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真似と開閉と世界旅行

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壊れた心〜

 
前書き
こんなに・・・こんなに長くするつもりはなかったんだ・・・ではどうぞ。 

 
・・・キリトがパーティーに入ってからは安定した狩りが続いた。それにサチの指導にも加わり、キリトは瞬く間にギルドに溶け込んでいった。

「兄貴は友達とか出来たのか?」

「なんだよ急に・・・」


「いやさ、兄貴って他人に踏み込むの苦手じゃん?だから、逆に踏み込んできてくれるような人とかに会ってないのかなーって」

そう言うとキリトは顔を逸らす。

「まぁ・・・そういう奴はいたよ。ゲーム始めた直後に俺を捕まえて、コツを教えて欲しいって図々しく言ってきた奴がな」

「はは、凄い人だね。・・・その人は?」

「・・・デスゲームが始まって、はじまりの街から出るときに・・・置いてきた」

「あ・・・」

「そいつ、友達がいるからって言って・・・俺は全員を守りきれないと・・・」

「いいよ、言わなくて。・・・ごめん」

「・・・」

長い沈黙が訪れ・・・先に口を開いたのはキリトだった。

「あのさ、亮・・・」

「ん?」

「もし俺とお前が本当の兄弟じゃないって言ったら・・・どうする?」

「は?・・・いきなり、何言ってんのさ」


てっきり場を和ませるジョークかと思ったが、キリトの表情が重いままなので・・・改めて聞き直す。

「・・・どういうこと?」

「・・・それは」


キリトはゆっくりと話し出す。


「俺はーーー」


聞かされた事実には正直驚いた。俺はずっとキリトと妹の三人兄妹なのだと思っていた。だけど違った。キリトは母さんの姉・・・つまり俺と妹の伯母にあたる人の子供・・・即ちキリトは本来なら俺達の従兄なのだ。だが、キリトの両親はまだキリトが一歳に満たない内に事故で亡くなってしまった。奇跡的に一命を取り止めたキリトを母さんが引き取った。

「・・・何の偶然か俺と亮は年も誕生日も血液型も同じだった」

「だからこそ俺達は疑問を持たなかった・・・」

更に驚きなのはキリトはそれを十歳の頃、住基ネットの抹消記録に自力で気付き、母さん達に聞き出したらしい。

「・・・流石兄貴・・・」

「俺は・・・ずっと兄貴面して、お前やーーー」

「だから?」

「・・・!」

「俺にとっては兄貴は兄貴だし・・・きっと、直葉だって・・・」

直葉。それが妹の名前・・・しばらく口にしていなかった名前だから、まるで他人の名を呼ぶような感覚に捕らわれた。

「・・・兄貴が誰の子とかそんなの関係ないよ。それとも、兄貴は俺等の兄ってのは嫌か?」

「そ、そんな訳・・・」

「ならよし。これからもよろしく、兄貴」

「・・・ああ」



キリトが加入してから驚く位に月夜の黒猫団は急成長した。たったの一週間で狩場を一フロアあがり・・・更に少し経った頃には攻略組との差は五にまで縮まった。そして前からケイタが画策していたギルドホームの購入。それも現実に近付きづつあった・・・けど・・・



「だから、そこで踏み込まないと反って危ないんだってば」

「だ、だけど・・・」

「コウハ、サチにそんな責めるように言うなよ」

「・・・そう、だね。ごめん、サチ。・・・前線は怖いしな・・・」

「う、ううん・・・コウハは悪くないよ。悪いのは・・・」

そう、サチの戦闘スタイルの移行だけが上手くいかなかった。・・・でも、それは必然かもしれなかった。例えばホラー映画を見てる際、不意に幽霊など不気味なものが現れると驚くだろう。SAOはそこから更にその対象に近づき、恐怖をリアルに感じてしまう。・・・要するに、怖がりなサチはお世辞にも前衛に向いているとは思えなかった。そして周りが順調に進む中で何も進歩がないサチは、それだけで多大なプレッシャーを身に受け・・・ある日、宿屋からサチは姿を消した。

「僕達は迷宮区に急ぐよ!」

「俺は一応街中を捜してみる。・・・兄貴は?」

「・・・フィールドにも幾つかメンバーリストから居場所を追跡できない場所がある。俺はそこを捜してみるよ」

俺達はそれぞれ散らばり、走り出す。

「・・・索敵なら・・・」

ソロの時に使っていた索敵。だがまだ熟練度が低いそれでは、沢山の関係ない反応を拾ってしまって俺は索敵を諦める。

「くそ・・・!サチ、何処に・・・!」

その時だった。フィールドを捜すと言ったキリトがいたのだ。

「(兄貴・・・?)」


そのままキリトは歩いていき、街の外れにある水路に入っていく。

「どうしてこんな所に・・・」

入口まで近づいた時に、声が聞こえた。

「・・・ねえ、キリト。一緒にどっか逃げよ」

「(・・・サチ?)」


「逃げるって・・・何から」

「この街から。黒猫団のみんなから。モンスターから。・・・SAOから」

「それは・・・心中しようってこと?」

「・・・!」

俺は飛び出そうとしたが、飛び出したところで何か出来る訳でもないと思い、踏み止まる。


「・・・私、死ぬのが怖い。怖くて、この頃あんまり眠れないの」

・・・初めてサチと会った時、その目に浮かんでいた感情・・・それをようやく理解した。はじまりの街で皆を誘導した時に、特に子供達に共通していた感情・・・恐怖、不安、混乱。

「・・・」

それに気づかず、俺はサチに無理矢理戦えと強要していたのだ。

「(・・・畜生)」

俺はその場から立ち去る。

「・・・君は死なないよ」


そのキリトの声を背にしながら・・・






























































・・・その日から、俺はサチに対してよそよそしくなった。今までやっていた特訓も止め、普段もサチとは距離を置いた。・・・これじゃ、現実とも大差がないと理解していても、サチの前に立つと上手く言葉が出ず、結局黙ってしまう。・・・そして夜な夜な、眠れないサチがキリトの部屋に行っている事も知っていた。少なくともサチはキリトに心を開いている。・・・だから、キリトに任せておけばいいと思っていた。・・・そんなある日、遂に目標額に達したのでケイタがギルドホームを買いに行った時、テツオの提案で家具を揃える為に金稼ぎをすることになった。・・・そこで稼ぎがいい迷宮区・・・最前線から僅か三層下の場所に行くことになった。レベル的には安全だったので、瞬く間に十分な額を稼ぎ、帰ろうとした時・・・メンバーの一人が小部屋の中の宝箱を見つけた。

「へへ、ラッキーラッキー」

だが俺は嫌な予感がしていた。何と言うか・・・ただ宝箱を置くだけにしては、部屋が広すぎる気がしたのだ。

「なあ・・・別にいいんじゃないか?それ位」

「ああ?なんでだよコウハ。もしかしたらすっげぇお宝かもしんないじゃん?」


「俺も・・・何となく嫌な予感がする」

キリトも言うがシーフ役のメンバーは聞く耳持たずに宝箱を開ける。・・・その時だった。

ビーー!!ビーー!!

「・・・アラームトラップ!」

キリトが焦りながら言う。すぐに数個あった部屋の入口からモンスターが押し寄せてくる。


「嘘だろ・・・!!」

「転移結晶を使えっ!」

キリトの声に反応してメンバーは転移結晶を取り出すが・・・

「て・・・転移できない!」

「まさか・・・クリスタル無効エリア!?」

そこで俺達は全員パニックに陥った。悲鳴、そして破砕音。誰かが死んだ。

「うわああああ!!」

俺は半ば無意識に戦っていた。その視界の隅で、見たこともないソードスキルを乱発するキリトを見つける。

「くそっ・・・くそぉぉぉ!!」

モンスターが武器を振り上げる。

「ーーーホント、世話が焼けるわね」

ズバァン!

「えーーー」


モンスターが消し飛び、その背後には眼鏡をかけ、サーベルを片手に持った少女がいた。

「はぁぁぁっ!」

少女はみるみる内にモンスターを斬り倒していき・・・

「・・・魔神剣!」

衝撃波が未だ鳴り続ける宝箱を粉砕した。

「誰・・・だ?」

「余所見してんじゃないわよ!」

「あ・・・っ!」

迫り来るモンスターに対応出来ない。モンスターが槍を構え・・・

「ダメ、コウハ!」

・・・サチが俺とモンスターの間に割り込む。・・・その瞬間だった。

『・・・亮』

フラッシュバック。共に世界を駆け抜けた・・・黒髪の少女。

「明・・・命・・・」

彼女は自分を庇い・・・自らその命を散らした。

『・・・リョウ』

家族同然の紫髪の少女。自分達家族を助ける為に自らを犠牲にした。


「コウハ・・・」

そして今、また自分のせいで一人の命が消えそうになる。

「明命も・・・ソフィも・・・それで今度はサチか・・・?ふざけんな・・・届け・・・届けぇぇぇぇ!!」

俺は必死に手を伸ばす。そしてサチを無理矢理引き戻し、モンスターの槍を身を捻ってかわす。

「亮!受けとりなさい!」

少女・・・詠から投げられた手甲、葬解を受け取り、メニューから素早く装備を整え、葬解を装着する。

「呼びなさい!アンタが助けたアイツの名を!」


『亮さん・・・私を・・・!』

「・・・来い」

俺が呟くと葬解が輝きだす。

「来い!亞莎ェェェ!!」

光が放たれ、その光が人を形作り・・・

「呂子明、参ります!」


光より現れた亞莎の拳がモンスターを粉砕する。


「亮さん、下がっていてください!」

「今のアンタじゃ足手まといよ!」


俺はサチを守るように壁際に近寄る。・・・その僅か数分後には、大量にいたモンスターは姿を消していた・・・










「・・・亮さん!大丈夫ですか!?」

「・・・亞莎・・・」

「記憶、戻ったんですね」

「まだ頭の中ぐちゃぐちゃだけどね・・・けどどうやって・・・」

「この世界の傍観者さんと紫さんの力で、私達は“データ”として活動できるようになりました」

「ここのプログラムからしたら、ボク達はモンスターやNPCと大差ないのよ」

「そうなのか・・・ところで、どうして詠が・・・?」

「・・・咲に頼まれたのよ。アンタの監視をしろって」

「咲が・・・?」

「咲はゲームが始まって数週間で記憶を取り戻したわ。そのタイミングでボクは傍観者達の力でドロップアイテムの中に潜んだの。葬解も咲がドロップした物よ」

「・・・時間、掛かったんだな・・・」

「・・・ねぇ、コウハ・・・」

背後の声に振り替えると、サチがその場に座り込んでいた。

「みんなは・・・みんなはどうしたの・・・」

「・・・」

・・・ここにいるのは五人。つまりーーーー
俺の沈黙で察したのか、サチの肩が震える。

「どうして・・・どうしてなの・・・!なんで私だけ・・・酷いよ・・・こんなのないよ・・・!」

「サチ・・・まだ、まだケイタがいる。・・・立てる?」

サチは首を横に振る。俺は立ち上がり・・・キリトを見た。

「あ・・・コウ、ハ・・・」

「・・・先に行ってケイタに報せておいて、“キリト”」

「・・・あ、あぁ・・・」

キリトはこの場から逃げるように立ち去る。

「亞莎、詠、護衛頼めるか?」

「もちろんです」

「・・・断れるわけないでしょ」

サチが落ち着くのを待ってから俺達は街に戻る。

「ケイタは・・・」

「あ・・・あそこ」

サチが指差す方向を見ると、外周の近くでケイタとキリトを見つけた。・・・そして二人に近付いた時・・・ケイタの声が聞こえた。

「・・・ビーターのおまえが、僕達に関わる資格なんてなかったんだ」


そうケイタは言って外周の柵の上に上がる。

「ま、待てケイタ!全員が死んだ訳じゃ・・・」

「ケイタ・・・!」

サチが叫ぶ。・・・だが、その声は届かずに・・・

「ぁ・・・」



その姿が・・・消えた。

「・・・っ!」

俺はすぐに外周に駆け寄り、下を見るが・・・そこに、ケイタの姿はなかった。

「・・・俺がビーターだって話して・・・メンバーがトラップに掛かってしまったことを言った時に・・・」

キリトが俺の隣でそう言う。

「・・・嘘・・・ケイタ・・・?」

サチがその場に崩れ落ちてしまう。

「サチ・・・」

「飛び降り・・・死、死んじゃった・・・みんな・・・みんな・・・あ、あぁぁぁ・・・!」

サチは頭を抱え、何か呟き・・・

「嫌・・・嫌ァァァァァァァァッ!!!」

「・・・っ・・・」

耳を塞ぎたくなるような悲鳴。亞莎や詠がサチを落ち着かせようとした時・・・まるでスイッチを切ったかのようにサチの悲鳴が止まった。

「サ・・・チ?」

俺は恐る恐る近づき、話しかけるが反応がない。

「サチ?・・・サチ!サ・・・っ!?」

肩を揺らし、その勢いで首がガクンと上がり、目と目があい・・・絶句した。

「・・・」

「サ、チ・・・?」

「・・・」

死人の目。例えるなら人形のような・・・その瞳からは何の感情も読み取る事が出来なかった。

「おい・・・サチ、しっかりしろ。返事をしてくれ・・・なあ・・・」

「・・・」

「亮さん・・・」

俺は物分かりの悪い子供のように、しばらくの間、何度もサチの名を呼び続けた・・・











































「・・・一応、寝かせてきました」

宿屋にサチを運び込んだ亞莎が言う。

「・・・サチは?」

亞莎は首を横に振る。

「・・・あの目に、見覚えがあります。覚えていますか?亮さんが真似能力を酷使して、自らを失った時の事を・・・」

「・・・それって・・・サチの心は・・・“壊れた”ってことか?」

「・・・多分、そうです。目の前でお友達があんなことになってしまったんです。・・・それで耐えられる精神を持つ方はそういません」

「・・・ああ」

明命達が消えた時。俺も消えてしまいたいと思ったことがある。けど俺にはまだ蓮華や呉のみんながいた。けれどもサチは・・・部活仲間を、大切な友達が死ぬ場面を目の前で見てしまった。・・・普通の女の子がそれに耐えられる訳がないのだ。


「・・・りょ、亮・・・」

顔を上げるとキリトがそこにいた。俺はほぼ無意識に口を動かしていた。

「・・・嘘、ついてたんだな」

「・・・!」

「最初に聞いたよな?何か隠してないかって。それに見たんだよ。フィールドを捜しに行くって言ったキリトが水路に入っていくのを。多分、それなりに上級なスキルでサチを見つけたんだよね」

「そ、それは・・・」

「答えろよ・・・!」

「・・・」

俺から目を逸らしたキリトの胸ぐらを掴む。

「答えろって言ってるんだよ!」

「りょ、亮さん!止めてください!」

「うるさい・・・!黙ってろ!」

「っ・・・亮、さん・・・」


「どうなんだ・・・どうなんだよ!」

「・・・お前の言う通りだ・・・本当は俺は攻略組で・・・それに、あの区域の宝箱にはトラップが仕掛けられている確率が高いのも知っていた・・・」

「・・・っ!」

ガン!

気がつけば俺はキリトを殴っていた。犯罪防止コードが働く圏内なので、拳は途中で不可視の障壁に止められるが、多少の衝撃が抜けるのでキリトは少し仰け反る。

「知ってた・・・?知ってて宝箱を開けるのを止めなかったのかよ!?」

「止めようとした!けど・・・!」

「言い訳するな!この・・・この卑怯者!」

ガンッ!

「・・・っ!」

顔に衝撃が走り、キリトが殴ってきたのだと分かった。

「俺だって好きで黙ってた訳じゃない!!ただ・・・怖かったんだ・・・!彼らが俺をビーターと蔑むのを・・・」

「そんなの・・・分からなかったじゃないか!」

「分かりきってる!・・・現にケイタは俺を・・・!」

「そんなのずっと騙してたからだろうが!」

「じゃあお前なら言えたのか!?」

俺とキリトがお互いに殴りかかろうとした時・・・煌めく剣に吹き飛ばされた。

「がっ・・・」

「ぐっ・・・」

「・・・アンタら、騒ぎすぎよ。周りの迷惑も考えなさい」

どうやら詠が俺達を弾き飛ばしたようだった。

「・・・今更過ぎたことを言ってもしょうがないわよ。そんなことをしても死んだ人は帰ってこない。亮・・・アンタは一番それを知ってるんじゃないの?」

「・・・」

俺は黙り込んでしまう。・・・俺もそこまでキリトを責める気はなかった筈なのに・・・何故か口喧嘩に発展してしまった。



「亮さん・・・」

「あ・・・」

「それにアンタ、さっき亞莎に怒鳴ったでしょ。いくらなんでも最低よ」

・・・本当に、何をやってるんだ。

「・・・ごめん、亞莎・・・」

「い、いえ・・・気にしないで下さい」

「・・・とにかく、ボクは咲に報せなきゃならないし、帰るわよ。・・・それと、アンタがこの世界に来た理由を忘れないでよね」


詠はそう言って宿屋から出ていく。

「・・・」

「・・・」

後に残るのは気まずい沈黙。・・・そして、俺は口を開く。

「・・・キリト」

「・・・なんだ?」
遂に俺はキリトととも目を合わせずに口にした。

「・・・効率のいい狩場・・・知ってる?」


「・・・っ」


今、やらなきゃいけない事。それは・・・強くなること。今のレベルでは誰かを助けるなんて夢のまた夢。・・・その日から、俺はあり得ないレベル上げに身を投じることになった・・・

















































































































ーーーーそれから更に数ヶ月が経過して、現在ニ〇ニ三年、十二月。

「ウオオオオオッ!!」

「はあああああっ!!」

俺とキリトは大型の昆虫モンスターのHPをゼロにする。

「ふっ!」

曲刀・・・“擬音”を上段に構え・・・振り抜く《アクセルスラッシュ》を使用し、その隙を埋めるように体術スキル《月閃》を使い、回し蹴りを放つ。・・・この組み合わせはこの世界の出身であろうリョウコウの真似・・・ソードスキルから体術スキルで隙を無くす方法はこちらでも使用可能だった。お互いに体制が整う前にメニューを開きショートカットを選択、僅かコンマ数秒で装備変更を終えて背負った長刀・・・“迷切”を鞘から引き抜く。

「せやああっ!」

突進型ソードスキル《飛龍翔》で数体のモンスターをまとめて刺し貫く。

「コウハ、次に離脱だ」

「・・・ああ」

一段落ついた時に俺達はその場から撤退する。

「・・・レベル・・・上がったか」

俺は自身のステータスを見てそう呟く。ここは現在、最も経験値を稼ぐのに最適な場所。攻撃力はあるが、HPと防御が低い上に大量に出現するので、高威力のソードスキルを持っていれば大量に経験値が稼げる。


「・・・あと少しか・・・キリト、俺はまた行くからな」

「あ・・・コウハ・・・」

「・・・何だよ」

「・・・いや・・・何でも、ない」

キリトとはあれから気まずくなる一方だった。今回一緒なのは偶々狩場が重なり、一人づつやると時間がかかるので、二人がかりでやる事になった。パーティーは組んでないので、自分が倒した分の経験値はそのまま入る。

「・・・よっ、亮。・・・いや、今はコウハか」

「サキか・・・」

キリトと別れた直後に男・・・サキが現れた。

「随分と熱心なレベル上げだな。・・・何日寝てない?」

「・・・今日で三日になるな」

それを聞いてサキが溜め息を吐く。

「・・・この世界は今までと違う。俺達は今まで意地や根性で死地を潜り抜けてきた。普通なら動けなくなる傷を受けようと立ち上がってきた。・・・けどこの世界じゃそれは通用しない。一度でも体力がゼロになれば死ぬだけしか・・・」

「命がけなのは今までと変わらないだろ。いいから並ばないなら退けよ、邪魔だから」

「・・・ったく、普段突っ走る時の俺はこんな感じなんかねぇ」

『近いものがあるッスね』

「・・・なんか泣けるな。つかコウハ・・・お前がそこまでレベル上げに拘るのは・・・“背教者ニコラス”か?」

「っ!」

俺が僅かに反応したのを確認したサキは続けて言う。

「・・・死者蘇生アイテム。・・・けど、そんなのこのゲームが普通のお遊びだった時の名残だろ。今は死んだら数十秒で脳が焼ききられて死ぬ・・・だろ?」

「・・・そんなの分からないだろ。少なくとも、それを確認した奴はいない」

「・・・お前、そこまでバカだとは思わなかったぜ。死者は帰って来るわけが・・・」

「うるせぇよ。お前に何が分かる。また・・・また目の前で助けられなかったんだぞ・・・!?」

「だからってそれを後悔してたら何にもならないだろって言ってんだよ」

「・・・ちっ・・・お前と話すだけ時間の無駄だ。さっさとそこを退け」

「おい・・・!」

サキが俺の前に立ち塞がる。

「悪いけどな、亞莎から無理させんなって頼まれてんだ。意地でも通さねぇぜ」

・・・亞莎にはサチを看てもらっている。・・・なるほど、ここにサキがいるのは亞莎の差し金か。


「コウハ・・・もう自分を責めるなよ。あのギルドが全滅したのだってお前が悪い訳じゃ・・・」


「いや、本来なら俺は彼処にいない筈なんだ。俺がこの世界に来たから・・・」

「・・・あのなあ・・・!」

「・・・やる気が失せた。・・・今日は帰る」


「おい、コウハ!・・・亮!」




サキの言葉に耳を傾けずにただ歩き続ける。・・・クリスマスに現れるフラグMob“背教者ニコラス”そいつを倒せばプレイヤー蘇生アイテムが手に入るという情報を耳にした俺はひたすらレベル上げに挑んだ。せめて黒猫団の誰かを蘇生させればサチもきっと・・・・・・そして遂にその日がやって来た。俺は深紅のコートを羽織り、耐久値をフル回復させた擬音や迷切を背負い、葬解を拳に填める。



「・・・行こう」

多数の情報屋から集めた情報、自らの足で得た情報。それらを目安に俺はあるフィールドに来たが・・・

「・・・どうやら、正解みたいだな」

「コウハ・・・」

先客がいた。キリトだ。

「どうせ目的は同じだろ?・・・サンタクロースさんのプレゼント狙い・・・でしょ」


「・・・ああ。せめてサチのために誰か一人だけでも・・・」

「・・・まった。・・・誰だ!」

俺が振り向いた先に現れた集団は、十人位。先頭の男は侍のような装備を身に付け、バンダナを巻いていた。

「・・・尾けてたのか、クライン」

クライン。それはキリトがゲーム開始初日に会った人物。それくらいしか知らないが、人目でお人好しであるだろうと分かる。

「まあな。追跡スキルの達人がいるんでな」

クラインは必死にキリトを止めようと話している。俺はそれを無視して進もうとするが・・・不意に新たな集団が現れた。数はざっと見て三十位。

「お前らも尾けられたな、クライン」

「・・・ああ、そうみてェだな・・・」

クラインの隣にいた男が囁く。

「あいつら、《聖竜連合》っす。フラグボスのためなら一時的オレンジ化も辞さない連中っすよ」



・・・オレンジとは、俺達プレイヤーには頭上にプレイヤーであることを示すカーソルがあり、普段はグリーンだが、圏外でプレイヤーを攻撃したり、犯罪行為を行うとカーソルの色が犯罪者を示すオレンジになる。・・・これは厄介だな・・・そう思った時だった。

「いやぁ~、随分沢山いるなぁ」

拍手が聞こえ、生い茂る木の上から誰かが降りてくる。

「・・・!そのボロボロの黒マント・・・!貴様“漆黒”か!」

「し、漆黒・・・」

「あの死神とも言われてる・・・」

「一部じゃプレイヤーじゃない少女を使う死霊使いとも・・・」

聖竜連合のメンバーのその言葉を聞いて男・・・サキは笑う。

「はっ、漆黒や死神は知ってたけど死霊使いなんてな。まさかジェイドと同じ二つ名か・・・」


サキは方天画戟を振り回し、構える。

「最近色々あって鬱憤が溜まっててな。ほら、誰でもいいから俺にデュエル申請しな。もしくはそのまま来てもいいぜ。こっちも一時オレンジになっても構わないんでな」

「サキ・・・どうして」

サキが俺を見て溜め息を吐く。

「・・・なんつーか。止めろって言われてお前が大人しく止める訳ないって思ってな・・・だから」

サキが聖竜連合を見据える。

「好きなようにやってこい。腐れ縁って事でフォローしてやるよ」

「サキ・・・」


「行けッ、キリト!ここはオレらが食い止める!お前は行ってボスを倒せ!だがなぁ、死ぬなよ手前ェ!オレの前で死んだら許さねェぞ、ぜってぇ許さねェぞ!!」

「「・・・っ!」」

俺達は積もっている雪を蹴り、走り出す。そして・・・












































「・・・ここか」

目の前には巨大なモミの木があった。そして時計が零時になった時・・・鈴の音と共に何かが降ってくる。

「・・・!」

・・・正直、サンタと言うかサタンだった。腕は長いわ前傾姿勢だわ目が赤く輝いているわ・・・しかも頭陀袋に斧と・・・俺とキリトは武器に手をかける。

「メリークリスマス。さあ、プレゼントを寄越しな!」

ニコラスは何かを口にしようとするが・・・

「うるせえよ」

キリトがそれを遮り、駆け出す。・・・さあ、行くぜ・・・










































































































「・・・キリト・・・生きてるか?」

「ああ・・・なんとかな・・・」

どれぐらい時間が経過したか解らないが、とにかく俺達はニコラスを倒した。俺もキリトもHPは危険域に突入していた。


「・・・あった」

アイテム欄にあったのは・・・《還魂の聖晶石》・・・これだ。だが、そのアイテムの解説を見て・・・俺は唖然とした。

「『このアイテムのポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいは手に保持して』・・・っ!消滅するまでの間・・・およそ十秒間・・・!?」

「なん・・・だって・・・?」

「なんだよ・・・畜生、畜生ぉぉぉぉ!うわぁぁぁぁぁ!!」

・・・しばらく俺も・・・キリトも叫んでたと思う。・・・冷静になった時、俺達はお互いに仰向けで空を見ていた。

「・・・なあ・・・キリト・・・」

「・・・ああ・・・」

「・・・ごめん」

「え・・・」

「何かさ・・・思い詰めてたモノが亡くなったって言うか・・・ただ謝りたかったんだ。キリトが俺達を助けてくれたのは事実だし、俺も多少の仲違いを覚悟してキリトを問い詰めてれば、キリトだって正直に話してただろ?」

「だからってコウハが・・・亮が悪いんじゃない。悪いのは・・・」

「そう。俺達は互いに自分が悪いって思ってる。だからあの時に謝れば俺はキリト・・・兄貴とこんなにすれ違わずに済んだんだ。だけど喧嘩になったのは・・・意地があったんだろうな」

「意地・・・?」

「何て言うか・・・兄弟だから素直に謝れなかったって言うか・・・兄弟だからこそ苛立ちをぶつけちゃったって言うか・・・」

「・・・そうかもな。俺もそうだったのかもしれない。だから・・・」

「兄貴」

「・・・どうした?」

「・・・やっぱり、死んだら二度と蘇らないんだよね・・・」

「っ・・・!」

「だから・・・だからこそ、せめて生きているサチを現実に帰したい」

「亮・・・」

「だけど・・・俺一人じゃ・・・無理みたいだ。兄貴・・・いや、和人・・・協力、してくれる?」

久し振りに・・・俺はキリトと目を合わした。キリトは俺と目を合わせたことを驚き・・・答えた。

「ああ・・・それが俺の唯一出来る罪滅ぼし・・・だな」


俺達はサキ達がいる場所に戻ってくる。

「コウハ・・・色々解決したか?」

サキが俺に聞いてくる。

「まあ・・・今のところは・・・な」

サキはキリトを見て・・・すぐに目を逸らす。

「・・・ま、何かあったら言えよ。あと忘れてたけど・・・」

サキがメニューを開き、操作すると目の前にフレンド申請が現れる。

「最近のお前、近づき難かったし、機会も逃しまくってたからなぁ」

『まるでキレた咲さんみたいッスよね』

『確かにそうよねぇ』

「・・・またそれを言うか・・・」

俺は・・・久々に笑った。

「は・・・ははは!ああ・・・改めてこれからよろしく、親友」

「おうよ、相棒一号」

「一号?」

「二号はリパルさ」

『光栄ッス!』


フレンド登録している傍らで、キリトは渡しておいた結晶をクラインに渡していた。


「じゃあ・・・亞莎にも謝んなきゃだし、帰るよ」

「ああ・・・なあ、コウハ・・・死ぬなよ」

「お前もな、サキ」

俺は進む。俺がやる事は皆を捜すこと・・・そして、

「必ず・・・」

サチを現実世界へと帰還させること。一歩歩く度に聞こえる擬音にくくりつけられた鈴の音がやけに耳に響いた・・・

 
 

 
後書き

「・・・」


「なんつーか、一応原作ブレイクなんだが・・・」


「・・・本当に余計な存在だよな、俺」


「あのな、少なくともお前の両親はお前が生まれて喜んだに決まってるだろ」


「うん・・・」


「それじゃ、次回もよろしく」

 
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