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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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宿泊

 
前書き
MGS要素増加回。ある意味アンチでしょうか? 

 
ひとまず要件が済んだのは良いが、折角ミッドチルダへ来たんだ。テスタロッサ家の現状でも拝みに行くとするか。……と思っていたのだが、途中で先程の青い髪の女性局員、クイント・ナカジマと鉢合わせた。別に彼女に対して悪印象は無いから、フェイト達を探している合間の話し相手には丁度いいかと思い、現在まで適当に会話をしていた。

「へぇ~、サバタ君って今裁判中であの大魔導師と名高いプレシア・テスタロッサさんと対等に戦える実力を持ってたんだ? しかも巷でファンクラブも存在するリーゼ姉妹や、彼女達の弟子で最年少執務官と言われるクロノ君、彼の母親で子持ちとは思えない見た目のリンディ提督、そして歴戦の勇士という通り名を持っていて、かつ顧問官のグレアム提督とまで知り合いとか……何気に凄い面子と繋がりがあるわね」

「言われてみればそうだが、それよりこんな所で油を売っていてもいいのか? いい加減、仕事に戻った方が良いのではないか?」

「いやぁ~なんかうちの隊長が君に興味持っちゃってね、暇ならちょっと顔出してくれないかなぁ~、なんてさっきからずっと思ってたりするんだけど、どうかな?」

「悪いが、こっちはテスタロッサ家の様子を見に来たんだ。あまり寄り道したくない」

「そうは言うけど……調べてみたらプレシアさん達、今日は高等裁判みたいなのよ。今回の裁判が終わって本局から戻って来るのは、始まった時間を考えると明日までかかると思うわ。今日は流石に忙しいだろうから、行っても会えないだろうし……」

「裁判とはそこまで時間がかかるものなのか?」

「まあね。色々事件の内容や証拠を検証したりしていく訳だし、そこからの判決を導き出すのにもかなり時間がかかるものだしね。私は裁判官じゃないから詳しい事はわからないけど、結構ややこしいものなのよ、一つの裁判を終わらせるってのは」

ふむ……要するに今日は都合が悪いのだな。明日出直すか……しかしフェイト達に会わずに帰ったら、はやてが『行った目的半分果たしとらんやろっ!』ってツッコミを入れてきそうだ。それにクロノも『次元世界移動を許可も取らずにポンポンやらないでくれ』と疲れ目で言ってきそうだ。

「仕方ない……今日はここで一日を越そう」

「越そうって……まさか野営とか野宿する気? こんな大都会のど真ん中で!?」

「そうだが?」

「やめてよ!? これでも私は家庭持ちでれっきとした管理局員なんだから、そういうのは見過ごせないわ! 今日はウチに泊まっていきなさい、というか泊まって!」

「いや……一応野営はかなり場数を踏んでいるんだが……」

「大丈夫、一人や十人増えた所でウチは問題ないわ」

「いくら例えでも、十人は流石に多過ぎだろう……」

「と・に・か・く! サバタ君は外で勝手に野宿しないで、ちゃんとウチに来る事! いいわね!!?」

「あ、ああ……承知した。感謝する」

「よろしい」

津波のような勢いで告げてくるクイントに押し負けた俺は、渋々彼女の家に厄介になる事を決めた。言質を取ってドヤ顔で胸を張る彼女だが、何と言うか……俺ってこういう押しの強い女性に弱いんじゃないか、という気がしてきた。思い返せばはやての時もそんな感じだった……何故か少し落ち込むな。

「……で、“隊長”はどこにいるんだ?」

「お! 会ってくれるのね? でも気が変わったのはどうして?」

「一宿一飯の恩……とでも言えばいいか?」

「なるほどねぇ~……何となく君の性格がわかってきたかな」

「…………」

勝手に理解されてもな……それが真実かどうかなんて、本人にしかわからないというのに。

ともあれ、クイントの案内で首都防衛隊……地上本部のエリートが集う精鋭部隊の部署に顔を出した。道中、クイントから聞いた内容によると、本局がよく優秀な部隊員を横暴に引き抜きするせいで、人事の変動が激しいのだそうだ。それによって地上と本局の関係はかなり悪く、レジアスという男がよくブチ切れているとか何とか……。

ま、俺から言える事があるとすれば……。

「他所の組織のゴタゴタなぞ知った事か」

「うわ、ぶっちゃけた! この子、凄いことぶっちゃけたわね、クイント!?」

「こう言ってるけど、別に性根は全然悪くないのよ、メガーヌ。むしろひたすら純粋な精神の持ち主なのよね」

「確か先程の人命救助、通りすがっただけのこの少年が成し遂げたのだったな……ふむ……」

クイントの同僚である召喚士メガーヌ・アルピーノが面白そうな人を見つけたような目で俺を見つめ、“隊長”の騎士ゼスト・グランガイツが興味深い様子で頷いていた。

「ところで俺を呼び出しといて、何の用があったんだ? 頷いていないで、いい加減話してくれ」

「ああ、すまなかった。改めて自己紹介しよう。俺は首都防衛隊、隊長ゼストだ」

「メガーヌよ、よろしくね。それであそこにいるのが私の召喚虫ガリュー」

「……(ぺこり)」

人型の甲殻類のような身体をしているガリューは、無言で丁寧なお辞儀をしてきた。なのでこちらも軽く会釈しておく。しかし……この部隊は召喚獣にコーヒーを沸かせているのか。いいのか、こんな扱い……。

とりあえずゼストとクイントとメガーヌ、この3人が実質、地上のエース達なのだそうだ。実力があると当然本局の引き抜き交渉も来るわけだが、彼らにはそれぞれ意地があるらしく、地上に残る事を選んでいる。

「……それにしても管理局は、自分たちの足元をしっかり固めずに他の世界に進出しているのか。治安組織と名乗っておきながら実質、帝国主義みたいな仕組みには正直呆れるものだ」

「局員としては耳が痛いな、それは。だから地上の平和のために、俺達はひたすら尽力している」

「ナショナリズムやパトリオティズム、おまえ達はちゃんとそれを抱いているようだ。イデオロギー性の強い管理局に所属しておいて、そういう思想を持つ人間は貴重だ」

「そう言ってくれるとありがたい。……さて、改めて君を呼び出したのは、単に君と言う人間を見てみたかったのだ。P・T事件において……いや、次元世界全体において最も特異な存在、暗黒の戦士である君を」

「ほう、俺の詳細は既に耳に入っていたか。やはりイモータルと同じ力を使う俺は信用ならなかったか?」

「力そのものに善悪は無い、重要なのは使う側だ。確かに人に仇なす力を振るっていると、僅かなきっかけで敵だと思われるかもしれない。しかしこうして面と向かって話してわかった。君は決してぶれない一本の線を通した志の持ち主だ。無法ながら法を持つ者……法を持ちながら無法である者……不思議な男だ」

「…………」

「君の行動や思考に法律の縛りは一切効果が無い。それは一見、秩序を乱しかねない危険思想かもしれないが、君の場合はある意味……法の管理を越えた秩序を秘めていると言い表せる」

「御託は良い、結局何が言いたいんだ」

「サバタ、君の精神は法を形作る文字なぞでは言い表せない、もっと純粋で高潔なものだと感じた。信頼出来る人物だと、俺自身の心が判断した」

「フッ……そうか」

やけに持ち上げられている気もするが、結果的に信頼してもらえたのなら問題ないか。
その後、なんか握手を求められたので、武人として鍛え尽くされた彼の手を礼儀的に握り返した。片や元銃士にして現剣士、片や管理局員にして騎士……奇妙な縁だ。

「隊長……嬉しそうな顔してるわね。久しぶりに見たよ、あんな無邪気な笑顔」

「そうね、いつもレジアス共々、眉間にしわばっかり寄せてるもの……サバタ君が会ってくれて良かった良かった!」

という事で首都防衛隊の面々とちょっとした顔合わせを終え、地上本部を出た俺はクイントの家……ナカジマ家に招かれた。そういえば地球を出た時点で昼過ぎだったな……グレアム達との話し合いや、今回の対面にかかった時間で既に夕方になっていた。

「いらっしゃい、サバタ君。まあこんな所だが、よろしく」

とりあえずそこで俺は、一家の大黒柱であるゲンヤ・ナカジマと挨拶をする運びになった。

「こちらこそ泊めてくれてありがたい。おかげで路上生活は免れた」

「妻のクイントには誘ってくれた礼を言ったかい?」

「……ああ」

「その様子だと中途半端な返ししかしてないようだね。少しは正直になった方が良いと思うよ」

「よく言われる」

「ははっ、まあ君ぐらいの年頃の男の子ってのは、そういう意地を持っちゃうものだからね。俺も昔はブイブイ言わせてたものさ!」

「…………」

そこから急に昔話が始まる……かと思いきや、横からクイントの手が伸び、ゲンヤの耳を強く引っ張った。ただ……クイントはアタッカー、つまり相当力が強い。敵を己の鍛えた力で薙ぎ倒す彼女がそんな事をすれば、その分凄まじい激痛がゲンヤの耳を襲うのも必然だった。

「いたたたたたッ!!? く、クイント!? 客人の目の前でこれは勘弁してくれ!?」

「なんかほっといたら延々と話しそうだったから、早めに中断しておいた方が良いかと」

「だからって耳を引っ張られると家人としての威厳が……!」

「あると思ってたの?」

「…………」

おい、そこで黙るのか大黒柱。この流れで目を逸らすな。言いくるめられたら余計家人の立場が悪くなるだろうが……。
とにかく俺は、この一件だけでこの家がかかあ天下なのを一瞬で理解した。後で労おう。

「じぃ~……」

「じ、じぃ~?」

「………クイント、さっきから見つけてくださいと言わんばかりに身を乗り出して、俺を見ているあの子達は?」

「あらら……ギンガ、スバル、こっちにいらっしゃい」

クイントに手招きされてやってきた二人の少女、ギンガとスバルが本来この家では異物の俺を警戒しながら、クイントの傍に寄ってきた。しかし疑問なんだが……世紀末世界で戦ってきた経験から、二人の体内から微妙に機械の音が聞こえていた。義手や義足といった代物とは違うみたいだが……何だ?

「紹介するわ、私の娘のギンガとスバルよ」

母親がそう言うと、ギンガとスバルは姉妹別々の反応で挨拶してきた。ギンガは明確に警戒してます、と言いたげな目で見てくるのに対し、スバルはどうも人見知りなのか、自分の名前を言うとすぐにクイントの背後に隠れ、こちらを伺っていた。

「露骨に嫌われてるな」

「いやぁ~別に嫌ってはいないと思うわよ?」

「ま、一日だけ厄介になる身だ。害が無いのなら放っておいても良いか」

「ごめんね、二人も悪気はないのよ。ただ、家族以外の人間とあんまり会わせた事ないから緊張しちゃってるのよ、きっと」

「そうか。しかし……こっちの世界では子供を外に出さないものなのか?」

「いくら何でもそこまで過保護じゃないけど……ちょっと事情があるのよ」

「事情? それは二人から機械の音がしている事に関係があるのか?」

「ッ……!」

聞き耳を立てていたギンガとスバルが“機械”というワードにビクッと過剰に反応した。ゲンヤとクイントは見た目は落ち着いてこちらを見据えているが、瞳孔が少し泳いでいたから内心は驚いているのがわかる。

「はぁ……観測魔法とか集音マイクを使わないと私達でもわからない音なのに、サバタ君には素で聞こえていたのね……」

「外部には漏らさないさ、そんな事をしても俺には何の得にもならんからな。それにわざわざ話さなくても大体想像はつく」

フェイトがプロジェクトFATEで生み出されたクローンだったように、この二人も何らかの実験か研究で生み出されたのだろう。どうも次元世界には生体実験に関するものが多いな。

「大体身体の中に何かあるという意味では、むしろ俺の方が混沌としているぞ」

太陽仔と月光仔の血に暗黒物質が混ざり、そこに原種の欠片、更に闇の書の闇であるナハトヴァールを宿している。他にも何かあった気がしたが、自分で言ってて結構混ざってると改めて実感した。

「そっか、サバタ君も色々複雑なのね。これは互いに不可侵、という事で話を付けてもいい?」

「それが最も穏便に済むだろうな。それで構わない」

下手な腹の探り合いは互いに何の利益にもならないため、俺達はそこでこの話を終わらせた。掘り起こす必要の無いものは、暴かずにそのままでいいのだ。

「ふぅ~……。あぁ~ここで終わって良かった! 私、こういう交渉事とか全然ダメなのよねぇ」

「クイントはこういうごちゃごちゃした会話は苦手分野だものな。ま、そういう事を考えるのは夫の役目さ」

「やだぁ、もう! あなたったら!」

途端に惚気る二人の様子を見て、娘のギンガもスバルも妙に疲れた目で呆れていた。ま、まぁ……夫婦円満な家庭は何より良いことだ。度が過ぎるとアレだが、愛を享受できるのは幸せな事に違いないのだから。

ひとまず二人は放置し、俺は初めての次元世界移動をした“ムーンライト”に不備や故障が起きていないか、メンテナンスをしておいた。すずかほど知識は無いが、どこかおかしい所ぐらいなら俺でも見つけられる。
と言っても、この“ムーンライト”は相当頑丈に出来ているようで、エンジンやマフラーに擦り切れた所や壊れた所は一切見当たらず、フレームもそこまで傷がついていなかった。せいぜいタイヤにアルザスの土がこびりついていたぐらいだった。当然か、何かにぶつけたり、事故を起こしたわけでもないのだから。

くいくい……。

「……俺のマフラーは引っ張る物じゃないんだがな……スバル」

メンテナンス中に、さっきから物陰に隠れながらチラチラと見ていたスバルが今、俺の“月光のマフラー”を掴んでいた。そういえば母の形見であるこのマフラーも、長い間ずっと使っていたから端の部分が擦り切れて来ていた。そろそろ補修しておかないとな……。

「それで、何か用があるのか?」

「ん。ギン姉がね、ちょっと来て欲しいんだって」

「ギンガが? ……わかった、どこへ行けばいい?」

「こっち……」

そういう訳でメンテナンスもひと段落して余裕が出来たため、あえて断る事も無く俺はスバルの案内で近くの広場に立ち入った。そこにあった遊具のてっぺんで、俺を呼び出した少女は腕を組んで待ち構えていた。

「ようやく来たね!」

「どうでもいいが、落ちるなよ」

「落ちるもんかぁー!! いい? 私はまだあなたがウチに泊まる事を認めてないんだから! ちゃんと私から泊まって良いって許可をもらいなさい!!」

「…………じゃあどうすればいい?」

「簡単よ、私と決闘して! あなたの実力を認めたら、泊まる許可を出してあげるから!」

……どうやら姉として家族を守る気持ちが暴走した結果のようだ。幼いながらも立派な心掛けだが……俺はラタトスクのようなサディストじゃない。

「言っとくけど私は母さんからシューティングアーツをたしなんでるんだから! 子供だからって甘く見ないでよね!」

「そうか」

「全然わかってな~い! こうなったら力づくでわからせて―――」

そこまで言った瞬間、ギンガは足を滑らせて遊具から落下してしまった。咄嗟にゼロシフトで彼女の落下地点に先回りし、しっかり受け止める。

「言わんこっちゃない……」

「あ、ありがとう……って! ちがっ!? 違うんだから! 早く降ろして!」

ジタバタ暴れ出したギンガをさっさと降ろすと、彼女は頭に血が昇ったせいか、赤くなった顔でこちらをキッと睨んできた。ちなみにスバルはギンガが落下した時に泣きそうになっていたが、今はポカンとしている。とりあえず彼女には近くのベンチに座ってもらった。

改めて距離を取ったギンガは、コホンと小さな咳払いをすると、両手を上げてシューティングアーツの流派らしき構えをとった。対する俺は構える事はせず、自然体で向き合った。

「構えて」

「必要ない」

「くっ……ならその余裕が失敗だってわからせてあげる!」

直後、彼女の年齢にしては勢いのある踏み込みの正拳突きが放たれる。俺は最低限の動きで軽く身を逸らし、彼女の攻撃を空振りさせる。そこから続けざまに振るわれるギンガのシューティングアーツの体術を、全て体を動かすだけでかわし、同時にシューティングアーツのクセを脳内で解析していく。足払い、パンチ、回し蹴り、かかと落とし、裏拳、とギンガの振るう体術は彼女の年齢にしては中々鋭く、組み合わせもバランスが良いものだった。

しかし俺に拳が届く程、彼女の技量は卓越していなかった。

「はぁ……はぁ……! なんで……当たらない、のよ……!」

「簡単なトリックだ。今のおまえは一撃一撃に重みを置いている分、一つの動作に対して隙が大きい。故に回避は容易い」

「年上だからって偉そうに……! 喰らえーっ!」

「フッ……ぬるい、ぬるい。そんな撃ち方ではかすりもせん。ま、筋は悪くないが俺に届かせるには十年早い」

尤も俺自身の寿命が先に尽きるが、わざわざ教えずとも良いだろう。

「はあっ! やぁっ! うぉりゃあっ!」

「忠告だ。そこは大振りの回し蹴りじゃなく、右のジャブを放った方が良い。決め手を入れるのはこのタイミングじゃない」

「ッ! ならばっ!!」

「急に違う動きを取り入れるのは間違いじゃないが、自分が使い慣れていない動きは逆に大きな隙を生む。要練習だ」

ギンガの放つ攻撃を片っ端からいなし、スバル曰く「途中から指導になっていた」この決闘は最終的にギンガの体力が底をついて膝を突き、実質スタミナ切れで俺が勝利した形になった。ちょっと大人げなかったか?

「ぜぇ……ぜぇ……! て、手も足も出なかった……!」

「いや、十分出てたじゃないか」

「動きだけはね……! でも実力は雲泥の差だよ……全く歯が立たなかった……!」

「それなりに修羅場は潜ってきたからな、経験の差だ」

「経験かぁ……」

「そう悲観せずとも、これから経験を積めば俺ぐらい越えられるさ。さっき言った十年はあながち冗談でもないからな」

「そうなの? だったら十年後に、もう一度あなたに挑戦するから! あなたを越えるのを目標に、これから頑張って見せるから!」

「そうか。で、結果はどうなんだ?」

「へ? 結果って……」

「宿泊の許可だ」

「あ……そういえばそうだった。うん、もういいよ。あなたが強いって事がわかったんだし、認める。それに……母さん以外の人で越えたい目標にもなったからね」

「生憎だが、目標はもっと身近な人間にしておけ。俺なんかを目標にしても、何にもならないぞ」

「う~ん、でもなぁ……。私見だけど、あなたからは学べることが多いと思う。多分、どんな学校に行っても学べない本当に大切な事……それを教えてくれるかもしれない」

「…………買いかぶり過ぎだ。俺は……」

「ギン姉~!」

決闘と言う名の組手が終わった事で、半泣きのスバルがギンガに駆け寄る。ギンガも妹の手を振り払うような性格はしていないため、苦笑いしながらスバルの背中を撫でていた。なんか変な終わり方だが、これはこれで良いか。

「もう日も暮れた、戻らないとクイントとゲンヤが心配するぞ」

「はい!」

「やけに元気そうに言うな?」

「それは内緒です!」

「…………」

そうして俺達はナカジマ家に3人そろって戻って行った。なんかフェイトとアリスをフラッシュバックで思い出しそうな光景だ。
それからいつの間にギンガ達と仲良くなったのかとクイントが微笑ましく見てきたり、ゲンヤがうちの娘は渡さん的な発言に冷静にツッコミを入れる俺とクイントの姿があったりしたが、この日はそういう感じで夜を過ごした。この仲睦まじい家族は、何事も無く幸せであって欲しいものだ……。

「ところでサバタさんって格闘技、どれだけ使えるんですか?」

あと、急に名前呼びになったギンガにそんな事を尋ねられた。格闘術で仕事をしているクイントはともかく、珍しい事にスバルも興味があるようで、こちらを覗き見ていた。

「どれだけと言われてもな……柔術ははやての所に来てから少し使えるようにしたが、基本的には攻撃力の高い武術を基にしている」

流石にこの年代の少女に暗殺用近接格闘術だなんて話す訳にはいかないだろう。アリスは一部真似出来ていたが、多用はあまりお勧めしない。

「その武術を身に付ける前……というより最初に覚えたのがCQCだな。俺はあまり使っていないが、これは実戦向けの近接格闘術で人間相手ならかなり効果的だ」

「へぇ~! CQCって私でも覚えられますか!?」

「本気で覚えるつもりなのか? 確かに相手を制圧するという意味でなら、シューティングアーツより使いやすいかもしれないが……そもそも俺がここにいるのは今日だけだぞ?」

「あ……そういえばそうでした。でも時間が出来たら本当に教えてください!」

向上心があるのは評価できるが、相手の骨や関節を的確に制圧するCQCをこんな少女に学ばせてもいいのか? ………短時間で座学中心だが少し手解きぐらいはしてもいいか。どうやらこの世界も治安が良いとは言えないから、自衛の手段を増やす程度に抑えておこう。

「わかった、今は寝る時間になるまでの間だけ教える。明日は俺の都合次第だな」

「ありがとうございます!」

「よしギンガ、まずはCQCの基本からいくぞ」

……念の為言っておくが、バーチャス・ミッションはしないからな?

・・・・・・・・・・・・・・・・


時空管理局本局、第66次元航行艦用ドック。

「着床完了」

「船体各部異常無し。駆動機関、正常停止します」

「係留作業、開始します」

「警戒体制解除。ただちに補修作業、及び補給作業にかかれ」

「閣下、ハウスマン少将とアレクトロ社のイエガー社長が出迎えに見えてますわ」

「ふん、最悪の歓迎だな」

「本局ですもの、仕方ありませんわ」

「エレン、降りるぞ」

「はい、閣下」

全時空万能航行艦『ラジエル』から降りるエレンとサルタナ。エレンの姿は白を基調としたトリコロールの特注制服、サルタナは灰色と黒を基調とした艦長服であり、二人から漂う風貌だけで彼らの実力が相当なものだという事が自然と知れ渡る。

「流石はサルタナ司令。第13紛争世界での活躍、実に見事なお手並みです。我が方が手こずっていた案件をものの数日で……恐れ入ります」

「ふん、貴様のような底の知れた輩では確かに手に余るだろうな、少将。魔法さえあれば力技でどうにかなるという生半可な気持ちで手を出すから余計な損害が増える。よくそんな体たらくでその階級まで上り詰めたものだな」

「……重々承知しています」

「全く……貴様が余計な真似をしてくれたおかげで、あの世界のこちら側に対する信用は一気に失墜した。元の水準に立て直すまで、時間も費用も人員もどれだけかかるのか、その筋肉の詰まった脳ミソはわかっているのか?」

「恐れながら閣下もご存知でしょうが、彼の世界の奴らは魔法も使えないくせして中々しぶとく……特に最近正式採用されて導入してきたシャゴホッド型戦車の機動力、防御力は侮り難く、ちょこまかと動いては巨体を生かした突撃をかましてきます。おかげでこちらの陣形が乱れ、我がクラッシュバスターがかすりもせず……いや、狙いさえ定まりますれば、あのような鋼鉄の塊なぞ……」

「愚か者! 確かにあの世界には魔法技術は無いが、それを補って余りある兵器開発力があるのだぞ! 下手をすれば魔法を使わずに管理局の上を行く技術を奴らが持っている事が何故わからん!」

「閣下!」

「もういい、下がれ! 貴様と話していると虫唾が走る」

そう吐き捨てる様に告げたサルタナはさっさと立ち去り、エレンもイエガー社長との会話を切り、彼に合流した。

「エレン……アレクトロ社に何を吹き込まれた?」

「恒例の件です。裁判の賄賂で、今回はプロジェクトFATEの開発者が関わっているので勝ちたいとか。当然後ろ暗い根回しであるのは見え見えでしたのでお断りしましたわ」

「プレシア・テスタロッサか……資料では確か元アレクトロ社所属の研究開発主任で、新型魔導炉ヒュードラの事故で娘を失い、島流しに遭ったのだったな」

「私達がそろって執務官と弁護士の資格を持っているから、彼らも私達が被告人側に着く事を警戒したのでしょう。それでどうします? 被告人の後ろ盾にハラオウンさんが絡んでいますけど、彼女達では“裏”に対応出来ませんわ」

「ふん、奴らは“表”では相当な発言力があるが、対して“裏”では何も出来ん。恐らく今行われている高等裁判でも、“裏”の根回しで敗訴するに違いない。このまま最高裁にもつれ込んだ所で、結果は変わらんだろう。が、わざわざ俺達が手を貸す意義が無い」

「その事なのですが私が探ってみた所、今回の裁判の裏には例の件が関わっている可能性があります」

「例の件……『SEED』か?」

「はい。『SEED』の開発元はアレクトロ社だと私は睨んでいます。今回の裁判を上手く利用すれば、アレクトロ社の内部を探れるかもしれませんわ」

「なるほど……しかし先程の件で俺達の動向はアレクトロ社に警戒された。少なくとも俺やエレン、部隊の人間を潜入させるのは難しい。それに管理局の性質上、潜入任務の経験がある人間はほとんどいない」

「私達が認める実力を持っていて、かつ潜入任務の経験がある。更にアレクトロ社にマークされていない人間を、最高裁が終わるまでに見つけられるのでしょうか?」

「そこはわからんが……見つけられなければ、この裁判に関わるのは却下する。俺達自身もそれなりに危ない橋を渡っている状態なのだからな、余計な火の粉を降らせる真似は避けたい」

「承知していますわ、閣下。しかし即時行動できるように、顔合わせぐらいはしておいてもよろしいのではありませんか? それに私、興味をそそられる存在がありましたの」

「ほう……? エレンが興味を抱くとは、随分珍しい存在だな」

「ええ。“太陽の使者の代弁者アリス”、ぜひ拝見してみたいものですわ」

「……良かろう。こちらには弁護士の資格もある、被告人の様子を知りに来たという名目ぐらいなら立つ。行くぞ、エレン」

「はい、閣下」

そして二人は向かった、サバタに導かれた者達の所へ。

再会の刻は近い。

 
 

 
後書き
追加要素。
ギンガとスバルはCQCを少し覚えた。

シャゴホッド:MGS3でソコロフが設計した核兵器搭載戦車で、グラーニンが考案したメタルギアと対を為す兵器とも言える。この作品ではシャゴホッドの設計データが闇取引を通じて、第13紛争世界に流出しています。 
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