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義勇兵

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9部分:第九章


第九章

「俺はあの空で戦っていたからな」
「行きたいか」
「今どうなっているか見たい」
 だからだというのだ。国交を結んだことにより行き来できるようになる、ならばそのかつて自分が戦っていたその場所を見たいというのだ。
「だからだ」
「じゃあ行くといい」
 同期はそれを止めなかった。
「是非な」
「ああ、じゃあ行って来る」
「そうしろ」
 彼にビールを勧めながらのやり取りだった。そしてだ。
 重慶ではだ。スコットと劉が会っていた。二人は役所にいた。そこで話をしていた。
「そうでしたか、共産党員だったのですね」
「お話していたと思いますが」
「すいません、あの時はそこまで見ていませんでした」
 スコットはこう劉に話す。二人共その顔には皺が出ていて髪も白いものが混じっていた。幾分薄くもなっていて歳を感じさせるものがある。
「申し訳ありません」
「特に秘密にしていた訳ではありませんが」
 劉は微笑んで述べている。スコットは今はスーツであり劉は人民服だ。今のそれぞれの姿で互いに話をしているのであった。
「そうだったのですか」
「はい、それでなのですが」
「それで?」
「如何ですか、久し振りの重慶は」 
 こうスコットに問うたのである。
「あの時は街に入ってはおられませんでしたね」
「はい、それは」
 なかった。それはである。
「上空で戦っていただけですから」
「では街中はかなり違いますね」
「上から見るのと全く違いますね」
「そうでしょう。ではこれからですが」
「はい、これからは」
「何か食べますか?」
 にこりと話してスコットに話すのだった。
「それで」
「それで、ですか」
「ここは四川料理ですよ」
「ああ、あの辛い」
「御存知ですね」
「戦争中は殆ど食べられなくて残念でした」
 スコットはその時のことを思い出して述べた。戦争の時は殆ど基地にいた。それに戦争中なのでいい食べ物は少ない。それでは四川料理を味わえないのも当然だった。
「ですから是非」
「お箸は使えますか?」
「一応は」
 そうだというのである。
「使えますけれど」
「では大丈夫ですね。行きましょうか」
「はい、では今から」
 こう話してだった。二人は役所を出てそのうえで街に出る。重慶の街はそれ程進んでいるものではなかった。少なくともスコットが見たあの時の中国とあまり変わってはいないように見えた。
 それを見ながらだ。彼はまた話すのだった。
「思ったより変わっていませんね」
「あの時とですか」
「はい、重慶に入ったのははじめてですが」
 それでもだというのだ。
「それでも」
「あの時のままですか」
「これから変わりますかね」
 そしてこんなことも言うスコットだった。
「この街は」
「少なくとも変えたいとは思っています」
 これが劉の言葉だった。
「そうは思っています」
「そうですか」
 まだ文化大革命の嵐が吹いていないわけでもなかったのだ。それで劉も言葉は慎重だった。中国も戦争の後で色々とあったのである。
 
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