてしまったら心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発作を起こしかねないからね……」

ユーノの言う通り、マキナとシャロンは故郷を二度も失った事で、PTSDを発症する程の精神的ショックを受けてしまっている。この先の数年間、彼女達がこの症状で苦しんでしまう事はどうしても避けられないだろう。精神カウンセラーの知識も資格も無いから、残念ながら俺には二人の心のケアは出来ない。酷なようだが時間をかけて、彼女達が乗り越えるしかないのだ……。

「……着いた。ここからなら結晶の上を通るだけで、対岸へ渡る事が出来る。でも来た時のルート以上に高い身体能力が必要だから、飛行魔法が使えるなら素直にそれを使った方が良いよ」

そうシャロンが忠告するが、そもそも飛行魔法が使えないのは俺とシャロンだけだ。よって、来た時はネロも走って渡ったが、今回は大人しく飛行魔法に頼るらしい。そんな訳でネロ達は後ろから飛行魔法で付いて来るようにし、いつものように俺はシャロンの動きをトレースして渡る事にする。

結晶の端を滑ってグラインドし、その勢いを利用してハイジャンプ。アクロバットは決めないが、そこから大結晶の影になっていた新たなレール……じゃない、結晶の上に着地してまたグラインド。どこかのハイスピードアクションゲームを彷彿とさせるような速度で駆け抜け、グラインド中はバランス感覚にとにかく神経を集中させる。しかしシャロンは何度か通った事のあるルートだからか、余裕を持たせながら走っていた。俺も身体能力にはそれなりに自信があるのだが、身体がしっかり道を覚えている彼女のスピードと並走するまでが精一杯だった。
それにしても……戦闘技術を一切知らなくとも、何気にシャロンの身体能力には卓越したものがある。単に動き慣れているというのもあるだろうが、それ以上に彼女は俺が感嘆する程、肺活量が多いのだ。それに呼吸も上手いから体力の消費も最低限で済み、身体が酸素不足になってバランスが乱れる事があまり無い。要するにシャロンは、自覚が無いまま理想的な呼吸法を身に付けていたらしい。持ってて損は無いスキルだが……将来それを活かすかどうかはシャロン次第だし、そもそも今の彼女は精神的に――――、

――――ゴゴゴゴ……!

「地震……! ファーヴニルの封印が解けかけている影響か……」

「結晶が……砕けていく……。急がないと道が通れなくなるかも……」

時間の猶予はあまり残されていないらしい。もう少し速度を上げなければ……!

豪快な音を立てながら崩れ落ちていく結晶群の上を、巻き込まれてなるものかと必死に走る。結晶の破片が辺りの空気中に散らばり、その中を潜り抜けて対岸まであと少しとなった時……シャロンが着地した結晶が根元から折れてしまう。

「っ!?」

反射的にかがんで倒れない様に姿勢を整えるシャロン。俺の方は飛ぶ直前だったことで一つ前の足場に留まれたが、このままでは彼女が奈落に落下してしまう。

「飛べっ!」

そう言って咄嗟に手を伸ばすが、どういう訳かシャロンはその手を掴まず、助かろうとしなかった。彼女ならまだ落下の勢いが弱い今の内に結晶から飛んでいけるはず……。なのに彼女は今、全てを諦めたように影の差した表情で俯き、自分で動く気配が無かった。あいつ……まさか!

「チッ、面倒な!」

重力加速度に導かれるまま、落下の勢いが増していく結晶に飛び乗り、シャロンの所へグラインドで突撃する。勢いを殺さずに右腕を伸ばして強引にシャロンの胴を抱え、落下中のせいで踏ん張りが効きにくい結晶から何とか跳躍。対岸の崖に左手で抜いた暗黒剣で突き、ギリギリ刺さった事で柄の部分からぶら下がる。眼下で砕けていく結晶を横目に、シャロンの体重が予想より断然軽く、女性とは皆こうも軽いものなのかと変な所で関心を抱きながら崖を蹴ったりしてよじ登り、やっとこさ地上へ到達した。

「あ……ありが―――」

「歯、食いしばれ」

バシッ。

「………!」

音でわかるだろうが、俺はシャロンを一発ビンタした。シャロンはぶたれた理由を一応自覚しているようで、無言のまま俯いた。

「何が“ありがとう”だ……全然本心から言ってないだろ! あの状況でもシャロンなら、自力で十分対処できたはずだ。なのにあの状況で動かなかったという事は、おまえ……さっき生きる事を諦めたな?」

「…………だって……生きていたって、もう……」

「二度も故郷や仲間を失って辛いのはわかる。先が全然見えなくて心細いのもわかる。苦しくて、痛くて、泣きたくて、落ち込んでいたいのもよくわかる。ああそうさ、俺だってこんな状況でさえなければ、おまえの精神が落ち着くまで時間を与えてやりたい。だが……今は一刻の猶予さえ残っていない。全員が持てる力を全て使って脱出しないと、誰一人生き残れなくなる。そんな事になったら、誰がアクーナの記憶を受け継ぐ? 誰があの街で起きた真実を伝える!?」

「それは………」

「全部マキナに押し付けるのか? おまえまで死んだら、マキナは以前のおまえと同じ苦しみを味わうと知っていてもか?」

「……ッ!」

自分の行いがどういう結果を招くのかを言葉にして伝えると、シャロンは目の瞳孔が大きく見開き、強い衝撃を受けた事で落ち込みだす。ネロ達が着くまでの間、無言でシャロンを見下ろしていると、後悔のあまり彼女は嗚咽を漏らして泣き始めた。

「………ひっく………………出来ないよ……独りぼっちの寂しさは、この11年でよくわかってるもの……マキナにまで、あんな気持ちを抱かせたくないよ……!」

「そうだ……それでいい。まだ逝く必要は無い……」

力が抜けて涙をポロポロ流すシャロンの頭を、ゆっくりと髪に沿って撫でる。これまでの事で彼女の生きる意志はズタボロになっていた。さっきのは一時の迷いが招いた過ちだと言えるが、本当に命を失ってしまえば反省する事もやり直す事も出来なくなる。近くに居ながら無言で事の次第を見守ってくれたネロ達には後で一言告げるとして、シャロンは改めて生きようとする意思を抱いてくれたらしい。

「命あっての物種だ、俺はシャロンを見殺しになんかしない。それにおまえにはちゃんと生きて、命を次の世代に繋げるという使命がある。俺とは違ってな……だからどうにもならなくなるまで、何が何でも生き残ろうと足掻くんだ」

「うん……! うん……!」

涙ながらに頷くシャロン。それを見てマキナも近づいていき、二人で支え合う様に先へ歩き出した。その後ろに俺とネロ達も続き、クリアカンへの移動を再開した。

「兄様、どうしてあんな風にわざと追い詰めたの? 彼女達も辛いんだから、優しく慰めるとか、そういう穏便な方法は取れなかったのか?」

「……優しく慰めた所で、それは一時しのぎにしかならん。途中でまた思考の袋小路に迷い込み、同じような危機を繰り返しかねない」

彼女は繊細で脆弱、そして良識と分別を持ち合わせた精神の持ち主だ、本当ならマキナを残して死を選ぶような人間じゃない。自分の死がマキナの悲しみになると改めて自覚させれば、二度と死を選ばなくなる。ちょっときつめのショック療法だが、少なくともこれで先程のような事はしなくなるはずだ。
だがちょっと追い詰めすぎた気がする……流石の俺でも罪悪感を抱いてしまうな。しかしここは誰かが心を鬼にして言わないと、いつまで経っても泥沼から抜け出せなくなる。この場合、致し方あるまい。

「とにかく生き残った彼女達が何を背負ってるのかをありのまま伝える事で、反動的に生きようとする意識を覚醒させた方が色々な意味で今後のためになる。そういう事だ」

「……ごめんなさい、正直に言うとそのやり方はちょっと僕には受け入れがたいです。何て言うか……わざと傷口を抉ってるような気がして……」

「別に受け入れようとしなくても構わない。実際抉ってるし、ユーノにも思う所があるのはわかってる。大体俺はああいうやり方しか知らんからな……おまえ達はおまえ達なりにやればいい」

「そういえば兄様って、問題の対処法が割とそういう傾向だったね。私の時も怒って説教してから、上向きになる意思表示を促していたなぁ……」

ユーノが戸惑う隣でネロも何か思い返しているようだが……今更この性質は変えようが無い。別に俺が嫌われようが、少しでも前を向く力が湧けたのならそれで構わない。そしてそれは……幼いあいつらにも言える。

「……そろそろ話を切り上げよう、時間もあまり無い。クリアカンは目の前だから、さっさとラプラスを取り戻して脱出するぞ」








クリアカンに到着してすぐ、この街には闇の気配が充満していて、生命の気配が微塵も見当たらなくなっている事を身を以って理解した。ダークマターの探知力が衰えたと言っても、これ程濃密な死の気配なら戦士として培った勘だけで気づける。恐らく死線を潜った経験がある恭也や士郎なら一瞬でここが死地だとわかるだろう。

寒気を感じる程静寂に包まれた街並を前に、俺達は一旦作戦会議を行う。まずユーノが意見を出した。

「さて……空港まで行くとしたら、街中を真っ直ぐ突き抜ける最短距離を通るのが当然一番早いと思う。だけどその代わり、多数のアンデッドとの戦闘は避けられない。……そもそも僕達はサバタさんやフェイト達のようにアンデッドを倒せないから、戦闘は可能な限り避けるべきだと考えたんだけど……皆はどう思う?」

「戦闘を避けるなら、ホラーゲームのお約束らしく地下水道を通るべきじゃないかな。この際、臭いニオイが身体にこびりつく事は辛いけど我慢しないと」

「ネロの提案では確かに安全だが、その代わり時間のロスが激しい。第一俺達は地下水道の地形を知らない、少なくとも地図か案内図が無ければ迷ってしまう確率が高い。それにタイムリミットが訪れてしまったら安全に元も子もない」

『かといって飛行魔法で街中を飛んでいくのは、ちょっと危険かもしれない。なにせ魔導師のアンデッドなんて、どんな性質を持っているのかサバタ様ですら判断しかねているもの。未知のアンデッドと遭遇する危険性を考えたら、地上のアンデッドをやり過ごしていく方が安全だよね』

「ああ、それにこの密度の暗黒物質だ……魔力を喰う性質を考えると、おまえ達の魔法にも影響があるに違いない。下手をすれば飛行中にコントロールが乱れて落下する危険がある」

「じゃあどうするの……? いくらサバタさんでも私達を守りながら正面突破は厳しいと思うけど……」

「そうだな……確かに何か良い手は…………む?」

辺りを見回していると、乗り捨てられた管理局の装甲車両を見つけた。恐らくアクーナを襲撃しなかった局員がアンデッドと戦うために出動し、そして誰も戻って来なかった車の一台だろう。

「しめた! アレを使おう」

「車か……でも兄様、この中に車を運転できる人はいるの?」

ネロの質問に手を上げる者はいなかった。確かにこの面子で車を運転する機会があった者は一人もいないだろう。俺は二輪を運転しているが四輪はした事が無い……あの車は正確には八輪なんだが、それはどうでもいい。でも運転の経験があるのは俺だけだし、仕方ない……やるしかないか。

その旨を告げると皆もそれしかないと承知してくれて、俺達はストライカー装甲車によく似た車に乗り込んだ。ちなみにシャロンは乗り物が苦手らしく、嫌そうな顔で渋ってたが……状況が状況だから我慢してもらうしかない。幸いアンデッドが待ち伏せているような事は無く、安全確認をした俺はそのまま運転席のチェックを行う。

「よし、キーは刺さったままだ。これならすぐに使える……ん?」

引っ張られる感覚がしたので振り向くと、マキナが真剣な表情で俺を見つめていた。何か話したい事があるのだと思った俺は、彼女と向き合った。

『サバタ様……私、もう何も出来ないのは嫌だ。だから……戦う覚悟を決めたよ。無力だった自分と決別するために……そしてシャロンと生き残っていくために、理不尽な運命と戦う。サバタ様は私を戦いから離してくれたけど、それでも再び私は銃を手にする。シャロンだけは何としても失いたくない……彼女だけは絶対に守りたい! だから……お願いします!!』

「……そうか。何を言っても、その気持ちは揺らがないんだな?」

『はい……! これは私が選び、決意したものです! 何者でもこの意思を変える事は出来ません!』

「わかった。そこまで言うならデバイスに解除コードを入力しよう、だがもう後戻りは出来ないぞ?」

『全て承知の上です!』

マキナのデバイスが表示したディスプレイに、キーワード入力画面が出る。キーワードは……、

『天国の外側』

入力した瞬間、マキナのデバイスが通信機から変形していき、因縁のある狙撃銃PSG1によく似た形状となった。誇り高き狼の使っていた銃と同じ……マキナの武器。マキナの戦う力。

『これで……また戦える!』

「ああ。なら早速だがマキナ、そこのハッチを開けて索敵を頼みたい。おまえの銃は元々質量兵器だから、アンデッドを吹っ飛ばす衝撃を与えられる。まぁ、倒せない事には変わりないが、ユーノやネロよりアンデッドと戦うには適している」

『わかった、外は任せて。サバタ様はくれぐれも安全運転でよろしく』

「フッ……その約束はできそうにないな」

緊張感を和らげる会話をしてからマキナはハッチの座席に座り、機関砲を構えるような感覚で銃口を外に向ける。本来狙撃銃で連射は難しいのだが、元となったPSG1はセミオートマチックの狙撃銃、即ち連射しやすく設計されたものだ。それをラジエル専属のデバイスマイスターに改造してもらった結果、スナイパーライフル並の精度とマシンガン並の連射率、ハンドガン並の取り回しやすさにミサイル並の誘導という凶悪性能を手に入れた。更にモードチェンジする事で銃身の一部が音叉のように割れるチャージ形態ではレールガンが撃てるようになる。まさに銃型デバイスの一つの完成形とも言える代物となっていたのだ。

それ程の性能を誇るデバイスに名前がつかない訳がない。封印を解き放った事で、正式名称もまた、白日の下に晒される。マキナのために造られたデバイス、その名は……。

『“レックス”……あなたの咆哮で、敵をなぎ倒すッ!!』

運転席で俺はキーを回し、装甲車のエンジンがかかった音でアンデッド達が音におびき寄せられる。助手席にはシャロン、後ろの座席ではネロとユーノが着席している装甲車を、初っ端からアクセル全開で走らせる!

未来の南米でとある蛇が経験しそうな走り方で、装甲車を進める。障害物をものともせず突き進み、進行方向を妨害しているアンデッドを跳ね飛ばして突き進んでいるが、奴らはエナジーの力で浄化されない限り、例えアルカンシェルを撃たれても復活する。故に良心の呵責なぞ微塵も感じている暇がない。むしろ走っている車に乗り移ろうと側面から叩いて来たり、よじ登って来ようとする奴もいる程だ。そいつらはマキナが一体も残さず狙い撃って、弾き飛ばしているから今の所は問題が無かった。だが……、

「何? 今のって砲撃!?」

「あれは……やばい!」

進行方向からこの車とよく似た装甲車が、魔導砲台をこちらに向けて発射してきていた。あれからは闇の気配を微かに感じる……アンデッドとなっても知能がわずかに残っている局員がいたらしい。

「機動砲システムかよ! しかもご丁寧な事に魔力付きの強固なバリケードのせいで居住区から次元区へ通じる道が封鎖されている……あれでは装甲車でも通れない!」

それに周りには無数のアンデッドがいるから、降りて通り抜けるのは色々な意味で厳しすぎる。破壊しようにもマキナのレールガンチャージの時間もないから……仕方ない、迂回して空港へ行くしかない。

「サバタさん、その十字路を右へ曲がって。その先にある管理局支部を真っ直ぐ通り抜けて、商業区から企業区を経由して次元区まで向かう。少し遠回りだけど、これが現状で確実に行ける最短ルートだと思う」

「わかった、シャロンの勘を信じる。よしッ、おまえら! シートベルトはちゃんと締めなおしておけ、少し荒っぽくいくぞ!!」

前方から接近する機動砲システムの車両と側面がぶつかりながらすれ違い、その時の急激なハンドル操作で重心が動き、身体が横に引っ張られる。タイヤから轟音を立てながら装甲車は方向転換し、前方に管理局支部の見える道路を走行する。すると後ろから機動砲システムの車両も追跡を開始し、こちらに併走してきた。

「このまま付いて来られると面倒だ、どうにかして切り離さないと……!」

運転しながら必死に考えている内に、装甲車は管理局支部の入り口に到着した。あと少しでエントランスに突入すると思っていると、マキナが突如近くにあったドラム缶を狙い撃つ。途端、爆発……ではなく、中に入っていた魔導結晶の欠片が辺り一面に散らばり、後ろから迫っていた機動砲システムがタイヤを滑らして建物の支柱に激突する。残念ながら完全破壊まではいかなかったものの、しばらく時間稼ぎは出来ただろう。

「ほう、やるじゃないか、マキナ!」

『SEEDのような借り物の力がなくたって、十分やれる!』

装甲車はそのままガラスを突き破って反対側へ飛び出し、商業区へと進出する。所々に他の車両が炎を立てて転がり、アンデッドが徘徊している道路をひたすら突っ走る。

「前方に未確認アンデッドを確認。何なの、アレ……!?」

商業区から企業区へ通じるゲートを、人間の体格の倍ほどある巨大なアンデッドが道を塞いでいた。ギロチンのような大斧を持ち、表情が見えないように覆面を被っている事もあり、まるで処刑人のような佇まいだった。それを見てよくわからんが接近させてはならないと、俺の勘がささやく。

「マキナ!」

『大丈夫、言われずともチャージ完了! レールガン……発射ッ!!』

凄まじい電子音と発射音が発生し、亜音速に匹敵する速度でマキナの魔力が込められた弾丸がアンデッドを撃ち抜く。彼女のデバイスの排熱機構が蒸気を出して熱を放出する中、変異型に近かったアンデッドは成すすべなくぶっ飛ばされていった。あいつ、パワーはあってもスピードは鈍重そうだったから、ぶっ飛ばされた以上、追いつかれる心配はない……。

ガキィッ!!

「うわっ!? なんか斧が天井を突き破ってきたぁ!?」

「に、兄様!? そちらで一体何が!?」

さっきぶっ飛ばしたアンデッドの斧がなんやかんやで空中から降ってきて、後ろに突き刺さったらしい。ユーノとネロが突然の事で仰天している。やれやれ、意外なカウンターをもらってしまったな。

「大丈夫だ、ちょっとクリアカン名物の土産が降ってきただけだ」

「え、こんなものがお土産なんですか!?」

「あ~うん……一言で表すなら物騒だね」

「意味を少し変えたら私自身がむしろお土産とも言えるよね……ニダヴェリール生まれニダヴェリール育ちの純ニダヴェリール産だもの」

『おろ、じゃあ私は純が付きそうにないね。11年分次元世界で育ってるから』

「でもこれから……私もこの世界を出る訳だから、俗に言う出荷されるみたいな感じかな」

『出荷されるのも良い経験になるよ。その代わり運命の荒波に必ず揉まれるけど』

「なるほど……だけど今も車に揉まれてるよね。おかげでさっきから胃の中の物がリバースしそうで凄く辛い……」

『大丈夫? 乗り物酔いってホントに辛いしね。まして今は爆走中だし、周りを見ても気晴らしすら出来ないし、余計にね……』

内容はともかく、冗談を言えるまで彼女達の精神は回復してくれたようだ。そこは素直に喜ばしい。シャロンの乗り物酔いだけは酔い止めを持ってきていないから、どうしようもないが……。しっかし装甲車の装甲を貫く斧を持っていたとは、接近する前に対処して正解だった。そして俺達を乗せる装甲車はそのまま企業区を通り抜けていく……

その時!

「集束砲撃だと!? しまった、横転する!!」

突如上空からの攻撃を受け、地面が抉られる衝撃で足を掬われた装甲車がひっくり返って転がり、中にいる俺達はその衝撃で天地が何度も入れ替わった。あまりに揺さぶられて流石の俺でも三半規管へ少なくないダメージを受ける。しばらく転がってどこかのビルの受付に衝突し、逆さまの状態だが何とか勢いが止まった。

「クッ……皆、無事か……?」

無事だった俺は運転席から乗り出して呼びかけると、微かな声だが二人分の返事が返って来た。隣の助手席に視線を向けると、怪我はしていないようだが乗り物酔いが限界に達して真っ青な顔で意識が朦朧としているシャロンの姿があり、後ろの方ではさっきの攻撃を受けた時に咄嗟に中に戻ったマキナを、ネロとユーノが守るようにしがみ着いていた。その影響でマキナの代わりに二人は大怪我を負ってしまったらしく、出血の跡が見られる。あの状態では、すぐに動かすのは危険だ。そのため意識のはっきりしているマキナは、二人の怪我の酷い所に回復魔法をかけている。しばらく任せよう。

[お兄さん、さっきの奴が来るよ!]

「チッ……他の奴はまだ動けない。俺とレヴィだけでやるしかない」

横転したとはいえ燃料漏れはしていないから、しばらく防空壕の代わりにはなる。車から這い出た俺は、シュテルの時と同様に手を掲げて床にルナ属性、空中にクラウド属性の紋章が浮かぶ魔方陣を展開する。

「顕れよ、雷刃の襲撃者……レヴィ・ザ・スラッシャー!!」

閃光を発し、フェイトそっくりのバリアジャケットを展開している元気ハツラツな水色の髪の少女が現れる。今ここで召喚した彼女こそ、力のマテリアルにして雷刃の襲撃者、レヴィ・ザ・スラッシャーであ――――

「あーーーっはっはッ! 強くて凄くてカッコイイ、ボク見っ参ッ!!」

「こんな状況なのに、登場して早々ポーズ決めてる場合か!」

「何言ってんのお兄さん! カッコイイポーズはここぞという登場シーンに決めてこそ、盛大に輝くんだよ! 現に今、ボク輝いてるゥ!!」

「確かに目立ってるな、色んな意味で。おかげでいらない敵までおびき寄せてしまいそうだ」

「まぁそうだけどさ、初の変身シーンにポーズ決めない魔法少女って色々ダメじゃん! だからこういうのはお約束って言うんだよ!」

「そうなのか?」

「そうなの! 変身シーンに敵が空気を読んで攻撃しないのも、初めてだろうとアクロバットが失敗しないのも、途中で真っ裸になってるのに周りが誰もツッコまないのも、ぜ~んぶ魔法少女もののお約束なんだよ!」

「ふむ……想像以上に奥が深いようだ、お約束とは。これは俺も知らなかった……」

そういえばこの話って魔法少女が関わってたな……って、何を言ってるんだ俺は? どうもレヴィが表に出てから、調子が狂わされている気がする。

弛緩してしまった空気を戻そうと思ったのだが、わざわざ俺がやるまでもなく、ビルの外の空中の敵からの散弾を反射的に避ける事で否が応でも緊張感が戻ってきた。そもそもさっきから攻撃してくる敵の正体だが、面倒な事にアンデッド化しても魔法の力が残っている管理局員であった。恐らくラタトスクの私兵となった局員達の成れの果てだろう。その数はざっと20体程で飛行魔法が使えるのは半分の10体、残りは地上のアンデッド局員10体。

「行くぞレヴィ、こんな奴らはさっさと全滅させるべきだ」

「いっそボクが全部倒してしまっても構わないのだろう? な~んてね。オッケー!」

青い魔力光を煌めかせながら、レヴィは颯爽と空中のアンデッド達に“バルニフィカス”で斬りかかっていく。アンデッド局員は各個分散し、部隊じみた動きで対応する。人ならざる存在となって、唯一残った人間性が連携攻撃しかないとは……少し虚しい気になる。

一方で俺もセンチメンタルな気持ちに浸っている場合では無い。地上のも含めたアンデッド局員は、俺達に血まみれのデバイスの先端を向けて誘導弾を連射してきた。俺はゼロシフトで、レヴィは高速移動で避けていき、誘導弾が着弾した爆煙の中を駆け抜ける。ある程度接近した位置まで行くと、今度は口からホルルン液を飛ばして来た。当然、触れてはならないため、スライド移動で避けてから固まっている3体のアンデッドをまとめて斬る。倒れて肉体が崩壊していくアンデッドから翻り、すぐさま最も近くにいるアンデッドへ瞬時加速で迫り付く。その速度を維持したまま暗黒剣で貫き、引き抜いたと同時に上空へ跳躍。レヴィと交差して互いの背後にいるアンデッドを斬り捨てる。

「5体!」

「4体! って、少ない!? くっそぉ~負けないぞ~! 光翼斬!!」

ルナ属性を加えた青い閃光が煌めくごとに、一体のアンデッドが真っ二つに切断される。しかしこっちも同様に、黒い刀身の暗黒剣が振るわれる度に敵が葬られていく。そうして無双じみた戦いを繰り広げていき、ものの数刻でこの場にいたアンデッド局員は全滅したのだった。
やはりホドリゲス新陰流は敵を倒す事に関しては別格だ。それにレヴィは戦闘スタイルが近接戦型だから、上手く適応したのだろう。もしかしたら、俺に匹敵するぐらい技術を身に着けているかもしれない。

「約一分で11体、まあこんなものか」

「ボク9体……あ~あ、負けちゃった。やっぱりお兄さんは強いね! さっすが~♪」

「ひとまずこれでアクーナの人達の仇を討った事にはなるか。まだまだ脱出まで気を抜いてはならんがな……」

「装甲車も次元区まで後もう少しという所で使えなくなっちゃったし、遺跡少年とクロハネが怪我しちゃったからね~」

「とりあえず皆を装甲車の外へ運ぼう。怪我の容体も早めに確認しておくべきだ」

という訳でレヴィと協力してシャロン達を外へ運び出し、ネロとユーノの怪我の具合を改めてマキナから聞いておく。

『出血が酷い所は応急処置で塞いだけど……ユーノは右肩の脱臼に頭部への強打による出血、ネロは左腕の骨折に背中の打撲がまだ残ってる。二人とも意識はまだ回復してないけど、横転した装甲車の中にいてこの程度なら、むしろ運が良かった方かも』

「そうだな……だが早めにちゃんとした治療を受けさせるべきだろう。応急処置では出来る事が限られているからな」

「……うぅ……頭がぐわんぐわんして気持ち悪い……」

「お兄さん、シャロンの意識がはっきりしてきたよ。もう自力で動いても平気だと思う」

「そうか。……気分はどうだ、シャロン?」

「……もう最悪……しばらく乗り物は勘弁してほしいよ………」

「残念だが脱出に使うラプラスはシャトルだから、否が応でも乗り物にはもう一度乗る事になる。悪いが耐えてくれ」

「はぁ……だから外の世界には行きたくなかったんだ……」

憂鬱な感情を隠さず表に出し、深く嘆息するシャロン。彼女が次元世界に出るのを嫌ってたのは11年前の出来事がトラウマだったからだけでなく、実は乗り物が苦手だからという理由も含まれていたのだろう。一つではなく複数の理由がある方が十分納得できるが、何にせよ難儀な事だ。

「ところで……いつからいたのかわからないけど、この子は?」

「へ? ああ、ボクはレヴィ。詳しく説明する時間は無いから、今はお兄さんの仲間とだけ知ってれば良いよ」

『サバタ様の仲間? ふ~ん……なんか知ってる人とそっくりだけど、サバタ様が信用してるなら…………ほんのちょっとだけ私も信じれるかな』

「まぁ……雰囲気からして悪い人じゃないのはわかる。でもサバタさんの知り合いだからって、流石に突然現れた魔導師を信用するのは今の私には難しいよ……」

「そりゃあ、あんな事があっちゃ無理もないよね。ま、ボクはお兄さんのアイボーだから心配しなくてもだいじょぶだいじょぶ!」

『ちょっと待って、アイボーとは聞き捨てならないんだけど。レヴィって、サバタ様とどういう関係?』

「ん~と、ええと……なんていうか……確か運命共同体?」

「すごい変化球が帰って来た!? 私ですら驚愕の一言だよ!」

『う、運命共同体……何があったのかはわからないけど、流石サバタ様、私達に出来ない事を平然とやってのける。そこに痺れる憧れる!』

こんな時にネタをかますとは……こいつら意外と逞しいな。……いや、よく見たら違う。マキナとシャロンの場合はどちらかというと空元気に近い。今の切羽詰まった状況に無理やり適応した結果、本心を出さず仮面を被る事を覚えてしまったらしい。事情を知る身から見ると、彼女達の有り様が痛々しく感じる。

平穏という言葉が途方もなく遠ざかってしまった二人の境遇を前にすると、俺達兄弟と姿を重ねてしまい、どことなく共感を抱いてしまう。陰謀と悲劇に翻弄された二人が本当の意味で安息を得られるのは、一体いつになるのやら……。

「さて……ここからは自力で企業区を抜けなければならない。だが案内板によると好都合な事に、このビルは次元区との運搬通路を地下に建設しているようだ。地上はさっきの騒動で敵が集まりつつあるから、怪我人を運ぶ事による移動速度の低下を考えると地下を通った方が良いだろう」

『賛成。あまり激しく動かすとユーノとリインフォースの怪我が悪化するかもしれないから、敵と遭遇する可能性は出来るだけ減らしておくべきだしね』

「じゃあユーノさんは私が運ぶよ。それぐらいなら私でも出来るから」

「わかった、じゃあユーノはシャロンに任せるとして、俺はネロを背負っていく。レヴィとマキナには、敵や障害と遭遇した時に対処する役目を頼みたい」

「りょ~か~い! 強くて凄くてサイキョーのボクに、全部お任せあれ!」

『責任重大だけど、大丈夫!』

そうしてレヴィが先頭、マキナが殿を務める役割分担を決めた後、俺は意識の無いネロを肩で支えて持ち上げ、それなりに自由度のある姿勢で運ぶ。それを見たシャロンは同じようにしてユーノを持ち上げ、俺に続いた。そして俺達は、妙に冷たい気配が漂うビルの中を進んでいくのだった。
 
 

 
後書き
レックス:メタルギア・REXが元ネタ。ぶっちゃけレールガンをマキナに持たせたかったのが大きな理由です。封印解除のコードが天国の外側、即ちアウターヘヴンである理由は、今のマキナやサバタ達の境遇に適していると思ったらすんなり決められました。
装甲車での脱出:MGS4のACT2最後で、ドレビンの装甲車に乗って脱出するシーンが元ネタ。あちらではPMCのナノマシンの感情制御が暴走して暴徒同然になります。機銃の役目はリミッター解除したマキナが担当。
サバタ11体、レヴィ9体:現在のサバタの状態と、強化されたマテ娘一人との実力差がどのような感じになっているかを軽く数値で表したもの。といってもサバタは空を飛べないので、その分の差も影響しています。

企業区……生物兵器……ウイルス……バイオ……クリーチャー……アン○レラ社……赤外線レーザー……etc 
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