| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

契約

 
前書き
月村回 

 
「サバタ、帰る前に少し大事な話をさせてくれるかしら?」

ローンも含めて会談が終了したため地上に戻った後、管理局にフェイトたちの居場所が追跡されないよう暗黒転移で地上に戻ろうとした寸前に月村忍が決意のこもった眼差しで静止の言葉をかけてきた。
ちなみに管理局はある意味敵側のおれを帰したくなさそうだったが、暗黒物質を宿す俺がいると魔力で動いているアースラの動力が勝手に低下するんだとか。それでもしも魔導炉に不測の事態が発生した場合、非常用バッテリーに溜めてある魔力まで消失させてしまってアースラが地球に墜落する可能性があると判断したリンディは、「彼は突発的事態に対処していただけで敵対する意思は無い」と通達し、強引だがおれを地上に帰せるようにしたのだった。
さて、話を戻すが、あまり接触が無い月村忍から持ち出してくる話といえば、夜の一族の件以外にはなさそうだが、一応確認しておこう。

「……例の件か?」

「そう。あなたを見つけられなかったから今日までなあなあになってたけど、これは私たち一族に関わる大事な話なの」

有無を言わさない圧力をかけてきている月村忍、彼女の隣で無言ながら小太刀に手をかける事で逃げるなと示している高町恭也、勝手に帰ろうとしたら取り押さえるつもり満々の厳戒態勢をしている使用人二名、何が何だかわかっていない高町なのはとユーノ・スクライア、事情を知っているため不安に震える月村すずかをなだめて様子見をしているアリサ・バニングス、サーチャーを飛ばしているが蚊帳の外の管理局、現状はこんな感じだった。

「あなたとこの話をしないまま解散するのは色々とマズいのよ、私たちには。だから帰るのはもう少しだけ待って頂戴」

「……………」

彼女達が夜の一族の事を秘匿しているのはおおよそ把握している。しかし……、

「月村忍、だったか。さっき話した内容なのだが、実は……」

おれが住まわせてもらっている八神家にいる全員にもさっき話した内容を伝えている事と、彼女らも懸念しているであろう夜の一族との違いも説明している事を彼女らに伝えた。

「かと言って必要以上におまえ達の事は話していない。誤解しないように無害な吸血鬼もいると念を押しただけだ」

「そ、そう……一応ちょっとした気遣いはしてくれていたのね……。でもこうなった以上はその子達にもちゃんと話をする必要が出たわ。とりあえず今からその子達を呼べたりはしないかしら?」

「……今何時だと思ってる?」

現在時刻20時08分、もう辺りもすっかり暗くなった夜だ。明らかに子供が出歩く時間ではない。

「それにフェイト達は日中の間、基本的にずっとジュエルシードを探している。都合が付くとしたら、せいぜい一時的に戻ってくる昼食時ぐらいか……?」

「じゃあ食事に招待するから明日の昼頃に私たちの家に来てくれない? もちろんその子達も連れて」

「それは話してみないとわからんが……今言っておく事がある」

「何かしら? 話が出来るようになるなら少しくらいの手間は惜しまないわよ?」

「簡単な事だ。高町なのは、ユーノ・スクライア、高町恭也、並びに管理局の人間はその場に同席させるな」

その言葉を聞いて納得のいかない顔をする高町なのはと、小太刀を僅かに抜き身にして殺気を走らせた恭也だが、その態度が主な理由である事を告げておく。

「以前翠屋に訪れた際、恭也の殺気にフェイト達が完全に委縮してしまってな。多分姿を見るだけで恐怖して、すぐ逃げ帰ると推測できる」

後にその逃走の俊敏さを目の当たりにしたはやてから「ケーシィのテレポート並や」と言われるほどである。呆れる事実を知った忍はジト目で恭也を見つめる。

「恭也ぁ~……」

「す、すまん忍……」

「あのぉ……サバタさん、なんで私たちもダメなんですか? せっかくフェイトちゃんとお話できると思ったのに……」

「おまえ達がいたら管理局の待ち伏せがあると警戒するだろうが。そうなったら話をするどころではない、故に今回の件だと邪魔だ」

「ごめんね、なのはちゃん……。こればっかりは私たちの家の存続に関わるから、大人しく良い子で待っていてくれないかしら?」

「…………わかりました」

……?
彼女の事だからもう少し食い下がるかと思ったが、意外とあっさり引いたな。彼女のブロックワードにでも引っかかったのだろうか?

「というかなのはこそ、私たちにすら黙っていた事に何にも弁解は無いのかしら?」

「う……ごめんなさいなの、アリサちゃん」

「だ、大丈夫なのかな……サバタさんは信頼できるけど、その子達がもし受け入れてくれなかったら……」

「すずかはすずかで心配しすぎ! 何だかんだでアイツが信用している子なんだからきっと大丈夫に決まってるわよ。それにさ、事情があるなのははともかく、指名されなかった私は同席できるじゃない! いざとなったら私が全部何とかするわ!」

「た、頼もし過ぎるよアリサちゃん……!」

幼年組は幼年組で話がまとまったらしい。あちらはともかく、この条件を受け入れないとフェイト達を連れてくるのは難しい事を理解した月村忍は、譲歩案として恭也をフェイトに会わせないように別室に待機させておくだけでも許してほしいと言い、仕方ないとおれは頷いて交渉は成立した。それで都合がついたら連絡できるようにと、月村家の電話番号と住所が書かれた紙をノエルという使用人から渡された。
そして再び帰ろうとした矢先に恭也が俯きながら話しかけてきた。

「……サバタ、少し尋ねたいんだが……」

「……親父か?」

「ああ。アンデッドになったら、もう……治らないのか?」

「……月光仔の血も引いていないのに、あそこまで浸食が進んでいながら自我が残っている事自体驚きでもあるが、それでも人間に戻れる可能性は万に一つもあり得ない。残念だが、父親を救う事はできない。倒すしかないのだ……!」

「…………」

「父親を乗り越えろ、恭也。それがおまえに与えられた責任だ」

そう告げておれは暗黒転移ですぐにその場を去った。


上空、管理局戦艦アースラ、ブリッジ内。

「転移に魔力反応なし、ロストしました……」

「そう、油断してフェイトさん達の居場所が突き止められれば儲け物と思って飛ばしてはみたけど、やっぱり魔力が一切探知されないサバタさんの暗黒転移を追うのは無理ね」

「しかも魔法陣も展開しないで瞬時に発動しているから連続使用も可能だろうな。地味に厄介だ……」

管理局員である彼らが使う魔法はプログラムを利用して発動させる科学に近い力であり、神秘の力を用いる方向には疎いのである。故に太陽や月光、暗黒の力も彼らにとっては同じ未知の魔法としか映っていなかった。

「それにしても……私生まれて初めて見ましたよ、この“マイナス”と示す魔力値」

エイミィが映し出したのは先のヴァンパイア戦の映像。そこではサバタと恭也が魔導師の常識を打ち破る速度で戦っている光景があった。しかしその映像はサバタがブラックホールを生み出した時点で途切れていた。

「僕たちの使う魔法が正のエネルギーなら、彼の使う力は負のエネルギー、ということか」

「でも艦長、これっていろんな意味でマズいんじゃないんですか?」

「確かに上層部に知られる訳にはいかないわね。……管理局の定義だと、魔法を使っても魔力素の絶対量は減らない。なのに彼の力は魔法の源である魔力素を消してる。究極的に見て暗黒物質の影響で魔力素がなくなっちゃうと、その世界じゃリンカーコアを持っていても魔法が使えなくなる事を意味する。こんな事が知られたら管理局が彼を消そうと暴走する可能性があるわ……でも普段の消費量は微々たるものでしょう?」

「はい。普段は、ですけど」

「ああ、僕も見ていたから気づいている。さっきの戦いで彼がブラックホールを作り出した瞬間、魔力素の消費量が凄まじい事になっていたのをこの目で見た」

「あの時はアースラのサーチャーがまとっていた魔力も一気に消失しちゃって慌てて回収したけど、その寸前まで観測機が示した数値によれば、あのブラックホールが吸収した魔力素の総量はアースラのサポートを受けた艦長の魔力量に匹敵します。そしてこの世界の魔力素の量も考えると……あと3回ブラックホールを作ったら、この世界に限って全ての魔法が1ランクダウンします」

「……魔力素が枯渇するまでだと、何回だ?」

「厳密な計算じゃないけど………多分7回だと思うよ、クロノ君」

「7回……その回数までにイモータルを倒しきらないとこの世界で魔法が使えなくなる。暗黒物質の性質も考えるとかなりギリギリだな」

「イモータルが消費する量も含めると、もっと少ない回数でこの世界の魔力素が枯渇するでしょうね……。となるとサバタさんをあまり戦わせないようにしないと、この世界で管理局が一切活動できなくなる。……あ、いや、ちょっと待って! ま、まさかイモータルの狙いって……!」

リンディの脳内でサバタが言っていた言葉が反芻され、イモータルにとってこの世界で何が気に入らないかを推理して彼女は青ざめる。

『銀河系を侵す存在である人類を無害な反生命種アンデッドに変える事で延命しようとしている』

そして、銀河系を次元世界に置き換えるとピタリと条件が一致している存在。それは自分たちの所属している組織、時空管理局。つまりイモータルの狙いは……。

「どうしたんですか、艦長!?」

「もし、もしもよ? イモータルが次元を渡る術を見つけて次元世界全ての暗黒物質を一斉に活性化させたら……!」

「ッ! 全ての世界で魔法が使えなくなる!? 管理局の根幹でもある魔法技術が完全に無用の長物になったら、管理局の存在意義が消失してしまう!」

「まさかこんな辺境の世界で、次元世界の存亡に関わる事件が起きるなんて……借金の事も含めてただのロストロギア回収任務の枠に収まらない規模になってきましたね」

「そんな奴らが蔓延る世紀末世界で戦い続けていたサバタ達が、どれだけ過酷な戦いを生き延びてきたのか、僕達では想像もつかないな……」

彼らは知らない。本来サバタは破壊の獣を墓標として眠り続けるはずだった事を。彼が今生きているのは奇跡と偶然、そして弟の諦めない意地がかみ合わさった結果だと。

「そうなるとイモータルとの戦いに備えて、高い戦力になるなのはさん達にはどうしても協力してもらいたいわね」

「母さん、彼女達を取り込むつもりですか!? 彼女達は民間人ですよ、これ以上巻き込むのはあまり得策とは思えません! それに戦いの最中にもし暗黒物質に侵されでもしたら……!!」

「そうならないようにクロノが守ってあげればいいじゃない。それに……あなたも言い負かされたままは癪でしょ?」

「それは僕や管理局のプライドを犠牲にすれば済む話です! わざわざ彼女達の命を危険にさらす理由にはなりません!」

「ん~でも艦長の言う事もわからなくもないんだよね。あのなのはちゃんって子の魔力ランクはAAAランク、フェイトちゃんもそれに匹敵するレベルで、しかも二人ともまだ伸びしろがあるんだもの。正直人材不足の管理局から見たら両方とも喉から手が出るほど欲しい人材ではあるんだよね……」

「ええ。恐らく今回の事件の報告を見た上層部は魔力の高い彼女達を何が何でも入局させようと画策してくるでしょうから、できれば何かされる前に私の庇護下に置いておきたいのだけれど……今優先するべき事は事態の早期解決よね」

「結局彼女達がどう選ぶにせよ、僕達管理局はせめて汚名返上しないと駄目だな」






八神家の居間にておれはフェイトとアルフ、はやてに心配をかけたことを謝罪した後、アースラでの会議内容を説明。とりあえず今後フェイト達は慎重にジュエルシードを捜索するそうだ。なお、高町なのはの兄である恭也に出くわす可能性がある事も伝えると彼女達は涙を流すほど本気で震えていた。どんだけ恐れられてるんだよ、恭也……。

「それで明日の昼、この前話した無害な吸血鬼に会いに行く必要が出た。一種の顔合わせのようなものだから危害は加えてこないだろうが……どうする?」

「お昼用意してくれるんやったね、確か。人ん家のご飯も気になるし、お邪魔させてもらおっか!」

「お、お兄ちゃんが一緒にいてくれるなら……私も行くよ。まだ吸血鬼と聞くとあのヴァンパイアの顔が出てくるから怖いけど、無害なら……何とか平気かな……?」

「もし何かあってもサバタが守ってくれるならあたしも大丈夫さ……! あのおっかない店員の相手だけは勘弁してほしいけど」

ということで意見がまとまったので、明日の昼に月村邸に邪魔することを今日もらった紙に記されていた連絡先に伝え、予定の場所で合流する流れになった。




『キングク○ムゾン!』

[……アリス、なんだそれは]

『こういうパターンの時のお約束だよ~♪』

[……お約束だと? なるほど、そういうものなのか……]

そんなわけで翌日の昼、待ち合わせた場所で迎えに来た車に乗車し、おれとフェイトとアルフとはやては月村邸に招待(?)された。はっきり言って敷地のあまりの大きさに一瞬、イストラカンの血錆の館をイメージした。伯爵はいないが、それに値する人物は一応いる事になるのか?

「いらっしゃい、よく来てくれたわね。私が当主の月村忍よ」

「月村すずかです……」

「月村家のメイド長のノエルと申します」

「同じくメイドのファリンです」

「これはどうもご丁寧に。私、八神はやて言います~」

「……フェイト」

「アルフだよ。それにしてもあんたら、ぶっちゃけ見た目は普通だね」

ちなみにおれは自己紹介していない。両方とも知っているので既にする必要もないからだ。

「え~っと、すずかちゃんや。なんか見覚えがある髪やと思ったら君、何度か図書館に来とらんかった?」

「へ? あ、もしかしてはやてちゃんもあの図書館を……?」

「せや。私も暇があれば結構本とか読んどるからな、私ら良い読書仲間になれるんとちゃうか?」

「うん、それは嬉しいかも」

どうやら閉鎖的な環境で出歩けなかったはやてに、おれ達と違い趣味の合う友人が出来そうだ。はやてもフェイトも将来的にはおれの支え無しでやっていかなければならないから、この出会いは貴重だ。
そして一方、フェイトは本当に同席してきたアリサ・バニングスにじろじろと見られて恥ずかしくなったのか僅かに赤面していた。

「へぇ~、この子がなのはとジュエルシードをめぐって敵対してる魔導師ね……何よ、凄く大人しい子じゃない。てっきり『フハハハ! ジュエルシードは我がもらっていくぞ!』みたいにジャイアニズムな性格してるのかと思ってたわ」

「そ、そんな事は……」

弁論しようとした時、ふとフェイトは以前ここに来た時に口にしていた『ジュエルシードはもらっていきます』という台詞を思い出し、言い方が違うだけでやってる事は見事にジャイアニズムであると気づき、軽いショックを受けて落ち込んだ。放っておいても大丈夫だが、少しいじってみるか。

「アリサ・バニングス、フェイトを食べたりするなよ?」

「誰が食べるかぁーー!! ってフェイトもそんなに怯えないの! ただの冗談だから! 別に私は取って食ったりしないから!!」

「ほ、ほんとに……? 近づいた瞬間、パクッてしない?」

「しない、しないから! というか何でさっきの言葉を純粋に信じちゃうのよ!」

「だ、だって……手を差し出したらいきなり飲み込まれる映画をこの前見たから……」

「私はぁ! カオナシじゃあ!! ないわよぉおおおおお!!!」

怒髪天を突くと言うべきか、アリサの怒気で彼女の背後に業火が幻視され、頭のツインテールが上にピンと張っていた。おまけに拳を握った両手も上に振り上げて怒鳴るものだから、余計迫力が際立っていた。
やはりというか、この場に集まった面子ではアリサのリアクションが最も突き抜けている。後に知った事だが、この時はやては密かに彼女とコンビ組んで芸人の道を目指そうかと思案していたらしい。というかちょっと火薬放り込むだけでここまで爆発する辺り、アリサの性格がどれだけ燃えやすいかがうかがえる。

とりあえず場が落ち着いてから居間に案内された後、当初の約束通り食事をしながら月村忍から本来の取引を大まかに教えてもらった。要するに夜の一族の事を知ったら周りに口外しない事を契約するか、彼女の力で夜の一族の事を忘れて元の生活に戻るか、の二択が本来の取引内容である。対して今回は敵に世紀末世界のヴァンパイア、イモータルがいるため吸血鬼の事を忘れてしまったらイモータルの事も副次的に忘れる可能性がある。故に忘れさせる事は出来ないが、ここで先に言った他者に口外しない事と敵対しない事を誓う同盟を結ぶのなら、それで契約成立となる。

「ここであえて拒む選択を選んだらどうなるのだろうな……?」

「それはお願いだからやめて! サバタの場合、ヴァンパイアに育てられているから私の暗示でもその事実を忘れさせる事は出来ないの!」

「冗談だ」

「フフ……最近サバタ兄ちゃん、時々冗談を言うようになったなぁ。……計画通りや!」

「はやてェ…………」

「何だろう、サバタがはやてのせいで変な方向に染まってきた気が……」

む……そうなのか? 確かにこの世界に来てからはやてに勧められるまま色々しているが、いつの間にか知識が変な方向で豊かになっていたようだ。しかし別段困っている訳でもないため、余程気にならない限り無視していても良いか。それはそうと……、

「月村忍、おまえは今“暗示”と言ったが、それは洗脳に類するものなのか?」

「聞こえは悪いけど、まあそんな感じよ。単純に言うと魔眼を通して対象の心理を操作、行動原理に刻み込む仕組みなんだけど、それがどうかしたの?」

「……いや、諸事情で洗脳や暗示といった能力に忌避感や嫌悪感があってな。そんな力をおれに向けて使おうものなら間違いなくキレていたな」

「サバタ兄ちゃんがキレるって余程の事やね。一体何があったんや?」

「ま、知ってもつまらん話だ。……とあるイモータルに一度操られた結果、俺が世界を滅ぼしかけたというだけのな」

「え…………!?」

サバタは淡々と返したが、その内容の壮絶さは周囲の人間全員を絶句させるのに十分だった。たった一度、たった一回の洗脳がきっかけで、サバタが自分たちが想像もつかない程の喪失を味わっていた事を思い知った。

「わ……私、また迂闊な真似をする所だったわ……」

そして実は契約に応じる応じないに関わらず、サバタに『自分たちに危害を加えない』暗示を念の為かけようと内心で画策していた月村忍も、その一回がサバタにとってどういう意味を持っているかを理解した、してしまったのだ。いくら家族を守るためとはいえ、洗脳のせいで唯一の肉親を手にかけてしまい、更に世界の敵にされた経験があるサバタに暗示をかけようとは流石にもう思えなくなっていた。

実際は暗黒物質を介さないものなら月下美人の力で耐性を持っている事で無効化できるため、結局暗示はかけられないのだが。

そしてもう一つ、月村忍は心の底から理解した。敵対している者には割とよく使っていたが、実はたった一つの暗示がすべてを狂わせる可能性がある事を。

「……世界を滅ぼしかけたって、サバタさん、一体何がどうしてそんな事に……?」

誰もが言葉を噤むほどの重い空気の中、意を決して月村すずかは真相を尋ねた。そんな彼女にサバタは軽く苦笑を漏らすと、「余計な事に興味を持たない方が身のためだ」と案じるような言葉を返した。彼の心を無作為に掘り返す事は自分達には出来ない、それと彼の珍しい気遣いもあって、はやてとフェイトとアルフは自分達の兄の罪を何も言わず静かに受け入れた。過去に何をさせられたかは関係ない、今ここにいるぶっきらぼうながらも愛情を注いでくれる彼を大切に思えればそれでいいと。元の世界で家族も居場所も失った彼にこれ以上闇を抱えさせたくない、と。

「(それにしても……あれもこの世界に来てしまっているのだろうか。全てを破滅に追いやる絶対存在……破壊の獣ヴァナルガンド。もしそうなら、始末は自分の手で付けなくてはならない)」

一方で内心、そうサバタは決意した。

契約の話も済んだ事で初日から放置しっぱなしだった月村家との関係も修繕し、おれは近くの部屋から漂う恭也のプレッシャーや上空に浮かんでいる管理局の戦艦アースラのサーチャーの気配を感じた事で、帰りははやてとフェイト達を連れて暗黒転移を使用した。一瞬で八神家の玄関に着いた事に、初めての転移を体験したはやては驚きながらも楽しんでおり、フェイトとアルフも自分達の魔法とは違う転移の感覚に違和感を覚えていた。

とりあえず予定外だった目的は達したのでフェイト達は午後から再びジュエルシード捜索に乗り出すかと思ったら、何やら庭で新しい魔法の練習をしていた。一見では普段用いている速度魔法と同じだが、それだけでは直撃してしまうようにアルフの魔力弾がわざわざ進路上に複数置いてあり、今行っている練習はそれを真っ直ぐ進みながら一瞬でかわす内容だった。

「よっ、はっ……あ!? うわっ!」

「あ、惜しかった! 半分だけかすったね」

「う~ん……もう少しでモノにできそうなんだけど……」

「頑張れ~フェイト~!」

「……何をしているんだ?」

アルフに尋ねると、要するにフェイトはおれの月光魔法を自分達の使う魔法で再現しようとしているらしい。それで今はおれもよく使う月光魔法ゼロシフトを練習しており、フェイトの機動力を重視した戦術とは相性がかなり良いから、もし使えるようになれば手札が増え、何より回避率が上がってイモータルに襲撃されてもアンデッドにされず生き残る確率が高まる。……今更だがゼロシフトはかなり有用な魔法だったのだな。

「お兄ちゃんの月光魔法って、無敵時間のある高速移動のゼロシフトと、周囲を闇に閉ざすブラックサン、瞬間移動の暗黒転移くらい?」

「他にも触れると現れる氷柱を罠として仕掛けたり、火炎弾で広範囲に爆発を引き起こす属性魔法も使える。あと対人なら瞬時に閉じ込められるブラックホールを生み出したり、攻撃されると自爆する幻影魔法もあるぞ」

「攻撃されると自爆って、それ何気に凶悪な性能だよね。使えれば便利なんだけど、私に幻影魔法の素質は無いし……」

「……そもそも性質があまりに違う月光魔法をプログラムで真似する事自体初めての試みなのだから、そう簡単にいかなくて当たり前だ」

「うぅ……母さんのようにはいかないなぁ……」

プレシアか……一度戦っただけでダークマターの性質を見抜き、物量作戦で突破口を見出してくる程だから彼女は観察眼や発想力にずば抜けたものがある。きっと魔法のプログラムの構築も人並み以上にこなせるのだろう。フェイトが今作っている『ミッド式ゼロシフト』を完璧に組み上げるには彼女の協力が必要かもしれない。
しかし……あれほどの能力があるなら研究者として大成していてもおかしくないのだが、なぜ時の庭園のような閉鎖的環境に閉じこもっているのだ? 何か理由があるのかもしれないが、わざわざ聞くほど興味はない。

「ところでゼロシフト以外の月光魔法の完成度はどうなんだ?」

「そっちは手つかずなんだよね……。ゼロシフトの完成を優先してるから、まだ白紙のままだよ」

「そうか。完成したら見せてもらうぞ」

「うん! 楽しみにしてて!」

そう言い切って作業に戻るフェイトの姿を微笑ましく思いながら、もう一方の魔法少女はどんな選択をしたのか、何となく気にしていた。
結局この日はジュエルシードを探しにはいかなかったが、何も起きず至極平和に終わった。おれの柄じゃないが、偶にはこういう日があってもいいかもしれない。

 
 

 
後書き
フェイト強化……途中 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧