無欠の刃
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下忍編
ヒナタ
カトナはリーの病室から離れ、本来の目的である病室を探していた。
予期せぬ我愛羅との遭遇で、徐々に病院の面会時間が終了に近づいている。
はやいうちに用事を済ませておかないと、と考えていた矢先、カトナは貸し切られた個室の一つを見つける。
流石に木の葉の名家のお嬢様だ。扱いが違うと思いながら、ノックする。
少しの間の後、どうぞという言葉と共に扉を開けたカトナは、次の瞬間、目を見開いた。
「犬塚。油女。なんでいるの?」
予想外のメンバーだと言わんばかりに瞬きを繰り返す。
どうやら、見間違え出ないことを確認した後、不思議そうに首をかしげたカトナに、シノは呆れたように言葉を返す。
「チームメイトが傷ついているのに見舞いに来ないわけがない」
「ああ。そっか」
チームメイトだったっけ、と彼女は首をかしげる。
カトナにとっての興味対象でないキバとシノは、あまり眼中にない。
というか、今回見舞いに来たヒナタのことも、彼女はあまり覚えていない。
彼女にとって人間のカテゴリは、ナルト、大切な人、ナルトの味方、敵、里の奴らだけで分かれる。
里の人間である彼らは、彼女にとってあまりどころか、まったく大切ではないのだ。
そんな彼女がヒナタを見まいに来たのは、ただナルトに頼まれたからだ。
ナルトは必死に、エロ仙人こと自来也にチャクラコントロールを教えてもらい、サクラに足の印の修行をつけてもらっている。
時間的にできるかできないか、一か八かの欠けである為、見舞いの時間が割けず、しかし心配する気持ちはつのる。そのため、割と暇を持て余しているカトナに白羽の矢が立った。
本当のところ、カトナも新たな術の構成を考えていたのだが、ナルトの前ではすべてが無意味である。
そう言う理由できたので、彼女は何の準備もしていなかった。
ん、と適当に花屋(もちろん、山中の店ではない。あの女や忍びが居るところにわざわざいくほど、カトナは自虐的ではない)でまとめてもらった花束を置いたあと、彼女はじろりと日向を見る。
経絡系が傷ついているのは確かだが、そこまで重くはないらしい。
所々に見える手加減した後に、なんだネジの奴、案外自分を制止できてたんだと思いながら、カトナはヒナタに向けてぶっきらぼうに言う。
「ナルト、から。大丈夫か。って」
「え、ナルト君が!?」
驚いたように盛んに瞬きした後、かぁぁと頬が真っ赤になっていく様子を見たカトナは、少し面白くなさそうにすねる。
ナルトが鈍感であるから、今のところは全然、まったく、これっぽちも、彼女の思いに気が付いていないが、この様子ならいつか気が付かれてしまいそうだ。
ナルトの恋路はナルトの恋路だが、自分の弟が誰かに奪われていくというのは、カトナにとってはあまり気分がよくない。少なくとも、山中に向ける感情と同じくらいには、苦手だ。
ヒナタはもじもじとしていたが、やがてカトナに向かって淡い笑みを浮かべる。
「私は、大丈夫だよ」
「そう」
沈黙。シノとキバが気まずげに視線を交し合う。
ヒナタとカトナはお世辞にも仲がいいとは言えないし、シノもキバもカトナとは仲が良くない。
というのも、シノもキバも一方的に、カトナのことをライバル視しているからである。
カトナはアカデミーの中でも、特に有名どころであり、同級生の間ではある意味、憧れの対象であり、同時にさきをいくものでもあったのだ。
だからこそ、カトナを負かすことは、同期のアカデミー生徒にとっては、超えなければいけない目的であるといってもいい。
そのためか。あまり彼らはカトナと話したことが無い。ので、今の沈黙は気まずいだけであって。
しかし、カトナと言えば、最早ヒナタには興味がないと言わんばかりに、さっさと去ろうとして。
「ありがとう、カトナ君」
その言葉に、カトナは何を言っているんだというような目を向ける。
私がここに来たのは、ナルトの為であって、お前の為では死んでもない。本当はこんなところ来る気もなかったけれども、どうしてもと頼まれたからだ。それ以外の理由はない。
そう、ありありと告げる彼女の瞳に、ヒナタは臆することなく笑った。
きれいに、笑った。
「ありがとう」
しばしの沈黙の後、カトナは勢いよく部屋の外に飛び出る。
ばんっと勢いよくしめられた扉に、キバが怒ったような声をあげたのをとらえながらも、カトナは振り向かず急ぎ足で歩いていく。
その頬は、サスケやナルトでないと見抜けないほど僅かに、赤い。
言われ慣れていないお礼に、向けられるはずのないお礼に、舌打ちを一つ飛ばし、立ち止まる。
振り返って、カトナは誰もいないことを何度も確認し、廊下で一人、聞こえるか聞こえないかくらいの、小さな声で呟いた。
「どう、いたし、まして」
反響した音は、きっと彼女には届いていなかった。
・・・・
「…まずは、術の構成」
カトナにはチャクラが圧倒的に足りない。必然、大技ではなく小技を多用する戦法が多い。
しかし、いまのカトナには少しずつでもいいから、大技を使えるようにならないといけない。
ぎりっと、歯を噛みしめ、あの姿を思い返す。
今からでも殺してしまいたくなるほどの憎悪が、彼女の体内に渦巻く。
大蛇丸。今のカトナが殺すには到底無理な相手。それでも、殺してしまいたくなるほどに憎い奴。
サスケを狙うという彼の言葉は、カトナの中でずるずると、まるで蛇のように全身を這いずりまわる。
「ナルトは…絶対に、傷付け、させない」
うずきだした呪印を抑え込み、カトナは無理矢理思考を振り払う。
「チャクラ使う、大技…。でも、使うには、足り、ない。なら…、なら?」
大技を使うにはチャクラが足りない。だから、発動できない。
ならば、そのチャクラ補えればいいのだ。ようは。
少ないチャクラを多くさせる方法を考えればいい。
今まで思考してきたそれを、しかし、今日は発想を転換させる。
自らを鍛えることでチャクラを増やすのではなく、術の効果によって増やそうと考えたのである。
これはある意味、発想の転換というよりは本末転倒といわれてもおかしくないだろう。
エネルギーを作るためにエネルギーを消費するのは意味がない。前人未到というよりは、皆がやろうとしてもやれなかっただけのことである。
けれど、だからこそ、カトナは考える。
発想を転換させ、思考を流転させ、なんとかならないかと頭をひねる。
そうでもしないと、彼女は自分がこの世界で生きていけないのを分かっているのだ。
そうでもしないと、自分がナルトを守れないのがわかっているからだ。
「…たとえば、相乗効果、なら」
累乗。塵も積もれば山となるのまさに言葉通りで、例え2であろうと、累乗し続ければ、それは莫大な数字となる。何かを何かと掛け合わせることで、チャクラを更に強大にする。
それは悪くない発想ともいえるが、しかし、何を掛け合わせればいいのだろうかと考えて、カトナは、ふと気が付いた。
生み合えばいいのではないか、と。
チャクラは主に五つの性質に分かれ、それぞれがそれぞれの性質を持つ。
火は風に勝ち、水にまける。
水は火に勝ち、土に負ける。
土は水に勝ち、雷に負ける。
雷は土に勝ち、風に負ける。
風は雷に勝ち、火に負ける。
これは五行思想から連なるものであり、五行思想とは火・水・土・木・金の五つから連なる思想だ。
五行にはそれぞれ面白い関係がある。
まずは、順送りに相手を生み出していく、陽の関係である相生。
木は燃えた時、火を生む。火が生まれるには木が必要であるという、木生火。
火によって物が燃やされたとき、灰が出来、灰は土にかえり、土はよりいっそう肥えて育つ。
土を生む。もしくは育てるのには火が必要であるという、火生土。
それにあわせて、土が金を生まれるのに必要という土生金。金が水を生まれるのに必要という金生水。水が木が生まれのに必要という水生木。
以上、五つのことがらをまとめて、五行相生という。
反対の性質であり、相手を打ち滅ぼしていく、陰の関係である相克というのもある。
木は土を痩せさせ、土を苦しめるという木剋土。
土は水を汚れさせ、水を苦しめるという土剋水。
水は火を消させ、火を苦しめるという水剋火。
火は金属をとかし、金を苦しめるという火剋金。
金は木を切り倒し、木を苦しめるという木剋火。
以上、五つの事柄をまとめて、五行相克という。
五大性質は五行思想と全く同じというわけではないが、少なくとも間違いというわけではない。
火は風によって大きく育つが、水によって消される。しかし、その水は土によって汚される。
少なくとも、ある程度はあっているのだから間違いである筈がない。
ならば、あとは五行思想と全く同じように作れればいいのだ。
「…発想は、逆転、すべき。五行相克、五行相生を使えば、可能」
五行相克。大きなエネルギーを打ち消すのに、小さなエネルギーでも消すのを可能にする考え方。
五行相生。小さなエネルギーからどんどん大きなエネルギーを作っていける考えかた。
カトナのチャクラは少ない。
ならば、簡単な話だ。
増やせばいいのである。
後書き
お久しぶりです。受験が終わったので更新を再開しました。これからもよろしくお願いします。
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