リリなのinボクらの太陽サーガ
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事後処理
前書き
後始末回。
ボクタイセリフ集を見直していたらミスがあったので修正しました。
今回の事件、P・T事件と名付けられたジュエルシード争奪戦は、管理局の想定外の事態を巻き込みながらも終結に向かっていた。そもそもプレシアがなぜこの事件に及んだのかということに関して掻い摘んで説明すると、26年前に彼女が中央技術研究局長として勤務していたアレクトロ社で、開発していた新型魔導炉の成果を急いだ上層部の独断専行によって暴走事故が引き起こされ、彼女の娘アリシアが死亡し、あまつさえ実験を静止したはずのプレシアに責任を全て押し付けたのが原因なのだそうだ。それで全てを失った彼女は娘を取り戻すべくプロジェクトFATEと呼ばれる人間のクローンを生み出す技術に着目し、フェイトを生み出した。その後の生活は閉鎖的な環境で変化が特に無かったのでスルーするが、最終的にフェイトはアリシアと違うと見たプレシアは彼女を拒絶し……今、
「時の庭園に行く前に言ったはずだ。フェイトは俺がもらう、返せと言われても返さんぞ、と」
「確かに言ってたわね……」
「その前にさ、ママはフェイトがクローンだって話してた時、フェイトの事が嫌いだとも、周りの迷惑にならないうちにさっさと死んでとも言ってたよね?」
「うぅ……あ、あのねアリシア……これはあなたを裏切りたくなかったからで……」
「なのにおまえは今、フェイトを返してほしいと言った。フェイトに散々ネグレクトをしておいて今更そんな事を言うとは、虫がいいにも程があるぞ、プレシア」
「ああああああああああごめんなさいごめんなさいごめんなさぁぁぁい!!!」
転生したアリシアからこってり怒られてまともになったプレシアだが、アリシアが「妹のフェイトを追い出すようなママは嫌い」と宣言した事で、今一度フェイトを娘として見るとかほざいたのだ。それで俺は彼女と三者面談(フェイトとアルフもいるので正確には五者面談)をしているわけなのだが、なんか狂気が抜けたプレシアは俗にいう親バカに類する性格になっていた。まぁ、元に戻ったというのが正解なのだろうが、こうして自分のやった事を突き付けると彼女は後悔で狂乱しかけていた。
「そういえば最初にお兄ちゃんがママに会いに来た時、ママはフェイトに暴力をふるっていたよね?」
「ああ。それに知らなかったとはいえ、当時アリシアの魂が同化していた俺に、全方位射撃と容赦のない攻撃をしてきたな。一歩間違えればアリシアの魂ごと葬っていたところだったぞ」
「ああああああああぁぁぁぁ~~~!!!!?」
「あ、あの……お兄ちゃんと、お姉ちゃん? も、あんまり母さんを責めないで……もう見てられないよ……」
「まぁ、あたしとしちゃあ、ザマァッ! な気分なんだけど、ここまで精神攻撃喰らってると流石に気が引けるねぇ……」
これまで傲岸不遜な態度ばかりしていたプレシアのあまりの痴態を見て、彼女に思う所があったフェイトとアルフも様々なしがらみを置き、困惑していた。
ちなみにここはアースラの奥にある護送室だ。プレシアの処遇は言い逃れの出来ないレベルで思いっきり犯罪者であり、アースラに帰還してすぐ拘束される事になった彼女とじっくり話すのはここでしか出来ない。
そしてフェイトはプレシアのように手錠はかけられていないが、自主的にこの部屋に入っていて、アルフはそんな彼女に付き添っている。フェイトはやはり、ジュエルシードを良い意味で集めていなかった自分に罰が欲しかったのだろう。
アリシアも一応フェイトの側にいるが、精霊となった彼女に鉄格子は意味が無いので、その気になったら勝手に出てくるだろう。というより暗黒転移並みに神出鬼没な体質に変化した彼女に、枷やバインドなどの物理的な拘束類は一切効かない。どうしても捕えたいならそれこそ、太陽都市のおてんこの時と同様に石化させるなりするしかない。ま、そこは今関係ないが。
「まだまだこんなものでは済まないぞ? ……選手交代だ、はやて」
「了解や、サバタ兄ちゃん。さぁプレシアさん、これから思う存分叱ってやるから覚悟しいや?」
「え……な、なにその後ろに出てる狸のオーラは!? ちょっと誰か止めてよ!?」
「ごめん、母さん。怒り状態のはやてには私も逆らえないんだ……」
「いくら私のためとはいえ、ママは色んな人に迷惑をかけたんだから反省する良い機会だよ。今は盛大に怒られなさい!」
「な、なんつーか……ドンマイ?」
四面楚歌……は言い過ぎだが、娘二人と使い魔から見捨てられてプレシアは涙目になった。それからしばらくの間、アースラの護送室から扉越しでも聞こえる声量でガミガミ怒鳴る狸オーラの車イス少女と、半ば死んだ目をしながら正座で俯く大魔導師熟女の姿が見られたという。両親を早くに失ったはやてにとって、娘のフェイトに虐待をしていたプレシアには色々言いたい事があるだろうから、その分説教は相当長くなるに違いない。
で、はやてがプレシアに説教をしている間に、俺は別の案件を片付けておこう。
襲撃や反撃でズタボロになった局員達が、何故か活き活きとした顔で身体に鞭を打ってアースラの修理などに努めている中、俺は以前も訪れた艦長室に足を踏み入れる。そこにはリンディ、クロノ、エイミィ、ユーノ、なのは、恭也、忍、すずか、ノエル、ファリン、そして……士郎が揃っていた。
「さて……まずは今回の件に関して俺から謝らせてくれ。……すまない、世紀末世界の問題をこちらに持ち込み、あまつさえ皆を死ぬかもしれない危険に巻き込んでしまった。本当にすまなかった……」
「いえ、私たちもジュエルシード輸送任務を後回しにした結果、ここまで事件を大きくしてしまいました。それにラタトスクの凶行を未然に防ぐことが出来ませんでしたし、そのせいで危険な目に遭った方もいらっしゃいます。危険は無いと太鼓判を押しておきながら、それを違えてしまった事を、管理局の代表として謝らせてください」
珍しく謝罪する俺とリンディを見て、手当の跡が残る彼らは目を丸くする程驚いたものの、ひとまず謝罪を受け入れてくれた。こういうケジメはしっかりつけておかないと、余計な確執を招きかねないので、早めに片付けておいた方が良いものだ。
「……謝罪が済んだ所で、おまえ達の間で話はどこまで進んだのだ?」
「月村家が夜の一族という人間の吸血種で、その秘密を守る契約を交わした所までです」
「そうか。それで……これから諸々の話をまとめる前に、どうしても知っておきたい事がある」
「やっぱり俺か……」
「ああ、高町士郎。太陽仔でも月光仔でも、ましてや暗黒仔でもないおまえがどうして正気を保っていられるのか、最優先で知っておきたい」
ラタトスクに操られていたものの、戦いの最中に正気を取り戻した高町士郎。今は正気だがいずれ再び暴走するかもしれない彼をどうするか、早い内に決めておいた方が良い。ここにいる者はそれをわかっていて口を挟まなかったが、やはり父親の件ゆえ、なのはと恭也の顔には不安の色が見て取れる。
「推測にすぎないけど……サバタ君、君にはアンデッド化を抑制する月光仔の血が流れているんだよね? それで暴走していた俺は、フェイトという子をかばった君の血を吸った事がある。恐らくその血が正気を取り戻すきっかけになったんじゃないかな?」
「あの日の事か……月光仔の血を吸血して正気を取り戻す、そんな事例は一応親父の場合もあったな。ほとんど偶然だが……まあいい、それで?」
「とりあえずそれ以降は、闇に飲み込まれかけた自我を取り戻す抵抗が少し出来るようになったんだ。それまでは家族の下に帰らないと、という意思だけで闇に堕ちないように凌いでいたけど、時々暴走してしまっていたんだ」
「なるほど……恐らくそのタイミングにラタトスクが術をかけていたに違いない。そしてそのタイミングの共通点は……」
「私……ですね」
既にほとんどの事情を理解しているすずかが名乗り出て、「その通りだ」と相槌を打つ。
「ラタトスクの目的はヴァナルガンドを意のままに操ること。そのために必要だったのは月下美人に達する事が出来て、かつ人形として操れる対象。それに月村すずかが選ばれたわけだ」
「ちょっと待って、サバタ。聞きたいんだけど、力に目覚めている意味では私の方が夜の一族の力を使えているわよ? 妹と同じ血が流れてる私じゃなくて、どうしてすずかを狙ったのかしら?」
「……月村忍、恐らくおまえの力は月下美人に昇華出来ないのか、もしくは単に妹のすずかの方が姉よりも月下美人の素質が高かっただけかもな。現にすずかは月下美人の力に目覚めている。後者の線は十分にあり得るぞ」
「はぁ……そんなものなのね……」
「ああ、月下美人になれるのは慈愛の心を強く持つ者だけだ。そう言う意味では確かにすずかは妥当だったかもな」
「ってコラ! あなた、さり気なく私に慈愛の心が無いって言いたいワケ!?」
「安心しろ、忍。どんな心をしてても俺はおまえを見捨てたりしない」
「このタイミングでフォロー入れないでよ、恭也! 私が優しくないって恋人からも暗に認められた感じになってるじゃない!」
「フッ……安心しろ、月村忍。俺が言っているのは上方修正での意味だ。すずかの慈愛は誰よりも強かった、それだけの話で何もおまえに慈愛の心が無いと言いたかったのではない」
「そ、それなら最初からそう言ってよ……ってアレ? じゃあ恭也が今の会話に乗ってきたのは……」
「そこは知らん。恭也の素が出たんじゃないか?」
「ちょっ、なんて事言うんだサバタ!?」
「恭也ぁ~……? ちょぉ~っといいかしらぁ~?」
「……し、忍? ご、誤解だ……さっきのは謝るから、だから……ゆ、許してくれ!」
「だぁ~め♪ 不満があるならきっちり全部吐き出してもらうわよぉ~? うふふふ……ノエル、ファリン、空き部屋に恭也を連行!!」
『了解です、お嬢様!』
「ああぁぁぁ~~……!!」
ふむ……人間関係では、たった一回の失言が致命的になるのだな。
ドナドナな感じで連れて行かれる恭也を見て、俺は感慨深く思った。
「で、高町士郎、今後の事だが……」
「待ってくれ! この流れでその話を続けるつもりかい!? 俺が帰っていない間にさり気なく息子に恋人ができていた事とか、色々聞き捨てならない事があったんだけど!?」
「仮にも親なのだから子供の痴話喧嘩ぐらい放っておけ。それに……俺にも少なからず思う所はある」
「………」
カーミラの事を今回の件に大きく関わって知ったすずかは目を伏せて落ち込む。ヴァナルガンドを封じるにはこうするしかなかったとはいえ、やはり彼女の魂を救えなかった後悔は女々しくも俺の中に残っている。未来に生きて欲しいと最期に言われたのに、俺は依然過去に縛られたままか。……だが今は悔やむよりもやるべき事がある。
「それより、おまえがいつまで正気でいられるか俺にもわからないのだから、さっさと話を進めたい。何をするのか、具体的にはもう言わなくともわかるだろう?」
「……ああ。俺の中の暗黒物質を焼却するんだろう?」
「そうだ。そして吸血変異を起こした者に宿る暗黒物質を焼くという事は即ち、消滅を意味する」
ヴァンパイア高町士郎にトドメを刺す。その言葉を聞いた皆は辛そうな顔をしつつも、彼を焼く理由を理解出来なくは無いので、何も言えないままだった。しかしなのはは、どうしても納得できないといった表情で、言葉を発した。
「えっと……サバタさん。ヴァンパイアでもお父さんがお父さんのままなら、大丈夫なんじゃないのかな? ほら、私みたいに定期的に様子見をするようにすれば……」
なのはの赤い眼が真摯に見つめてくるが、俺は首を振る。今回の戦いでなのはは暗黒物質を浴びてしまい、すずかの力で抑えたものの途中まで吸血変異が進行していた影響で俺やイモータルのように目が赤く染まり、月光仔じゃない事で夜の一族と同様の吸血衝動に見舞われるようになっている。
が、それは噛まれても吸血変異を起こさず、自分の意思で抑えられる程度のものである。安定しているのなら命の危険を冒してまで彼女にパイルドライバーを使う必要は無いが、半ヴァンパイアとなったジャンゴの例もあるため、もしもの事態に備えて彼女には八神家に滞在している俺の所に定期的に来るように指示している。しかし……、
「なのはやすずかの吸血は基本的に無害だから良い。だが高町士郎には噛まれると吸血変異を起こす程の暗黒物質が宿っており、それゆえ吸血衝動も相応に強い。今は収まっていても、次の波に彼の精神が耐えられる保証も無いんだ」
「でも! せっかくまた会えたのに……帰って来てくれたのに……!」
「よすんだ、なのは……。とっくに覚悟はしていたさ。既に俺は人ならざる者として、この世にあってはいけない存在へと成り果てている。奇跡的に犠牲が出ていない内に、俺の身体を焼いた方が良いんだ」
「嫌だよ……嫌だよぅ……お父さん……! なのは、ずっと待ってたんだよ? お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、お母さんも、ずっとずっとずぅ~っと、お父さんが帰って来るのを待ち続けてたんだよ!? 一緒に遊んで、一緒にご飯食べて……もっと、もっと一緒にいたいよぉ……!」
「なのは……すまない。まだ小学生のおまえにこんな現実を突きつける事になって……! 俺だって……あの家に帰りたかった。でも、こんな血に汚れた姿を桃子に見せる訳にはいかないんだ……! ごめんな……! ごめんな……!!」
「おとう……さん……うわぁーん!!」
もはや互いに相容れない存在となった親子の会話に、涙を隠せない面々。彼女達と同じような状況で選択の余地が無かったと言えど、実の父親を葬った俺達兄弟もまた、血に染まった道を進んでいくしかない運命なのだろう。目を背けてはいけない、これもまた、俺が背負うべき咎……。
「焼却は出来るだけ早く済ませた方が良い。太陽の光が最も強い今日の昼間に、パイルドライブを開始する。それまでの間に心残りが無いようにしろ……」
「承知した」
それから高町士郎は家族との僅かな時間を過ごしながら言葉を遺したそうだが、本来部外者の俺にそれを知る権利は無い。だが最終的になのはも納得していた事から、きっと俺達の親父と同じような事を伝えたのだろうな……。
昼になった。ヴァンパイアを浄化する光景は気分の良いものではないから、月村家の面々には怪我の事もあって早々に帰宅してもらった。帰る際、すずかを助けた事でえらく感謝されたが、「それなら、すずかを引っぺがしてくれ」とオナモミの如く引っ付いていた彼女を、忍や使用人たちの力づくで連れ帰らせた。何であの時、すずかは引っ付いていたんだろうな……。
さてと、トドメを刺す役目であるパイルドライブを、死への理解が浅い少女達に押し付ける訳にはいかないため、太陽の光に焼かれることを覚悟の上で俺がパイルドライブを決行する。そう言う意味では“太陽の使者の代弁者”となったアリシアは見届けておいた方が今後のためになるのかもしれないが、人として死んだ時の精神を考えると彼女は5歳の心なので、人の死を受け止めるには色々未熟過ぎる。そのため彼女には地上の広場にパイルドライバーを召喚してもらうだけに留め、別れを惜しむなのは達と共にアースラに戻ってもらった。
という訳なのでこの広場には、俺と高町士郎以外には誰もいない。モニター越しでならリンディ達が見ているのだろうが、子供に見せるべき光景でない事は皆がわかっている。人の身体が灰になって行く光景なぞ、本来はトラウマものなのだから。
「すまないね……君には辛い役回りを押し付けてしまって」
「フッ……損な役目には慣れている。それより本当にもう思い残す事は無いか?」
「そうだねぇ……じゃあ一つだけお願いしてもいいかな、サバタ君。俺が浄化された後、なのはを慰めてやってくれないか? 自分が辛くても皆のためにあの子はきっと無理して強がるだろうから、ちゃんと弱音を吐かせてやって欲しいんだ」
「そうか……あまり俺の柄じゃないが、引き受けよう。このジェネレーターは、父なる太陽と母なる大地の恩恵を受け、太陽エネルギーを増幅してくれる。闇の一族の浄化は、このパイルドライバーをもってのみ可能なのだ。さあ……始めるぞ」
パイルドライバーの中心にセットした、俺が日曜大工で作っておいた“オークコフィン”の中で、高町士郎が覚悟を決めた雰囲気が漂う。大剣にダーク属性を纏わせて4つあるジェネレーターにエネルギーを供給し、パイルドライブの準備が整った音が鳴る。
開始視点に立った俺は手を掲げ、地響きと共にパイルドライブを開始する。増幅した太陽の光が、俺に罰を与えながら―――
――――はぁ!? なんだこれは!!?
・・・・・・・・・・・・・・・・
~~Side of はやて~~
ほんま、サバタ兄ちゃんは何でもかんでも罪悪感を感じて……見てるこっちが痛々しいわ。せやけどそのおかげで色んな人が救われとるのも事実やから、ヘタに強く文句言えへんし……かくいう私もその一人やもん。皆が時の庭園から帰ってきた時、私は超特急でサバタ兄ちゃんに抱き着いて、そのまま感極まって思わず泣いてもうた。冷静になってから恥ずかしくなったけど、それでもちゃんと帰って来るって約束は守ってくれたんやからええやん。でもあの時、フェイトちゃんとすずかちゃんは羨ましそうに見とったし、なんか知らんが蘇ったっぽいアリシアちゃんは終始ニコニコしとったなぁ。なんや彼女達は思う所があったんとちゃうか? まぁええんやけど。
でもなぁ……サバタ兄ちゃんはもっと自分を労わってもええはずや。それなのにサバタ兄ちゃんはきっと、それを善しとせえへんやろうなぁ。足の動かん今の私に出来る事はどうしても少ないけれど、せやからって何もしないのは気が済まん。ちゃんとできる事をしていけば、それはサバタ兄ちゃんの力になるはずや。
ま、それはそれとして私の逆鱗に触れたプレシアさんには怒涛の説教をかましたんやけど、それでフェイトちゃんとアルフさん、アリシアちゃんは憐憫のこもった視線をどよ~んと顔に縦線が入っとるプレシアさんに向けとった。自業自得、という言葉が頭に浮かんだもんやなぁ。
さて……パイルドライブを終えてサバタ兄ちゃんが戻ってきた。パイルドライバーを使用すると流石のサバタ兄ちゃんも身体が焼けて少なくないダメージを負ってるから、転移装置の側で備えていた私がすぐに治療にかかる。プラスの魔力が無いサバタ兄ちゃんに管理局の回復魔法は効果が無いから、こうして直に手当てするしかあらへんのや。
「…………」
やっぱりサバタ兄ちゃん、なのはちゃんのお父さんの浄化に関して納得はしとったけど辛かったのか苦々しい顔しとる。ほら、士郎さんも困惑したような顔して………………へ!?
「や~なんか生き残っちゃったよ、アハハハハ!」
「し、士郎さん!? なんで浄化されたのに生きとるん!?」
「いや~、正直自分でも驚きなんだ。体内の暗黒物質が完全に浄化されたから、後はこのまま消えるんだろうって思ってたんだけど、なんというか俺、ぶっちゃけると人間に戻れたみたいなんだよね」
「いくら俺でも、こればっかりは信じられない……。太陽仔以上に暗黒物質の浸食に長時間耐え切り、尚且つ人間として復活するとは……高町家は一体どうなっているんだ……?」
よ、要するにサバタ兄ちゃんは普通の(もう高町家を普通と言って良いのかわからへんけど一応)人が吸血変異を起こしたのに人間に戻るという、世紀末世界でもあり得ない事態を目の当たりにして、かなり動揺してるっぽい。う~ん、こういうサバタ兄ちゃんの姿は珍しいなぁ。
この後、何だかんだで士郎さんが無事に人間として家に帰れると知ったなのはちゃんや恭也さんは、嬉しさが天元突破して号泣したりした。うん、なんか結果オーライやけど、私たちも嬉しかったし良かったわ。
「まあ……想定外の事態が起きたとはいえ、結果的に高町家が救われたのならそれで構わない。だが問題はテスタロッサ家だ。こちらは少々長くなるかもしれない……」
・・・・・・・・・・・・・・・・
~~Side of サバタ~~
という訳で艦長室。リンディとクロノの前に俺とはやて、フェイト、アルフ、アリシア、そして一時的に護送室から釈放されているプレシア(魔法を封じる拘束具付き)が揃った。管理局の前に八神家とテスタロッサ家が勢ぞろいって事だ。
「とりあえず現状を知っておきたい。まず管理局から見て俺達の扱いはどうなっているんだ?」
「サバタさんは行動が街を守る事で一貫していたので、管理局法には抵触しません。しかしフェイトさんは不正な手段でジュエルシードを集めていた事による、ロストロギア不法所持法違反。アルフさんも同様ですが、お二人は強制されていたという件から無罪志願をしています。しかしプレシアさんは管理局の戦艦や局員への攻撃による公務執行妨害、クローン作成技術という違法研究、その他様々な余罪がありますが……アレクトロ社の事件など過去の記録を調べれば、無罪は無理でもいくつか罪を軽くできる状態にあります」
「で、アリシアが蘇った事だが、これに関しては公表しない方が良いと僕は考えている。ジュエルシードやアルハザードが関係ないとはいえ、死者蘇生が実現してしまった事実はあまり良くない影響を与えると思うんだ」
「クロノの意見に関しては同感だが、蘇ったのではなく転生した、が正しい。アイツは人間ではなく精霊……“太陽の使者の代弁者”として新たな命を授かったのだからな」
「サバタ、その辺りは私も正確に知っておきたいわ。今のアリシアがどういう状態なのか、母親としてしっかり知っておきたいもの」
「……では単刀直入にまとめよう。今のアリシアは太陽意志ソルの使徒となり、不老不死に近い状態となった。表現は悪いが、太陽意志の傀儡になった訳だ」
「要するに生き返った代償として、太陽の使命を代わりに果たさなくちゃいけないの。でも別に悪い事をさせられる訳じゃないし、それにこれは私がちゃんと考えて決めた事だから後悔は無いよ」
「そう……でも、この現実は私に対する皮肉かしら? アリシアの“死”を否定し続けた結果、今度は永遠に死ねない身体になった。アリシアを蘇らすために何もかもを投げ打ってきた私だけど、不老不死は流石に行き過ぎで私でも複雑な気分だわ」
不老不死に死者蘇生。この二つはある意味人間の夢でもあるが、実際にそうなれば別問題だ。生きる事は戦いだ、不老不死とはそれを永遠に続けること。死は安息の眠りだ、それがどんなきっかけであろうと。つまり精霊となったアリシアの未来は、無限の闘争が待ち受けていると表せる。
「ま、不老不死は人類の夢と表されているように、何も悪い事ばかりじゃない。未来を見守り続け、明日を守ろうとする人間の力になる事も出来る。ただやはり“代弁者”ゆえ、アリシア単独だと戦う力は大して無い。あくまで彼女は“支える側”……実際に人間の未来を切り開くのは、人間しか出来ないのだ」
「人間を守るのは人間で、彼女はその力になれるだけ……そういうことですね」
「流石、最新の戦艦の艦長を任されるだけあって、理解が早くて助かる」
「じゃあ私があの時、お姉ちゃんとトランス(合身)出来たのはそのため?」
「そうだ。あの姿はジャンゴとおてんこのパターンでも見られた、太陽の力を全身にまとった状態だ。これから“ソルフェイト”と呼称するが、ジャンゴでも時間制限があるのに、太陽仔でもないフェイトがあの姿で戦うのは可能な限り控えた方が良い」
「え、どうして?」
「わからないか? 光が強ければ強いほど、その光が生み出す影もまた強くなる。忘れるな、光差すところ、影は落ちる。影なき光など、無いのだという事を……」
クローンという事実から生まれた年齢を考慮すれば、実はまだ8歳以下かもしれないフェイトにこの哲学は難しいかもしれないが、それでも力を使う者としていつか理解してもらわなければならない。コテンと首を傾げるフェイトとアリシアに対して、リンディら大人達は大体理解出来たのか神妙に頷いていた。
「あと、そうだな……リンディ、報告書では今のアリシアは26年前に死んだアリシアでは無い、と最低限書いておいてくれ」
「管理局員としては虚偽の報告はあまりしたくないのですが……事情が事情ですし、止むを得ませんね。それで、報告では今のアリシアさんはフェイトさんと同様にクローン技術で生み出した、という事にしたいのですか?」
「いや……違う。それだと数年経った後、人間として成長していくフェイトと違ってアリシアの容姿が成長していない事などでいざこざが起きる可能性がある。ゆえに、そうだな……俺達のように事情を知る者の間では本名の“アリシア”と名乗っても大丈夫だが、それ以外の場所では“アリス”という名前の魔導生命体に似た精霊である事にしよう」
「どうしてその名前なの?」
「ママ、“アリス”は魂が欠けて本名を思い出せなかった頃の私が使っていた名前だから、他の新しい偽名より使い慣れてるんだよ。また使う羽目になるのは仕方がないのかもだけど」
「そうなの……それにしてもアリスか……ジュエルシードの暴走で魂が欠けて、それでサバタが修復に力を貸してくれなかったらと思うと、想像するだけで鳥肌が立つわね……」
「禍を転じて福と為しただけだ。とにかく別人……というより別霊という事にすれば見た目が人間そのものでも成長しない事に理由がつけられるし、何より“アリシア”の名は時が来るまで出来るだけ表に出さない方が、色々と混乱が起きずに済むはずだ。……この真実を世間に伝えるのは簡単だが、それで悪意を持って手を出して来る輩を追い返すような苦労は面倒だろう? リンディも、プレシアも」
「ええ……確かにそうね。でも……」
「あら、私なんかにも気を遣ってくれてありがとね。……いいわ、公的に使う名前を変えるだけで守れるなら、アリシアに“アリス”という名前を使うのも受け入れるわよ」
「フッ……さすがに利害の計算は早いな」
という訳で、“アリス”という名前には再び役に立ってもらう流れになった。実際これまでそう呼んでいたのだから、今も俺はアリシアを呼ぶ際に偶にアリスと呼びそうになる。ま、それはいいとして、この名前の方が色々と抜け道を作りやすい。彼女が“アリス”という名前を完全に脱ぎ捨てるのは、俺達が死に、全てが遠き過去の出来事となってからだ。
「さて……プレシア、話を戻すが方法や結果はどうであれ、おまえはアリシアと再会する悲願を達成した事になる。その上で問いたい。もしジュエルシードで彼女を蘇らせるのに成功していたとしても、おまえは犯罪者として扱われる。アリシアも死者蘇生の成功例として狙われる可能性もある。そんな状況でどうやって娘と暮らすつもりだったんだ?」
「それは……アリシアさえいればどうなっても構わないと思っていたから、後先考えてなかったわ……。実際、こんな風に終わると一切思いもしなかったもの」
「天才研究者としてあるまじき失態だな。まあ、それは終わった事だから重要ではない。問題はフェイトとアリシアの境遇だ。母親が今回の件で自らテロリストとなった事が、彼女達の今後の未来における枷となる可能性は高い。そもそもおまえの身体は病に蝕まれているのだぞ? そんななりで娘を守れるのか?」
「え……かあ、さん? まさか、身体が悪い事をずっと隠してたの!?」
「最初会った時の戦いで気付かれてたのね……ええ、そうよフェイト。だから先の短いこんな私があなたの母親でいるよりも、日の当たる世界でちゃんとした保護を受けられるようにと、あえてきつく当たっていたのよ」
「でも私が復活したら掌を返す辺り、あんな仕打ちをしておいて今更何を言ってるんだ、ってお兄ちゃんやはやてに怒られるのも当然だよね~」
「ぐふっ!!」
ボディブローが入ったようにプレシアが吐血する幻覚が見えた。実際はうずくまっているだけなのだが、哀れに思えるほど、その背中には悲壮感が漂っていた。
「今の指摘はクリティカルヒットしたな……訂正も擁護もする気は無いが。それで、本当におまえは二人の母親に戻るのか? おまえの独りよがりの望みが、彼女達の妨げになる事をわかっていて、それでも戻りたいのか?」
「…………」
子供の事を考えられる今のプレシアなら、何が最善かぐらいは既にわかっている。自分の幸せか、娘の幸せか。母親なら母親らしい選択をしてもらいたいものだ。
「……確かに……私は病魔に蝕まれていて老い先短いし、その上重犯罪者だから娘たちのためを想えば、いっそここで別れた方が良いのかもしれないわね……」
「……そうか」
「母さん……」
「ママ……」
「でも……それでも……やっぱり諦めきれないわ。だって愛する娘と再び暮らす、そのために私は手を汚したのだから!」
「……なら確認したい。今度こそ、おまえはフェイトを愛せるか? 残された時間の間、もう一人の娘としてフェイトを愛してあげられるか?」
「……ええ! 今まで酷い事ばかりしてたけど、あなたに怒られた今ならわかる。私は……フェイトを、愛してるわ」
「母さん……!」
「そうか。だが最終的に決めるのはフェイトだ。……フェイト、おまえはどうしたい?」
「……私は……母さんの娘で居たい……! やっぱり、母さんが母さんなのが良い! だから……母さん、私はアリシア・テスタロッサじゃありません。だけど、アリシア・テスタロッサの妹で、母さんの娘です。母さんの娘として、お姉ちゃんの妹として、私は家族の笑顔を見たい。それが私の望みです!」
フェイトの覚悟を目の当たりにしたプレシアは、感極まって涙を滝のように流し始めた。自分がこれまで求めていた家族の絆、それがこんなにも近くにあったのに、それに気付かなかった自分を後悔し、そして、フェイトの懐深い愛に感謝していた。そして……アリシアもまた彼女の下に戻るだろう。“太陽の使者の代弁者”であろうと、彼女は紛れもなくテスタロッサ家の長女なのだから。
「フッ……」
「……ごめんなさい、お兄ちゃん。私……私……!」
「いや、俺もこの形が最も望ましい決着だと思っていた。というかプレシアが素直にフェイトを渡して来るようだったら、また説教をしていたところだったぞ」
「そ、そうなの?」
「ああ。だからフェイト、取り戻した家族を、もう手放すなよ?」
「うん……! うん……!!」
「フェイトちゃん、やっぱ行っちゃうんか~、なんや寂しくなるなぁ」
「ごめん、はやて」
「ええよええよ。ほら、お母さんの所に甘えに行き~や。親にわがまま言うのは子供の役目なんやから、思う存分突撃してこな。代わりに私はサバタ兄ちゃんに突撃するけど」
「ふふっ……やっぱり温かいね、はやての所は」
「これからはテスタロッサ家も、うちに負けんくらいぽかぽか一家にするんやで? せやないと今度は私がカチコミに行ったるからな?」
「うん、その時はよろしくね!」
「我ら八神家、離れても心は一つや!」
はやての御許からあるべき場所に帰ったフェイト。二人は軽く抱擁し合って、互いの絆を確かめ合っていた。とりあえず……テスタロッサ家の今後は機会があれば確認しに行くとしよう。次元世界もカーミラが召喚してくれたバイクのおかげで、座標さえわかればミッドチルダに乗り込む事も出来る。流石に無罪は不可能だろうが、プレシアの過去の事件に関しても、もし証拠が足りないなどと言われて不当な判決が下されるような事があれば……俺も本気を出そう。それともう一つ、フェイトとアルフは管理局との敵対行為をしていないと上手く話をまとめてみよう。そうすれば無罪の獲得もしやすくなるだろう。もしいちゃもんをつけてくるような無粋な輩がいれば、この俺が容赦せんが。
なお、管理局の法や体制などに関して、干渉する気は一切ない。政治を変えるのは政治家であって、俺の役目ではないのだから。
「リンディ、今の内に言っておくが、地球に被害を出さなかった功労者であるフェイトとアルフに余計な事をすれば……俺は時空管理局本局に乗り込み、ブラックホールを無限に生み出してやる。それを胸に刻め」
「そんな事をされれば、本局で魔法が使えなくなるどころか、本局がどこかの世界に墜落しちゃうわよ!? わ……わかりました、責任を持って彼女達を預かります」
「はぁ……管理局に脅しをかけられる人間なんて、次元世界全て探しても暗黒の力を使えるサバタぐらいにしか出来ないだろうなぁ……」
「クロノ君って生真面目やから苦労し過ぎやね。招来ハゲるんとちゃうか?」
「あ、何なら育毛剤でもいる? 今度手に入れてあげるけど?」
「はやてもアリシアも、余計なお世話だっ!」
なお、八神家のポルターガイストの原因がアリシアであった事は、元凶がすぐ傍に居た事でフェイトとはやてとアルフは、落ち着くまでの間ヤケクソ気味に笑っていた。他の連中も大概だったがデコピンで強引に治した。
なお今は関係ないが、管理局は上層部が金を惜しんだ悪質な決定のせいで、今回負った借金の金額を用意しなかった。そのことによって暗黒ローンの返済期日に新おしおき部屋に強制的に魔導師、非魔導師問わず管理局本局の局員が階級や次元世界の壁関係なく全員丸三日放り込まれたらしい。カ○ジの地下労働施設に匹敵する過酷な環境で借金を返済してきたクロノ達が、ようやく戻ってこれた時に冷蔵庫の水を飲んで一言。
「キンッキンッに冷えてやがるッ!!」
ちなみにこれ以降、管理局の管理外世界に対する被害や賠償の責任問題に関して、臆病なまでにきっちり監査するようになり、また同時に、上層部の汚い噂や横領の金も減ったとかそうでないとか。何にせよ、少しでも組織がまともになったのなら良いことだろう。
後書き
フェイトは『トランス・ソル』、『ソルプロミネンス』、『ソルフレア』、『エンチャント・ソル』、『ライジングサン』を覚えた!
フェイトは”太陽少女”の称号を得た!
なのはは『トランス・ダーク』、『スリーピング』、『チェンジ・デビル』、『エンチャント・ダーク』、『リミッター解除』を覚えた!
なのはは”暗黒少女”の称号を得た!
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