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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二十二話 秋田小町その八

「朝までね」
「一体何時寝てるのかわからない」
「そういう人なのね」
「とにかく無駄に体力があって」
 親父曰く日課のランニングで体力を錬成して身体にいいものを食べているかららしい。そして煙草も吸っていないからこそだと言っている。
「毎日ちょっとだけ寝てね」
「仕事して遊ぶ」
「そういう人なの」
「ルーデル大佐みたいだね」
 男友達の一人がこんなことを言って来た。
「それだと」
「ルーデル大佐って?」
「第二次大戦の時のドイツ軍のパイロットだよ」
 こう僕の問いに答えてくれた。
「スツーカで何百両もの戦車を撃破したっていう」
「一人で?」
「そう、一人でね」
 そうした人らしい。
「何度も撃墜されても生還して出撃して牛乳飲んで出撃してって人で」
「それはまた凄いね」
「うん、その人思い出したよ」
 うちの親父の話を聞いて、というのだ。
「凄い親父さんだね」
「体力的にもね。とんでもない親父だよ」
 冗談抜きで桁外れだ。
「ついでに言うと薬はしていないから」
「あっ、覚醒剤とか」
「そういうのは」
「何か覚醒剤打ったら一週間は寝ないで済むらしいけれど」
 そんな話を聞いた、僕はそれが本当かどうか知らない。
「親父お酒は好きだけれど煙草とか薬はしないんだ」
「そもそ薬やったら犯罪だしね」
「しなくていいね」
「うん、親父僕にいつも煙草は止めた方がいい、薬は絶対にするなって言ってたよ」
 半分冗談混じりでもだ、このことを言う時の親父の目はいつも真剣だった。そこに何か悲しいものも漂わせていた。
「何があってもって」
「それは正しいな」
「絶対にね」
「それこそヤクなんかやったら」
「人間御終いよ」  
 リアルな意味でだ。
「だから大家の親父さんわかってるよ」
「人の筋ってのがね」
「それだけでもな」
「本当に違うわよ」
「そうなるかな、結局は」
 例えどれだけとんでもないことばかりでの親父でもだ、暴力は振るわず借金はしないし人妻さんや幼女の子には手を出さないし麻薬もしない。
 そうしたことを考えるとだ、僕もそう思えてきた。それでだった。
 僕はお昼にだ、八条荘の皆と一緒に食べてからだった。解散したすぐ後に詩織さんを呼び止めてこう言った。
「ちょっといいかな」
「どうしたの?」
「うん、親父のことだけれど」
 ひょっとして兄妹かも知れないからだ、詩織さんに尋ねたのだ。
「今日クラスで色々言われたけれど」
「それでどうだったの?」
「うん、僕はいつもとんでもない親父って思ってるけれど」 
 それがとだ、皆で食べた学生食堂からだ。
 中庭に出ながら歩いてだ、こう詩織さんに言った。
「何かね、皆が言うにはね」
「違うっていうのね」
「うん、幾ら女好きで浪費家でも」 
 それでもだった。
「いいところが多いみたいだね」
「そうね、お母さんも言ってたわ」
 詩織さんもだ、自分のお母さんに言われていたことを僕に話してくれた。
「女好きで浪費家でもね」
「悪い人じゃなかったっていうんだ」
「そう言ってたわ、いつも」
「あんなにとんでもない人でも」
「そうなのよ」
「じゃあやっぱりそうなのかな」 
 僕はあらためてだ、こう言った。 
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