無欠の刃
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下忍編
影分身
「いくぞ!!」
「「「「おう!!」」」
一人のナルトが先陣を切り、その後を影分身たちが追いかけ、ネジに襲いかかる。
咄嗟に回転を使い、幾人かの影分身を弾くが、回転を終えた瞬間を狙うように飛び掛られ、ネジは防戦一方となる。
相手の攻撃を捌き、相手の攻撃を弾き、隙さえあれば急所に柔拳を叩き込むが、影分身は全く減らない。
どころか、その数はさらに増してきている。
ほぼ無尽蔵なチャクラをもつナルトだからこそ行える戦術だが、ネジにこれほど効く戦術はないだろう。
影分身。
カトナは、それの一番怖いところは状況を覆しかねないところであると考える。
影分身で言えば、どんな禁術にも共通するが、その術を使えば、形勢が逆転するところが怖いところである。
チャクラさえあれば、一対一の状態から多数対一の状態へ持って行けることであり、尚且つ、いくらダメージを与えても、そのダメージが本体である術者に伝わらないことだろう。
先程まで優勢だったはずのネジは、あっという間に劣勢に立たされていた。
もともと、柔拳というのは相手の肉体にダメージを残すことを優先した技である。肉弾戦にむいているということは、言い換えれば、一対一の時にこそ、その真価を発揮するのである。もちろん、一人相手に戦う以外のことを想定したパターンもあり、ある程度の数を捌けることはできる。
しかし、そのパターンは一人一人を確実にさばき、相手の数を減らしていくことを重点的に置いており、このように、ほぼ無限で敵が増えていく状況では通用できないのだ。
しかも、本体である相手には一切ダメージが伝わらず、こちらには無数の攻撃が飛び、回避できなかったらダメージが来る。
つまりは、ナルトとネジの相性は最悪という事である。
しかも、ナルトには鋼鉄の腕がある。
腹部にめがけて放たれた柔拳を見たナルトが、腹部の前で両腕を交差させつつ、上体を逸らす。
うまく軌道を逸らされ、鋼鉄の腕に柔拳を叩き込んだネジの指が血を吹く。
流石に体術が慣れているだけあると、咄嗟に後ろに下がり、自分の指を抑えたネジに、ナルトは不敵に笑う。
弱点を生かした戦法。弱点を克服した戦い方。運命に抗う生き方。運命を変える生き方。
それはネジが出来なかったもので、それはネジが諦めたもので。
歯ぎしりをし、一歩前に踏み込んだ力を利用し、掌底を放つ。
ぼんぼんぼんぼんっ、といくつかの影分身が破壊され、煙幕の役割を果たす。
しかし、白眼をもつネジにはそれが通じない。
影分身は本体のチャクラ経路と全く同じものである為、見分けはつかないが居場所位は分かる。
そう言う点では
煙で真っ白になった視界の中、確実にかつ、正確に影分身を何体も捌いていく。
しかし、どんなに繰り返してもその数は減らない。
きりがないと、苛立ちからネジが僅かに目を見開いた時。
煙の中から、勢いよく手裏剣が飛んできた。
「…風魔手裏剣!!」
投げられた手裏剣を咄嗟に避けた時、その手裏剣の下にあった、もう一枚の手裏剣がネジに向かう。
咄嗟にネジがその手裏剣を掌底で弾いた時、先程ネジに避けられた手裏剣がぼふん、という音とともに煙を上げる。
白眼でそれをとらえていたネジは慌てることなく回転を放ちながら、思考の端で今行われていたことを分析する。
二枚の手裏剣を一枚の手裏剣のように見せて投げることで、一枚目の手裏剣をかわしても二枚目の手裏剣が襲う、影手裏剣の術。
だがしかし、一枚目の手裏剣は本物だが、二枚目の手裏剣はナルトの影分身が変化していたのだろう。白眼は全方位からの攻撃に対応できるが、突然現れたナルトに驚愕し、身動きが取れなくなるということを想定して行われたのだろう。
しかし、それは浅はかだったと言わざる負えない。
ネジの白眼は経絡系を見抜くのだ。例え、影分身が変化の術をしていようと、その程度は容易く見抜ける。
中々、策略としては上出来だったとおもいながらも、回転を止めたネジは辺りを見回す。
360度、どの方向からの攻撃にも対応でき、相手がどこにいようと探れる白眼は、なるほど確かに優れているだろう。
ただし、裏を返せば、それは視野が極端に広いというだけのことだ。
一点集中して見れないのであれば、一度見たものからずっと目を逸らせないのでなければ、視たい場所に視線を向けなければ、見えないのでは意味がない。
その程度では、彼女の術は崩れない。
突然、ネジは自分が立っている場所に違和感を感じた。
何かが起きた、というわけではない。
何故、自分が違和感を感じたのかもわからない。
その時、ふとカトナと戦っているときの妙な感覚を思い出して。
ただ、本能的に彼はその場で跳ぼうとして。
それより早く、ナルトが地面から飛び出た。
予想外の場所からの攻撃。白眼で見通していた筈なのにという衝撃。何よりもどうして彼がそこに居るかがわからない。
その時、発動していた白眼が、影分身たちで見えないように隠された穴を発見する。
彼ならば、気が付けたはずだったのに。彼ならば、分かることが出来たはずなのに。
どうしてか気が付かなかった。
まるで意識を逸らされたように、知らないうちに目を背けたかのように、その存在に気が付かなかった。
咄嗟に行おうとした回転は、しかし、先程行ってしまったがゆえに、発動には時間がかかり、迎撃は不可能。
何とか体を逸らそうとするが、待ってましたと飛び掛った影分身に動きを封じられる。
「しまっ…!!」
無防備な顎に向かって放たれた鋼鉄の拳が、体の芯まで届く。
びりびりとした衝撃と確かな手ごたえに、ネジはその場に倒れ込んだ。
しばらく、審判はネジの様子をうかがっていたが、強い衝撃で脳震盪が起きたらしく、ピクリとも反応しない。
審判はそれを確認すると高らかに叫んだ。
「勝者、うずまきナルト!!」
誰もが予想外の展開に息をのむ中、カトナは嬉しそうにナルトに手を振る。
それにいち早く気が付いて、ナルトもまた笑顔を返した。
「…逸脱の術、成功ってば」
にししと、ナルトがピースサインをカトナに向ければ、嬉しそうにカトナは何度もうなずく。
逸脱の術。その効能は目を逸らし、意識の蚊帳の外に置ける。
わざと白眼で手裏剣に化けた影分身を見抜かせることで、意識をそちらに集中させ、地面への警戒をおろそかにした。
影分身も言ってしまえば派手な搖動。本体であるナルトの居場所を把握させないための物。
ネジがもう少し冷静でいられれば、この術には対応できただろう。
けれど、ネジにとって今のナルトは直視しがたい物であり、目を逸らしたいものであった。
それが勝敗を分けた。
知らず知らずのうちに、一人、また一人が拍手をし、会場全体が拍手に包まれる。
会場の真ん中で、嬉しそうに拍手を送る観衆へ手を振りながら退場したナルトを、そこにいた忍びは注視し、そして誰もが驚愕していた。
足で印を組んだこと、というのは、それほどのことであった。
足の印は、すべての忍び達を困惑に陥れた。
無理もない。今まで常識であったことが、実は違っていたという衝撃は、筆舌しがたいものなのだ。
…例えるならば、自分たちが立っている地面が球体であったことを告げられたような衝撃なのだ。
それに困惑しない人間はいないだろう。
そして、この男…大蛇丸もまた動揺していた。
彼の長年の研究では、どう頑張っても印は手で組まなければ忍術は発動しなかった。
…うずまきナルト君、ねぇ。
たとえそれが彼が考えたものでないにしても、彼が行ったことは事実なのだ。
大蛇丸の興味を引くのは、それで十分だった。
今の今までカトナとサスケしか警戒していなかった大蛇丸が、ナルトを警戒してしまった、瞬間であった。
・・・
「ナルト、の、勝ち」
嬉しそうに笑ったカトナの頭を撫でた後、サスケは言う。
「次はお前の番だろ」
「ん」
背負っていた大太刀を鞘からするりと抜き放って頷いたカトナに、サスケは尋ねる。
「新術は使う気か?」
「ぎりぎりまでは、内緒。手のうちは、ばらさない」
「そうか」
しかし、拭いきれない違和感が彼の中に存在する。
カンクロウという男が、時折、緊張したようにカトナを見るのが気になって仕方がないのだ。
対戦相手を観察するという挙動は何もおかしいものではない。
が、自分の傀儡人形とポケットに入っている謎の小瓶に、しきりに視線をくれているのは違和感の一言に尽きる。
「…気をつけろ。多分、彼奴、お前になんかする気だぞ」
「なんか、って?」
「分からねぇ…。が、俺の対戦相手に関係あることの様だぜ」
ちらりと、今度は我愛羅に視線を向ける。
発動した写輪眼は我愛羅の動き一つ一つを見抜き、違和感の正体を看破する。
「…気分、わるそう?」
「というよりは、意識がもうろうとしてるんじゃねぇのか。さっきから視線が出鱈目な方向に向いたり、瞳孔が開ききってる時がある。…普通の時もあるみてぇだが。とってる挙動は寝不足の時と似てるな」
「ねぶそく…」
心配そうに我愛修羅を見たカトナに、しっかりしろとサスケは頭をはたいた。
同じ人柱力であるからか。割とカトナは我愛羅に対して、同情的というか優しい。
ナルトと年が近いというのもあるだろうし、自分と同じように姉がいるというのもあるかもしれない。
弟を守らなければいけないということが身に染みているカトナにとって、他人とはいえ弟であり年下である我愛羅にはつい気にかけてしまう。
その気持ちは分からないわけではないが、今はそれ以外に気を受けるなと、油断をするなよとの思いを込めて背中を叩く。
「彼奴の心配より、自分の戦いに集中しろ」
「分かってる」
頷いたカトナの名前が呼ばれる。
カトナは迷うことなく、そこから飛び降りる。
ぎょっと、普通にその場に来ていたカンクロウが目を見開いたが、カトナは気にすることなく、着地するときの衝撃を大太刀を地面につきたてることで殺す。
そのままくるりと宙返りし、足を地面につけると、今度はその力を逆に利用し、大太刀を地面から引き抜く。
見事なまでに洗練された動きを見せつけた後、ちらりと審判を伺う。
ゲンマははいはいと頷きながら、それではと腕を上げた。
「うずまきカトナ対カンクロウ、試合、始め!!」
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