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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二十五話 最後の人その六

「本当にね」
「寂しかったの」
「ううん、寂しいと思うことは」
 それはだった、その時のことを思い出しつつ言うことは。
「なかったよ」
「そうだったの」
「だって。いきなりアパートの管理人になって」
 親父がイタリアに行って家が他の人に渡ってだ、それから畑中さんと一緒に八条荘に入ってからだったからだ。
「あっという間に色々起こって」
「そういうことが思う間もなくて」
「うん、だからね」
 それでだった。
「寂しいとかね」
「思わなかったのね」
「そういうこと思う間もなくて」
 それでだった。
「詩織さん達が次々に来て」
「そうなっていって」
「もう寂しいなんて思わなかったことないよ」
「それはいいことね」
「そういえば」
 ここでだ、僕はまた気付いた。その気付いたことはというと。
「これまでね、寂しいと思ったことは」
「ないのね」
「親父と一緒にいたらね」
 あの親父だからだった、全ては。
「寂しいと思うことないよ」
「賑やかな人だから」
「家にいなかったらほっとして」
 いればいればで騒がしくてだ。
「思うことなかったよ」
「寂しいとかは」
「うん、そういえばないよ」
「寂しいって思うことがないとね」
「それっていいことだよね」
「うん、寂しいことは辛いから」
 ふとだ、詩織さんはここで上を見上げた。お昼の空は青くて何処までも澄んでいた。今日は快晴で雲一つなかった。
 その中でだ、こう僕に言ってくれた。
「その辛いことがないだけでね」
「有り難いよね」
「お母さんがお家にいない時って」
 どうしてもだ、僕は言った。
「あの時はね」
「寂しくて」
「一人で泣いたこともあったから」
 そうしたことがあったからだというのだ。
「私寂しいことをわかってるつもりなの」
「だからだね」
「そう、だからね」
「寂しくないことはそれだけでいい」
「そうなのよ」
「そうだね、僕はいつも寂しいって思ったことないから」
 孤独ともいう言葉とも無援だった、学校ではいつも皆いてくれていた。それでそのこともわかっていてそれでだった。
 詩織さんは僕にだ、こうも話してくれた。
「これからはね」
「うん、八条荘でね」
「寂しい思いとかしない様にね」
「やっていきたいね」
「私寂しいことは嫌だから」
 実際にこうだ、詩織さんは言った。
「いつも賑やかでいたいから」
「そういえば詩織さん時々他の人お部屋に入れてない?」
「ええ、よくね」
 時々どころかという返事だった。
「一緒にベッドで寝たりしてるわ」
「そうなんだ」
「私が他の娘のお部屋に行ったり」
 そうしたこともあるというのだ。
「そうしてるの」
「やっぱり寂しいから」
「そうなの」
 だからだというのだ。 
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