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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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ラジエル

 
前書き
この話には続編の伏線が込められています。 

 
~~Side of ザジ(幼少期)~~

「見えたっ! 天高く浮かぶ虚構の都市、既に訪れる者もいない廃墟の中央広場で、新たな未来に関わる運命が交差せし時、代償を以ってそれは手に入る……」

「運命が交差? 代償を以って? どうも今回は抽象的な言い方が入っているな」

「うん……なんだか今回の星読みはちょっと変なんだ。何かが……誰かがいるみたいなんだ。うちらの運命に深く関わる誰かが……」

「ザジの星読みにこうまではっきりと出るという事は、相当強い結びつきがある人物……親とかかしら?」

「いや……それはあり得ないよ。おとーさんも、おかーさんも……うちの事なんて連れ戻そうとは思わない。魔女の娘に帰ってきてほしいなんて思ってくれないよ……きっと」

「……そう、ザジも……大変だったのね。ごめん、迂闊だったわ」

しばらく一緒に島生活を過ごした事でエレンもうちにある程度心を許しているけど、魔女の境遇はトラウマになる出来事が多く、気を遣ってあまり事情は詮索してこなかったのだ。故に今回のようなニアミスが起きる可能性は潜在的に残っている。ま、それはお互い様だけど。

「それより天高く浮かぶ都市……空中都市って、そんなもの本当にあるの?」

「あ~うちはそういう情報知らないから……サバタは何か知ってる?」

「ああ、恐らく太陽都市……かつて太陽仔が築いた古代都市の事だろう。既に住む者のいない滅びの都……天空を放浪するその都市に行くには“迷いの森”にある“ひめぐり”の生体情報を得る必要がある。しかし……俺達は“ひめぐり”の生体情報を得る力を持っていない。つまり行く事が出来ないのだ」

「あらら……行けないんじゃ、ある意味旅が終えられないわね」

“旅が終えられない”……エレンが放った言葉を、内心でうちは嬉しく思ってしまった。顔には出さなかったから気付かれていないと思うけど……自分ではもうわかっている。

“うちはこの旅を終わらせたくない”

始まりにはいつか終わりが訪れる。それが自然の摂理なのはうちも理解してる。でも終わりたくない、という気持ちがどうしても湧くんだ。太陽都市に行く方法が他に見つからなければいい、そうすれば旅を続けていられる……と些細だが拗ねた願望を抱いてしまった。サバタが必要だから探しているのに、見つからなければ良いなんて……うちも浅ましい女だ……。

「太陽都市に行きたいのか? それならオレたちが見つけた“魔砲”を使えばひとっ跳びだぜ!」

「魔砲? それは何だ?」

「使えば世界各地のあらゆる場所に一瞬でパッと行ける大層なシロモノだぜ! ちょいとデケェから持ち運びは出来ねぇが、転移できる距離はとにかく半端ねぇ! やったことはねぇが、やれば月まで行けんじゃねぇか?」

「月までか……それほどの性能があるのなら、太陽都市に行くぐらい容易そうね」

「あ……うん、そうだね……」

「どうした、ザジ? 顔が暗いぞ」

「いや……気にしないで」

「……まあいい。じゃあ、そこへ案内してくれ」

口やかましいゴーストが船長のスケルトンにサバタの言葉を伝えて、船は最後の目的地に行ける手段がある海賊島へと航行を開始した。

このままじゃあ……旅が終わっちゃう。そうなったらサバタは目的を果たしてどこかに帰るけど、故郷を追い出されたうちには行くところが無い……。

「いっそ家まで付いていっちゃう……なんて、きっと迷惑になるし、そんな簡単に決められないよね……」

あと、サバタの旅が終わってもエレンはしばらく故郷に戻らないで旅を続けるらしく、彼女には彼女の考えがあるみたい。才能頼りとはいえ、エレンには相応の実力があるから一人でも大丈夫だと思うけど……うちはまだ一人で旅ができる程強くない。だから……路頭に迷う未来しか見えない。うち……このまま皆と別れて一人になったら、生きていけるのかなぁ……。

そして最後の航海を終えて到着した海賊島から陸地に戻ったうちらは、黒ひげ三兄弟から最後の手土産として転移術式が込められた魔砲の位置と使い方を教えてもらった。彼らにとって最も大事なお宝の一つらしい。余程クラーケンに辛酸をなめさせられていたんだろうね、これを教えてくれたということは。

「これが……“魔砲”。凄く大きいわ……」

「どんな製法で作られたのだろうな。俺達の旅に関係ないから調べる気はないが、少なくとも興味は湧く」

「いっそ誰も知らない所へ行ってしまいたい……」

うちの呟きにエレンが疑問を抱く。ぽんっと手を叩いて彼女はうっとりした表情を浮かべた。……何か誤解して変な妄想でもしてるのかな?

「よし、転移魔砲を使って太陽都市へ向かう。行くぞ!」

そして……うちらが撃ち出された光の玉が天空にアーチを描いて飛んでいった。






太陽都市……石造りの建築様式でも長い間誰の手も入らなかった影響で、所々に太陽都市特産の太陽の根が無造作に張り巡らされていた。空中に浮かぶこの都市内部の移動に用いられていた移動床も、整備されていない事で既に機能しなくなっている。

「外もかなりの強風だ、うかつに足を踏み外せば地上まで真っ逆さまだな」

「落ちれば潰れたトマトの完成ね、それとも真っ赤な花が咲くと言った方が良いかしら?」

「ちょ……サバタもエレンも怖いこと言わないでよ……。あぁ~うっかり想像しちゃった……うぅ……」

「私達は体重が軽い分、風にあおられやすい。出来るだけ屋内を通って行くべきよ」

エレンの妥当な意見にうちとサバタも納得した。それで抜け穴とも言える排水溝……通風孔を通るために、ここでよく採れる太陽の果実“赤いキノコ”を使って体を小さくすることにした。
ただ……これまでの旅でサバタは太陽の果実を一切口にしてないから、薄々わかっていたけど、彼は今回もこの変わった太陽の果実を食べようとしなかった。以前、面白がったエレンと二人で嫌がる彼にぐいぐい押し付けてみたら、「人の嫌がる事をするな!」って怒られてしまった事がある。

「もうわかっているだろう……俺の体は太陽の果実を受け付けない体質なんだ。俺の場合、太陽の果実を食べても効果が出ないどころか腹痛になる。すまないがおまえ達二人で先に進む道を開いてくれ」

「サバタが頼るなんて珍しい。期待に応えないとね、ザジ」

「うん、うちらに任せといて」

そんなわけで通風孔を通れないサバタは待機で一時別行動。エレンと一緒にうちは“赤いキノコ”を使って抜け道を通っていく。その途中、ふとエレンが凄い事を尋ねてきた。

「ザジってさ、サバタの事がかなり好きよね?」

「っ!? い、いきなり何てことを言うの……!? って、何で顔が熱くなってるの!? ち、違うから!? うち、そんなんじゃないから!?」

「じゃあ嫌い?」

「そんな事は無い!」

「やっぱり好きなのね。断言してるし、普段の雰囲気からバレバレなのよ、あなた」

「だ、だからそんなんじゃなくてぇ! もう、何でいきなりこんな話をするの?」

「……旅が……もうすぐ終わる」

「あ……!」

「わかってるんでしょ。あなた達が一緒にいられる時間は、もう残り僅かだってこと。旅が終わって別れる前に、ちゃんと気持ちを伝えた方が良いわ。好きだって……一緒にいたいって……ずっと隠したままだと、伝えられなかった事を後悔するわよ、きっと」

「エレン……」

彼女は……とっくに気づいていたんだろう。そしてサバタも……薄々感づいている。世間的にうちは魔女だし、まだ10歳だからこの感情を抱くのは早すぎるかもしれない……でも、好きだという心に嘘はつきたくない。
この気持ちが恋なのか愛なのかなんて関係ない、ただ素直な気持ちを伝えるだけ。自分たちが子供だろうが、芽生えた感情は純粋で本物なんだから。

「……ありがとう。うち……言うね、この気持ち。きっと一人じゃダメだった……でもエレンのおかげで踏ん切りがついたよ」

「そう……気持ちを伝えられるって、それだけで幸せな事よ。突然の別れなんて、この世の中ではよくある事だもの」

「確かに不測の事態もあり得るからね……丁度いい機会として『風竜の翼』を手に入れた時に言うよ」

そういう事でエレンに発破をかけられたうちだけど、今度はこの気持ちを伝えた答えが気になってしょうがなくなった。“星読み”を使えば未来を読む事が出来る……い、いやいや、そんな使い方はしちゃいけない。でも……凄く不安なんだ。両親のように拒否されるんじゃないかと思うと、怖くてたまらないんだ……。

だが後にある事件が発生して、そのタイミングが遅すぎる羽目になるとは、うちもエレンも全く想像していなかった……。



太陽都市にはまだアンデッドがいなかったため、戦いはわずかに住み着いていたモンスターとしか起きなかった。むしろボーボーに生えまくって進行を妨げていた草を刈る方が多かった。芝刈り機の代わりに使うものじゃないんだけどなぁ、魔法も。

太陽都市をうちとエレンは別ルートを進むサバタと交互にスイッチや仕掛けを動作させて、道を開拓していく。最終的に中央広場への道が通じて、両方の道が合流した所で落ち合った。

「無事か?」

「問題ないわ、私もザジも」

「う、うん!」

「……何を緊張してるんだ?」

「き、緊張なんてしてないよ!?」

「………」

さっきの事があったからか、それとも自覚したからか、彼の顔をまともに見る事が出来ず、返事もしどろもどろになってしまった。そんなうちをエレンはニヤニヤして見てくるし、サバタは呆れてため息をついていた。そういう反応が余計恥ずかしい……。

そういう何でもない……しかし心が充足するようなひと時を味わいながら、うちらは中央広場にたどり着いた。目的地であるそこには……人間の眼のような装飾が施された、うちらの知らない凄い力が感じられる、金色に輝く石版と銀色に輝く金属板が少し高い所に浮かんでいた。そしてその下に生物的な翼……『風竜の翼』が落ちていた。

「何かしら……あれって私達の知ってるエナジーとも違う。ま、これはいいわ……それより目的の触媒、『風竜の翼』がこれで……」

「ッ! 離れろ、エレン!」

エレンが手を伸ばして『風竜の翼』を拾おうとした瞬間、銀色の金属板の眼から突然光が伸び、彼女の胸に突き刺さる。途端に辺り一面をすさまじい光量が包み込み、中心から衝撃波が発生する。それによってエレンの傍にいたうちが吹き飛ばされ、咄嗟にサバタが抱えて受け止めてくれた。

「な……何……!? 頭の中に声が!?」

「クッ……近づけない! 早くそこから離れろ、エレン!」

「何を……言ってるの!? わからない、わからないよ! え、私にどうしろって………! 認証? 接続って……いけない! ザジ!!」

「待っててエレン……今助け―――ッ!?」

突然金色の金属板の眼から一筋の光が伸び出し、避ける間もなくうちの胸に突き刺さった。その瞬間、頭の中に焼け焦げるような痛みが走った。まるで……心に何かが無理やり書き込まれていくようだった。

―――アニマ……仮面(ペルソナ)の認定……確認。

「ザジ! エレン! くそっ、どうなってる!?」

サバタが倒れ掛かるうちを支えながら、うちと繋がっている金属板を破壊しようと黒い銃で撃つ。しかし全く通じる気配が無く、それどころか今度はエレンを繋ぎとめている銀色の金属板と共に眼から淡緑色の光が伸び、うちと同じようにサバタに突き刺さる。

「ッ! 何だこれは……う、動けん……!!」

―――アニムス……認定……確認。

「ちか……らが……! 星読みが………勝手に……! ああ……や、やめてっ! うぁあああああああ!!!!」

抑えているのに……使おうとしていないのに、うちの“星読み”は意思に関係なく無理やり発動させられる。“星読み”は星々の動きから神羅万象、過去現在未来を読み解く技。それは究極的には常時の“未来予知”、“全知”にまで発展する。しかしそこまでいくと、永遠に無限にも及ぶ情報量の波にさらされ、自我、精神の崩壊を招くものだった。
うちが“うち”であるためには力を引き出し過ぎてはいけない能力。この旅を始めた頃からうちは“星読み”の底知れ無さを感じ始めていた。故に自分の心が破滅しないために、力を制御できるよう密かに頑張っていた。だから予知の精度が上がってきていたんだけど……うちとしてはこれぐらいの精度で十分、これ以上視えるようにしなくていいと判断していた。
なのに今……! “星読み”はうちの手に及ばない領域まで力を発揮してしまった。止める事が出来なかった……それはかつてのエレンと同じ、暴走だった!

『ヤツさえ! ヤツさえ!! ヤツさえ!!!』

『伯爵を倒したようだな、■■■■!! さすがは太陽少年……』

『憧れのシチュエーション、叶えてやったぞ』

「ま、待ちなさい! 二人を解放して……うわぁあああ!!!!」

『あの時、何故か無性に血が騒いだんだ。騒いで抑えられなかったんだ!』

『もはや猶予はない。決着のときだ……。おまえのおかげで俺の力は極限にまで高まった!! 全力で来い、■ャ■■!!』

「エレン!? くそが……! こんな訳も分からずに……!」

『さようなら……魔法少女たち……願わくば安らかな眠りを……』

『光と影、いつまでも終わらない闘争、犠牲になる命。こんな哀しいことが永遠に繰り返される世界……あっても虚しいだけでしょ?』

「ごめんなさい、ザジ、サバタ……私が迂闊だったせいで……!」

『本当の力とは……いったい何なのか? おまえにはわかるか、ジャ■ゴ?』

『この星に生きるすべての生命を切り捨てようとする銀河宇宙の意思。それに逆らおうと言うおまえ達だ……勝ち目の無い戦いにはなれている、か?』

『母を失い、父をたおし……それでも、俺達は前に進まなければならない。抗い続けること……それだけが、銀河意思に対抗するための唯一絶対の手段!! そうだろう、ジャンゴ?』

「そんな事はいい! それより、どうにかならないか!!」

『この方法しかなかった……どれだけ多くの人が力を合わせようと、全てを救う事は出来ない。せいぜい限りある“生の権利”をわずかに増やすのが限界なのよ、人間は』

『たとえどんなにつらくとも、もう二度と……未来をあきらめたりはしない!!』

『これで……いい、俺は……俺の生きた証を残せた。後は……おまえ達の時代だ!』

過去現在未来の時を問わず、二人の話した声が強く頭に響いてくる。それ以外の無数の声も聞こえるけど、それはあまりの情報量の波に飲まれてしまった。というより、うちの精神がもう耐えられなかった……。

記憶が……心が……砕けるッ! 過去も、旅も……たくさん! 嫌だ……忘れたくない……! 忘れたくないよ……! わす、れたくな…………。

「力が集束している!? マズい、爆発が起こる!!」

サバタが叫んだ次の瞬間、金属板同士の間から大爆発が発生した。その威力はうちらを中央広場の床から全員吹き飛ばすのに十分過ぎ、爆風に煽られたうちは遥か下にある大地に向かって真っ逆さまに落ちていった。

記憶の混濁と爆発の衝撃の影響が重なって意識が飛ぶ寸前に見えたのは、輝きながら飛んできた金色の金属板が反物質化してうちの中に入り込むのと、黒衣の少年がうちを抱き留めてくれた光景だった。

「な、なんやねんアレ!? 空から人が降って来るって、天空の城ちゃうんやから! チッ……他の連中もいない中、うち一人でやれるか? いや、“ひまわり娘”を襲名したうちがやらんでどないすんねん! いくでぇ!!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・

~~Side of サバタ(幼少期)~~

「あん時は一瞬どうなるかと思ったけど、まあギリ何とかなって良かったで。な~んも無いけど、とりあえずゆっくり休んでってぇな?」

「世話になる……」

ちょっとした高台に建てられた屋敷に招き入れてくれた彼女に、爆発の影響でボロボロの俺達を招き入れてくれた事に礼を伝えておく。綺麗に手入れされた銀髪を一本に結った彼女は、老いても魅力的な笑顔を一瞬見せた後、すぐに横で寝ているザジとエレンの方を思案気に見つめた。

あの時……爆発のせいで太陽都市から落下した俺達は、落下地点に偶然いた老練の魔女が下から発生させた風圧によって落下の勢いを弱めてくれたおかげで何とか生き残れた。あの高さから落下して全員生きている辺り、悪運が強いと言うか、幸運が強いと言うか……。助けた魔女が伝説の“ひまわり娘”でなければ、今頃本当に死んでいたかもな。

それよりエレンとザジの様子だ。彼女達は未だに目が覚めておらず、ベッドで未だにうなされている。やはりあの金属板……あの構造から天然物ではあり得ない人工物が原因だろう。

しかしあれは一体何だ? 古の太陽仔が遺したもの……いや、あれには太陽の力は感じられなかった。なら月光仔……でもない。暗黒仔に最も近い人間の俺でも全く見当が付かないのだから、クイーンですらも理解出来ないだろう。触媒を求めるだけの旅が、なぜか魔女を集め、最後に謎を呼んでしまったな……。

「っ……ここは……?」

「お、気が付いたんか?」

一足先にエレンが目を覚まし、辺りを見回して俺達の姿を見つけると、安心した様にほっと息をついていた。

「はぁ……良かった。ザジもサバタも生きてくれて……私は死んでもいいけど、あなた達まで巻き込みたくないもの……」

「エレン……」

「自分は死んでもいい、か……あんたも大層歪んどるなぁ。何があったんか、後で詳しく教えてもらうで」

「あなたは?」

「噂ぐらいは聞いた事が無いか? 彼女は“ひまわり娘”と呼ばれる伝説の魔女だ」

「もう“娘”って呼ばれる歳でもあらへんけどな。ま、うちは運良く生き延びれただけの魔女や」

「あなたが……。お初にお目にかかります、私は“真空破”の魔女、エレンです。危ない所を助けていただきありがとうございます」

そう言って頭を下げるエレン。自虐的な部分は多いが、基本的に礼儀正しい彼女はそういう面はきっちり行う。

「ところでエレン、おまえは最後まで『風竜の翼』を離さなかったが……あの時は緊急事態だったんだから自分の身を優先しても良かったんだぞ?」

「探し物より私の命を優先してくれるのは嬉しい。でもあの時は“離さなかった”んじゃなくて、“離せなかった”が正しいわ。身体が全く言う事を聞かなかったのよ……まるで暴走した時のように……」

あの時の状態を思い出したエレンは、一瞬体を震わせて腕を抱いた。しかしすぐに気を取り直して、俺達の方に向き合った。

「サバタ……あれって何だったの?」

「わからん、俺もあんな物は初めて見た。しかし……『風竜の翼』が狙いすましたように丁度あの場所にあった事だが、まるで何かの意思によって誘い込まれたような気がする」

「何かの意思? 誰かしら、そんな回りくどい事をするなんて。それに……」

“あの金属板を取り込んでから妙な力が宿っている”

そうエレンは言った。ザジと同様に銀の金属板はエレンが取り込んだ事で、彼女に魔女の力とも違う力が宿ったようだ。力を望んでいない人間には力を与えて……望む人間には与えない、か。

「そんな物が宿って、大事ないか?」

「私は問題ない……けど、相当大きい力だからコントロールしようと思ったらかなり時間がかかると思う。魔女の力もまだ完全じゃないから、また暴走するんじゃないかと思って、正直結構不安ね」

「そうか……」

「それよりザジが気になるわ。“星読み”が暴走したという事は、凄まじい情報量が彼女の精神を襲ったということ……記憶や人格に影響が出てもおかしくない」

エレンが懸念している事は俺も同じ思いだ。暴走していたとはいえ、ザジの“星読み”の力は予想より断然強く、膨大な知識量に襲われて10歳の少女の精神が耐えられるはずが無い。

そして……それは現実のものとなってしまった。

「あ……あれ……?」

「お、この子も起きたようやね。大丈夫?」

「ザジ……自分がわかるか?」

「え? あの…………あなたは? あ、あれ? わから……ない? うち……あなたが誰なのか、どうしてここにいるのか、全然わからない……!?」

意識を取り戻しても、ザジは自分の記憶が砕けている事に耐えがたい不安を抱いて震えだしてしまった。取り乱しそうな彼女を俺は少し強引に引き寄せ、無言で彼女の背中をさする。

「わからない……全然思い出せないよ……! 怖い……怖い……!」

「大丈夫だ、ここにはおまえを傷つける者はいない。怖いものは何も無い。大丈夫、大丈夫だ……」

とにかく安心させてやらないと、辛うじて残った彼女の心が跡形も無く砕け散ってしまう。ガタガタ震わせている彼女の肩を抱きながら、精神が落ち着くようにひたすら撫で続ける。エレンもザジの手を握って安心させようとしてくれ、ひまわり娘は内側の方から暖かくしようとハーブティーを淹れに行った。
俺達の抱擁の中でハーブティーの香りも漂ってきた事で、もうしばらく続けるとザジの乱れていた呼吸が落ち着いて通常に戻ってきた。どうやら峠は越えたらしい。

「あ、ありがとう……もう、落ち着いたので大丈夫です」

「そうか……」

「……あなたに触れていると、あったかくて心が穏やかになります。名前も思い出せないのに、不思議ですね……」

「…………」

暴走の影響で記憶障害となったザジの言葉を聞くと、俺もエレンも複雑な気持ちになった。特にエレンはある事情を知っていたせいで、泣きそうな顔になっていた。

「ザジ……ごめんなさい」

「なんであなたが謝るんですか?」

ポカンと何もわかっていない様子のザジを見て、益々エレンは落ち込んでしまった。

「(あんまりよ……気持ちを伝えようと決意した直後に記憶喪失になるなんて……。こんなの辛すぎるわ……神がこんな罰を与えたのなら、人でなしの私に与えなさいよ……!)」

「え? え??」

終いには涙を流してしがみついたエレンに、流石のザジも困惑していた。自分の事を想って泣いてくれているとわかっているから、ザジも強引に振りほどかなかった。

ハーブティーを持ってきたひまわり娘に呼ばれて、俺達は一旦席に付いた。それでザジに記憶喪失の影響を話してもらったのだが、聞いてる内にエレンが精神的にまいって、また号泣してしまった。

「……とりあえずまとめると、ここ最近の記憶は全く思い出せず、過去も結構穴だらけ。だが部分的に覚えている事はあり、最も強く残っている記憶は両親に家を追い出される時。自分が魔女である事と、“星読み”の使い方、何か旅をしていた感覚などは残っている、と」

要するに俺やエレンと出会ったこの旅の出来事をほとんど忘れてしまったわけだ。あと、過去に受けた誹謗中傷や故郷の思い出なども忘れている。ある意味無垢な状態となった訳だが……この旅で心に刻んだ記憶はほんの僅かに残っているらしい。

ハーブティーを飲んで一息つき、俺は行く宛ての無い彼女をこれからどうしようかと考えた。記憶があっても無くても俺が帰る場所に、彼女を連れて行くわけにはいかないのが少々複雑だ。

「そうですか……魔女の力が暴走して記憶が……。帰るところも無いし、うち……これからどうすれば……」

「あんた、ザジやったか。行く当てが無いんやったらここに住まわせたる。せっかく助けたのに野垂れ死になんかされとうないわ」

「あ、ありがとうございます! お世話になります、師匠!」

「師匠? あ~師匠なぁ、悪くない響きや」

「……確かに伝説の魔女と言われるひまわり娘の下なら、魔女の力も制御できるように鍛えられるし、庇護を受ける対象としても文句が無い。少々歳が離れすぎてはいるが……」

瞬間、俺の背後から凄まじい殺気が襲い、背筋にゾッとする冷気が走った。『ゴゴゴゴ……』と擬音が聞こえてきそうなオーラを発生させて、彼女……ひまわり娘はにっこりと昏い笑みを浮かべながら俺の肩を掴んできた。

「おいアンタ……女に年齢の話すんな。シメるで?」

「さっき自分で娘って呼ばれる歳でもないって言ってたじゃないか!?」

「社交辞令やってことぐらい察さんか、クソガキ。……しばくで?」

あまりの殺気ゆえに硬直していると肩を掴む力が徐々に強くなっていき、骨がミシミシ言い始めた。正直、転がりたくなるぐらい凄まじく痛い。しかし金縛りにあったかのように身体は動かない。

「ッ!? わ、悪かった……俺が悪かった! 肝に命じる!」

「本当にわかっとんのか? 男から女に年齢の話をするのはタブーやってことを……?」

「わかってる! もう二度と言わない!」

「ふん。わかればいいんや、わかれば」

辛うじて動いた口で謝罪すると、肩にかかっていた万力じみた圧迫感が和らぎ、圧倒的殺気から解放された。ごく短時間の出来事なのに、解放された俺の身体にはおびただしい汗が流れていた。

「もう女性は怒らせないようにしよう……」

「賢明な判断ね」

殺気の巻き添えを受けて血の気が引いたエレンが同意して頷いた。一人きょとんとしているザジだが、ここに住むという事はいつかひまわり娘の地雷を踏む可能性が高い。また怯えなければいいが……。

「ザジの預かり先が決まったのは良いとして、エレンはこれからどうするのだ?」

「私は……私もしばらくここにいるわ。やっぱりザジが心配だもの……魔女同士、貴重な友達だしね。心配がなくなるまで付き添うわ」

「……そうか」

「その後は、前に言った様にまた旅に出るつもり。私とザジの中に入った謎の金属板……これが一体何なのか、それを調べておきたいのよ」

確かに得体のしれない代物が体内にあったら、誰だろうと不安に思うだろう。尤も、俺の身体にも俺自身を蝕むダークマターが宿っているからある意味お相子だが。

「(ぐぅ~……)あ、ちょ……み、見ないで……恥ずかしい……」

「あははは! 盛大に鳴ったなぁ! よっしゃ! 今日は色々あってお腹空いたやろ、すぐ夕ご飯にしようや!」

ザジのお腹が鳴って爆笑したひまわり娘の計らいを締めに、この会談は終結した。






「……………頃合い、か」

外は一筋先すらも見えない闇に包まれた深夜……今夜は泊めてもらう俺達にひまわり娘が用意した部屋で、俺は静かに立ち上がる。隣で寝ているザジとエレンを起こさない様に、忍び足で入り口まで進み、扉を開ける。

「……すまない。触媒を全て集めた以上、おまえ達の側にはもういられないのだ……」

銀河意思ダークに俺がこいつらに情が湧いたと判断されれば、『クイーン・オブ・イモータル』ヘルが自ら手を出して来る可能性が高い。そうなればいかな“ひまわり娘”といえど、二人を守り切る事は不可能だ。二人が生きる未来のためには、俺が早く二人と別れて闇の住人へ戻らねばならない。

「もう会うことも無いだろうが……おまえ達との旅、楽しかったぞ」

寝てるから聞こえていないだろうが……それぐらいの礼だけは言っておきたかった。もし……俺が暗黒に囚われていなかったら、普通の人間として出会えていたら、こいつらと共に歩む未来もあり得たかもしれないな……。

「……ずるいわね、サバタ」

「む……起きてたのか、エレン」

「雰囲気がいつもと違ってたから、こうなる予感はしてたの。でも……こんなにすぐに行かなきゃいけないの?」

「おまえはもう気付いているんだろう? 俺がイモータル側の人間……太陽を陰らせる暗黒の戦士だと。俺がここにいたら、イモータルの襲撃を招きかねない。そうなればおまえ達は死ぬ、絶対に……」

「だからって、何も言わないでいなくなるなんて……ちょっとずるいよ。記憶を失ってもザジは、あなたを恩人として特別視……いや、心を寄せている。あなたが本当はイモータルの味方だろうと、女の子に一度根付いた恋心はそう簡単に消えない。……戻ってきてほしい。イモータルとは手を切って、ザジを守ってあげて欲しいよ……」

「ダメだ」

「どうして?」

「………アイツが……俺の帰りを待ってくれているからな。だから帰らないといけない、どうしても」

「……そう。サバタにとってはそこが帰る場所なのね。そこにいればヒトの敵となる事もわかってて、それでもその人に想いを寄せているから……」

「…………」

「……ある意味、記憶を失ったのはザジにとって良かったのかもしれない。サバタに想い人がいると知らないまま、想いを封印して別れられるんだから」

「…………」

「心配しなくてもいい、彼女は私に任せて。……大丈夫、サバタは帰るべき場所に帰ったとだけ、ザジに伝えるから。それと…………私達を救ってくれてありがとう」

「…………そうか。さらばだ、エレン。“真空波の魔女”よ……」

そして……さらばだ、ザジ。“星読みの魔女”よ……。

この言葉は心だけで念じ、俺は部屋を出て二人の魔女……束の間に出来た仲間と別れた。

「……ばか」

去り際に聞こえたエレンの呟きが、この問答の中で最もズシリと心に重く圧し掛かった。

ひまわり娘に見つかると面倒なので、物音を立てずに素早く屋敷を出る。彼女は伝説の魔女、今の俺が戦った所で強行突破は出来るかもしれないが、勝ち目はないだろう。慎重に慎重を費やしたおかげで、屋内では見つかる事は無かった。
が、実は屋敷内に彼女はいなかった。年長者であるひまわり娘を出し抜くことが、そもそも難しいのだ。彼女は……屋敷の外で待ち構えていた。

「俺が来ると気づいていたのか?」

「これでもうちはアンタの親父、リンゴと旅をしたことがあるんや。この程度のこと、見破れん訳あらへんやろ。暗黒少年サバタ」

「俺の正体をそこまで見抜いていたとは、流石は伝説の魔女、ひまわり娘だ」

「なぁ……サバタ、あんたはこれからどうする気なんや?」

「……集めた触媒を利用して、暗黒城にエナジーを送り込む。充填された力は城を浮上させ、大気圏を越えて月へと飛翔するだろう」

「そしてクイーンの命令のままに、全世界に吸血変異を発生させるってか? そんな事、うちがこのまま見逃すとでも思っとるんか?」

「もちろん思わないさ。……俺の目的は別にある、クイーンにいつまでもかしずく気は無い。この旅で手に入れたこの四つの触媒を集めるように命令を出したのは確かにクイーンだ。しかし俺はクイーンの命令だから集めたのではない、俺自身の目的のために集めた。そこを間違えないでもらおう」

「要するにあんたはクイーンを利用してるだけ、そう言いたいんか? そしてうちに、それを信じろと言うんか?」

「信じようと信じまいと、俺には関係ない。そもそもおまえは信じるしかない。俺が帰らなければ、ここにはクイーンや彼女の手の者がやってくる。ザジ……二人の同族の安全を内心で第一に考えているおまえが、それを許容するとは思えないからな」

「…………」

「フッ……魔女同士、やはり仲間を大切に思う気持ちは強いか。だからこそ、俺はおまえにあいつを任せられる。………もう傍にいられない俺の代わりに、彼女の心に太陽を取り戻してくれないか。ザジは意地っ張りだが、実は寂しがり屋で結構な泣き虫だ。誰かが傍にいないと心配なんだよ、最初に旅に誘った身としては」

「…………やっぱり、あいつの息子やな。……しゃあない、あいつのよしみで引き受けたる。だけどこれだけ誓ってもらうで! “何があっても、どれだけ時が経とうとも、絶対にあの二人の味方でいること”……裏切ったら承知せえへんからな!」

「有無を言わせないつもりだな、その様子だと。……だが、了承した」

そうして俺の意思を確かめたひまわり娘は、無言で道を開ける。魔女が安息を得られる場所……その地を後にして、俺はあるべき場所へと帰って行った。

世紀末世界の混沌を体現した大地、イストラカン。その中心部である暗黒城へ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・

~~Side of サバタ(現代)~~

こうして昔の話が終わった時、視聴していた彼女達はそれぞれの反応をしていた。なのは、すずか、アリサ、はやてといった年少組はザジの記憶喪失について女子らしい意見を交わしていたり、ネロやヴォルケンリッターといった次元世界関係者は例の金属板の正体が何なのか考察していた。

「この後もかなり色々な事があったが、ザジとはサン・ミゲルでヴァンパイアに噛まれて暗黒物質に侵されたジャンゴにパイルドライバーを使う際に再会を果たした。彼女は先代の口調が移っていたものの“ひまわり娘”の肩書きを継承するほど成長を果たしていた。が、本質はあまり変わっていなかったように見えたな」

「でも旅の記憶が無いから、久しぶりの再会が感動的なものにはならなかった……」

「その通りだ、ネロ。そして思い出そうとしないという事は、それだけ今が充実していると考えた。なら無理に思い出させる必要も無い、そう思った俺は彼女の記憶を復活させようとはせず、最初からもう一度接した。……が」

「が?」

「やはり俺自身、記憶が影響して彼女だけ特別気がかりにしてしまった。そのせいか“ひまわり”は俺に恩を感じてしまったようだが…………そうか、そういうことか」

「兄様?」

別れ際にカーミラが言っていた。

『あなたのおかげで救われた心があった事を、時々で良いので思い出してください。それだけが私の、最後のワガママです』

この言葉の意味をようやく理解した。ザジとエレンの事を言っていたのだろう、恐らく。本当に俺が救ったのかと言われると疑問が残るが、俺の命を捧げると誓ったカーミラに捧げられなかった以上、彼女の遺言の通りに今度はあの二人に俺の命を捧げよう。
違う世界にいるのにどうやって捧げるのかは、流石にわからないが……。ま、あいつらがもし“こちら側”に来たのなら、全力を以って守る。何があっても、俺が絶対に……。

「サバタ兄ちゃん……」

「……ああ、そうだ。はやても、ネロも、フェイトも、アリスも、だったな……」

「……?」

この世界にも、俺が守ると決めた存在がいる。彼女達なら未来でザジとエレンに会えるかもしれない。世界にはそういう無限の可能性があることを身を以って体験している。

さて、僅かな希望に賭けてみるとするか。










「どうした? 今朝はやけに嬉しそうだな」

「……懐かしい夢を見ました。私の根幹となった旅の、唯一無二の親友達と過ごした温かい思い出を」

「ふむ、そうか。大事にしろよ、そういう大切なものはいつまで経っても色あせないものだからな」

「そうですね。今の私があるのは、その時の仲間達のおかげですから」

「……プライベートの時間は終わりだ。任務完了により本艦は本国へ帰還する、作業に入れ」

「はい、閣下」

時空管理局帝政特設外務省、通称アヴァランチ、第13紛争世界突入二課大尉にして全時空万能航行艦『ラジエル』司令官サルタナの副官。それが彼女……エレンの今の立場であった。そしてコバルトブルーの髪をたなびかせる彼女は新たな立場を得て、知人の手の及んでいない領域の戦いへと赴いていた。

「(それにしても今、この夢を見たという事は……もしかして二人のうちのどちらかが“こちら側”に来ているのかしら? そうだとしたら、会えるのが楽しみね……ふふふ……)」

 
 

 
後書き
書き溜めていた分はここで終了です。これから先は執筆時間が必要で、更に就活があるので遅くなります。 
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