義勇兵
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7部分:第七章
第七章
「重慶まで向かわせるのはな」
「確かに。南京を陥落させたまではよかったのですが」
「中々難しい。蒋介石もしぶとい」
これは日本側の予想以上だった。南京を陥落させてそれで戦争は終わると思っていたところがあるのだ。しかしそうはならなかったのである。
「実にな」
「そうですね。しかし」
「しかし?」
「何か今朝騒ぎがありましたが」
河原崎はここで話を変えたのだった。
「基地の外で。何があったのですか?」
「新聞記者達が騒ぎを起こしたのだ」
「またですか」
「そうだ、住民達からものを取り幼子を手篭めにしようとしたのだ」
そうしようとしたのである。司令はそれを実に忌々しげな顔で話していた。
「それでだ。憲兵隊に捕まってさらに暴れていたのだ」
「呆れた話ですね」
「そんなことをするのはあの連中だけだ」
「全くです」
「新聞記者は何だ?馬賊の集まりか?」
そうだというのである。実際に南京陥落の際等で新聞記者達のそうした行動が問題になってもいたのである。便衣兵、即ちゲリラを探し出し掃討したことを虐殺と誇張したのは後の世の新聞記者だが何故かこのことには頬かむりしている。
「それともゴロツキか?何だ?」
「わかりません。しかし何もなかったのですね」
「幸いな。それに至る前に捕まえた」
そうされたというのだ。
「記者は後でだ。本国に移送される」
「そしてお咎めなしですね」
「軍なら間違いなく軍法会議だ」
そうならないのが新聞記者の世界であった。それが戦後長い間続いていたということが実に恐ろしい。我が国のマスメディアに自浄能力は絶無である。
「それがないのだからな」
「恐ろしい世界ですね」
「連中については気をつけろ」
司令は釘を刺した。
「ああした連中はどんな悪事でもするしな」
「わかっています」
河原崎は今度は頷いて答えた。
「それでは。連中にはよく気をつけます」
「若しだ。戦いが終わってだ」
司令の顔がここで曇った。
「これは空耳と聞いてくれ」
「空耳ですか」
「そうだ、空耳だ」
慎重な顔をしての言葉である。
「空耳だ」
「わかりました、空耳ですね」
「その空耳だ。我々が戦争に敗れた時奴等はだ」
「今は我等の太鼓持をしていますが」
「間違いなく敵に寝返る。そうした連中だ」
司令は確信していた。新聞記者とはそうした連中だとだ。
「そして我々に対してあることないこと書くだろう」
「かつて罵った敵に媚びたうえで、ですか」
「そうしたことをする連中だ」
また話すのであった。
「それはわかっておくことだ」
「はい」
河原崎はまさかそこまでとは思っていなかった。しかし司令の空耳は戦後見事なまでに的中することになった。そして日本最大の権力者達として君臨し世論をミスリードし特権階級を形成していく。戦後民主主義とやらは彼等に牛耳られ意のままになる民主主義なのである。
河原崎は司令の空耳を受けて本国に戻った。そのうえで彼は本土に迫る爆撃機達と戦うのだった。そしてその本土で終戦を迎えた。
終戦を迎えた彼はまずは軍を離れて故郷で農業をしていた。しかしである。
すぐにだ。警察予備隊の話を聞いたのであった。
「空ですか」
「そうだ、空の方に来てくれるか」
こうかつての上官の一人から声をかけられたのである。
「貴様は最後は少佐で終わったな」
「はい」
「それならそのままでだ。入られるぞ」
「そうなのですか」
終戦時は大尉だったがその終わった時の一斉昇進で少佐になったのである。
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