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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二十三話 マレーシアという国その十四

「何かと」
「それは義和様にです」
「僕に食べさせる為に」
「そうです」
「そうだったんですね」
「勿論ご自身もです」
 親父本人もとだ、奥さんはこうも話してくれた。
「ご健康の為に」
「はい、あれで親父健康嗜好ですから」
 あれだけお酒飲んで遊んでばかりでもだ、あの親父は。
「そういうの勉強してますね」
「それで、です」
「僕にもですか」
「作ったりされていました」
「そういうことも見てですか」
「私は止様を立派な方だと考えています」 
 僕に微笑みを向けて話してくれた。
「あくまで私個人の考えですが」
「わかりました」
「少なくとも邪悪な方ではないですね」
「あっ、違います」
 親父が邪悪かというとだ、僕は即座に否定した。
 そのうえでだ、奥さんにこう言った。
「親父は破天荒ですけれど悪人じゃないです」
「そうですね」
「下半身がちょっとあれなだけです」
 それでも人妻さんと幼女には手を出さない。もっといえば仲のいい彼氏がいる女の人に対してもである。
「それで飲んで遊んで、だけで」
「その二つだけですね」
「はい、しかし」
 それでもだった、親父は。
「邪悪じゃないです」
「決して悪人じゃないですね」
「人の道はです」
 それこそだ。
「あぜ道とかどぶ道歩いてますけれど」
「踏み外しておられませんね」
「そうです」
 それが親父だ。
「そうしたことはありません」
「そのうえでいつも義和様を気にかけておられるのですから」
「悪人じゃないんですね」
「私はそう思います」
「成程、そういうことですね」
 僕は奥さんの言葉にあらためて頷いた。
「じゃあまあ。最低じゃないだけ」
「いいと仰いますか」
「うちの親父褒めると調子に乗るんですよ」
 もうそれこそすぐにだ。
「だから褒めません」
「そうですか」
「調子乗ってすぐにキャバレーとかでどんちゃん騒ぎですから」
「それもご愛嬌ですよ」
「愛嬌ですか」
「それで済んでいるのならいいです」
 キャバレーで、というのだ。
「中にはとんでもない遊びをされる方がいますから」
「薬とかですね」
「あれは絶対にです」
 奥さんもこのことについては真顔だった。
「いけません」
「そうですね、自分が破滅しますから」
「ヒロポンは特に?」
「ヒロポンですか」
 僕もこの名前は聞いている、けれどそれは昭和の前期の文学作品からだ。それでこう奥さんに返した怪訝な顔になって。
「また古いですね」
「古いですか」
「昔は煙草屋さんで売ってたんですよね」
「そうです、そして」
 そのうえでとだ、奥さんはさらに話してくれた。
「作家の織田作之助さんも打っておられました」
「ヒロポンをですね」
「あの方は結核だったので」
 それも終戦直後はかなり進行していたらしい、そう聞いている。
「もうヒロポンを打ってです」
「気付けをしなかったら、だったんですね」
「もう書けませんでした」
「そこまで大変な状況だったんですね」
「お若い頃からの結核が末期になっていました」
 その終戦直後にはだ。
「それで僅か三十四歳で亡くなる時まで書いておられましたが」
「その間ですね」
「ずっとヒロポンを使っていました」
「それがヒロポンですよね」
「今は覚醒剤といいます」
「えっ、覚醒剤って」
 その名前だけでだ、僕は思わず剣呑な顔になった。それこそ覚醒剤といえばだ。 
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