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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  サスケ

 テマリとカンクロウ、バキは必死で我愛羅を探していた。
 予定よりずっと早くに行われた木ノ葉崩し、気づけば我愛羅は姿を消していた。

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 溢れ出てきた砂に、サスケは後ろに飛んで距離を取った。我愛羅の攻撃に於いて最も厄介なのがこの砂だというのは、マナやリーと我愛羅の戦闘を見ていなくてもわかるし、カカシも修行をつけてくれる際、この厄介な砂について言及していた。用心するに越したことはないだろう。
 そう思っていた矢先、突然我愛羅が頭を抑えて苦しみだした。ぶつぶつと漏れた声は我愛羅のものとは思えぬほどに異様だった。

「そんなに、怒らないでよぉ……母さん」

 ――何言ってやがる、こいつ……!?
 そんなに怒るな? 母さん? 何を言っているんだこいつは。サスケは我愛羅の母でもないし、敵であるというだけで別に怒っているわけではない。そしてここに怒っている我愛羅の母の姿なども見当たらない。異様な笑みを浮かべて、彼はその「母さん」に、言い訳をした。

「さっきは……さっきはあ、悪い血を吸わせたね……ごめんよぉ……でも、今度はきっと……オイシイカラ」

 悪い血?
 言われてみれば確かに我愛羅の服には返り血が跳ね返り、血の鉄っぽい臭いがしていた。自分と会う前にも誰か殺していたのだろうか。
 我愛羅が一層苦しそうに呻き、あふれ出しかけていた砂がばしゃりと地面に落ちた。はあはあと荒い呼吸を繰り返しながら我愛羅が再びサスケに視線を据える。
 その顔は普段の我愛羅だった。さっきまで「母さん」に向かって言い訳をし、異様な笑顔を浮かべていた我愛羅とは大きくかけはなれた普段の我愛羅。

「……来い……!」

 地面に落ちた砂が再び舞い上がり、ざわざわと騒音を立てた。
 サスケが訝っていたのは、一瞬だ。

「行くぞ……!」

 ホルスターから手裏剣を取り出し、投擲。我愛羅の砂がそれを掴み、大量の砂で一つの分身体を作り上げた。砂色の肌をした砂分身を見据え、サスケが走り出す。砂分身の体が内側から崩れ、砂の塊がサスケに向かって噴射した。
 それをすんでのところで回避したサスケは、砂分身の投擲した手裏剣を同じく手裏剣を投擲することで弾き、上空から勢いをつけて蹴りを飛ばす。ぐしゃりと砂分身の腕が崩れた。素早く体勢を整えて首に拳を打ち込むが、砂分身の喉が分解して逆にサスケの手首を掴んだ。もう片方の腕でその体に思い切り拳を叩きつけ、砂分身を跡形もなく分散させる。
 拳を振り上げ、我愛羅との距離を一気に詰める。砂の盾がその前に立ちふさがった――
 ――が。
 次の瞬間、砂の盾の前にサスケの姿はなかった。

「!?」

 気配を感じて振り向くと、自分の背後にサスケの姿。
 ――速い。こいつアイツと……!
 病院で乱闘を繰り広げたリーの姿が脳裏に移る。砂の盾すら追いつけない深緑の閃光が、脳裏に再現される。攻撃をすんでのところで止め、我愛羅を翻弄し、そして我愛羅が追いつけない内に苛烈な一撃を叩き落す。そんな彼の攻撃方式と、今のサスケの動きはよく似ていた。
 我愛羅の頬にサスケの拳が命中し、砂の鎧に皹が入った。吹っ飛ぶ我愛羅の視界で、サスケの姿がリーと重なる。砂が受け止めてくれたおかげでダメージは軽減出来たが、しかし心に受けた衝撃は大きかった。
 あのリーという男が錘を下す前とほぼ同じ速さ、そして彼と同じ体術のイメージ。その姿を睨み付ければ、端正な顔立ちの少年が挑発的に笑った。

「それが砂の鎧か? ――来い」

 ロック・リーと、同じ構えを取りながら。

「――来ないなら、こちらから行くッッ!!」

 猛スピードで一直線にこちらを駆けてくるその姿が風を巻き上げて視界から消えた。砂の盾で攻撃を防ごうとするが、サスケは更に速かった。我愛羅の後ろに回りこみ、己を捕まえようとする砂の間を掻い潜り、蹴りを食らわす。吹っ飛んだ我愛羅の体が地面を抉る。

「どーしたよ? そんなもんか?」

 小ばかにした笑み。それはサクラやいのと言った数々の少女たちを魅了してしまったのも無理はないというくらいに魅力的であった。
 我愛羅が這い上がる。猛然と走り出しながら、彼は言った。

「その鎧、剥ぎ取ってやる」

 ぐるぐると我愛羅の周りを駆ける。砂塵が巻き上がり、対する我愛羅も砂を空中に浮き上がらせた。砂の下を掻い潜り、素早い動きで蹴りを食らわし、その衣服を掴んでこちらに引き寄せ、その腹に膝蹴りを食らわす。

「ぐっ……!」

 そのスピードは錘を外したリーとほぼ同等だった。
 けれどリーは常時から錘をつけていて、そして錘をつけていながらも驚異的なスピードを持ち合わせており、しかしサスケの方は普段から錘をつけているわけではない――それ故これまでのスピードを出して戦うのは、体への負担が余りに大きかった。はあはあと荒い呼吸を繰り返すサスケを、睨み返す我愛羅の呼吸もまた荒く、双方共にダメージは受けているようだった。
 写輪眼のコピー忍術。たった数週間でリーの体術を使えるようになったのはそのお陰だ。しかも、上手くいった。我愛羅にはかなりのダメージを与えることが出来たらしい。それに自分にはまだ切り札が残っていると、サスケは自分の左腕を掴んだ。

「……!?」

 ずっと静止したまま動かなかった我愛羅が、不意に印を組み合わせた。我愛羅を中心に、砂が球体を築いていく。サスケは走り出し、我愛羅の未だ砂に覆われていない僅かな部分を狙って拳を突き出す。が、それと同時に砂がそとに向かって尖った矛先を向けてきた。なんとかかわしたはいいものの、目元の下に攻撃を受けてしまった。血がつうっと頬を流れていく。目を潰されたわけではなかったのが救いだ。

「砂をすべてガードに回しやがったか……!!」

 砂とは思えない硬さの砂にぶつけた拳や足からも血が滴り落ちた。痛いし、先ほどのあの体術で体にかけた負担はかなりのもの。疲れてはいたが、このままでは引き下がれない。
 我愛羅はこうやって篭城し、サスケが近づいてきたら砂の槍でサスケを突くつもりなのである。ならばこちらにも考えがあるぞとばかりに、サスケは写輪眼を開眼した。

「砂の密度をしめて、これまで硬度を高めるとはな……!」

 砂が渦巻き、空中に砂によって構成された眼球が浮かぶ。視神経は繋がっている、我愛羅の第三の目だ。この目によって我愛羅は外界の状況を知ることが出来るのだ。
 砂の球体と向かい合いながら、サスケは一言、呟く。

「絶対防御ってやつか……!」

 森の中は至って静謐だった。
 まるでそこには、サスケと我愛羅以外誰もいない、とでも言うように。
 
 

 
後書き
サスケVS我愛羅戦。森の中で行われております。 
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