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義勇兵

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8部分:第八章


第八章

「少佐に」
「呼び方は変わるらしいがな」
 その上官はこうも言い加えた。
「それは気をつけておいてくれ」
「わかりました」
「それでどうする?」
 上官はあらためて彼に問うた。
「それでだ。どうする?」
「喜んで」
 即答だった。
「入らせて頂きます」
「そうか、それならだ」
「はい、宜しく御願いします」
 こうして彼はその警察予備隊、そこから航空自衛隊に入った。パイロット、そして司令官として活躍しそのうえで勤務を終えた。定年してからは民間企業に入った。
 定年してすぐにだった。日本の政治が大きく変わった。
「大陸とか」
「ああ、国交を結ぶらしいな」
 かつての同期と飲んでいる時にだ。この話を聞いたのである。
「どうやらな」
「共産党政権のか」
「そうだ、そこと手を結んでソ連とあたるらしいな」
「ソ連か。共産主義者と戦う為に共産主義者と手を結ぶか」
「何、難しく考える必要はない」
 その同期は素っ気無く述べた。
「深刻にはな」
「敵の敵は味方か」
 彼は一杯やりながら述べた。
「そういうことか」
「ああ、それだ」
「それで手を結ぶか」
「腑に落ちないか?」
 同期は彼の杯に酒を注ぎながら問うた。日本酒だ。
「それは」
「そうじゃないと言えば嘘になる」
 これが彼の返答だった。
「やっぱりな」
「そうか、やはり貴様はそう思うか」
「思うさ。しかしそれが政治だな」
「結論としてそうだ」
 河原崎に対する言葉だ。それを告げるのだった。
「それはな」
「そうか。納得はするな」
「納得するしかないだろう。そうか、共産党とか」
「国交を結ぶ」 
 同期はこのことをまた話した。
「国民党とは断交になるだろうな」
「それはもう決まっているか」
「それもまた政治だ。ただ」
「ただ?」
「国民党が共産党に負けて台湾に行ったな」
 話すのはこのこともだった。これは歴史的事実である。
「その前に国共合作もしていたな」
「二回な」
「それで国民党にいるが共産党員だったのもいるしな」
「大陸にもいるか」
「いるらしいな。まあどっちにしても敵だったけれどな」
 国民党も共産党も日本の敵であることには変わりがなかった。それも歴史的事実であった。彼等は互いに激しい戦いを繰り広げていたのだ。
「それでもな。今はソ連と戦うからな」
「それでか」
「ああ、それでだ。台湾とは断交するがそれでも交流は続けていくな」
 こんな話をしてであった。彼等はその中国との国交樹立について考えていた。それはもう決まっていることだった。そして河原崎はこう言うのだった。
 相手はその同期だ。彼は別の日に飲みながらこう同期に話したのである。
「思うところがある」
「何だ、急に」
「その中国に行ってみる」
 ビールを前にしてだ。こう話したのだ。
「頃合いを見てな」
「北京にか」
「俺はあそこで戦っていたからな」
 ふと言葉に郷愁が宿る。
「そこに行きたい」
「それで何処に行くんだ?」
「重慶は無理か」
 かつて戦ったその街だった。
 
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