| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

誓約

 
前書き
パーティプレイ回 

 
~~Side of サバタ(幼少期)~~

海底洞窟にはアンデッドはいないものの、水棲のモンスターが多数生息しており、それをやり過ごしたり、倒したりして先に進んでいく。こんな所でも……いや、こんな海の底だからこそ突然現れるオクトパスの足には“星読み”も“真空波”も何度か捕まったが、その度に無事な人間が解放するという連携は自分でも意外な程噛み合っていた。
“真空波”の戦い方は、ゼロ気圧の衝撃波を任意の場所に発生させるもので、その威力は彼女に近ければ近いほど指数関数的に上昇する。つまり近接戦なら彼女は最大限のパフォーマンスが可能となるわけだが……戦闘の素人である彼女が敵に近づくのは逆に危険だ。なので“星読み”と同様に支援攻撃に徹してもらっている。

同じ魔女同士、“星読み”と“真空波”は両者とも仲良くしたそうだが、いまいち踏み込めずにそわそわしていて、傍から見てるともどかしかった。ま、それはいずれ時間が解決するだろう。

今から……その時間を手に入れる戦いをする。過去の過ちからエレンが今一度やり直すために、ビフレストの街を守りたいザジの慈愛を守るために、目的のために俺が『水竜の尾』を手に入れるために。

「見つけた……! ミズキの……皆の仇!」

「これが……!? 神秘の森で見た奴なんかより全然デカい…!」

「なに、オクトパスがいる時点で予想はついていた。相手に不足は無い」

海に通じた穴がある広場、鍾乳洞のような場所の中央で、元々高い自然治癒能力を促進させることによって傷を治しているクラーケンが丸まっていた。その大きさはイモータルにも匹敵する程で、単独で結界がある街を襲える力を蓄えるには十分過ぎるほどだった。

「しかし……このクラーケン、深い手傷を負っているな。俺でもこれほどのダメージを与えるのは一苦労だぞ?」

「でも……全然覚えてないわ。……そうだ、今の内に言っておく。もし私がまた暴走しそうになったら、背後からでもいい……私を撃ちなさい」

「え、エレン……それは覚悟の上で?」

「これ以上、私のせいで犠牲を出したくない。二人はいつでも私を切り捨てるつもりでいて。一緒に戦うなら、それを守って欲しい……お願いよ」

戦いで自分の命が換算に入っていない思考。そこまで追い詰められているエレンの決意は、会ったばかりの俺達の言葉なんかでは決して変えられない。ヒトらしい(・・・・・)思考の持ち主なら、自殺願望とも言える今の言葉を認められないだろう。だが、生憎俺は暗黒に染まった人間だ、普通じゃない。

「わかった。もし暴走する兆候が見られたら、その時は俺が撃つ。いいな?」

「うん……ありがとう」

「二人とも……うちにはどうしてもわからないよ。どうしても……」

「ザジ……あなたまで気に病まなくていいわ。それに……この“誓約”こそ、私が“ヒト”である最後の砦……これを破ったその時、私は真の意味で“バケモノ”となる。これが無ければ、私は私である事を認められない。もう、認められないの……」

「そんな……」

「ショックを受けるのは構わないが……来るぞ!」

流石に長く話し過ぎたのか、クラーケン変異体がこちらに気付いてしまった。だが以前のエレンの暴走が余程激しかったのか、ヤツは彼女に対して大きな警戒を抱いているようだ。それならそれでこちらに都合が良い。未だに手を出してこないクラーケンの足を挨拶代わりに一本、暗黒独楽で切断する。
普通のイカには10本の足があり、クラーケンも同じ。しかし問題は、切り落としても本体を始末しない限り何度でも再生してしまうことだ。実際、足の切断面が躍動し、普通の生物ではあり得ない速度で再生し始めた。この分なら1時間程で元の形に戻るだろう。

「軟体生物はこういう所が面倒だ……」

「サバタ!」

“星読み”の『インパクト』がクラーケンの胴体に放たれ、表面がへこむ。単に衝撃を与えても、軟体生物にまともなダメージは通らない。だがそれでも、攻撃を逸らしたり、気を散らせたりする事は出来る。彼女に他の足を差し向けるクラーケンだが、それは“真空波”によって阻まれる。

「ミズキの仇……今こそ果たして見せる!」

彼女の力はゼロ気圧の爆発をクラーケンの足のすぐ傍で発生させ、ねじり切るように次々と切断していく。エレンに迫る攻撃はザジが抑え、効果的に反撃していくコンビ。後ろを任せるには十分だ。

出来るだけクラーケンを引き付けてから一気に迫った俺は、暗黒ショットを同じ場所に連射してヤツにじわじわと圧力をかける。耐え切れず大きくひるんだ所で、“真空波”がクラーケンの顔面にゼロ気圧ボムで追撃し、見上げる程巨大なイカの体躯がひっくり返る。それによって足に囲まれたヤツの口が……大量の血肉が葬られた大穴が俺達の目に映る。

「今だ! 全員一斉に攻撃しろ!」

暗黒スプレッド、インパクト、ゼロ気圧ボム、の雨あられ。秘部をこじ開けられ、更に猛攻撃を受けたクラーケンは耳障りな声を上げて苦痛を訴えてくる。凄まじい威圧感を発しながら足をばたつかせ、それに“星読み”と“真空波”が巻き添えを喰らって洞窟の壁に叩き付けられる。

「きゃあッ!」

「痛ッ!」

二人の悲鳴が耳に響くが、今駆け付ける訳にはいかない。元々クラーケン相手では正面からの勝利は厳しいものだった。ここで二人の所に行けば勝機は容易く失い、復活したクラーケンによってビフレスト北区のように俺達も殲滅される。しかし様々な要因が重なってクラーケンが動けない今だからこそ、まだ勝機が残っているのだ。

エネルギーを摂取したてで変異の促進による自壊までかなり時間がかかったものの、変異による体形の変化が上手いことクラーケンの復帰の邪魔をしてくれたおかげで、何とか反撃されることなく自壊させ始める事が出来た。おかげで暗黒銃のエナジーも切れたが、放っておいても自滅するまで変異を進められたのだから問題ない。
まだもがいているクラーケンから視線を逸らし、さっき薙ぎ払われた二人の所へ駆け寄る。

「大丈夫か?」

「何とか……」

壁にぶつかった時の態勢が良かったようで、クラーケンの攻撃の威力に対してエレンは比較的軽傷だった。しかしもう一人、ザジは……。

「いたい……腕が……痛いよ……!」

彼女は右腕の関節が変な方向に外れていた。エレンと違って当たり所が悪く、骨折してしまったのか。俺はすぐさま止血剤で出血を止め、消毒液を塗る。その痛みで彼女は顔を歪めてその壮絶な痛みを伝えてくるが、体内に暗黒物質が入らないように治療は迅速に行わなければならない。

「あと、固定材となるものを何か……ッ!」

洞窟の周囲に視線を彷徨わせると、洞窟の最深部に青くフロスト属性が秘められた頑丈そうな尾を見つける。多分これが俺の探していた『水竜の尾』だろうが、今は固定材として使わせてもらおう。

すぐに確保したそれを固定材としてザジの患部に付け、包帯を巻いていく。痛みで呼吸が激しい彼女は、涙混じりにこちらを見つめるが、その目に非難や後悔といった念は感じられなかった。ただあるのは……“無力感”だった。

「はぁ……はぁ……サバタ、ごめんなぁ……うち、迷惑かけてばっかで……」

「バカな事を言うな。誰か一人でも欠けていれば、クラーケンは倒せなかった。おまえは迷惑なんかじゃないし、無力でもないぞ。このバカ」

「ほら……またバカって言った。魔女でもうちは繊細な女の子なんだから……っ~! もっと優しくしてよ……」

「これでも精一杯優しくしているつもりだが? 応急処置の痛みなら我慢するしかない」

「あ~あ……痛みも無く、怪我が治ればいいのになぁ」

「そんな都合のいい魔法があるものか……」

後にそんな魔法が異世界で実際に存在すると知るのだが、あったらあったで色々思う所があったのは別の話。

「ミズキの仇……結局あなたが討ってしまったわね、サバタ」

今なお断末魔の声を上げ続けながら暴れているクラーケンを、エレンが憂いのこもった表情で言う。

「……全員生きて勝ち、おまえも親友の仇も討てたのだから、最良の結果じゃないか」

「そう……ね。ミズキも……犠牲になった人達も少しは浮かばれる……といいわ。私なんかが死んでいった皆の気持ちを考える資格なんて無いんだろうけど」

「少なくともビフレストの街はまた襲われる心配が無くなった、それで満足しておけ」

「……ううん、私の心はきっと皆に償いきるまで満足しないし、させちゃいけない。だから……」

自傷癖が激しくなってきたエレンが気の毒に思えて、気を向けた……その時。

ドゴォォォンッ!

「あ……しまった! クラーケンが洞窟の壁を!」

目を見開いたエレンが言った通り、最後の悪あがきのせいで洞窟の壁にクラーケン自慢の足が衝突して穴が開いてしまう。凄まじい振動と共にそこから海水が流れ出し、洞窟に水が溜まって行った。こんな置き土産を残してクラーケンは力尽き、砂状に散っていくのだが、ヤツのせいでかなり危険な状況になった。

「エレベーターは無事なのか!?」

「私が見てくる!」

エレンが来た道を戻って様子を見ている内に、自力で動けないザジを出来るだけ痛みが出ない様にゆっくりと立ち上がらせて支える。すると予想より断然早くエレンが戻ってきた。

「いくら何でも早過ぎないか? どうした?」

「大変……さっきの衝撃で来た道の天井が崩れてる。そこからも海水が入ってきていて外に出られないわ!」

「な……!? じゃあうちらはここで溺れ死ぬってこと……!?」

ザジが愕然と言い、エレンは責任を感じて落ち込んでいる。確かにこれは絶体絶命だ、このままここにいれば子供の溺死体3人分が完成するわけだ。

「ごめんなさい……私の復讐に付き合わせた事で、二人まで……」

「いや……うちの治療なんかに時間をかけてたから、そのせいで……だから悪いのはうち。サバタ、エレン、ごめんなぁ……」

「……懺悔大会をするのは構わないが、それは今じゃなくて死後の世界でやれ。生き残る方法なら、まだある!」

『え!?』

驚愕の面持ちで見てくる二人に、俺は洞窟の奥にあった海へ通じる穴を目で示す。クラーケンが外に出るのに使っていた道だ、人間が通り抜けられる可能性だって十分存在する。しかし問題は地上に出るまでの距離だ。あまりに長ければ息が続かず、結局溺死する。だが来た道が塞がれた以上、外に通じているのはここだけだ。

「尤も、かなり賭けに近い。脱出できるかは天運任せだな……それでも俺は行くが、どうする?」

「……私は行く。犠牲になった皆が用済みになった私に死んでもらいたいのか、それともまだ生きて償ってもらいたいのか、確かめたいから」

「う……うちも行きたいけど……泳げないんだよ。右腕の骨折もあるし、どうしよう……」

「なら、おまえは俺が運ぶ。目と口を閉じて、しっかり掴まっているんだ」

「でも……」

「俺を信じろ、ザジ。おまえは生きるべき人間だ、絶対に何とかする」

「…………わかった、信じるよ。この命、あなたに預ける」

「もう時間が無い、行くよ!」

腰まで上がってきた水位からここが完全に水没するまで間もない。ザジがしっかり掴まったのを確認し、俺とエレンはクラーケンが通ってきた穴に向かって飛び込んだ。首元に彼女の存在を感じながら、いざ潜ってみると……先には暗い闇しか見えなかった。
真っ暗な道のり、一秒も先が見えない未来、本当に正しい道を通っているか不明で精神を揺さぶられ、来た道までもとっくにわからない。この暗闇は俺達の今後を表しているのか……それとも何をしても無駄だという暗示なのか……。

だがそれがどうした? やれるだけやる、それで駄目なら結果を甘んじて受け入れよう。しかし、今はくたばるわけにはいかない理由がある。俺の背には“彼女”と同じ存在がいる。こんな所でみすみす死なせてたまるか!

だが……俺の決意など気にも留めず自然の濁流は更に激しさを増し、水中でまともに動けない俺達は翻弄されるのみ。背後から圧倒的な水流の力で押し出され、体力を一気に持っていかれてしまった俺は、抗うことも出来ずに意識が落ちかける。何とか背負っていた彼女を離さない様に抱き締めた所で、水の闇に俺達の姿は消えていった……。









「ゲホッ! ガハッ! ……外?」

俺は……まだ生きているのか? あんな所から生還するとは、いよいよ俺の肉体も人間離れしてきたものだ。しかし、よりにもよってこんな海のど真ん中を漂流している所で目覚めるとは、果たして運が良かったのやら悪かったのやら……。

周りには恐らくビフレスト北区が破壊された際に流された流木や家の破片が浮いており、その一部にエレンの身体は打ち上げられていた。小さく呻き声が聞こえてきたから、少なくとも死んではいないようだ。そして気絶間際に抱き留めたザジは……、

「う……あ……?」

俺の腕の中で意識が朦朧としながらも、彼女は確かに生きてくれていた。この時、俺は柄にも無くほっとした。自分でも意外な程、彼女の存在が俺の中で大きくなりつつあるのかもしれない。しかし……“彼女”以上になる事はあり得ない。俺の心は既に“彼女”に注がれているからな……。

「起きろ」

「……サ……バタ?」

「ああ」

「うち……生きて……って!? あぁ~!!?」

「?」

「ううううう、うち! 男の子に抱かれ……あ痛っ!!? 腕が、腕がぁあああ!!?」

「はぁ……こんな時でも騒がしい奴だ」

赤くなったり泣いたり、表情の変化が激しいザジだが……そういう素直な反応が面白い。

「そっか……私……」

「そっちはどうだ、“真空波”?」

「……死んだはずのミズキと会ってきた。あれは……ただの夢だったのかしら? 私の生んだ妄想が形をとっただけなのかしら?」

「何の話だ?」

「ミズキがね……私に『生きて』って。せっかく助かった命を無駄にするなって……。あれが本当にあった事なのかわからない。だけど……それでもミズキがこうまでして伝えてきたんだから……私、生きる。生きてやる……たとえ地獄に墜ちようとも、この世が滅ぶまで、私は……生きて見せる」

どうやら臨死体験をしたらしいエレンだが、以前と違った彼女の瞳から狂的なまでの意思を感じる。仇を討って彼女の心がどう変化したのか、俺には考え付かないだろう。

「この世が滅ぶまで、か。ある意味、そう遠くは無いかもしれんな……」

「かもね。だけど……それでもなお、この世に滅びが訪れないのであれば……私は……」

「“真空破”、今その問答は無意味だ。その先はこの状況から脱してからにしろ」

陸地が遠く、かすんで見えるぐらい沖に流された俺達が果たして無事に戻れるのか、若輩の意見だが正直に言うと厳しいと思う。水の中は思った以上に体力を消耗する。泳いだところで恐らく陸地にたどり着く前に力尽きるし、波の力で進んだ以上に押し戻されるに違いない。

「ね、ねえ……二人とも……あれは何だろう?」

震える手でザジが指し示したものは……かなり古びた大きな船だった。武装している所から察するに、この船は恐らく……。

「船? にしてはボロボロねぇ……」

「何でもいい、とにかく水から上がろう」

幸いにもロープが甲板から垂れ下がっている。エレンを先に登らせて、俺はザジを背負って後から登る。ぐったり力が抜けている彼女は服が水分を吸って普段より重く感じたが、逆にこれこそが命の重みだと実感する。だから……、

「相手が幽霊だろうと、こいつだけは守る」

甲板にはゴーストが一体、色違いの海賊帽を被ったスケルトンが三体、待ち構えていた。こいつらはアンデッドのようだが、自我が芽生えたタイプのようだ。やはりこれは海賊船だったか。

「ヒュ~! 勇ましいねぇ! だけどオレさま達はおまえ達に危害は加えねぇ。むしろアニキたちと一緒に礼をしに来たのさ」

下っ端らしいゴーストが向上を述べてくる。

「礼……とはどういう意味だ?」

「オマエたち、この下の巣にいたクラーケンのイカ野郎を倒してくれたんだろう? そうじゃねぇとこんな海のど真ん中からいきなり湧いて出た説明がつかねぇ、ってアニキたちが言ってんだ。オレさまたちもアイツにはこの船も何度か襲われた事があって、ほとほとまいってたんだ。感謝するぜ!」

「成り行きの結果だ。礼ならそこの“真空波”とザジにも言ってやれ」

「あいよっ。将来有望な嬢ちゃんたち、この船を守ってくれてありがとな!」

「私はただ仇を討っただけよ、感謝される筋合いはないわ」

「まさかアンデッドからお礼を言われるなんて……うちも数奇な運命に巻き込まれたものだね」

「そんなワケで! 海を渡るならアニキたちが送ってくれるってさ! アニキたちがこう言ってくれるのはスンバラシィ名誉なんだぜ!? 光栄に思えよ!」

……RPG風に簡単に言えば、船が手に入ったようなものか。まだ続く旅路の事を考えると実にありがたいな。アンデッドを街に入れる訳にはいかないから、陸地には俺達だけで上がる事になる。ま、それでも十分だ。

「……ザジ、力は使えるか?」

「右腕が使えないけど、やってみるよ。それと……もう降ろしても良いよ」

「すまん、つい背負ったままなのを忘れてた」

「もう……。……でも……またおんぶしてくれたら嬉しいかな」

耳元でそんな事を小さく呟いてくる彼女を、ひとまず甲板上に降ろす。彼女は左手で杖を握り、天に掲げる事で、“星読み”を行った。

「……読めたっ! ここから南の島、山の中腹にある火口付近への近道の途中、そこに次の探し物があるよ!」

「今回の“星読み”は随分位置が細かいな。どうやら星読みの腕も上がったようだな」

「素直にそう褒められると、流石のうちも照れるわぁ~! 年頃の乙女をナチュラルに口説かないでよ~♪」

「……ふぅ」

「ため息つかないでよ……空元気でも明るくしないと、うちはサバタのように強くないから、不安で心が押し潰されそうになっちゃうんだよ……」

「…………そうか」

魔女の力がある以外は普通の少女として育ったザジは、きっと誰よりも他人を気遣い、誰よりも優しい人間だ。俺のように戦いに特化した精神をしていないから、当然心の弱さも吐露する。しかしそれは真に“弱い”訳では無い。自分の弱さを口に出来る、それは“強さ”なのだ。
俺は……どうなんだろうな。“弱さ”に負けない“強さ”を求め続けているが、果たしてそれで“強い人間”になれるのだろうか? 今はわからないが、この道が間違っていると自分でそう思ったなら、その時は彼女こそが俺を導いてくれるのかもしれない。

「南の島か……不謹慎かもしれないけど、バカンス出来そうね」

「海で遊ぶの? うち片腕折れてるけど、大丈夫かな?」

「その件だが……安全ならしばらくそこで休養を取ろう。流石に骨折したまま旅を続けるわけにはいかないしな」

「あ……ありがとう……」

「私もあなた達と親睦を深められる良い機会になるわ。一緒に旅をするのなら、互いに仲良くなっておきたいもの」

「え? エレンも一緒に来てくれるの?」

「あら、私が旅についてくるのがそんなに意外?」

「そ、そんなつもりじゃないって……」

「仇を討ったのだからビフレストに戻ると、俺はてっきり思っていたが?」

「まあ……そうね。でも今、あの街に戻るわけにはいかない。私がいたら余計な火種になってしまう……でも、ほとぼりが冷めたら街の再建を手伝うつもりよ。罪の意識がある以上、それぐらいはしておきたいもの」

「そうか……確かに今は離れていた方が良いな。彼らも落ち着く時間が必要だろうし」

「じゃあ改めてこれからよろしくね、エレン!」

「こちらこそ、足手まといにならないように尽力させてもらうわ」

正式にエレンが仲間になった事で、ザジが凄く喜んでいた。女友達が出来て嬉しいのだろう。
さて、目的地は南の島の火山、内部だ。しかも今回は途中までで良いらしい。それなら俺一人で探しに行っても危険は無いかもしれん……二人に休息を与えられる良い機会だな。

・・・・・・・・・・・・・・・・

~~Side of サバタ(一時休憩)~~

「ま、クラーケンとの戦いはこんな結末を迎えた」

「話の流れから察するに、次は水着回なん? 海賊船でバカンスに行くって不思議な感じやねんけど」

「確かに二人は浜辺で休息したが、その時俺は探し物……『火竜の牙』を手に入れるために火山へ一人で行ってたからな。二人が何を話し、何をしていたのかは知らない。だからどうしても知りたいなら本人に訊くしかない。……記憶があるか不明だが」

「不明って……じゃあ覚えてないってこと? どうして……今私達に話してくれてるから、サバタ兄ちゃんはちゃんと覚えとる。なのに一緒に旅したザジさんやエレンさんは覚えとらんの?」

「その文には少し訂正がある。エレンは覚えている、恐らく。ただな……ザジはある事件が原因で、その件を忘れてしまっているのだ」

「事件って……ザジさん、もしかしてなんかヤバいことしたん?」

「それも含めてこれから話す。が、長く話して喉が渇いた。しばらく休憩させてくれ」

そう言って台所に水を飲みに向かう。これから話す内容はエレンの時と同類だ。ここにいる彼女達にとって衝撃が強いだろうから、少し落ち着く時間が必要だと考えたのだ。
ちなみに当時、南の島にはザジの骨折が治るまで滞在したのだが、激辛麻婆豆腐を食べさせて涙目になったり、その件がきっかけで辛党になったザジに料理を教えたりするという何でもない日々を過ごしている。言い換えれば俺達三人が最も平穏に過ごせた時間でもあった。だが……その思い出は表に出さず胸に秘めておきたい。

「今更やけどこのパーティ、なんか全員危うい精神しとるなぁ」

「特にエレンの言動が気になる。『この世に滅びが訪れないのであれば……私は……』、彼女はこの先に何を言おうとしたのだ……?」

はやてとネロだけでなく、居間に集まっている彼女達はエレンの今後に一抹の不安を抱いているようだ。しかし……今のエレンがどうなっているのか、それを確かめる術は無い。彼女が“こちら側”に来ているのなら話は別だが……。

「ふぅ……一息入れた所で、少し話の時を飛ばすぞ。黒ひげ三兄弟の海賊船の助力で、俺達は『火竜の牙』を得て、ザジの治療にも十分な時間が経った。それで俺達は最後の触媒『風竜の翼』を求めて旅を再開した……」

 
 

 
後書き
島イベントはなのは達に伝えたい事が無く、サバタが話さなかったので、こういう形になりました。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧