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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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決着

 
前書き
タイトル通りに決着回 

 
~~Side of なのは~~

「ちぃっ!!」

「ようやく捉えたぞッ!!」

異次元転移先を先読みしたユーノ君のチェーンバインドとクロノ君のリングバインドがラタトスクを縛り、最大の攻撃を当てる絶好のチャンスが巡って来た。

「今だ、なのは! 君の最大の一撃をヤツに放つんだ!!」

必死の思考の末、二人が作り出したタイミングに応えようと私はレイジングハートをキャノンモードにシフトさせる。だけど今の私にはさっきみたいなディバインバスターを放つ魔力は残っていない。でも……この空間にはこれまでの私たちの戦いで大量に散らばった魔力が漂っている。妙に黒ずんでいる魔力だけど、これを集めて利用出来れば……!

「きさまらぁ……人間ごときがっ!!」

「人間の底力を甘く見過ぎた。それが貴様の敗因だ、ラタトスク!」

「確かに僕たちは太陽の力を使えないさ。でも、それで勝てなくなる訳じゃない!」

「そうだよ! だから見せてあげる! これがディバインバスターの新しいバリエーション!!」

周囲から取り込んだ魔力も、私のリンカーコアから引き出した魔力も、その全てをレイジングハートの先端に集中させていき、極大規模な魔力の塊が発生する。照準をバインドを打ち破ろうともがくラタトスクに向け、私は万感の思いを込めて引き金を引く。

「これが私の全力全開ッ!! スターライト……ブレイカァー!!!!」

私の魔力光である桜色をした巨大な砲撃が圧倒的な威力を誇って放たれ、ラタトスクを砲撃の奔流に飲み込む。それは凄まじい衝撃を伴って時の庭園を揺らし、対象を殲滅するのだった。

「はぁ……はぁ……見たか、なの……!」

砲撃によって巻き上がった煙を前に、私はそう言葉を叩き付ける。いくらイモータルでも今の砲撃を受けて無事では済まないはず。ここまでやったら洗脳も解けて、お兄ちゃんと戦っていたお父さんは今なら正気に戻っているかもしれない。そんな期待を胸に二人の方を振り返る。

「ウァアアアアア!!!」

「くそっ! 洗脳が解けたとしても、アンデッドとして既に理性を奪われてしまったのか!?」

私の視界の向こうで、二人はさっきより激しさを増して剣をぶつけ合っていた。戦いは風のような速さで行われていて、私の目では二人の輪郭しか見えない。そんな……ここまでやったのに、お父さんはもう元に戻らないの?

バシバシィッ!!

「ぐあっ!!」

「うぐっ!!」

鞭を叩きつけたような音が2回響き渡り、その音と同時にユーノ君とクロノ君の呻き声が胸を痛めていた私の耳に届いた。この鞭の音はついさっきまで何度も聞いていたから、まさか……!

「はぁ、はぁ、はぁ………この小娘が……よくもこのわたしにっ……!!」

「な……ラタトスク!? ど、どうして……あの攻撃を受けて立っていられるなんて……!!」

白装束も相当擦り切れてボロボロになっていて、身体の所々が煤けているけど、それでもラタトスクは五体満足で立っていた。

「フ、フフ……わたくしが人間を甘く見過ぎていたのは認めましょう。しかし、あなた達もイモータルを甘く見過ぎてはいませんか? 我らイモータルは不死の軍団! あなた達の魔法に暗黒の力を少々込めた程度で倒せるなどと思ったら大間違いです!」

それでもダメージは少なくなく、先程の余裕綽々とした態度は崩れていて、睨んでくる目は狂気に走ってぎらつき、その殺気で私の身に冷たい汗を流させた。私たちの魔力が暗黒物質に弱いのは知っていたけど、何も全てが通らない訳じゃない。なら諦めずにもう一度チャンスを作って、それでSLBを―――

――――ドクンッ……!

「え………うぐっ!」

突然心臓が激しい鼓動をした次の瞬間、全身に凄まじい悪寒が走って私は胸を抑え、思わず倒れ込んでしまう。な、なんで……!? リンカーコアには異常はない……魔法の感覚はちゃんとある。なのに急に全身がマヒした様にまともに言う事を聞かなくなってしまった。

「フフフ……ハハハハ! これは傑作ですね! まさかダークマターを自ら取り込んでいた事に気付いていなかったとはね!!」

「私が……ダークマターを……? いつの間に……!」

「先程のスターライト・ブレイカーという魔法、あれは周囲の魔力素を集めて放たれる集束砲撃です。ここには確かにジュエルシードから漏れ出した魔力や、あなた達が使い捨てた魔力が漂っています。しかし、同時にこの場所にはヴァナルガンドが放出し続けていた暗黒物質も存在している! それをあなたは魔力を集める際、一緒に吸収していたのです! 普通はこの量の暗黒物質に触れた程度では吸血変異を起こしません。ですがあなたは集束を行った事で、ヴァンパイアに噛まれたのと同じ量の暗黒物質を全身に浴びた! もうすぐあなたの身体は吸血変異を引き起こし、我々の同志へと生まれ変わるでしょう!」

「そ、そんな……あうッ!」

ラタトスクの指摘に思い当たる節があった私は、呼吸が乱れながらも思い返す。大気中に漂っていた妙に黒ずんでいた魔力、きっとあれが暗黒物質の混じった魔力だったんだと思う。知らず知らずのうちに魔法に暗黒の力を込めた事が、ラタトスクの予想外のダメージを与えられた理由なのだろう。でもその代償として私は……!

「ですが! わたくしにここまで刃向かった分、あなたには後悔してもらわなくては気が済みません! 今、その罰を受けなさい!!」

「ッ! ら……ラウンドシールド!」

かろうじて絞り出した魔力を使って私を覆うシールドを展開する。次の瞬間、ラタトスクが鞭を叩きつけ、シールドに衝撃が伝わってくる。ユーノ君達が倒れている今の状態では自力で身動きが取れないのもあり、シールドに魔力を送り続けて受け止め続けるしかなかった。

「人間っ!! ごときがっ!! よくも!! このわたしにっ!!」

言葉を区切る度に振るわれる鞭、その度に衝撃でシールドが震える。だけどシールドの強度にも限界があり、そう何度も耐え切れるものではない。一発一発でシールドにヒビが入っていき、亀裂が大きくなっていく。暗黒物質が身体を蝕んできている影響で集中力も損なわれていて、次第に目の前に何度も迫る鞭に私は恐怖を抱いた。精一杯耐えてきたけど限界が訪れてシールドが砕けた時、私は必死に願った。

「助けて――――――――お父さん!」

「身の程を知れっ!!」

ラタトスクの怒りの鞭が迫り、痛みに備えて身を縮める。だけどしばらく待っても鞭の痛みが襲ってくる事は無かった。ゆっくり目を開けて見てみると……、

「なのはを傷つける奴は……この俺が許さない!」

ラタトスクの鞭が小太刀で両断されていた。それをやったのは黒いスーツを着たヴァンパイア……お父さんだった。

「馬鹿な……! 月光仔の血も引いていないただの人間がわたしの支配を打ち破ったと言うのか! 高町士郎!!」

「お、お父さん……!!」

「すまないなのは、怖い思いをさせてしまった。後は任せてくれ、行くぞ恭也!」

「ああッ!!」

「おのれぇ……! どいつもこいつも……!!」

思い通りに行かなくなっている現状にラタトスクは苛立ちを抱き始めていた。お父さんとお兄ちゃんはその有利を見逃さずに、怒涛の攻勢に出始める。だけど私は体内の暗黒物質の浸食のせいで、頭がグラグラして意識が朦朧としていった。このままじゃ闇に堕ちる……そう思った、その時だった。

「アンコークッ!!」

ギィィィイィィィイィィィ!!!

フェイトちゃん達が戦っていたヴァナルガンドの方から、はやてちゃんが無事だと信じていた“彼”の声が聞こえた。ヴァナルガンドの胴体を突き破って出てきた“彼ら”は前は持っていなかった大剣を、アクセル全開で突っ走るバイクの上から振り下ろし、偶然か必然か正面に居たラタトスクをすれ違いざまにぶった切った。

「グァァアアア!!! ば、馬鹿な……! 貴様達まで、ヴァナルガンドの支配から抜け出しただと……!!」

「フッ……策に溺れたな、ラタトスク。これで借りは返したぞ」

「クッ……ウッハッハッハッ!! いいでしょう、イモータルにとって人間の寿命など、あまりに短いものです。特にあなたのはね! それに此度の機会を逃しても、浄化される心配がない以上、わたしは無限にやり直す事ができる! そう、どうあがいても人間は敗北する定めなのです!」

「さて、それはどうかな?」

不敵に笑うサバタさんの表情にラタトスクは訝しい目を向ける。しかしそれは次の瞬間、驚愕に彩られることとなる。

「フェイト! 詳しい話は後にして、早くトランスするよ!」

「え!? えっと……うん!!」

『太陽ぉー!!!』

バイクに一緒に乗っていたフェイトちゃんに似た女の子が駆け寄ってきたフェイトちゃんと合身して、フェイトちゃんのバリアジャケット姿が、全身が燃えるように輝く姿に変わっていた。あれはまるで、小さな太陽……!

「あ、あり得ない! 彼女は太陽仔の血を引いていないただの人間! それがどうして太陽少年と同じ姿に……!!」

焦ったようにラタトスクはしびれ薬が塗られてるチャクラムをフェイトちゃんに投擲しようとした。しかしそれは……緑色の鎖と水色の輪に縛られて止められた。

「僕たちを忘れてもらっちゃこまるよ!」

「ただの人間の意地を、思いしれ!!」

『はぁぁあああ!! ソルフレアッ!!』

「この……ガキどもがぁあああああああ!!」

フェイトちゃんが放った神速の如きスピードの突進が、ユーノ君とクロノ君のバインドに捕えられたラタトスクに直撃し、当たった部分から奴の体が黒い煙を立てて崩れていく。形勢不利を悟ったラタトスクは悔しそうな顔で異次元転移を使って撤退、この場から消え去った。それを見届けたフェイトちゃんはトランスを解除し、さっきの女の子と分離していた。

「今のは……それに君は……」

「なのはちゃん!」

サバタさんと同じく助かったすずかちゃんが倒れている私の所に駆け寄ってくる。でも私はもう全身が痙攣し始めてまともに声を出せず、返事をすることすらできなくなっていた。サバタさんが私の様子を見て深刻な顔で皆に言う。

「大量の暗黒物質を浴びたせいで吸血変異が進行している……アンデッド化までもう時間がない!」

「そんな……何とかならないんですか!?」

「彼女の命を助ける方法は……ある。月村すずか、おまえが開花させた月下美人の力、それを使えばあるいは……!」

「私の……力?」

「俺も今回初めて知ったが、月下美人の能力には個人差があるらしい。よって、俺の使い方ではなのはを救うことはできない。ゆえにこの世界の月下美人に目覚めたすずかの力に賭けるしか方法はない!」

「…………わかりました!」

意を決した表情ですずかちゃんは「ごめんね」と言ってから、私の首筋に噛みついた。するとすずかちゃんに吸血されていく程、私を蝕んでいた暗黒物質が沈静化していき、いつもと違う彼女の赤い瞳に見つめられた私はおぼろげになりつつも、感じたことのない心地よさを味わっていた。しばらく吸血された後、私の様子が落ち着いたことですずかちゃんは私の首筋から離れて様子を伺っていた。

「……もう……だいじょうぶ?」

心配そうに見つめてくる彼女に、痙攣が止まって返事ができるようになった口で答える。

「うん……ありがと、すずかちゃん」

「~っ! 良かったぁ……良かったよぉ! なのはちゃん……!」

涙が溢れて止まらなくなったすずかちゃんは私に抱き付き、私も自分の意志で動くようになった手で彼女を抱き返した。お兄ちゃんもお父さんも、私が無事だったことにほっと一安心していた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

~~Side of サバタ~~

「お……おにい、ちゃん……!」

「よがっだよぉ~! ほんどよがっだよぉ~!!」

「泣き声で濁音になってるぞ、アルフ。フェイトも、よくぞここまで戦い抜いた」

嬉しさで体を震わせるフェイトとアルフの頭を、宥めるように出来るだけ優しく撫でる。彼女たちの、俺の身を案じてくれた気持ちに今返せるのはそれぐらいだった。

一方で隣にいたプレシアは俺の連れに目を奪われていた。恐る恐る手を伸ばす彼女は、あり得ないと思いつつも、その名を口にする。

「ま、さか……アリシア……なの?」

「うん……やっと会えたね、ママ」

その瞬間、感極まったプレシアはアリシアに駆け寄り、対するアリシアも母親に駆け寄る。プレシアにとっては待ちに待った愛娘との再会、そしてアリシアにとっては……、

「アリシア~!!」

「ママ~!! ―――――――――のバカァアアアアア!!!」

「げふぅっ!!?」

溜まりに溜まった文句をぶちまけられる瞬間だった。
プロが見たら感嘆しそうな程見事なコークスクリューをアリシアから放たれて吹っ飛ぶプレシア。しかし吹っ飛んでいく彼女の顔はキラキラと愉悦に満ちていた。なんで娘から殴られて嬉しそうなんだ、おまえは。

「浮雲! 無風! 刃雷! 震雷! 連剣! 波壊! 奥義! 打技黒掌ォォォォオオオオオ!!!!」

おいおい、少しやり過ぎじゃないか? ……気持ちはわからんでもないが。

「ママ! 私、ずっと見てたんだよ! なんで私の妹のフェイトにあんな酷いことを言ったの!!」

「ああ、アリシア……いつの間にやんちゃになって……」

娘からボコボコにされて説教をくらいながら微笑む50代天才研究家大魔導師の構図に、事情を知らない者は皆ポカンとしていた。ま、ややこしい話は後にしよう。この戦いを終えるには、まだ最後の始末が残っているのだから。

ギィィィイィィィイィィィ!!!

「さあ……最後の決着をつけるぞ!!」

俺達が脱出した後、カーミラの内部からの石化で動きが鈍くなっていたヴァナルガンドだが、また封印されてなるものかと最後のあがきをしていた。ヤツの背後には虚数空間への穴が未だに残っている。完全に石化すれば再び虚数空間に落ちて、こちらから穴を開けない限り永遠に出ることはかなわなくなる。そしてそれが……俺とカーミラの願いでもある!

まだ石化の及んでいない顎しか動かせなくなっているヴァナルガンドに、俺はカーミラから授かった大剣をこれまでの借りを世紀末世界のものも含めて叩き付ける。叩き付ける、叩き付ける、叩き付ける!

「うぉぉおおおおおッッ!!!」

ギャィィ……ィィッ……!!

最後の抵抗も破られたヴァナルガンドは、断末魔の声をあげて完全に石化した。そしてヤツの自重に耐え切れなくなった時の庭園の床が崩れていき、破壊の獣は何もない虚数空間の穴へと吸い込まれるように落ちていった。

すまない……そして、ありがとう……カーミラ。俺は信じる、いつかまた、出会える明日が来ることを。その未来を……俺は決して諦めない。

「……終わった……のか?」

薄汚れた格好でクロノがそう尋ね、その問いに俺は無言で頷く。途端に全員が安堵の息を吐き出し、この場に穏やかな空気が戻ってくる。しかし、何か大事なことを忘れているような……。

「あ! ジュエルシードがっ!!」

アリシアの声で俺達はプレシアの制御下を離れて暴走しかけていたジュエルシードを目の当たりにする。まだ完全に暴走していないと判断し、すぐさま暗黒銃で暴走寸前のジュエルシード15個を狙い撃つと、暴走が止まってジュエルシードは床に落ちた。

「これ以上の連戦は御免だ」

俺の言葉に神妙な顔で全員が頷いた。落ちたジュエルシードをユーノが拾うことで、最後の一波乱も完全に幕を閉じた。とにかくこれで世紀末世界から続いた破壊の獣を巡る戦いは終わった。そう感じた俺は肺の奥から息を吐き出し、ずっと背負い続けていた肩の重荷がようやく下りた感触を味わう。まだ人形使いが残っているが、転移したあいつの行方がわかるまで決着はお預けだ。

「さあ、帰ろう。俺達を待ってくれている人達の下に。俺達が守り、これからも生きていく世界に」

そう伝えて帰路に着いた時、俺の手元からピシッと音が鳴る。視線を送ると暗黒銃ガン・デル・ヘルのフレーム“ファントム”にヒビが入り、レンズ“ダーク”が割れ、バッテリー“カオス”が砕けていた。

これまでの激戦で耐久限界を迎え、さっきのジュエルシードの封印で役目を終えたのか。……俺の闇の象徴ともいえる武器だったが、コイツにもずっと世話になっていたな。この世界の未来に、ダークマターを操るこの銃は存在しない方がいい。下手な騒乱を招く前に、丁重に葬ってやろう。

「これまで支えてくれて、感謝する……。おまえも、安らかに眠れ……」

ほとんど消滅しているが、まだ僅かに開いている虚数空間への穴。そこにカーミラへの手向けの意味も込めて壊れた暗黒銃を放り込み、穴が完全に閉じるのを確認した俺は、バイクで時の庭園を後にした。












「ガキどもが……よくもわたしの計画を! 今回の失敗は、イレギュラーどもの覚醒と、そして……暗黒の戦士の復活。輸送船を襲い、ジュエルシードによる次元震を利用してヴァナルガンドを呼び出す予定が、彼らのせいで狂ってしまった……! 蘇った衝動のあまり事を急ぎ過ぎたようだ。しかし……ウフフフフ……今回は譲りますが、策とはいくつも講じておくものです。わたしの“人形使い”の肩書きが伊達では無い事を、ガキどももいずれわかる時が来るでしょう……フハハハハ!」

 
 

 
後書き
技、説明

浮雲、無風、刃雷、震雷、連剣、波壊、奥義:ゼノギアス シタン先生の素手時の技。序盤加入してから彼のあまりに速いスピードや便利な回復に何度もお世話になり、ストーリー上ほとんど離脱する事も無い彼を重宝したのは誰でも経験があるはず。

打技黒掌:ゼノサーガ3 オメガイドの技。アリシアが使えた理由は、サバタの機神菩薩黒掌を真似しようとしたため。 
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