八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二十二話 秋田小町その十
「遊び人でしかも借金はしない、暴力は振るわないっていうポリシーで」
「そうした人とのことです、ただ母が結婚前にお付き合いしていて」
「それで、ですか」
「別れた後。私を産んで」
「それでお母さんは今は」
「秋田にいます」
つまり実家にというのだ。
「そこに。そして」
「そして?」
「私が産まれてすぐに結婚して。今の父と三人で実家の稼業を手伝っていました」
「そうだったんですね」
「あっ、敬語はいいです」
ここで堀江さんは僕の口調にこう言って来た。
「同じ年齢ですし。ですから」
「だからですか」
「香織と呼んで下さい」
「わかりました、じゃあ僕も同じ歳だから」
話の途中でだ、僕は咄嗟にタメ口に変えた。
「普通に話してね」
「それでは」
「それで香織さんは」
「お母さんは作り酒屋の娘で上にお兄さんがいて」
「香織さんのおじさんの」
「そう、お兄さんのお手伝いをして親子三人で秋田に住んでいて」
お話を聞いていて作り酒屋を一族で経営しているのだと思った、そしてそこにたまたま酒好きで女好きのだ。
「幸せだったけれど。お母さんに実のお父さんのお話を聞いて」
「この神戸にいるんだね、本当のお父さんは」
「一度と思って。それでうちの作り酒屋は八条グループの傘下にあって」
「そのことからもなんだ」
「八条学園高等部に移って」
「八条大学でだね」
「勉強して」
そこから先があった、香織さんの言葉は。
「経営学とかを」
「作り酒屋の」
「そうなの、そう家族で。叔父さんも入れて」
そのお母さんのお兄さんのだ、多分その人が社長なのだと思った。
「そうして決まったの」
「それでお父さんは」
「ええ、お医者さんでお酒が好きで遊人らしいけれど」
それでもとだ、ここで僕に言った言葉は。
「筋の通った人だって」
「名前は」
「ええと、何かね」
「何か?」
「池田とかいったかしら」
「池田!?」
その名前を聞いて僕はぎょっとした。一見して関係のない名前だけれど違う、あの親父は浮気をする時に普通に偽名を使う。
そして池田はだ、その偽名の中で比較的多く使う名前なのだ。
「池田っていうんだ、お父さん」
「そうなの、池田勇人っていうの」
「ああ、そうなんだ」
話を聞いて本当に青が青くなるのが自分でもわかった、そのうえでやり取りを続けた。
「池田さんっていう先生なんだ」
「会えたらいいわね」
「そ、そうだね」
僕は蒼白になったまま香織さんに答えた。
「本当にね」
「ええ、じゃあ今日から」
「うん、今日から」
「宜しくね」
こうして僕と香織さんのはじめての会話が終わった、けれど。
その会話の後で僕は詩織さんと別れて午後の授業と部活を終えて八条荘に戻ってだ。畑中さんに香織さんのことを尋ねた。
「あの、今度来られた」
「はい、堀江香織様ですね」
「あの人もひょっとしたら」
「そうかも知れません」
畑中さんは僕の問いを肯定しなかったけれど否定もしなかった。
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