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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  新術

 中忍試験の第一試合が始まる少し前、試験会場の近くの森の中で、うずまきカトナは佇んでいた。
 そのすぐそばには、彼女を守る様に、うちはサスケが近くの木にもたれかかって様子をうかがっている。
 カトナはまっすぐ持っている大太刀を目の前にある木に突き付けながら、目を閉じて、自分の体の中にあるチャクラをかき集めていく。
 そして十分に集まったと思ったところで、なるべく力を抜きながら、自分の右足に火の性質を纏わせたチャクラ、自分の左手に風の性質を纏わせたチャクラ、自分の右手に雷の性質を纏わせたチャクラ、自分の左足に水の性質を纏わせたチャクラ、額に土の性質を纏わせたチャクラで五芒星を描くイメージする。
 互いが互いを効果を及ぼしあう。五行のイメージを怠ることなく、それでいてチャクラの量は一定。
 そのイメージを得てから数秒して、カトナのチャクラが弾ける。
 ぱちり、という音と共に、彼女の体にとりまいていた、薄く淡い青のチャクラが、白銀の色になっていく。
 ふぅ、とカトナは息を吐くと共に、抜き放った大太刀を振り回し、一歩踏み出す。
 いつもとは段違いの怪力で振るわれた大太刀は、その風圧でも根こそぎ近くにあった木が倒れていく。
 ぽかんと、呆気にとられたようにそれを見ていたカトナは、困ったように自分の術を見てもらっていたサスケを見た。サスケもまた、驚いたように目を瞬かせたが、すぐさまいつもの冷静を取り戻し、尋ねる。

「…それが新しい術か」
「うん」
「何分持つんだ?」

 体の奥から溢れてくるチャクラを気をつけながら、外に逃がしたカトナは、その言葉に答えを返すより前に、胸のあたりを押さえ、苦しさをやり過ごす。
 チャクラを活性化させて使うこの術は、カトナ自身の体にも負担をかけやすい。今は少しの苦しさを感じる程度で済んだが、時間を長くかければかけるほど、人体に被害がきやすい。
 カトナの体の限界は15分程度だろうが、後遺症を残らない程度のことを考えて答えを返す。

「…もって、10分」
「なんだ、意外と短いな」

 素直な感想を漏らしたサスケに、むっと頬を膨らませたカトナは、びしりと指を指し示し、ぶっきらぼうに言う。

 「サスケが使ったら、二秒」

 その言葉に、サスケは不思議そうに首をかしげた。

 「二秒しか持たないのか。総量が大きくなった方が、時間が保つんじゃねぇか?」

 その言葉に、カトナは困ったように首をかしげた。
 彼女が新しく作った『五行の術』は、基本的構造で言えば、火→風→雷→水→土の順にチャクラの循環を繰り返すことで、お互いに及ぶ力の範囲を上げていく。五行と全く同じとまではいかないが、大体の及びあう効果を再現は出来ている。
 術の効果は一目瞭然。術に使用した分のチャクラが、時間と比例するごとに大きくなっていく。それだけである。
 それ故に、総量が大きくなった方が良いのでは? と、サスケが言ったことは最もと思えるが、しかし、違う。
 この五行の術の何が最大の弱点かと問えば、それは『術を使用するときに、体内にあるすべてのチャクラが消費される』ということである。
 例えば、体内に存在するチャクラの総量が、サスケが100、カトナが2だったとする。五行の術を使えば、累乗されて返ってくるチャクラは、サスケが10000、カトナが4である。
 つまり、サスケは9900も一気に体に返ってくるのだ。そこから何かしらの大技を使ったとして、今度は1000000として返ってくる。消費量が大きすぎるので、返ってくる供給量もまた大きく、結果、体がもっていられないのである。
 それに反してカトナは2しか返ってこない。2ならば、まだ消費できる量である。更に重ねられても8、16、32とまだ余裕があるのである。
 しかも、カトナの周りにはチャクラを多用するものが多い。
 たとえば、カトナの刀。
 刃にチャクラを込めることで、相手のチャクラを奪う封印式が刻まれたそれは、チャクラを込めた分の二倍、相手のチャクラを奪いとるのである。
 たとえば、カトナの赤い鞘。
 こめられたチャクラの分、相手の生命エネルギーを奪うことができる。
 たとえば、カトナの体に存在する封印式、変化の術、逸脱の術。
 重ね掛けられたそれは、カトナのチャクラ量を圧倒的に少なくしている。
 そのため、カトナは『五行の術』を10分も使えるのである。

 サスケだったら2秒で体の内側から破裂するだろうし、九尾ほどの存在ならば、多分時間が過ぎたという自覚がないままに、半径10KMを巻き込んだ大爆発を引き起こすだろう。
 カトナの場合、20分目で体が爆発すると考えると、その差は一目瞭然である。
 しかし、それをどう説明していいかわからず、うーうーと言葉にならない声でうなっているカトナの頭を撫で、サスケは言葉を返す。

 「まぁ、どれにしてもお前以外には使えないだろう。五つの性質を同時に扱いながら、チャクラの量を均等かつ場所を決めてまで扱えるやつは、お前以外にはいねぇよ」

 実際、カトナもある程度の集中できる環境が無いと、ほとんど使えないだろう。
 発動するまでの三分間、五つの性質を五つ場所にここで集中させるというのは、難しいどころの話ではないし、しかもチャクラの量が均等であることを常に意識しておかないといけないのだ。
 精神的余裕、肉体的余裕がない限り、あまり使う機会がないだろう。
 一応、誰かにコピーされる可能性も考えて、サスケの写輪眼で観察してもらっていたが、サスケもお手上げだというなら安心だ。
 そう思って、安心したカトナはサスケの手を引っ張る。

「サスケ、もうすぐ、始まる」
「ああ。確か最初はナルトの奴だったか」
「ん」

 第一試合「うずまきナルト」VS「日向ネジ」の試合は、もう少しであった。

・・・

 一歩踏み出したナルトのチャクラが爆発し、ネジへと爆走する。
 咄嗟に両手を顔の前で交差させて、衝撃を往なしたネジは、突撃してくるナルトの足がある地面に向かって、苦無を放つ。

 「…足の印、今ので四回目」

 苦々しげに言ったカトナに、サスケは写輪眼を発動した状態で見回す。

「…駄目だな。チャクラがいきわたってない。あれだと爆発して放出するだけだ。確か、今まで一度も発動してないんだろ?」
「練習では、それらしいのが出来てたよ…それらしいの、だけど」

 そう、実は今の今まで一度だって、足の印は成功していない。
 サクラやカトナが知恵を振り絞って作ったそれは、理論上は完ぺきである。
 理論上は、だ。
 彼女たち自身がテーマとしておいたのは、『両腕が使えない状態で組める印』であるので、両腕が使える彼女達ではなく、ナルトの体を基に考えられている。
 そのため、あの印が使えるのはナルトや両腕が無い忍者だけだ。
 カトナやサクラはそれが本当に可能なのかを確かめれていないのだ。
 唯一、確かめれるのはナルトだけでしかない。
 …危険な賭けだと思う。
 だが、カトナは信じている。ナルトが必ずその術を発動できることを。

・・・

 体を貫いた柔拳に、ごふりと血が口から零れる。
 痛い、苦しい。そんな思いが駆け巡るが、気力で耐えて、ナルトは腕を振るう。
 呆気なく避けられたそれを目で追いながら、ネジはどこか冷めた目でこちらを見つめる。
 中盤にともなると、どちらが優勢かが目に見えて分かるようになった。
 圧倒的に、優勢なのはネジであった。
 もともと、体術しか使えないナルトと体術も忍術も使えるネジの相性はあまりよくない。
 しかも、相手はお家芸とやらで、体にダメージを残してくるのだ。
 一つ一つの拳の重さが重く、経絡系が絶たれたせいで傷をいやすことも出来ない。
 圧倒的格差。ネジは残酷なまでに静かにつげる。

 「諦めろ。それが運命だ」

 貴様がここで敗北することも。ヒナタ様が俺に敗北することも。俺が分家であることも。ヒナタ様が宗家であることも。貴様が火影になれないことも。
 全ては運命だと、ネジは言う。
 何度も何度も何度も。
 この戦いで始まってからもう、数えきれないほどに突き付けられた言葉に、ナルトは大きく息を吐いた。
 確かに、人は望んで生れたいところに生まれては来ないだろう。
 確かに、いつの間にか、自分が知らない間に何か背負わされていることもあるだろう。
 自分の意見を聞かれないままに、誰かに何かを押し付けられるかもしれない。
 それでも、それでも、それを運命だと彼は認めない。

 だって、運命だというならば。
 自分の腹の中にいる九尾は、どう足掻こうと自分の中に封じられて。
 自分のライバルであるサスケは、どう足掻こうと家族を兄に殺されて。
 自分は両腕を切り落とされたことさえも、決められたことになってしまうではないか。

 それは、いやだ。

 倒れそうになった体を気力で保ち、足に力を籠め、なんとか立つ。
 自分の両腕が斬り落とされたことは、もう仕方ないと割り切っている
 自衛できなかった自分が悪いのだと思うし、そんなことをしようと思った奴も悪い。
 けれども、もう、それは過ぎたことだと、ナルトは悟っていた。
 だけれども、ではそれを運命として認めるかと問われれば、それは違う。
 これが運命だということを、ナルトは認めれない。
 だってこれが運命ならば、ナルトの両腕が斬られることが運命だというならば。
 それは、姉が泣くことも運命だったという事ではないか。
 真っ赤な目で泣いていた姉は、懺悔をしていた姉は、自分の所為だと責めていた。

 本当は誰の所為でもないのに。

 ナルトは自分の中にいるクラマが好きだ。何人もの里の人間を殺したという彼を、彼はどうしても嫌う事が出来ない。
 例え、里の人間が彼を憎んだとしても、ナルトは彼が好きだ。
 一時、彼を理不尽に責めたことがあった。
 自分の腕が切り落とされたのは、お前が腹の中にいるからだと、なじったこともあった。
 確かに、彼が自分の腹の中に封印されているから、自分は人柱力となって、姉はその身代わりとなって、里の人に排他されることとなった。
 けれども、原因が彼であったとしても、それでも、彼の所為ではないのだ。それでも、彼が悪いわけではないのだ。
 だから、ナルトは彼の所為だとは思わない。だから、誰かの所為でこうなったのだとは思わない。
 自分が選んだ人生で、自分が生きていく人生だ。
 誰の指図も受けないし、誰かの命令を受けて、誰かに決められて選んだわけじゃない。

 ナルトは運命なんて言葉が大嫌いだ。
 何もかもきめられているならば、何もかもきめつけられているならば。

 それは、姉が傷つくことすらも運命だったという事ではないか。

 普通の女の子として生きて、誰かに恋をして、誰かと付き合って、誰かに愛される幸せが、愛す幸せがなかったということではないか。
 葛藤して苦しんで憎んで傷ついて泣いて悲しんで、嫌だと叫んで。それでも、ナルトの為に全てを捨てた姉の気持ちがすべて、無駄だったという事ではないか。
 もういやだよと泣いた姉を、否定することではないか。

 それだけは認めない。それだけは死んでも許せない。

 「…俺はさ、もう二度と泣かせないんだってば」

 チャクラが増えていく。さらに、終わりなく限りなく際限なく。
 どこにその量を隠していたと思わせるほどに、膨らんではじけたチャクラに、人には可視出来ないほどに僅かな赤のチャクラが混じる。

 ちからを、かしてくれ。くらま。

 小さく口の中で呟いて、彼はぐっと腰を深く沈める。
 その声にならない声に、彼の奥で眠っていたそれもまた声を返した。

 ああ。

 瞬間、チャクラが何倍にも何十倍にも立ち上り、鋼鉄の腕が振るわされた場所が根こそぎ弾け。

 先程まで暴れるだけだったチャクラが、一つの意思を持った。
 ばっ、とサクラとカトナが同時に身を乗り出す。
 僅かに青い光が、ナルトの足元で弾ける。
 次の瞬間、ぼんぼんぼんぼんっ、と何かしらの破裂音のようなものが響いた。
 それと共に、煙が辺りに立ち込める。
 一体なんだと辺りを見回したネジは、その白眼で明らかな異常をとらえる。
 ばかなと、頭を振った彼の目は、しかし、いくつもチャクラを示している。

 そんな中、客席からは何も見えなくなった視界の中、高らかに、その声音は響いた。

 「えー、長らくお待たせいたしましたってば」

 その声とともに、がやがやと喧騒が響きだす。
 そして増えだした気配に、思わずと言った様子で観客席にいた忍が前のめりになる。
 ただ、カトナだけはそれを当たり前のような目で見ていた。
 煙が晴れていく。
 そして、彼らの目にそれが曝け出される。
 百、千…万には及ばないが、しかしそれほどの数の金色が、そこにはいた。
 全員が全員、一様に騒ぎながらも、目を見開いているネジに向けて指をさす。

 「「「「「うずまきナルト忍法帖、ただいま開始いたしますってばよ!!」」」」
 
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