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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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SEED編 旅立ち

 
前書き
久しぶりです、就活中に何とか一話出来たので投稿。
サバタ、ミッドチルダに立つ回 

 
「それでは、なのはVSヴィータ、模擬戦開始!」

はやてが号令をかけ、上空で凄まじい勢いで衝突する両者。シャマルが張った結界の中で、彼女達はたゆまぬ研鑽に明け暮れていた。
そもそもこの模擬戦を行った理由はある日、「もっと強くなりたい」となのはが言った事から始まる。闇の書が覚醒して、俺が内部でナハトと戦っていた影響でヴォルケンリッターが暴走し、なのはが彼女達の相手をしていたのだが、際どい所で相討ちに終わった結果から、なのはは更なる強さを身に付けようと実戦経験を積みたいと頼んできたのだ。
それで彼女の相手には本人が志願した事もあって、ヴィータが務める事になった。ヴィータもヴィータで、暴走した自分たちをなのはが抑えてくれたおかげで、被害がほぼ全く出ずに済んだから、少なからず恩を感じていたらしい。

「それにしてもあの二人、今は対峙しとるけど中々息が合っとるよね。組ませれば良いコンビになるんとちゃう?」

「前衛と後衛と言う意味ではヴィータの立ち位置はフェイトも適しているが、そこは別の問題だ。時と場合が違えば状況も味方も千差万別、故に臨機応変に対応する必要があるからな」

「しかしミッド式の魔導師と、ベルカ式の騎士の組み合わせは基本的に盤石ではあります。攻撃にも防御にも十分な力を発揮できますから」

「ああ、前を騎士が守り、後ろから魔導師が高火力で撃ち抜く。リインフォースの言う通り、確かに安定した戦術が行える。ただ……私も戦いたい!」

「シグナムよ……楽しそうに戦う二人を見て戦意が高揚する気持ちもわからなくはないが、高町なのはの相手は今はヴィータに譲ってやれ」

「そうね。なのはちゃんも連戦は厳しいだろうし、ちゃんと休憩を挟んでからね」

周りからたしなめられた事で、渋々納得するシグナム。これ見よがしに落ち込むが、そんなに戦いたいのなら、俺が相手をしようか? ……魔法は無しの方向で頼むが。

しかし、上空の戦いを見てて思う。なのはは偶に無意識で“エンチャント・ダーク”を使っている時があり、特に魔力と相反するダークマターを砲撃にねじ込んだ、スターライトブレイカー・ダークというヴァナルガンドの破壊光線に匹敵する攻撃にまで発展させた砲撃が切り札となっている。
はっきり言ってこの魔法は、まともに受ければイモータルだろうと耐え切れないと思う。単純な攻撃力ではSLBが上だが、SLB・Dは対魔導師において貫通力や浸透力が桁違いに上昇し、更にエナジーが込められているため、魔力を消滅させる体質のイモータルが相手でも効果的なダメージが通るようになっている。恐らく次元世界と世紀末世界を合わせても最強の攻撃魔法だろう。

「末恐ろしいな……高町家」

「あれ、何気に私も一括りにされてる?」

そういえばいたな、美由希。恭也の代わりという事で来ていた彼女だが、何だかんだで彼女も並の人間ではてんで相手にならない実力を持つ剣士だ。P・T事件でほとんど出番が無かったから、あまり強い印象が無いのだが……。ま、シグナムの相手には十分過ぎる……というか魔導師を瞬殺した恭也みたく、騎士が相手でも凌駕するんじゃないか? 御神の剣士、底が知れないな。

この後も休憩を挟んで、なのははヴォルケンリッターの騎士それぞれと個人戦を行っていき、合間合間に俺や美由希がシグナムやザフィーラと組手や試合を行ったりした。そして今日の実戦訓練はかなり濃密な内容でこなされ、最も試合をしたなのはは結界を解除する頃にはぐったり疲れきっていた。彼女が努力家なのは認めるが、あまりやり過ぎないようにしないとな。

「………」

っと、どうやら俺に客人のようだ。はやて達に一言告げてから、俺は八神家から少し離れた場所に移動すると、例の夜に会った“二人”が現れた。

「今度は仮面をつけて変装しないのか?」

「あなたのおかげで必要なくなったからね、本来の姿で来たよ」

「まさかあなたが闇の書の中身を取り込むなんてね……ほんと、イレギュラーにも程があるわ」

リーゼロッテにリーゼアリア、彼女達がここに来たという事は、十中八九次元世界社会における闇の書の後始末だ。はやてには悪いが、しばらくの間遠出をする必要があるな。

「お父様がね、あなたと会って話がしたいって」

「そうか、そろそろ来るだろうと予想はしていた」

「出来れば早めに行きたいんだけど……大丈夫?」

「はやて達に一言伝えてからなら問題ない。あと、転移も必要ないぞ? 俺のバイクでミッドチルダへ飛べるからな」

「何気に凄いね、こっちの技術もそこまで高性能なバイクは作れないわよ」

「どうやって手に入れたのか知りたいけど……あれ大事なものなんだよね? 誰かの贈り物だったりするの?」

「……ああ」

ただ、八神家に置き場が無いから今は月村家……というか月村すずかに預けている。月村忍には解体しない様に釘を刺しているし、すずかにも姉の監視を頼んでいるから大丈夫だろうとは思うが……。

「じゃあミッドに来た時はこれで連絡して。案内するから」

「そうさせてもらおう」

通信機を渡して要件を伝え終えたリーゼ姉妹は、来た時と同じように転移で一瞬の内に姿を消した。本当にそれだけをしに来たって感じだが、ともかく俺はしばらくの間、地球を離れる事になりそうだ。
まあ、ミッドに行けば、フェイトとアリスの様子も見られるだろう。それはそれで楽しみか。

そうして八神家に戻ろうとした時、前にお守りを爆散させた神社の巫女と会った。そこまで時間が経っていないはずなのに、凄く久しぶりな気がした。なお、前回会った時はアリスが憑りついていたが今はいないため、アリスが成仏したのだと彼女は勝手に思っていた。
実際は転生して“太陽の使者の代弁者”に生まれ変わったのだが……わざわざ教えずとも問題ないか。

「それよりも最高傑作が出来たんだよ! お守りとしては過剰過ぎる力を込めたけど、これさえあればもしテロリストに襲われたり、大爆発に巻き込まれたりしても、なんやかんやでちゃんと助かるぐらいの幸運が発動するよ!」

「それもう幸運グッズどころじゃない代物だな。そこらの防具をはるかに上回る性能のアクセサリーだ」

「一個作るのに3か月もかかったけどね……でも、これなら絶対に君の悪運も防いでくれるよ。……多分」

「自信がないのか?」

「そりゃあ前回、悪運だけでお守りを爆散されたからね……。私の巫女としての神力を全身全霊で、かつ純度高めで込めて、やっと対等になるぐらいだと思うんだ。これ以上のお守りは私も作れないから……いざ、勝負!」

そう言って彼女がまるでラブレターを渡すように純白のお守りを差し出してきた。妙な対決だが俺もそれなりに覚悟を決めた面持ちで、お守りに手を伸ばす。ゆっくりと俺の指がお守りに触れ、掴み、持ち上げる。俺に触れた一瞬だけお守りは閃光を発したものの、爆散はしなかった。そして最初の時のように焼け焦げるような雰囲気も無かった。

つまり……お守りの勝利、巫女の執念と意地と努力の勝利だ。

「や……やったぁー!!」

「本当によく頑張ったものだ、素直に称賛する」

「ありがとう! ひたすらこのお守りを作るためだけに修業してきた甲斐があったよ!」

これのためだけ……か。どこまでも純粋に挑んだのだな、彼女は。

「ところでこのお守り、いくら払えば良いのだ?」

「え? あ~……そっちは考えてなかった。とりあえず普通のお守りと同じくらいでいいよ。私も良い修業になったし」

「いや……流石にそこまで努力して作り上げた物を、大量生産品と一緒に扱うのは俺の気が済まない。少なくとも20倍は払わせてくれ」

「え!? い、いやいやいや!? 私は別にお金のためにやったんじゃないから、そんな……」

「謙遜は時に美徳だが、やり過ぎると逆に相手に失礼だ。大人しく受け取っておけ。これは感謝の気持ちなのだから、拒否するのはその気持ちを無視する事になるのだぞ」

「わ……わかった、そこまで言ってくれるんならありがたく受け取っておくよ。それと……あなたの未来に幸があらんことを」

初めて会った頃と比べて桁違いにレベルが上がった巫女の祝福の言葉は、それなりの重さがあるように感じられた。

……さて、行く前に彼と連絡をしておかないとな。通信機は……と。

「俺だ……用事でこの世界を離れる。例の件、忘れるなよ? ……いざという時は“彼女達”を任せるぞ……“リボルバー・オセロット”」









「はやて、しばらくの間家を空ける」

「へ? サバタ兄ちゃん、どこか行くん?」

「ああ、ミッドチルダに行く用事が出来た」

その事を告げると、ヴォルケンリッターやネロが一瞬ビクッとしてざわついた。確かに闇の書がらみの件だが、別に危険にさらしに行くわけじゃない。

「俺が行く理由は簡単だ。はやての手元に闇の書がある事が、既に管理局に知られている」

『なっ!?』

「と言っても、所在を知っている人間はごく僅かだ。そして俺はそいつらとP・T事件の最中に接触していた」

「そんな前から会っとったん!? なんで教えてくれへんかったん!?」

「まあ、色々あってな。そいつらの事情もついさっき知った所だ。それでこれから闇の書をどう扱うか話す……と言っても、具体的にはこの前決めたように公にはパチモンとして扱われるように、どう動くのか話し合うだけだ。おまえ達に危険は及ばないだろうから、安心して待っていると良い」

「サバタ兄ちゃん……それ、私も行った方が良いんちゃう? ほら、闇の書の主が直々に出向いた方が、色々印象も良くなったりせえへん?」

「主の言う通りだ、それに兄様にだけ危険な橋を渡らせたくない。それに私は本来、闇の書の罪を負うべき存在だ。大人しく待つだけで居たくない……!」

「そうだぜ! 闇の書のバグを何とかしてくれたのは兄ちゃんじゃねぇか! これからは一人でやらずに、あたしらにも協力させてくれよ!」

「兄上殿、私達は騎士です。騎士は主を守るもの、なのにこれでは守られてばかりで全く役目を果たせていない! 今度からは私達にも守らせてくれ!」

「うむ、我らは夜天の守護騎士。名乗るだけのお飾りな戦力では無いのです……!」

「皆と比べてひ弱ですけど、これでも私は騎士です。主のためなら、この命を差し出す覚悟は持っています!」

はやて、ネロ、ヴィータ、シグナム、ザフィーラ、シャマルが意気込みを示して、同行を促して来る。彼女達の言い分は尤もだと思うが、しかし……役目が違う気がする。

「別に戦いをけしかける訳じゃないから、騎士達が来ても意味がない。それにはやてもまだリハビリは途中じゃないか。大袈裟に考えずとも、単に人と会って話して来るだけだぞ? こんなおつかい同然の用事、一人で十分事足りる」

「ですが……!」

「どうしてもと言うなら俺がいない間、騎士達ははやてを守り切れ。そしてはやても、無理せずにリハビリに専念するんだ。それだけで俺としては十分助かる」

『…………』

「……わかった。別にこれで会うのが最後って訳や無いし、帰って来るんなら大丈夫やね。フェイトちゃん達の事も見てくるみたいやし、単純な一人旅ってことなら大人しく見送るわ」

「そうか……ありがとな」

はやてが了承した事で、騎士達も渋々だが納得してくれた。暗黒剣に麻酔銃、暗黒カードを持って準備を終えた俺は、八神家を後にした。









預けているバイクを返してもらいに月村家に向かうと、庭ですずかが俺のバイクの機関部をメンテナンスしていた。まだ小学生の彼女がメンテナンス出来る理由だが、どうも月村家は機械工学系に関してのスペシャリストらしく、彼女もその例に漏れず、機械に関してなら凄まじい知的好奇心を秘めている。

「うふふ……“ムーンライト”の事は私が一番わかってるんだよ? ほら……ここがイイんでしょ……?」

どうやら彼女に預けている間、彼女にバイクの中身を隅から隅まで調べ尽くされていたらしい。すずかの目が異常にぎらついている。そしてニックネームも勝手につけられていた。……センスは悪くないから変えて欲しいとは思わないけど。
ま、確かに単独で次元世界を移動できる機能のあるバイクは他に無いから、次元世界中最先端の技術が使われていると見て間違っていないだろう。そしてそんな技術の塊であるバイクが、機械大好きな人間の前に無防備で置かれていたら……こんな風にもなるか。

「すずか、さっき連絡した通りにバイクを取りに来たんだが?」

「アハハハハ…………あ!」

声をかけて正気に戻ったすずかは、先程の痴態で一瞬真っ赤になったものの、咳払いしてすぐ元通りに取り繕っていた。変わり身早いな、この子。

「もう来てたんですね、サバタさん。メンテも終わったので、バイクの調子は万全ですよ」

「そうか。手間をかけさせたな」

「いえ、私もこういう機械に触れる機会がもらえて楽しかったですよ。…………ありがとうございます、サバタさん」

「? どうしたんだ、急に礼を言うとは」

「だって……私がこうして楽しく生きていられるのは、サバタさんが守ってくれたからなんですよ。ヴァナルガンドに取り込まれた時、サバタさんが身を挺して駆け付けてくれなかったら、今頃私は……」

「……あの戦いは終わった、夜の一族の事も思い悩まなくてもいいんだ。これ以上、幻想の恐怖を味わう必要は無い」

「はい……!」

「さて、すずかのおかげで移動中、“ムーンライト”に不調が起きる事はなさそうだ。礼を言うぞ」

すずかは自分が勝手に付けたバイクの名前が受け入れられた事に嬉しさで微笑み、「いってらっしゃい」と言ってくれた。本当に……ここにいる人間は性根が良いヤツばかりだ。

「目的地は第1管理世界ミッドチルダ……行くぞ!」

次元転移システムを起動させて空間が歪曲したハイウェイが伸び、その道をアクセルペダルを踏み込んで突っ走る。そして俺は、世紀末世界と異なる地球を後にしたのだった。




次元世界を渡る道には星の光も無く、光の道以外には光点が一切ないどんよりとした空間が続いていた。宇宙空間と同じように人間が生身でいるにはあまりに過酷な環境の中でも、バイクが周りに張っているバリアのおかげで俺の身体は何ともなかった。

「む? あれは……」

ミッドに行く途中、次元空間の中を謎の巨大な施設が漂っているのを目の当たりにした。どうやら廃棄されて久しいようで、外装は崩壊や風化がかなり進んでいる。しかし施設に使われている技術は地球上では見たことが無く、次元世界の技術がどれほど進んでいるのか、こうして末端を見るだけで驚くべきものだった。

「十中八九無人……だろうな。こんな所に住むような人間がいるとは思えない」

断言した俺はバイクの速度を上げ、廃棄施設を背に走り去った。





その頃、施設最深部。崩壊した外装とは裏腹に最新鋭の設備がある部屋の中央にて、紫色の髪の男は一人、先程通り過ぎていった彼の事を呟いていた。

「ふむ……あのバイクに使われている技術、見たことが無い。もしや彼が第97管理外世界、地球で発見された異世界の暗黒の戦士かな? ほうほう、こうして見ると中々不思議な雰囲気の少年だ。“無限の欲望”である私が久しく興味を抱く存在に出会えるとは! まだまだこの世界も捨てた物では無いね! よし、そうと決まれば娘達に頼んで少し探ってもらうとしよう!」

男はすぐさま自分が作り上げた娘達に連絡を取り、動き出した。
彼の名はジェイル・スカリエッティ。後に次元世界全体を震撼させる科学者である。







着いたか……ここがミッドチルダ……。地球の都会よりはるかに進んだ技術で作られた機械や建物が至る所にあり、街を行き交う人間は最先端のファッションを着こなし、あらゆる場面で魔法の光が見られる。そんな場所を想定していたのだが……、

「まさか緑一色とはな、初っ端から予想を裏切られたよ」

どうやらバイクの出口が森林地帯に通じたらしく、都会とは真逆の場所にたどり着いたようだ。とりあえずミッドに着いたなら連絡してくれとリーゼ姉妹に言われているため、彼女達に通信機で連絡を送る。

ザザッ、ザザ~ッ……。

「? ……通じないな、どういう事だ?」

この通信機は次元世界間でも通じる程の性能じゃないが、同じ世界にならどこでも通じるはずだ。ここがミッドチルダなら、例え森林地帯でも問題ないのだが……。

「びゃあっ! ぎゃあっ! ひぇんっ!」

む、これは泣き声? しかも赤子の……どうしてこんな人気が無い場所に? ともあれ、ジャングルで大声を出すのは明らかにマズい。いくら人間の赤子でも肉食動物なら容赦なく糧としてしまう。
俺はバイクを走らせ、声の下へと急ぐ。森の獣は大きな音に敏感だ、当然こちらの存在に驚いてほとんどの動物たちが我先にと逃げ出す。俺もこういう生態系を無闇に乱すような真似は避けたかったのだが、急いでいるから内心で謝罪しておく。

グルルルルル……!

「ひゃあ! びゃあ! ひえっ!」

何とか見つけたものの、ダンボールの中で羽毛にくるまった赤子の傍には、腹を空かせて涎を垂らすクマのような外見の猛獣がいた。今にも襲い掛かりそうな猛獣に、一刻の猶予も無いと判断した俺はアクセルペダルを更に踏む。

グォォオオオオオ!!

未だに泣き止まない赤子を喰らおうと、一気に飛び掛かる猛獣。その強靭な爪が生まれて間もない命を食物連鎖の中に引きずり込もうとした瞬間、バイクを走らせながら俺の手はダンボールの中から羽毛を掴んで赤子を引っ張り、抱え込む。刹那の差でダンボールが超重量によって押し潰され、猛獣は獲物にありつけなかった悔しさのこもった雄叫びを上げる。

「キャッキャッ!」

「こちらの焦りも知らないで……赤子はのんきだな」

猛獣が追い掛けて来ない事を確認しながら、無邪気にはしゃぐ赤子の様子にため息を漏らす。
それにしても……つい思わず助けてしまったが、これからこの子をどうしよう? 連れて行く? いや……寿命が残り僅かな俺が連れて行くのは色々と不都合だ。となるとどこかの街や村、集落でこの子を育ててくれるように頼むしかないか……。

子連れ狼? じゃあこの子の名前は大五郎か? 言っておくが、この赤子は女の子だぞ。

全く……いくら何でも森の真っ只中に子供を捨てなくともいいだろうに。余程思い詰めていたのか……いや、それとも何らかの事故に巻き込まれたのか? この世に生を受けて早々、この子も大変だな……。

しかし、このバイクがオフロードも走行可能で良かった。道なき道を走り続けて30分、ここまでエンストやパンクが起きる気配が一切なく、すずかのメンテナンスが行き届いている事にかなり感謝した。
そのおかげでバイクはとある小さな集落に無事たどり着き、突然現れた俺達に集落の人間は驚いていたものの、赤子がいる事で話を聞いてくれる姿勢を示してくれた。そこでこちらの事情……ミッドに行く途中だったが、どういう訳かここに降り立ち、赤子の泣き声が聞こえた事で急いで助けた事を伝えた。赤子に関しては詳細を一切知らないが、助けたから引き取ってくれる所を探しているとも話した。
それらの話を聞いた集落の長老は、ゆっくりと一つ一つ語りかける様に説明を始めてくれた。

「なるほどのぉ……まず若いのに伝えておかなければならないのは、ここはミッドチルダではないですぞ。第6管理世界アルザス、わしらはその地方少数民族“ル・ルシエ”という者達ですじゃ」

「何だと!? という事は俺は降り立つ世界を間違えたのか……!」

道理で通信機が通じない訳だ。単純すぎる理由に、俺はたまらずため息を吐き出す。

「そうなりますなぁ。それであの赤子でございますが、もしよろしければわしらが引き取りましょうか? あの子には強力な竜の加護があるように感じますので、将来有望なのですじゃ」

「竜の加護?」

「はい、わしらの種族は竜と共存していく生き方を貫いております。あの子の生まれがわからなくとも、竜の加護があればわしらの同族も同然。なので家族として接する事にためらいはありませんのですじゃ」

「そうか……では、任せてもいいか?」

「もちろんですじゃ、お若いの。今日はあなたのような者と、新たな家族に出会えた喜びに感謝を捧げましょうぞ」

そういう訳で赤子……“キャロ・ル・ルシエ”はこの集落に向かい入れられる運びとなった。彼女がこの先どう生きるかはあずかり知らないが、せっかく助けたのだからせめて俺や魔女のような目に遭わず幸せに生きて欲しいものだ。

「さて……どうして俺はアルザスに来てしまったのかな、と……」

世界を渡った“足”であるバイクの次元転移システムを調べると、原因はすぐにわかった。なぜなら……、

「しまった。目的地の座標、設定し忘れていた……」

俺にあるまじき凡ミスだ……。居心地の良い環境に居過ぎて、感覚が鈍ったか? 猛省せねば……。

気を取り直して目的地にミッドチルダの座標を設定し、ルシエの里に別れを告げて改めて出発する。今度は5分程度で世界移動が完了し、ミッドチルダに到着した。今度はさっき考えていたような都会らしい街並みではあったが、意外にも地球の都会と建築様式ではそこまで大差が無かった。そして……、

「またか!」

目の前でボンネットが炎上している自動車を発見。勢い余って近くの建物に突っ込んだ大型車との衝突事故のようで、周りには野次馬が大勢いるが、誰もがこの炎を前にして物怖じしていた。やれやれと思いながら即座にバイクを停止させ、ガソリンに炎が燃え移る前に搭乗者の安否を確認しに向かう。
衝突でひしゃげて開かなくなったドアを強引に引き剥がして自動車の内部を見るものの……運転手は何故か実弾を脳天に撃たれて即死していた。助手席にいた女性も身体の左半分が衝突時の衝撃で潰されて動けずにおり、まだ息はしているが助かる見込みが無かった。

「む……すめを……! ティ……ア……ぁ……を!」

「………!」

後部座席にはオレンジ色の髪の少女が奇跡的に目立った怪我も無いまま気絶している。ただ、少女の母親は既に明確な意識や思考が出来ない出血量だ。自分の死を目前にしてもなお、無意識下で娘の事を第一に告げてくるとは……母親の強い意思に尊敬の念を抱く。

彼女の執念を無駄にしないためにも、すぐさま少女を抱えて自動車から退避。その瞬間、ガソリンに引火した自動車は大爆発を起こし、爆風に一瞬足がすくわれそうになるものの、どうにか逃げ切る事は出来た。まるでこの少女が助かるまで炎を抑えていたかのような……、……流石にどうだろうな。都合のいい美談はフィクションの中だけで十分だ。

「そこの少年! 大丈夫ですか!!」

とりあえず……駆け付けてきた青い髪の女性管理局員に、こちらの保護を頼むとしよう……。アルザスの一件も含め、この一時間だけで酷く疲れてしまった……。







管理局ミッドチルダ地上本部。俺がリーゼ姉妹と向かうはずだった場所に、どういう訳か彼女達の案内も無く、関係ない理由が連続で重なった事で到着してしまった。そして俺の目の前には、家族の死を悲しみながらも、しつこいぐらい礼を繰り返して来たオレンジ色の髪の青年がいる。

彼の名は“ティーダ・ランスター”。先程の少女、“ティアナ・ランスター”の兄らしい。

「妹を助けてくれて、本当にありがとう……君が駆け付けてくれなかったら、俺は何も知らないまま全て失っていた所だった」

「銀行強盗が脱出に使った暴走トラックとの衝突事故……しかも銃撃戦に運悪く巻き込まれて父親が即死したのが原因か。相変わらず対応が遅いな、管理局は」

「全くだ……失ってからじゃ何もかも遅いのに、うちの上層部と来たら! 面子やプライドばっかり気にして、被害に遭った人の事なんか全然考えちゃいない! 俺が別の場所でこの事件の犯人を捕まえる包囲網に加わっていた時に、上は家族が事故にあった連絡を寄越そうとしなかった! 犯人逮捕にばかり目を向けて、救助部隊の到着を遅らせたんだ! ランスターの弾丸は守るために存在するってのに! チクショウ……チクショウ!!」

「………………ならば今度こそ、自分の手で守れ。おまえの弾丸が守るべき者のために存在するのなら、誰かの思想や思惑じゃない、自分の信念に従って行動するんだ」

「ああ……! 俺は……絶対に守り切って見せる! 妹だけじゃない……俺達のような目に遭った人たちが、これ以上悲しまなくていい様に俺は戦う! 戦い抜いて見せる!!」

両親を失った事で、これから彼の手で妹を養っていく事になるが、この覚悟を見ていた俺は彼なら問題なくやっていける気がした。もっとも、突撃し過ぎて返り討ちにされる可能性も無きにしも非ずだが、その時に残された妹がまともでいられるか正直心配だ。

待合室を出ると、俺をここまで連れてきた青髪の女性が様子を見に来ていた。ちなみに“ムーンライト”で同行したため、バイクはここの駐車場に停めている。

「初めまして、改めて自己紹介しておきます。私はクイント、クイント・ナカジマ。所属は首都防衛隊で、階級は陸曹……まあいいや。それより君……え~っと……」

「サバタ」

「サバタさんですね。一管理局員として、救助が遅れた事を謝罪します。申し訳ありませんでした」

「それは中にいるティーダに言ってやれ。俺はただ通りすがっただけだ」

「そうですか……しかしあなたの勇敢な行動のおかげで、一人の尊い命が救われました。本当に……ありがとうございます!」

「…………はぁ」

なんだか妙に絶賛されている気がする。単にやれることをしただけなのだが……俺が淡白過ぎるだけか?

「それでサバタさん、あなたはこれから何か用事があったりするの? 差し支えなければ教えて欲しいんだけど」

「……ある者達と待ち合わせている。リーゼロッテとリーゼアリア、この二人とだ」

「え、グレアム提督の使い魔さん達!? あの有名な二人と本当に待ち合わせを……? 失礼だけど、確認してもいいかな?」

「する必要は無い。もう向こうから来ている」

「え?」と後ろを振り向いたクイントは、いつの間にか来ていたリーゼ姉妹の姿を見て、年甲斐も無くかなり驚いていた。俺は知らなかったが、この二人は管理局内でかなりの有名人らしく、実力も随一でエースクラスなのだそうだ。
……何故か強いイメージが湧きにくいが、原因はリーゼロッテに負け犬根性が身についてしまったからだと思われる。猫だけど。

「あのさぁ……こんな風に合流するんじゃなくて、普通に案内するつもりだったんだけどなぁ、私達としては」

「俺も当初はそのつもりだったさ。しかしトラブルが続いて、仕方なかったのだ」

「それがどうして人名救助して事情聴取されて身動きが取れなくなる羽目になるのよ……。呼び出されるこっちの身にもなりなさいよ……」

「元々呼ぶつもりだったのだから別に構わないだろう」

「道案内で呼ばれるのと、身元保証人として呼ばれるのとでは全然意味が違うよ!」

「はぁ~、やっぱあなたには色んな意味で勝てる気がしないわ……」

ともあれ彼女達と和やかに会話している事で、クイントも俺がリーゼ姉妹と待ち合わせていた事を信じてくれた。二人に任せておけば大丈夫だと判断した彼女は、「もし何かあったら遠慮なく頼ってね!」と言い残して仕事に戻って行った。
それから俺は二人の主であるグレアムに会うため、地上本部でも偉い人間が使う待合室の前まで案内された。道中、リーゼ姉妹に案内されている俺を「誰だ……?」という視線で見てくる局員が何人かいたが、別に気にもならない。

「お父様はこの中よ」

「開けるね」

そして待合室の扉を開けてもらい、俺はリーゼ姉妹の主にして、八神はやての生活保護者、ギル・グレアム提督と邂逅した。

「よく来たね、君がサバタ君か」

「こちらこそ、ようやく会えて嬉しいぞ。ギル・グレアム……」

「はっはっは! なるほど、確かに君はフェイトさん達が話してた印象通りだな! 年上相手でも物怖じせず、常に自分のペースを保っている。そして……守ると決めた者は必ず守る」

「“必ず”なんかじゃない。俺は全てを守れる程強くない……だから“出来るだけ”が正しい」

「そうなのかい? だけど……君は闇の書の中身を、自らの未来を代償にして取り込んだ。あの子……はやての未来を守るために」

「……ま、成り行きでだ。死の宣告を受けるのは、俺一人で十分だからな」

「君は死ぬのが怖くないのかい? どうしてそこまで自分を犠牲に出来るんだ?」

「簡単な事だ。どうせ生き残るなら、より大きな未来がある人間を生かした方が良い。俺には最初から、未来が無いのだから」

暗黒物質に侵されたこの身体は、ナハトを取り込む前から既に寿命が尽きるのが目前だった。ナハトを取り込む時、それを更に短くする事には気づいていたが、躊躇は無かった。

「それに犠牲とは心外だ。俺は俺の心のままに戦い、抗い、生きているだけだ。あいつらの輝かしい未来、まぶしい笑顔、それを守るために俺の命が必要だっていうのなら、迷いはしないッ!」

『―――ッ!!!』

一瞬だけ発した俺の気迫、死んでも大切なものは守りきる覚悟を正面から受け止めた彼ら3人は、自分たちの息が一瞬止まっていた事に驚き、咳き込みながら呼吸を整えた。

「はっ……はぁ……! その歳でこの気迫……やはり君は我々と違って過酷な世界で生きてきたんだね。これでもかなりの修羅場は潜り抜けてきたつもりだけど、君もそれに負けない戦いを潜ってきたようだ」

「別に…………運が良かっただけだ」

「いや、戦場では運が働く要素なんてごく僅か。生き残れたのは紛れも無く自分の実力だよ、サバタ君」

「そうか」

「……闇の書の悲劇は、君が自分の命を以って終わらせた。君の命を最後に、私達の復讐は幕を閉じた。これでクライドも少しは浮かばれると良い……」

「クライド……?」

度々出て来るその人物の事を尋ねると、グレアム達から詳細を話してもらった。それによると彼の名はクライド・ハラオウン。クロノの父親で、リンディの夫。11年前に闇の書を封印しに任務を行っていた所、闇の書が暴走して戦艦ごと飲み込まれそうになり、彼が自らの命と引き換えに暴走を喰い止めている間に、彼の上司だったグレアムは被害が広まらない内に、アルカンシェルという核兵器みたいな砲撃で始末をつけた。
そして……今回の計画は、かつての部下だったクライドみたいな人間をこれ以上増やさないために立案したらしい。尤も、それは俺の介入によって土台から崩された訳だが……。

「しかし……君を見ていると、あの時のクライドの声が耳に聞こえて来るようだ。彼は通信が切れる最後に、こう言ったんだ。『間接的だろうと家族の命を守る事に繋がるなら、俺の命ぐらい惜しくないさ』ってね……。本当に……彼のように立派な心の人間は他にいない。いや……いなかった。そう、彼の他にもう一人、こうして出会えたのだから……」

「…………」

「この先、何があってもはやて君の将来は約束しよう。それが、君に対する最大の報いとなるだろうからね」

「……ああ」

そこから闇の書の所在が公にバレた時、……“夜天の魔道書”を“夜間の書”というパチモンとして扱われるように根回しする話をして、この場は解散した。立ち去る際、グレアムもリーゼ姉妹もどこか吹っ切れた清々しい表情をしていたのが、やけに印象的だった。
 
 

 
後書き
リボルバー・オセロット:メタルギアソリッドの宿敵。A’s編覚醒で出て来た”白髪の男”とは彼の事。時系列はMGS4の数年前。 
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