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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第三十五話 夏休み前その九

「麦茶の味だと」
「熱くても」
「それなら冷やせばいいし」
「アイスコーヒーね」
 代用ではあってもだ。
「それに出来るし」
「いいと思うけれど」
「しかしです」
 ここでまただ、小夜子さんは僕達に話してきた。僕達は三人で販売機の横の席に座ってコーヒーとお抹茶を飲みつつ話した。
「ドイツでは不評でした」
「まずいって?」
「代用は代用だと」
「そうなのね」
「麦茶の味でも」
「麦茶ならいいと思うけれどね」
 詩織さんは僕達の感覚から言うのだった。
「そこは違うのね」
「どうやら」
「そうなのね、あとね」
「はい、何でしょうか」
「代用コーヒーっていうけれど」
 それ自体のこともだ、詩織さんは問うたのだった。
「戦争中でもないのに代用だったの」
「はい、東ドイツでは」
「そんなにものなかったの?東ドイツって」
「そうだったみたいです」
「そんなに貧しかったの」
「どうやら」
「コーヒーが飲めない位に」
 詩織さんはそれがわからないといった顔だった、そうして言うのだった。
「何処にでもありそうなのに」
「共産圏は大体そうだったみたいです」
「貧しかったのね」
「ソ連もものがなかったですし」
「今よりもなのね」
「今はあの怖い方がおられますし」
 元秘密警察の幹部で格闘技の達人で柔道やサンボを得意としているらしい。冷徹な辣腕家で何か少年漫画のラスボスみたいな人だ。
「資源を売って収入を得ているのでものもありますが」
「昔はなの」
「ソ連時代、特に末期はものがなく」
「大変だったのね」
「それでコーヒーもです」 
 なかったというのだ。
「そちらも」
「そうなのね」
「東ドイツはまだ」
「まだ?」
「共産圏の中で一番豊かだったとのことです」
「コーヒーも飲めないのに?」
「はい」
 そうだったというのだ。
「まだ。共産圏で一番いい国だったとか」
「じゃあ他の国はどうだったのかしらね」
 詩織さんは想像出来ないといった顔だった。
「一体」
「私もお話を聞いて驚きましたが」
「実際にコーヒーも十分飲めなくて」
「大変だったのね」
「そうした国でして」
 そして、というのだ。
「代用コーヒーというものがありました」
「そうなんだね」
「はい、それで味は」
「やっぱり代用だから」
「不評でしたが」
「僕達にすればね」
 麦茶の味、それならだ。
「いいよね」
「日本人にしてみればそうですね」
「まずいとは思えないけれど」
「味覚の違いでもありますね」
「日本人とドイツ人の」
「私も飲んでみたいと思います」
 小夜子さんはこうも言った。 
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