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とある3人のデート・ア・ライブ

作者:火雪
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第七章 歌姫
  第2話 ディーヴァ

〈ディーヴァ〉

半年前ほどに一度だけ出現が確認された精霊。

一応データベースに存在は記録されているものの、詳しい情報はほとんど無いに等しい。

士道と佐天が降り立ったのは、天宮市の西部に位置する立浪前の広場だった。

琴里『無事現場に着いたみたいね』

佐天「っていうか、私っている意味あります?」

琴里『そう言わないで頂戴。士道がおっちょこちょいの上に当麻くんは家で夕飯作ってくれてるんだから。一人で行かせるわけにはいかないし……』

士道「おっちょこちょいって……」

琴里と呑気に話していたが、佐天と士道は目の前の災害にすぐに唇を引き締める。

空間震。

世界を、人類を、蝕む突破性災害。

それを引き起こすのがーー





ーー精霊。





佐天「(うわ……なんか足元悪いなぁ……)」

そこにはライブで使われたような写真つきのうちわやチラシなどが散乱していた。

士道と佐天が慎重に足を進めている、



その時だった。





歌が、聞こえてきたのは。




士道「あれは……?」

アリーナの中央。せり上がった舞台のそこには幾つものスポットライトが照らされ、光に溢れている。

その、真ん中に。

光の粒子で構成されたような衣を纏った少女がそこに立っていた。

どうやらこちらに気づいていないらしい。

冷や汗をかきながらごくりと唾液を飲み込み、再び慎重に足を動かした瞬間、

床に放置された空き缶を蹴飛ばしてしまった。

少女も、その音に気づいたのか、不意に歌声を止める。

「ーーあらー?」

琴里『馬鹿、何やってんの』

士道「すまん、足元が暗くて……」

佐天「本当におっちょこちょいですね……」

佐天が苦笑いしたとほぼ同時に、舞台上の少女が言葉を継いできた。

「お客さんがいたんですかぁ?誰もいないと思ってましたよ」

のんびりした声がそのアリーナの中を響かせる。

佐天「じゃ、士道さん。任せました」

佐天がポンと士道の肩を叩き、「えっ?」という顔を思わずしつつも士道は前に進んだ。

琴里いわく選択肢が出たらしいので、脳内でシミュレーションしつつ舞台の上に乗る。

どうやら少女も背後から響いた音に気づいたらしい。ゆっくりと振り向いてくる。

「あぁ、わざわざ上がってきてくれたんですかぁ?こんばんは、私はーー」

と、にこやかな笑みを浮かべながら身体を回転させた精霊は、士道の姿を目にすると同時にピタリと、身体の動作を止めた。

士道は一瞬疑問に思いつつも無言の状態を続けるわけにはいかないので、口を開いた。

士道「やぁこんばんわ。盗み聴きするつもりはなかったんだがーー」

言葉の途中で、インカムの先からビーッ!ビーッ!という警告音が響き渡った。

琴里『こ、これは……好感度、機嫌、精神状態ーーあらゆるパラメーターが急下落しているわ!士道、あんた何かしたの!?』

士道「な、何もしてねぇよ!」

そして、その刹那。






《わッ!!!》






少女が凄まじい声を出したと思うと、自分の身体はステージに叩きつかれ、舞台から落ちる寸前でステージの縁にしがみつく。

士道「ひ、ひぇ……」

下をチラッと見ると案外存外高く、落ちれば複雑骨折は免れないだろう。

そして、彼女は士道の目の前までくると女神のように穏やかな笑みを浮かべて、言った。

「え?何で落ちないんですがぁ?何でしがみついてるんですかぁ?何で死なないんですかぁ?可及的速やかにこのステージからこの世界からこの確率時空から消え去ってくださいよぉ」

士道「……へ?」

こちらから見える彼女の表情とは裏腹に、士道に言ってきたのは他の何でもない罵倒だった。

士道がもう一度聞こうとした時、

佐天「しどーさーん!大丈夫ですかー?」

下方から、一緒にここまで来た佐天の声が聞こえた。

士道「い、一応だいーー」

だが。

彼女の言葉に反応したのは士道だけではなかった。

「あらぁ?今の可愛らしい声は誰ですかぁ?恥ずかしがらないで出てきてくださいよぉ」

歌姫が周りを探すように見渡しながら声を上げた。

先ほどの穏やかな笑みとほぼ変わらないような気がするが、今の方がどこか自然で、本当に心の底からの笑顔のような気がした。

佐天「えっと……」

琴里『……涙子、ステージの上に上がってちょうだい。これはもしかしたら……』

佐天はインカムから聞こえる琴里の指示に従い、能力を使ってふわっと舞台の上に降り立つ。

顔をこちらに向けた歌姫は佐天のことを一瞬凝視すると、すぐにパッと表情に輝きが増して、佐天の手を取った。

「あなた、お名前は何て言うんですかぁ?」

佐天「え……佐天、涙子ですけど……」

美九「わぁ!いいお名前ですねぇ!私は『誘宵美九』。これからよろしくお願いしますね、涙子さん」

士道「(あの人が……殿町が言っていた……)」

佐天「え?あ、はい……よろしく、お願いします……?」

クラスメイトの言葉を思い出している士道と美九の突然のアタックに困惑している佐天だった。



明らかに。

士道と佐天の時で態度が違う。

美九「涙子さん、私の歌声聞きませんかぁ?」

佐天「……さっき聞いたような……」

目線を合わせられない。

否、合わせてはいけないような気がしてならなかった。

と。

微かな振動があった。

佐天「へ?」

美九「あらぁ?」

士道「まさか……」

上を見やると、

天井が、開いていた。

それと同時に巨大な照明器具がバラバラと落ちる。

士道「AST……!」

そう強く呟くと同時にAST隊員が次々と降下していき、美九へと遅いかかる。

琴里『仕方がないわ。一旦撤退するわよ!』

『了解!』

佐天と士道の声が重なり、佐天は士道を無理やり引きずりあげる。

折紙は美九と交戦しているようだったが、美九はどこか楽しんでいるように見える。

その時だった。




佐天と士道の方へ誰かが襲うように向かってきたのは。

赤毛の女が士道と佐天に肉薄する寸前で、士道と佐天の前に折紙が現れた。

折紙のレーザーブレイドと女の武器がぶつかり合い、激しく火花を散らす。

ジェシカ「あらラ?一体なんの真似?」

折紙「それはこちらのセリフ。彼は精霊ではない。一体何をしようとしていたの?」

ジェシカ「上官命令でス。そこを退きなさイ」

折紙「了承しかねる。納得のいく説明を」

ジェシカ「わからない人ねェ」

再び女が武器を振り上げ、折紙も応戦するようにレーザーブレイドを振るう。



その時だった。

それは、コンマ一秒でもズレればできなかっただろう。

ジェシカが折紙に視線が集中している時に、士道の手に紙らしきものが握られたのは。

士道「ーーーッ!?」





誰かは分からなかった。振り返る暇さえくれなかった。



なぜなら、




気づけば、佐天と一緒に艦体の中へと戻っていたのだから。










 
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