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フリージング 新訳

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第28話 Machination 7

 
前書き
お待たせして申し訳ありません。最新話です。気がついたらお気に入り件数が120を超えていました。感激です‼︎ 

 


「っかしいなぁ……サテラどこ行ったんだろう……」

ふらふらと日の落ちた学園を散策するのは、我らが主人公、アオイ・カズト。
実は、サテライザーを探して屋外まで出てきたのである。
その時だ。ポケットに入れていたケータイが振動した。このタイミング。間違いようが無い。
ポケットからケータイを取り出し、先回りして、答える。

「おかけになった電話番号は……」
『同じ手が通用すると思うのか少年‼︎』

自信満々の返答に、内心イラっとしながらも、溜息をついて話を始める。

「今度は何があったんだよ、痴女。」
『遂には神すらもつけられないのかい⁉︎
まぁいいや。』

いいのかよ、とは突っ込まない。もう慣れっこだ。

「それで、今度は何事だ?」
『サテラちゃん、闘技場にいるよ。』
「いきなりだな……なんでさ。」

そう聞くと、ふっふっふと苛立つ笑い声を上げながら、話を続けた。

『なんでかは、君の目で確かめた方が面白、もとい分かりやすいよ。きっと。』
「いま何を言いかけたこの痴女ってまた切りやがった‼︎」

まったく、と溜息をつき、ポケットにケータイをしまう。


****************


サテライザーは全力で走り回っていた。
それだというのに、背中から衝撃が襲いかかり、溜め込んでいた息と共に少量の血が吐き出される。
その衝撃の発生源は、数メートルも後方にいた、ラナ・リンチェンだ。
あの女の放った〈空牙〉という名の技。
おそらくは拳法の一種だろう。
まずは距離を置かなければならない。
有効範囲を知らなければならない。
だから走り続ける。

それでも、足りない。四方八方からの見えない拳により、確実に体力を削られていく。近づこうとしても、〈空牙〉によって弾かれてしまう。
こちらは近づけないのに、あちらからはいくらでも攻撃できてしまう。

例えるのならば、まるで目の前に見えないもう一人のラナがいるようだ。

距離を取らなければ。アクセルを使い、動き回る。
そうしていると、ラナがニヤリと笑みを浮かべ、拳を振りかぶった。

「もう楽になるであります‼︎」

〈空牙〉を警戒し、もう一度加速するために後方へと飛び上がる。
そこで、はたと気づいだ。
この状態は、先ほどのリプレイだ。
飛び上がった状態は、完璧な無防備。
なのに衝撃は襲ってこない。
手を抜いているわけでも、遊んでいるわけでもない。
ラナは拳を腰だめに構え、

「こっちが本命であります‼︎」

下から上へとアッパーの要領で〈空牙〉を飛ばした。顎に衝撃が走り、脳が揺れてうまく立てなくなる。
もちろん、その隙をラナが見逃すはずもなく、

「まだまだでありますよ‼︎」

今度はラナの方から距離を詰め、〈空牙〉ではなく連続の拳と蹴りででサテライザーを攻め立てる。
威力は〈空牙〉の倍に近い。それもそうだ。遠距離ではなく、近距離での攻撃なのだから。痛みで体が動かない。意識も朦朧としてきた。おそらく、これ以上の戦闘は困難だろう。

だが、倒れてはいけない。
“約束を破るわけにはいかな”いのだ。

膝をつく寸前で、ノヴァブラットを杖に使いなんとか立ち上がる。
まだだ。まだ自分には、奥の手がある。

「まだやるでありますか?」
「当たり…前だ。私は…負けない……」

その眼光に一瞬たじろいだが、それも本当に一瞬だ。すぐに先ほどまでの佇まいを見せる。戦士ならば当然だ。

そして、死闘が再開された。サテライザーが加速を使い、ラナの前から姿をくらます。

「無駄でありますよ‼︎」

見えないのなら、それはそれで構わない。たとえどんなに早くたって、加速時の音と、空気の振動までは消せない。
感覚を研ぎ澄ましたラナの前では、今までの加速。つまりシングルアクセルでは意味がないのだ。

ではどうするか?

答えは単純だ。

速度を倍にすればいい。

ラナから放たれる音速に近い拳撃を、サテライザーは、それを遥かに上回る速度で避けた。

「なっ‼︎」

ラナは驚愕で顔を歪める。
確実に仕留めたと思ったのに、渾身の〈空牙〉が避けられた。
それだけでも驚愕だと言うのに、今度は速度が倍近くに跳ね上がり、全く捉えられなくなったのだ。
自分が捉えられないほどに。

音速を超えた一撃は今までのどの攻撃よりも重く、鋭く、深く体へとダメージを与える。

「ガッハァッ………」

サテライザーの姿がようやく視認できたが、疲労とダメージの蓄積によって、視界がぼやけてしまう。
だが、それでもサテライザーが、自分と同じように限界が近いのは明白だった。

「さすがは…接触禁止の女王と呼ばれるだけはあるでありますね……」

それでもお互いに倒れない。
誇りがある。意地がある。そして何よりも、互いが互いに負けたくないという信念がある。

サテライザーはブレードの切っ先をラナへとまっすぐに構え、必殺の一撃を放とうと身構える。
その姿は、やはりカズトの構えとどこか似ていた。

「これで…終わらせる……」

その宣言は、真正面から行くということだ。それを聞いて、ラナはクスリと笑う。

「本当に、面白いひとであります。」

真っ向勝負ならば、受けない訳にはいかない。

「いくぞ。」
「来るであります。」

二人の姫が、同時に命を奪いに行った。
その一撃は、ぶつかり合う…はずだった。

「状況を説明してほしいんだけど…?」

このイレギュラーが、割って入らなければ。 
 

 
後書き
やっとラナ戦が終わった……長かったぁ……と言っても、次回からはラナとサテラの共闘なので、カズトの出番はまだ先です。
では、また次回。 
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