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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二十三話 マレーシアという国その十三

「その様なことは良識ある人は言いません」
「そういうものですか」
「では義和様は他の方のご自身を尊敬しろと仰ることが出来ますか」
「そう言われますと」
 僕もだった、そうしたことは。
「恥ずかしいです」
「そうですね」
「僕は立派な人間じゃないです」 
 とてもだ、そんなことはない。
「駄目な人間ですよ」
「そのご自覚がおありですね」
「いい加減ですし怠け者ですし馬鹿なこともやるし」
「そうした要素を幾つも持っておられますね」
「そう思っています」
「ご自身の悪い点を認識していれば」
 そうした言葉は、と言う奥さんだった。
「とても言えません」
「じゃあ尊敬するなっていうことは」
「ご自身の短所をご存知なのです」
「親父もそうなんですね」
「はい、そうです」
「だからですか」
「尊敬するなと仰ったのです」
 実の息子である僕をだ。
「そうした方ですから」
「だからですか」
「はい、そうです」
 それで、というのだ。
「止様はです」
「その分だけでもですか」
「立派な方です」
「そうなんですね」
「それに義和様は怨みや憎しみの感情が薄いですね」
「そう言われてみれば」
 はっとした、今みたいな指摘は生まれてはじめて言われた。けれど言われてみれば実際にその通りだった。
「妬んだりとかも」
「ありませんね」
「好き嫌いはありますけれど」
「止様にそのことについて言われたことは」
「子供の頃言われました」
 このこともだ、僕はここで思い出して奥さんに答えた。
「人を怨むな、憎むな妬むなと」
「強くですね」
「言われました、そうしたことは何にもならないと」
「そうです、憎んでもです」
「何にもならないですね」
「それどころか。あまりにも強い憎しみは」
 それが己の中で強くなっていくと、とだ。奥さんは僕に真剣な顔で話してくれた。
「自分自身を滅ぼします」
「そうなってしまうんですね」
「憎しみに心を囚われれば」
「つまりそれは」
 違うと思ったけれどこの言葉が自然に出た。
「人を呪えばですね」
「はい、穴二つです」
「そういうことなんですね」
「憎しみは最悪の墓穴です」
「怨みや妬みもですね」
「そうです」
「親父はそれもないです」
 自分では嫌なことはすぐに忘れる主義だといつも笑って言っている、そうした言葉を言う時はいつもお酒を飲みつつ明るく笑っている。
「そうしたことも」
「そうですね、ですから」
「だからですか」
「止様はそのことをご存知で。しかも義和様に教えて下さいました」
「その分だけ違いますか」
「はい、それに」
 ここでだ、奥さんは僕にこんなことを話してくれた。
「止様はよく健康について調べておられまして」
「そういえば健康食とか好きですね」
 野菜をとにかく料理に使う、僕にも新鮮な果物をよく土産に買って来てくれた。 
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